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1章

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 私はか弱い女の子!! 大佐さん、助けて!!

 ルカは心の中で自分に言い聞かせた。

 唸れ! 私の中の乙女心!

 そんなものがあるかは不明だが、かわいい女の子に夢ぐらいは持ち合わせているルカである。自分の思う最高の健気なかわいらしさという物を全力で込めた。
 といっても割って入った一条という軍人を信用できると決まったわけでもないが、ここは乗るしかなないだろう。

「違うそうだ。……さあて、おまえらはどういう了見でこのお嬢ちゃんを追い回してたんだ?」

 ゆったりと歩み寄ってきた男に怯えて、軍人崩れ二人はルカの手を離し、後ずさった。

「お、俺らは、本当に、このお嬢ちゃんを助けてやろうと思っただけで……は、ははは……。ひ、必要なかったみたい、で……っ」

 二人の軍人崩れは情けなく言い訳とも付かない言葉を吐くと、ルカを男に向けて軽く突き飛ばし、慌ただしく去っていた。

「きゃっ」

 せっかくなので、ルカはかわいく叫んでふらふらっと男の元によろめいて、か弱さをアピールする。立ち去る軍人崩れを振り返り軽く睨むも、バレないようにすぐ目をそらし、下を向くと隠れて舌打ちをした。
 逃げ去る破落戸に一矢報いることさえできなかった苛立ちを覚えたが、気を取り直し、ルカは顔を上げると軍人と向き合った。

 私はかわいくてか弱い女の子……と、心の中で唱えながら。

「あの……助けて下さって、ありがとうございました……。どうしたら良いか分からなくて……困っていたんです」

「ほう、これはえらい別嬪さんじゃないか」

 できるだけしとやかに見えるように気をつけて礼をすれば、目の前の軍人は、からかうように目を細めた。

 やめろ、気持ち悪い。男に女装を褒められて喜ぶ趣味はない。

 一瞬でかわいい女の子の仮面が外れそうになった。
 そこにいた男はなかなかの男前で、妬ましさ半分、ルカは軽く苛立っていた。

 年の頃はルカの父親よりいくぶんか若いぐらい、三十代半ばから後半といったところか。苦みばしった顔つきは、それなりに整っている程度。しかしそれより、男臭い顔立ちにすっきりとした清潔さがあるところや、自信のある居住まいや表情に、大人の男だからこその魅力があった。

 やはり今のルカでは太刀打ちできそうにない存在感があった。そのことが妙に腹立たしい。
 かわいいと褒められたのは、今までだって何度もある。ここに来るまで旅の途中で散々男達から気を遣われながらそれを享受してきた。しかし、なぜかこの男のからかいを含んだ褒め言葉は、素直に受け取る気になれなかった。

 この姿が似合っているのはルカ自身がよく知っている。でなければ、こんな情けない格好などしない。この姿にも、侮られることにも慣れたはずなのに、なぜか無性に、この男から女として見られたことが悔しかった。

 ちくしょう。馬鹿にすんな。

 しかし、そう言いたいのを堪えて、ルカは困った顔をしてうつむくことで感情をごまかした。

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