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1 はじまりは痔から
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「運命の聖痕を持つ者を探している」
「……はぁ」
俺の目の前にはなんだかえらい男前の、えらく偉そうな人がいた。
彼らがやってきたのは、騎士団とは名ばかりの狭い自衛団の詰め所で仲間と雑談しているときだった。きらびやかなガチの騎士団を従えた、偉そうな人がぞろぞろとやってきて、「コイツか」「コイツだ」「本当にこれが?」とか、がやがやと言いながら、俺の周りにわらわらと湧いてきた。
そして名前を呼ばれて「はい」と首をかしげたところで、冒頭に至る。
正直、言われた言葉の意味が分からん。聖痕なんて言葉初めて聞いたし。
「せいこん」と言われて、迷わず「制服合同コンパ、略して制コン! 制服を着た男女が集まり、制服萌えを楽しみながらきゃははうふふする、すばらしい会」を想像した俺は、どちらかというと、真っ当であるだろう。実現し得る、とてもいい言葉だ。
かわいい制服で有名なカフェのお姉ちゃん達と、一応騎士団の制服着てる俺たちの制服コンパ、最高じゃねぇか。後領主領の事務官服とかもかわいい。あそこのメイドちゃん達も最高だ。……制コン、むしろ実現するべきじゃね? これを思いついた俺、もしかして天才じゃね? よし、後でみんなに話を通して実現させよう、そして思いついた功労者としてみんな俺をあがめ奉れば良い。「制コンの生みの親」としてこれからきっと俺は感謝のまなざしを受けながら生きていくんだ。
とか現実逃避したけど、まあ、違うのはすぐに気付いたけどな。脈絡的に「聖痕」だろうと、何となく当たりはついたさ。それにつけても何だよ「聖痕」って。一般人には全くなじみのない言葉過ぎる。
そりゃ、お偉いさんだとかだと、魔法使いだとか賢者とか聖人だとかそっち方向の畑の人にはなじみがある物かもしれんが、一般人が不思議系と関わることはほとんどない。ほとんどというか、たいていの人が魔術とかにすら触れることなく死ぬだろう。
俺らは一応騎士団だし、防衛の関係で魔法使いと顔を合わせることも稀にあるけど、その程度だ。
んだもんで、なんで俺が呼ばれているのか全く分からん。けど何か偉そうな人っぽいので、とりあえず先を促す意味も込めて頷いておく。
「それは秘された場所に隠されており、気付きと試練を与えんがため、癒えぬ傷となり血を流している……」
「……はぁ」
とりあえずもういちど頷いてみたが、やっぱり何を言いたいのかさっぱり分からん。
だいたい、俺が持ってる癒えぬ傷と言えば、痔ぐらいの物である。幼い頃に発症して以来、誰にも言えないまま、この年までずっと抱えている持病である。酷いときは座るだけでケツが痛い。
他に、「傷が治らねぇ」とぼやくヤツがいなかったとは言わない。でもそいつらも、そのうち治っていったな……。
忙しさで右往左往してた頃に口内炎で延々と苦しむヤツもいて、ひっそりと仲間認定していたヤツが、嫁をもらった途端、治った宣言をして、心の中で再発しろと何度も呪ったりとかな。
そういえば虫歯で長年苦しんでいたヤツも、「……抜けたよ……」と隙間の空いた口の中を見せて寂しそうに笑ってその苦しみと別れを告げていた。ヤツに関しては痛みから抜け出せたことへの祝いの念と、亡くなった歯に対するお悔やみの念を抱いたものだ。
俺の痔も、そろそろ卒業して良いんじゃないだろうか。年々、痔の薬に詳しくなりながら、先日出会った痔の新薬の効き目に今日も期待している。
何にせよ、虫歯や口内炎や痔だのはお呼びではあるまい。何せ聖痕だし。とりあえず、俺には関係のない話であることは確かだろう。
他人事感満々で解放を待ちながら聞いていた俺は、目の前の、貴族感満載の男前の言葉を、退屈しながら神妙な面持ちで聞き流していた。
「お前からは、平民とは思えぬほどの聖力が溢れている」
精力?? え、別に俺今勃起してないし。
……ないよな?!
