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「シエル?」

呆然と立ち尽くす俺の顔を、シルヴァンは心配そうに覗きこんだ。
だから!近い!いちいち距離が近い!
あー、けどまあそうだよなあ。
こんな美形なら、どんなに近づいたって嫌がられることはないだろう。むしろ歓迎されるに違いない。

「顔が赤いね。熱があるんじゃないかな」

シルヴァンの手が、す、と動いて、ごく自然に俺のひたいに触れた。

「熱いよ」
「あっ、あぇ?え、や、だだ、だいじょ、ぶ、ですッ、あっ」

驚いて、反射的に振り払ってしまった。
あ、あ、どうしよう。やってしまった。
俺みたいなキモくて冴えない童貞が、キラキラなカースト最上位様に逆らってしまった。
高校時代、陽の者の機嫌を損ねて酷い目に遭ったことを思い出す。
ど、どうしよう。どうしよう。
俺は青くなった。とりあえずぺこぺこと頭を上げ下げしてみる。

「ごぇ、ごめ、なさ、ごめんなしゃいッ」
「いや、こちらこそ。ごめんよ。急に触って、びっくりしたんだね」

シルヴァンは俺を殴らなかったし、怒らなかった。
それどころか、申し訳なさそうに眉をさげて、謝ってさえくれた。

「あぅ……、あ、の、でも、俺、俺」
「それとも、私に触れられるのは、嫌だった?」
「そ……んなこと、ない。それは、ぜ、ぜったいに、ない、です」
「絶対に?ふふ、それは嬉しいね」

頭がぼうっとする。
シルヴァンの笑顔を見て頬が熱くなるのは、彼がウィザードだからだろうか。
俺になにか、魔法をかけた、とか。

「ねえ、シエル」
「ひゃ、い」
「屋敷はそう遠くないけれど、やはり魔法で移動したほうがいいと思うんだ。きみはあまり調子がよくなさそうだし、いろいろと混乱している様子だしね。早めに休んだほうがいい。……手を、つないでもいいかな」
「はぇ……?」
「私に触れてもらわないと、きみをいっしょに連れて行けないからね。かまわないかな」
「あ……、は、はい」

シルヴァンは柔らかな口調で説明してくれた。
あ……そっか。
デコを触られて、俺が驚いたから、びっくりしないようにって、ちゃんと教えてくれてるんだ。
優しい人、なんだな、と思った。
や、こんな俺を心配してくれて、親切にしてけれてる時点で、じゅうぶん優しい人なんだけど。
……。
…………。
冷静に考えると、なんかおかしくないか?
この人、なんで俺みたいなやつに優しくすんの?
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