上 下
153 / 181
第三部 未来

お転婆王女

しおりを挟む
「……それで?護衛もつけず、何をしたんだ?」
 ここは執務室。ゴゴゴゴ、という音さえ聞こえてきそうなほど物々しい空気が流れる中、私は父様と一体一で向かい合っている。

「王都民の生活を視察してきました。」
私はすました顔で答える。
「もっと他にあるだろう?」
しかし父様は全てお見通しのようだ。

「…ランツキー伯爵の、人身売買の証拠を掴んできました。」
「その方法は?」
もうこうなれば仕方がない。私は元気よく、正直に答えた。
「現場に乗り込んで、捕まえてきました!」
「………そうか。」

 父様は大きな大きな、特大のため息をついた。
「まぁ、伯爵の罪を暴いたのは良い。むしろ素晴らしい功績だ。だが、もう少し自分が王女であると自覚しなさい、エレノア。」

 私は知っている。父様は手柄さえ立てれば強く怒鳴ったりはしないことを。お父様の胃が限界に達する前に限るけれど。そこまでしてしまうと母様に怒られてしまうから。





 私の名はエレノア・ハルティア。ハルティア王国の第一王女だ。
 近頃きな臭い動きをしているランツキー伯爵を調べていたら、人身売買の疑念が生まれた。そこで彼をつけて王宮を抜け出し、現場を取り押さえた。そして騎士団に突き出したところ、国王である父様に呼び出された訳だ。

「姉上、今度は何をしたんですか?」
「犯罪者を捕まえただけよ。」
「その方法が問題なんじゃないですか……」

 弟のエリオスも呆れる通り、自分でもお転婆だという自覚はある。でも止められない。一度気づいてしまえば、私の正義は鉄槌を下そうと躍起になるからだ。



 悪は許されないことだ。様々な悪の形があり、それに手を染めてしまった理由も千差万別。貧しさ、怒り、欲望…どうしようもない理由もある。けれど、悪は許されないことだ。
 私は王族として、民が悪に染まらないようにしたい。そのために、悪を弾劾し国を豊かにする。そのために、自分の身を捧げることが王族の使命だと思っている。

「その思想は良いんですけど、せめて事前に連絡するとか、そういうことはできないんですか?」
「考えるより先に動いちゃうんだよねぇ…」
むしろ動きながら考えている気もするなぁ、としみじみ思う。

 やっぱり呆れ顔のエリオスと話していると、心地よい春風が顔を撫でた。春を告げる鳥の声も聞こえる。もうすぐ、父様と母様の結婚記念日だ。せめて、記念日までは大人しくしていよう。そう誓った春の日だった。












ーーーーーーー
 第三部は、ルークとレイの娘エレノアが主人公になります。ですがエレノア視点とレイ視点が多く入れ替わります。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

なんちゃって悪役王子と婚約者

藤森フクロウ
恋愛
 『俺』ことサフィシギルは気が付いた。これ、姉ちゃんのやっていたゲームじゃねえ?  別に悪役令嬢を慰み者にしたいわけじゃないし、てきとーにやって巻き込まれないようしていた。  『俺』は婚約者をお世話しつつ平穏無事な安泰人生を目指す。  見かけはチャラ男、中身はオカンな王子の恋の行方は?  毎日一話ずつ公開予定。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...