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1章

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 この国の民族衣装を纏い、艶やかに髪を結い上げ、濃い化粧をしているという、いかにもといった出で立ちであるのに、得も言えぬ上品さがある。立ち居振る舞いがとても美しい。彼女の属している店のランクの高さがうかがえた。

「大変かわいらしいお嬢様にくびったけだとか。あれだけ私どもがお声をかけてもなびいて下さらなかったのに。妬けてしまいますわ」

 全く妬いた様子もなく、クスクスと笑う様子は親しげだ。そして思わせぶりにルカへ視線を流した。

「……あら、ごめんなさいね。お嬢様には、面白くない話でしたわね」

 彼女は綺麗な笑みを一つ浮かべ、無意識に睨め付けていたルカへ、困ったように首をかしげてみせた。

 わざとらしい。この状況で声をかけてきておいて、わざと煽った癖に。

 ルカはにっこりと笑う。
 別にこの男の恋人でもなければ、特別な感情があるわけでもない。妬心など欠片もない。だが、このような挑発を楽しいとも思わない。

「いえ、正臣さまが人気なのは普段の様子からもわかります。……こんなに綺麗なお姉様まで。浮名を流していらっしゃるんですね。……正臣さま、お久しぶりにお会いしたようですし、私はよろしければ席を外しますが?」

「……勘弁してくれ。……君も、彼女をからかわないでくれるか?」

 笑顔のルカに、正臣が苦々しい顔をして額を抑えると、花街の女性を追い払うように合図した。そして、ルカにはいくなと言うように、手をすくい、優しく触れてくる。握るでもなく、添える手つきに懇願を見て取り、ルカはなぜか振り切ることができず、小さく溜息をついた。
 彼女は正臣のその様子をコロコロと楽しげに笑うと、ルカを見てにこりと笑う。

「お嬢様、大変失礼しました。わたくし、こんな一条様、初めて見ましたわ。大切にされていらっしゃるご様子。一条様には、今の店にも一度は通っていただきたかったのですが、残念ですこと」

「もう、俺が行く必要はないだろう」

 正臣は、ルカを気遣った様子のまま、小さく溜息をついた。逃さないとでも言うように、手は添えられたままだ。
 けれど、親しげな様子はやはり妙にイラついて、ルカは振り払うかどうか、少し考えた。
 身を引こうとしたのを感じ取られたのか、正臣が、そっと背に手を添えてくる。

 女二人に挟まれて、必死かよ。いや私は男だけど。

 心のなかで悪態をつきつつ、ルカが笑顔のまま白けた視線を送れば、正臣が「申し訳ない」と、小さく呟いた。
 そのやりとりを見ていた花街の彼女が、コロコロと笑い声を上げる。

「必要はなくともお出でいただきたいのですが……これ以上はやめて差し上げますわ。お元気そうなお姿を拝見できて、ようございました。では、失礼致します」

 流れるような礼のあと、ルカににこりと笑みを向けて、「一条様が頼んだお弁当、とても人気ですのよ」と、とっておきの秘密でも話すように囁いてから、会釈をすると去って行った。

 何なんだ、あの人。

 かき回しに来たような女性の様子に、ルカは溜息をつく。正臣も同じように見送ってやはり溜息をついていた。

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