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1章

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 一応、捜索対象にされているらしいが、父親が既に捕まっているため、せいぜい脅しの材料にするだけで重要度は低いだろうというのが現時点での見立てだ。おそらく他の幹部のついでに、捜索対象として名を連ねている程度だと想定している。

 軍が捜索の手配しているのはレアンドロ・フォンタナという十八の青年だ。
 立木ルカという少女ではない。いかにも男性らしい様相で出歩かない限りは、まず手配書の印象とかぶることはないだろう。

 つまりは盾突かず素直に流していれば、大抵は大丈夫だと思っている。とりあえず目立ちたくない。
 偽姉も、妹を守るという反発以上の物は見せず、そのまま矛を収めて、ほっとする。

「色の薄い目や髪は人の目について難癖をつけられやすい。かといって姉君のように目立つ色合いではなくとも、むしろ近しさがはけ口となりやすいだろう。この辺りは、異国民街だからまず大丈夫だが、町の中心地へ行く場合は、一人で出歩くのはお勧めしない。軍人が守るべき一般の者を害するのは遺憾ではあるが、末端までは躾が行き届いてないのが現状だ。質(たち)が悪い者も増えている。外から来た異国の方には申し訳ないが、身を守るためにも、できるだけ一人で出歩かないように気をつけてもらいたい」

 これも何かの縁だと、男は偽姉と乳母にも、何かの時は自分の名前を出すようにと言って立ち去った。なんだかんだと張り付いていたのに、帰るときはあっさりとしたものだった。

 やっと息をついたところで、ルカは満面の笑顔の偽姉アンナを見て、ビクンと身体を強ばらせた。

「ねぇ、ルカ、どういう事?」

 偽姉の顔が怖い。

 ルカは一条正臣について偽姉から根掘り葉掘り聞かれることになった。
 絡まれてから戻ってくるまで全て話し終えれば、彼女は難しい顔をして天井を仰いでいた。

 なにその反応。

「別に、怪しまれることはしてないよ」

「怪しまれてはないだろうけど……目をつけられたわね」

「なんでだよ!」

 苦笑する偽姉は深く息を吐くと、ルカの頭をくしゃくしゃっと撫でた。

「……ねぇルカ。絡まれてる女の子を助けて、買い物に付き合って、家まで着いてきて……どういう意味か、わかるでしょう?」

「意味って。よそ者の確認をしておきたかったってことだろ?」

「……バカね」

 ルカは、本当に気付いてなかった。向けられる興味をどうやって躱すかにばかり意識を持って行かれていたためだ。いくら女装をしているとはいえ、ルカは男だ。相手が女として見てきていると頭ではわかっていても、男の目で相手を見ているため、相手から向けられる細やかな機微は想像がつかない。
 故に、偽姉の言葉は予想外すぎた。

「それはナンパよ」

 偽姉から呆れたように指摘されて、ルカは衝撃を受けた。

「は?」

 いや、でも、そんな感じ、全くなかったぞ……?

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