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1章
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しおりを挟む相変わらず正臣は、ルカへの好意を隠す事なく声をかけてくる。
といっても、基本的に口数が多いわけではない正臣のアピールなど、面倒見がいいという範疇の関わりがほとんどであったが。
花見の時の言葉通り、好意は隠さないが、関わる以外の交流を求めてくる様子はない。
せいぜい会ったときに、僅かに目を細めて精悍な顔を柔らかく緩める程度。何かに付けさりげなく気遣う程度の物だ。それは単純に「親交を深める」という程度といって良いかもしれない。けれど、端々に滲む好意には、確かにルカという女への親愛以上の感情が感じられた。
押しつけがましくない正臣の好意は、心地よい。
軍人を信じたらダメだと思う気持ちは持ち続けているのに、正臣なら大丈夫という気持ちの方がルカの中で強くなっていく。
事実、正臣はどこで見かけても公平だ。異国民の中での評判はよく、助けられた話はよく聞く。当然、悪く言う言葉もあるのだが、そう多くはなく、聞けば、それは正臣が悪いわけではないだろうと、ルカが呆れるようなものの方が多い。それらは大抵、関わりたくないような者達から聞かれる。
そうでない場合は、いくら正臣でもそこまではできないというものだ。中には不審に思う物もないわけではないが、真実かどうかも危うい。あれだけの立場で、良い噂だけの人間の方がずっと怪しい。
重なる小さな交流は、ルカの警戒を気付かぬうちに少しずつ解いてゆく。
正臣の負の情報を弁護する気持ちになったり怪しむ時点で、疑う気持ちを既になくしていると気付いたのは、どのくらいたってからだろうか。
飾らない朴訥な言葉は受け取りやすい。さりげない気遣いは心地よい。
ルカは今まで正臣の好意を押しつけがましいと感じたことがなかった。今になって思えば、あたりまえだったのだと気付く。
もし嫌だと感じていたのなら、会う頻度の高さで気持ち悪さを感じているだろう。会ってもすぐに逃げただろう。
逃げずになんだかんだとそのやりとりを楽しんでいた時点で、答えは既に出ていたのだ。
もう既に、好意はそこにあったのだ。自身の自覚以上に、正臣への好意は大きかったのだ。
利用してやろうと親しげに交わした言葉も、本心はどっちだったのか、危ういものだ。
だんだんとほだされてゆく。わかっている。これ以上はよくない。信じたらいけない。
けれど理性とは裏腹に、交流をやめられなかった。
ルカはどうして自分が正臣に反発してしまっていたのかにも気付いていた。
初めて出会ったときから、正臣は立派だった。優しくて頼りがいのある男だった。誠実な人柄が滲んでいた。ルカでは敵わない大人の男である事は一目瞭然で、自分が子供であるということを自覚せずにはいられなかった。
けれど、それを認めたくなかった。力の足りない自分を思い知るから嫌だった。だから、反発になってしまったのだろう。
女と見まがう容姿が悔しかった。自分だって、もっと逞しく、かっこよく、偽姉も乳母も守れる男でありたかった。足りないからこんな姿で逃げているのだと、コンプレックスが刺激された。心も姿も自分が憧れる姿そのものの男を、妬み羨んでいたのだ。
最初から、助けてくれたあの声を聞いたときから、頼れる相手だとわかるその立ち姿を見たときから、ルカは正臣に憧れを抱いていたのだ。
気付いてしまえば、もう、自分を騙すことができなかった。
あんな男、嫌いだ、信用できない……などと、嘯くことさえできなくなった。
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