そっとちんこを隠すように前に手を当てた。大丈夫。ノー勃起。精力溢れるとかなに言ってんのもう。焦ったじゃないか。
話について行けない俺に偉そうな男前は居丈高に言い放つ。
「お前だろう、聖痕を持つ者よ。さあ、示すがいい、運命の痔を持つ者よ!」
「……はぁ?」
びしっと指を指されて、ぽかんと間抜け面を晒した俺は、きっと悪くない。
運命のじ……じ……痔?
「は? ………痔? ………痔ぃぃぃ?!」
何この人、真面目な顔して、何言ってんの?!
パッカーンと口を開けたまま、不敬なことも忘れてその男前の目を見る。
いや、なんで真顔なの、なんで笑ってないの? え? 何のネタ? これ間違いなく驚かそうとして、俺をネタにしようとしてるヤツだよね!
「お前の痔が幼少期より長年続いていることは分かっている」
公衆の面前で放たれた言葉に戦慄する。
「は?! まって?! あんた、何勝手に人の病気暴露してんの?! やめて?! ほんとやめて?!」
「答えぬのか……。さあ、その痔を見せるがいい!!」
パニックを起こした俺の腕をがしりと掴む男前。
「いやぁぁぁぁ!! あんた何、人の恥ずかしいところの病気晒して、なおかつ俺の尻を公衆の面前で晒そうとしてんの?! 変態なの?! ねぇ、変態なの?!」
「逆らうというのか」
「さからうよ!! ちょうさからうよ!! めちゃくちゃさからうから!! 俺の尊厳の問題……!!」
曲がりなりにも騎士団員。火事場のクソ力も相まって、とっさに腕をふりほどいて逃走しようとするが、周りにたむろうのは、ガチの王国騎士団。
「捕らえよ…!!」
「いーやぁぁぁぁぁ!!!!」
逃げることは出来なかった。
危うく詰め所でズボンをずり下ろされそうになったところを、うちの団長が気の毒に思ったらしく一室を空けてくれて、少数精鋭で閲覧させることになった。なんなのこの辱め。
「いやーん、えっちぃ……」
ぶーたれながら、ぐずぐずとズボンをずり下ろしていると、
「貴様、ふざけているのか!!」
と、ガチ騎士団の偉そうな人が怒鳴る。
「ふざけでもしてないと、やってられないっすよ!! 自分も一回やってみれば良いんです、公衆の面前でケツ出して穴見られる屈辱!! 何なら、一緒にケツ出せばいいんですよ!! さあ、さあ!! そしたら俺、真顔で一緒にケツ出します!!」
生尻を出した時点でそう叫んで、ガチ騎士団の偉そうな人のズボンを引きずり下ろしにがっと手を出した。
さすがにガチ騎士団、反応がよくって、すんでの所で上に引っ張られ、下ろされるの死守しやがった。まあ場所的に上手く引きずり下ろせたとして、ぽろんするのはケツじゃなくて、ちんこだったとは思うけど。
「自分は見せないくせに、人には見せろってあんまりっす!! 俺のケツ見たけりゃ、ここにいる全員ケツ出しやがればいいんです!! それがいやなら、ちょっとしたおふざけで惨めさごまかすぐらい、許してくれたって良いじゃないっすかぁぁぁぁぁ!!」
必死で訴えると、ちょっと気まずそうに目をそらすガチ騎士団の偉そうな人。ちょっと悪いと思ってくれてるらしい。ラッキー、意外といい人。俺の態度は褒められたもんじゃないから、下手すると酷い処分を私怨で向けられるかもと思ってたんだけど、噂通り、王国騎士団は篤厚であるのかもしれない。
そんなにらみ合いに口を挟んだのは、偉そうな貴族っぽい男前だった。
「……確かに、聖痕をむやみやたらと人に晒す物ではないな。良かろう、私とお前だけで確認しようではないか。その際私も脱ぐ、それで良いな」
えー……やめにしようっていう選択肢はないの?
「……分かりました……」
逃げ道を全部ふさがれてしょんぼりして頷くと、「ではゆくか」と促された。
どこへ?
