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1章
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しおりを挟む「そういう装いも似合うな。綺麗だ」
迎えに来た正臣は、ルカの装いを見て褒めた。
偽姉の、渾身の作である。ルカも我ながらかわいいと思う出来だ。いつもかわいいのは置いておくとして。
正臣と会う度に添えられる一言に、ルカは今日も居心地の悪さを感じながら礼を言う。容姿を褒められるのは嫌じゃない。けれど、ルカは男だ。特に正臣から褒められると、こんな恰好をしている自分が嫌で、いたたまれなさしか感じない。正臣と並ぶと、どうせなら自分らしい姿で隣に立ちたいという気持ちが込み上げる。
守られる立場と思われているのが気に食わない。女性として気を遣われているのも、悔しいような歯がゆさがある。
正臣の気遣いで助かっている部分は大きい。悔しいがそれに助けられている部分もそれなりにある。
なのに、女性として扱われる瞬間、どうしようもない苛立ちが込み上げることが度々ある。男と知られれば困る癖に、その感情は、慣れるどころか強くなっている気がした。
今まで女性として向けられる好意を都合よく利用してきたというのに、正臣からの賛辞は、どういうわけか受け入れづらかった。
この日は久々に町中へと誘いだされた。周りより頭一つ分以上高い正臣と、その隣に並んでも小さくは見えない上背の女が連れ立って歩くと、それなりの人混みでも目立つようだ。度々振り返る者がいる。ルカ一人でも目立つため、そういった視線には慣れているが、いつもより多い。
「どこへ行かれるんですか」
「花見には弁当がいるだろう? 料亭に頼んである」
「それは楽しみです」
人通りの多い町中を抜け、高級な店構えが並ぶ道筋へと入ってゆく。ルカはこの辺りには来たことがない。けれど、都ではこういった店構えの料亭へ行くことも時折あった。そんな余裕のある生活ぶりを見せるわけにはいかないため、今は行くことはないが。
そのため、久々にこういったところの食事がとれるというのは、楽しみであった。
正臣のような男が懇意にしているところなら、おいしいのだろうと、ルカが思いを馳せているときだった。
「あら、一条様じゃないですか」
二人を呼び止める、柔らかな色気のある声がした。
振り返れば、美しく装った女性が一人。正臣は驚いた様子もなく、小さく頷いた。
「君か。最近は、問題なくやれているか?」
「おかげさまをもちまして。一条様のお力添えには、感謝をしても足りません。いつでも、私どものところへお声掛け下さいませ。おもてなしさせて頂きます。……そちらが、最近噂のお嬢様ですか?」
「噂か」
ククッと正臣が楽しげに肩を揺らした。
ルカは正臣と女性を見比べると、なんとも言えない不快感を覚えた。親しげな様子が、妙に癇に障る。
とても美しい女だ。特有の濃い化粧でルカには年のほどは見て取れないが、偽姉より貫禄がある。ならば正臣よりかは若いぐらいかもしれない。だとしたら中年に差し掛かったぐらいになるが、美しさが衰えているとは感じない。芸を嗜む……場合によっては春をひさぐ、花街の世界の女性だということは、一目でわかった。狸か狐か、美しく笑顔で挨拶をしているが、一筋縄ではいかなそうな雰囲気である。
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