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3章 変化の時
兄の婚約者
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<カイゼル視点>
一体何をしているんだ、私は。
呆然としているスカーレット嬢を見ると胸は痛むが、私は彼女に背を向けた。夕日が目に眩しくて、思わず目を細める。自制が聞かなかった手をキツく握りしめる。私には彼女に触れる資格など無い。このままでは兄上と同じだ。
◇◇◇
スカーレット嬢と出会った時のことは今でも覚えている。
「お初にお目にかかります、第二王子殿下。第一王子アルフレッド殿下と婚約させていただきました、スカーレット・サンフレスと申します。」
兄アルフレッドの婚約者として紹介された一つ年上の令嬢。それがスカーレット・サンフレス侯爵令嬢だった。幼いながら完璧な礼儀作法に思わず見とれたのを覚えている。意志の強そうな海色の瞳は、私の記憶に刻みつけられ、淡い憧れを抱くようになった。
対して兄は幼い頃から傍若無人だった。色々な人を振り回し、少しでも気に入らないと当たり散らす。今も尚「ゲーム」や「シナリオ」とか言うよく分からない言葉と共に、罵倒される人をよく見る。
端的に言えば、私は兄を嫌っている。
スカーレット嬢もまた兄上の被害者だ。彼女には何の否も無いと言うのに。まるで生まれてきたことが間違いだと言わんばかりに罵り、「悪役令嬢」を押し付ける。傍から見れば悪役は兄上だ。それなのに、健気にスカーレット嬢は努力を続ける。見ているだけで苦しい。その気持ちに気づいた瞬間、彼女への恋心を同時に自覚した。兄の婚約者には、許されざる感情だった。
丁寧に整えられた赤い髪も、変わらぬ輝きを誇る青い瞳も、決して努力を怠らない姿勢も、誰にでも見せる心優しい気遣いも、全てが愛おしかった。
その眩しい輝きが、兄上の悪意で陰るのを見るのは耐えられない。本当なら今すぐにでもこの手の中に閉じ込めてしまいたい。兄上なんて、目に入らないくらいに愛して、愛して、私だけを見てほしい。いっそ彼女を苦しめるこの世界から隔離してしまおうか、そんな事も考えた。しかし心優しい彼女はそんなことは望んでいないだろう。
兄上がスカーレット嬢の隣にいる資格は無い。両陛下からもそう認識されたからには婚約解消もそう遠くはない。そうすれば彼女は救われる。あわよくば私の婚約者として、輝きを見せてくれれば……そう思っていたというのに、未だに婚約は持続している。兄上が了承していないからだ。
苛立ちが募っていた矢先、泣き腫らした様子の彼女を見てしまった。抗えなかった。また、醜い一面が出てきかけた。彼女は私を優しいと言ったが、それは間違いだ。
本当の私は穢れている。スカーレット嬢に歪んだ執着をしている醜い人間だ。普段は完璧な王子を演じているにすぎない。
閉じ込めたい。以前に彼女を守るためとはいえそんな欲望を持ってしまった自分が恐ろしかった。だが彼女を見るとその欲が表に出てきてしまう。
だから、彼女と距離を置いた。
仕事に没頭し続ければ自分の醜い一面を忘れられた。「善良で優秀な第二王子」を演じていれば、いつか貴方は振り向いてくれるのではないかと、結局分相応な望みを抱いてはいるが。
スカーレット嬢、待っていてほしい。この手で兄上を断罪して、正々堂々と貴方を迎えに行くから。
だから、どうか、その時まで。私を、私の内に眠る狂気を、嫌わないでほしい。必ず、助け出すから。
ーーーーーー
とてもとても投稿ペースが落ちていること、お詫びします。絶賛スランプです……
だから、と言ってはなんですが、三章も終了となりますので一旦更新を停止します。ごめんなさい。
再開は未定ですが、楽しみにしていただけると幸いです。
一体何をしているんだ、私は。
呆然としているスカーレット嬢を見ると胸は痛むが、私は彼女に背を向けた。夕日が目に眩しくて、思わず目を細める。自制が聞かなかった手をキツく握りしめる。私には彼女に触れる資格など無い。このままでは兄上と同じだ。
◇◇◇
スカーレット嬢と出会った時のことは今でも覚えている。
「お初にお目にかかります、第二王子殿下。第一王子アルフレッド殿下と婚約させていただきました、スカーレット・サンフレスと申します。」
兄アルフレッドの婚約者として紹介された一つ年上の令嬢。それがスカーレット・サンフレス侯爵令嬢だった。幼いながら完璧な礼儀作法に思わず見とれたのを覚えている。意志の強そうな海色の瞳は、私の記憶に刻みつけられ、淡い憧れを抱くようになった。
対して兄は幼い頃から傍若無人だった。色々な人を振り回し、少しでも気に入らないと当たり散らす。今も尚「ゲーム」や「シナリオ」とか言うよく分からない言葉と共に、罵倒される人をよく見る。
端的に言えば、私は兄を嫌っている。
スカーレット嬢もまた兄上の被害者だ。彼女には何の否も無いと言うのに。まるで生まれてきたことが間違いだと言わんばかりに罵り、「悪役令嬢」を押し付ける。傍から見れば悪役は兄上だ。それなのに、健気にスカーレット嬢は努力を続ける。見ているだけで苦しい。その気持ちに気づいた瞬間、彼女への恋心を同時に自覚した。兄の婚約者には、許されざる感情だった。
丁寧に整えられた赤い髪も、変わらぬ輝きを誇る青い瞳も、決して努力を怠らない姿勢も、誰にでも見せる心優しい気遣いも、全てが愛おしかった。
その眩しい輝きが、兄上の悪意で陰るのを見るのは耐えられない。本当なら今すぐにでもこの手の中に閉じ込めてしまいたい。兄上なんて、目に入らないくらいに愛して、愛して、私だけを見てほしい。いっそ彼女を苦しめるこの世界から隔離してしまおうか、そんな事も考えた。しかし心優しい彼女はそんなことは望んでいないだろう。
兄上がスカーレット嬢の隣にいる資格は無い。両陛下からもそう認識されたからには婚約解消もそう遠くはない。そうすれば彼女は救われる。あわよくば私の婚約者として、輝きを見せてくれれば……そう思っていたというのに、未だに婚約は持続している。兄上が了承していないからだ。
苛立ちが募っていた矢先、泣き腫らした様子の彼女を見てしまった。抗えなかった。また、醜い一面が出てきかけた。彼女は私を優しいと言ったが、それは間違いだ。
本当の私は穢れている。スカーレット嬢に歪んだ執着をしている醜い人間だ。普段は完璧な王子を演じているにすぎない。
閉じ込めたい。以前に彼女を守るためとはいえそんな欲望を持ってしまった自分が恐ろしかった。だが彼女を見るとその欲が表に出てきてしまう。
だから、彼女と距離を置いた。
仕事に没頭し続ければ自分の醜い一面を忘れられた。「善良で優秀な第二王子」を演じていれば、いつか貴方は振り向いてくれるのではないかと、結局分相応な望みを抱いてはいるが。
スカーレット嬢、待っていてほしい。この手で兄上を断罪して、正々堂々と貴方を迎えに行くから。
だから、どうか、その時まで。私を、私の内に眠る狂気を、嫌わないでほしい。必ず、助け出すから。
ーーーーーー
とてもとても投稿ペースが落ちていること、お詫びします。絶賛スランプです……
だから、と言ってはなんですが、三章も終了となりますので一旦更新を停止します。ごめんなさい。
再開は未定ですが、楽しみにしていただけると幸いです。
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