「……はぁ」
俺の目の前にはなんだかえらい男前の、えらく偉そうな人がいた。
彼らがやってきたのは、騎士団とは名ばかりの狭い自衛団の詰め所で仲間と雑談しているときだった。きらびやかなガチの騎士団を従えた、偉そうな人がぞろぞろとやってきて、「コイツか」「コイツだ」「本当にこれが?」とか、がやがやと言いながら、俺の周りにわらわらと湧いてきた。
そして名前を呼ばれて「はい」と首をかしげたところで、冒頭に至る。
正直、言われた言葉の意味が分からん。聖痕なんて言葉初めて聞いたし。
「せいこん」と言われて、迷わず「制服合同コンパ、略して制コン! 制服を着た男女が集まり、制服萌えを楽しみながらきゃははうふふする、すばらしい会」を想像した俺は、どちらかというと、真っ当であるだろう。実現し得る、とてもいい言葉だ。
かわいい制服で有名なカフェのお姉ちゃん達と、一応騎士団の制服着てる俺たちの制服コンパ、最高じゃねぇか。後領主領の事務官服とかもかわいい。あそこのメイドちゃん達も最高だ。……制コン、むしろ実現するべきじゃね? これを思いついた俺、もしかして天才じゃね? よし、後でみんなに話を通して実現させよう、そして思いついた功労者としてみんな俺をあがめ奉れば良い。「制コンの生みの親」としてこれからきっと俺は感謝のまなざしを受けながら生きていくんだ。
とか現実逃避したけど、まあ、違うのはすぐに気付いたけどな。脈絡的に「聖痕」だろうと、何となく当たりはついたさ。それにつけても何だよ「聖痕」って。一般人には全くなじみのない言葉過ぎる。
そりゃ、お偉いさんだとかだと、魔法使いだとか賢者とか聖人だとかそっち方向の畑の人にはなじみがある物かもしれんが、一般人が不思議系と関わることはほとんどない。ほとんどというか、たいていの人が魔術とかにすら触れることなく死ぬだろう。
俺らは一応騎士団だし、防衛の関係で魔法使いと顔を合わせることも稀にあるけど、その程度だ。
んだもんで、なんで俺が呼ばれているのか全く分からん。けど何か偉そうな人っぽいので、とりあえず先を促す意味も込めて頷いておく。
「それは秘された場所に隠されており、気付きと試練を与えんがため、癒えぬ傷となり血を流している……」
「……はぁ」
とりあえずもういちど頷いてみたが、やっぱり何を言いたいのかさっぱり分からん。
だいたい、俺が持ってる癒えぬ傷と言えば、痔ぐらいの物である。幼い頃に発症して以来、誰にも言えないまま、この年までずっと抱えている持病である。酷いときは座るだけでケツが痛い。
他に、「傷が治らねぇ」とぼやくヤツがいなかったとは言わない。でもそいつらも、そのうち治っていったな……。
忙しさで右往左往してた頃に口内炎で延々と苦しむヤツもいて、ひっそりと仲間認定していたヤツが、嫁をもらった途端、治った宣言をして、心の中で再発しろと何度も呪ったりとかな。
そういえば虫歯で長年苦しんでいたヤツも、「……抜けたよ……」と隙間の空いた口の中を見せて寂しそうに笑ってその苦しみと別れを告げていた。ヤツに関しては痛みから抜け出せたことへの祝いの念と、亡くなった歯に対するお悔やみの念を抱いたものだ。
俺の痔も、そろそろ卒業して良いんじゃないだろうか。年々、痔の薬に詳しくなりながら、先日出会った痔の新薬の効き目に今日も期待している。
何にせよ、虫歯や口内炎や痔だのはお呼びではあるまい。何せ聖痕だし。とりあえず、俺には関係のない話であることは確かだろう。
他人事感満々で解放を待ちながら聞いていた俺は、目の前の、貴族感満載の男前の言葉を、退屈しながら神妙な面持ちで聞き流していた。
「お前からは、平民とは思えぬほどの聖力が溢れている」
精力?? え、別に俺今勃起してないし。
……ないよな?!
