敵国軍人に惚れられたんだけど、女装がばれたらやばい。

１章

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「偶然だな」

　にこりと笑みを浮かべた正臣が、家に帰る途中のルカの隣に並んだ。
　こうして歩くのは何度目だろう。ルカはすっかりこの男と並んで歩くことに慣れていた。
　意外と居心地がいいことが癪に障る。何気なく言った言葉に返してくるテンポが話しやすくて気持ちいいし、無言で歩いても案外落ち着くのだ。

　何より、正臣と並んで歩いているのが周りに周知されだしてから、全く絡まれなくなった。この町に来てひと月も経ってないのに、すっかり一条のお気に入りと認識されている。
　腹立たしいのに、正臣に大切にされているのは、優越感とでもいうのだろうか……嫌ではなかった。

「正臣さまは、お仕事は終わられたのですか？」

「いや、休憩中だ。食事をとったらまた戻る。……ルカ殿、町中まで行くときは気を付けるんだぞ」

「今日は、すぐそこまでなので大丈夫でした。……正臣さま、本当によく会いますけど……本当に偶然ですか？」

　心配して釘を刺されたことがカチンときて、ルカは胡乱な目を向ける。
　冷たい目を向けたというのに、正臣はそれにニヤリと笑って、しゃあしゃあと言ってのけた。

「うち半分は、偶然だな」

　……うそぉ！！

　ルカは叫びそうになるのを堪えて目を剥いた。正臣が面白そうにルカのその様子を見つめ、クックと笑い声を漏らしながら「本当だ」と続けた。
　どっちに驚けばいいのか、ルカ自身よくわからなかったが……、そんなに恐ろしい頻度の偶然があるというのか。仕事をしているのかと疑うぐらいの遭遇率だ。

　……いや、それ以上に。半分は偶然ということは……。

　ニヤニヤと笑って反応を楽しんでいるらしい正臣を見上げた。

「もう、半分は……？」

「もちろん、君に会いに来ていた」

　言っただろう？　と、いけしゃあしゃあと言ってのける横顔が憎らしい。
　気持ち悪い！　と、言ってやりたいのに、その声が酷く優しさを帯びていて、大切にされているのがわかって、なんとも言えない気持ちが込み上げて、なぜかルカは言い返すことができなかった。
　その上、勝手に顔が赤くなってしまった。意味がわからない。

　そんな甘っちょろいことをいうのなら利用してやる、と心の中で毒づく。込み上げるのは対抗心のような感情だ。

　私を試しているのなら、受けて立ってやる。こいつの側にいれば、軍人に絡まれなくてすむから、利用しているだけだし。

　ルカは心の中で呟いて、赤くなった顔をぷいと反らせたまま、正臣に送られながらその隣を歩いた。隣で正臣が笑っているのに気付いていたが、最後まで無視をしておいた。