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1章
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しおりを挟むいっそどこかに連れ込まれた方がましか?
潜伏するため女装したままでいるのが裏目にでた。やはり、少々危険度が上がったとしても、途中で男の装いに戻っておくべきだったか。
だが最初の滞在先でかくまってもらっていたとき、そこの夫人が母の友人だったのが命運を分けた。
うっかり男とバレてしまうと大変よと、着せ替え人形となったのは苦い思い出だ。挙げ句、淑女よろしくマナー教育だ。立ち居振る舞いが女性らしさを演じるには大事よと。反論など許さないのが、熟女の迫力である。ルカには母の友人に逆らう勇気などなかった。
似合っているから良いかと、三日目ぐらいでワンピース姿に慣れてしまい、途中で男に戻るのを諦めてしまった。行く先々でちやほやされて気持ちよかったというわけでは決してない。気のせいである。
舌打ちしたいのをこらえながら、か弱いそぶりで抵抗を続ける。かわいい女の子と引っ張り合いをする軍人崩れの顔は、ことさら楽しそうだ。その顔を見れば、もてないだろうなと、哀れみすら抱いてしまう。きっと今の自分の顔は、彼らへの哀れみでさぞかし悲壮感が漂っているだろうと、ルカは自信満々に思った。
それにしても軍人もクソ野郎ならこの町の人間もクソ野郎と腰抜けばかりだ。
ルカは周りに目をやって、軽く苛立ちを覚える。か弱い女が乱暴されているというのに、誰一人として助ける素振りもないのだ。ルカの視線を受けた野次馬は心配そうにオロオロするか、目を背けるか、ニヤニヤと見世物よろしく面白がるばかりだ。
「誰か……!」
それらしく悲鳴を上げてみれば、軍人が下卑た笑いで、ふざけたことを抜かす。
「もっと喜んだらどうだ? こっちは異人の女なのに相手にしてやってるっていうんだ」
「女のくせに異人はほんと気がきかねぇ。躾けてやるっていうんだ、もっと喜べよ」
くそったれが。
ルカも我慢するのはそろそろ限界だった。絶対に片付けてやると心に誓う。少なくとも、この軍人崩れどもが使う気満々になっている下半身の汚物は潰してやる。
だがここでは無理だ。軍人崩れはともかくとして、住民達から目を付けられたくない。暮らしにくくなってしまう。今回は直接匿ってくれる異国民がおらず、アパート暮らしだ。全く伝手がないというわけでもないが、基本的に自衛していくしかない。
つまり、ここは裏でこっそりと軍人崩れを潰さなければならないということだ。裏でやれば、女にここまでやられたとは、恥ずかしくて口にできまい。仮にできたとして、か弱く否定すれば分はこちらにある。どうせ人が足らず軍にかり出されただけの嫌われ者だろう。誰も相手にすまい。何せこちらはか弱い乙女だ。男をどうこうできるわけないという言い分が有利だ。
そう踏んで、うまく連れ去られて人気のないところに行くことを算段しておく。
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