そっとちんこを隠すように前に手を当てた。大丈夫。ノー勃起。精力溢れるとかなに言ってんのもう。焦ったじゃないか。
話について行けない俺に偉そうな男前は居丈高に言い放つ。
「お前だろう、聖痕を持つ者よ。さあ、示すがいい、運命の痔を持つ者よ!」
「……はぁ?」
びしっと指を指されて、ぽかんと間抜け面を晒した俺は、きっと悪くない。
運命のじ……じ……痔?
「は? ………痔? ………痔ぃぃぃ?!」
何この人、真面目な顔して、何言ってんの?!
パッカーンと口を開けたまま、不敬なことも忘れてその男前の目を見る。
いや、なんで真顔なの、なんで笑ってないの? え? 何のネタ? これ間違いなく驚かそうとして、俺をネタにしようとしてるヤツだよね!
「お前の痔が幼少期より長年続いていることは分かっている」
公衆の面前で放たれた言葉に戦慄する。
「は?! まって?! あんた、何勝手に人の病気暴露してんの?! やめて?! ほんとやめて?!」
「答えぬのか……。さあ、その痔を見せるがいい!!」
パニックを起こした俺の腕をがしりと掴む男前。
「いやぁぁぁぁ!! あんた何、人の恥ずかしいところの病気晒して、なおかつ俺の尻を公衆の面前で晒そうとしてんの?! 変態なの?! ねぇ、変態なの?!」
「逆らうというのか」
「さからうよ!! ちょうさからうよ!! めちゃくちゃさからうから!! 俺の尊厳の問題……!!」
曲がりなりにも騎士団員。火事場のクソ力も相まって、とっさに腕をふりほどいて逃走しようとするが、周りにたむろうのは、ガチの王国騎士団。
「捕らえよ…!!」
「いーやぁぁぁぁぁ!!!!」
逃げることは出来なかった。
危うく詰め所でズボンをずり下ろされそうになったところを、うちの団長が気の毒に思ったらしく一室を空けてくれて、少数精鋭で閲覧させることになった。なんなのこの辱め。
「いやーん、えっちぃ……」
ぶーたれながら、ぐずぐずとズボンをずり下ろしていると、
「貴様、ふざけているのか!!」
と、ガチ騎士団の偉そうな人が怒鳴る。
「ふざけでもしてないと、やってられないっすよ!! 自分も一回やってみれば良いんです、公衆の面前でケツ出して穴見られる屈辱!! 何なら、一緒にケツ出せばいいんですよ!! さあ、さあ!! そしたら俺、真顔で一緒にケツ出します!!」
生尻を出した時点でそう叫んで、ガチ騎士団の偉そうな人のズボンを引きずり下ろしにがっと手を出した。
さすがにガチ騎士団、反応がよくって、すんでの所で上に引っ張られ、下ろされるの死守しやがった。まあ場所的に上手く引きずり下ろせたとして、ぽろんするのはケツじゃなくて、ちんこだったとは思うけど。
「自分は見せないくせに、人には見せろってあんまりっす!! 俺のケツ見たけりゃ、ここにいる全員ケツ出しやがればいいんです!! それがいやなら、ちょっとしたおふざけで惨めさごまかすぐらい、許してくれたって良いじゃないっすかぁぁぁぁぁ!!」
必死で訴えると、ちょっと気まずそうに目をそらすガチ騎士団の偉そうな人。ちょっと悪いと思ってくれてるらしい。ラッキー、意外といい人。俺の態度は褒められたもんじゃないから、下手すると酷い処分を私怨で向けられるかもと思ってたんだけど、噂通り、王国騎士団は篤厚であるのかもしれない。
そんなにらみ合いに口を挟んだのは、偉そうな貴族っぽい男前だった。
「……確かに、聖痕をむやみやたらと人に晒す物ではないな。良かろう、私とお前だけで確認しようではないか。その際私も脱ぐ、それで良いな」
えー……やめにしようっていう選択肢はないの?
「……分かりました……」
逃げ道を全部ふさがれてしょんぼりして頷くと、「ではゆくか」と促された。
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