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1章

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 散々目立ってしまったが、ここはさっさと立ち去るに限る。
 礼を言って立ち去ろうと顔を上げれば、目の前の軍人は、ルカに向かって手を差し出していた。

 なに、この手。

「で、どこへ行くつもりだったんだ? 俺が送ろう」

 ゴツゴツとした大きな手を見ながらルカはうろたえた。

「あの、お買い物を……。こちらへは先日着いたばかりで、その、ひとまず生活の準備をと思って……」

 とりあえず、差し出された手は無視しておく。大きな手だと思って、思わず自分の手と比べたルカだが、大きさ自体はそう変わりない事に気付く。多少少年らしさの残る華奢さがあるとはいえ、骨格は男である。ただ、ルカには自分の女のように綺麗な手が、なぜか恥ずかしく感じた。

「ああ。やはりこの辺りの者ではないのか。君のような目立つ女性がいれば、さすがに記憶にないのはおかしいと思っていた」

 ……まあ、目立つわな。

 これだけ美人で、いかにも異国民の色合いと顔立ちである。まだ成長途中とはいえ、背もこの国の男より高い。
 この町には異国民街があるが、やはり全体を見ると少ない。異国の女性を見慣れない者にとっては、かなり目立つだろう。
 この国の人間は、全体的に体が小さい。ルカの祖国である西国の女性達とこの国の男達が、だいたい背が同じぐらい、西国の男は身体つきも大きく背も高い。

 隣に並ぶ一条と呼ばれていた男は、西国の男並みにでかくて腹立たしい。
 なぜかルカの中で、この男の前で女々しさを感じる自分に、悔しいような恥ずかしさが湧き上がっていた。

 ルカはチラリと隣の男を盗み見る。この東国でこれほどの上背。屈強というほどではないが決して細身ではなく、見るからに鍛え上げられていると分かる体躯は珍しい。この身体だけでそれなりの威圧感がある。加えてこの顔だ。軍人らしい無骨さとお堅そうな雰囲気に、更なる圧迫感を与えてくる。顔立ちはすっきりとした男前だというのに、全体的に厳しさが拭えない。表情から雰囲気まで全てにおいて、厳めしく面白みのなさそうな感じが、ひしひしと感じられる。

 ルカは、多分に偏見を込めながらそう評価して、フイと視線を戻す。
 差し出された手を無視しても、男は気にした様子もなく、さりげなくルカの背中に添えて「案内しよう」と、促してくる。
 ルカはそれに逆らえるだけの理由を見つけられず、なされるがまま並んで歩くことになった。

 やばい。逃げられない。

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