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2章 悲劇の王女

グレシアナの動乱

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 アルガスはため息をついた。服従痕があるという事はつまり、誰かが意図的に国王一行を襲わせたのだ。幸いルークとレイに怪我が無かったから良いものの、数人の騎士が負傷したそうだ。グレシアナが疑われても文句は言えない、立派な責任問題である。

「使者は詳しい話を聞くため王宮の客室に泊まってもらえ。魔法省はグリフォンの服従痕の魔力を調査。外務省は襲撃当時周辺にいた者たちを洗え、操っている最中なら近くにいる必要があるはずだ。教皇も呼んでくれ。」

 一通り指示を出し終え、アルガスも今回の件の処分を考える。国賓を狙った犯罪だ、実行犯の極刑は免れないだろうが、確実に単独犯では無いだろう。国賓の通る道を知るには相応の地位が必要であるし、強力なグリフォンを服従させるには同じくらい強力な魔力を持つ人間が必要だ。
 何にしても、早々に炙り出さなければ。あの若い国王が怒りにかまけて法外な慰謝料請求なんてしないとは思うが、国内の膿は出し切らねばグレシアナの面子がない。それなりに高位の貴族が絡んだ件だから尚更だ。


「最近不可解な事象が多いな……繋がりが無いか調査するか。」

 グレシアナは先王ロベルト時代から辺境伯家を中心に内部動乱が続いている。アルガスが辺境伯令嬢を王妃に据えた事で一時は収まったが、聖女クレアの出現でそれは再び熱を帯びた。

 グレシアナ王国はシアン教を国教としているものの、全ての貴族が創造神シアンを崇拝しているという訳ではない。オルロス教皇をトップとする教会派と貴族派に国が二分化しているのがいい例だ。あくまでも王家は中立を保っているが、オルロス教皇はアルガスの腹心であり、加えて王太子は聖女が婚約となれば貴族派が面白く思うはずがない。

 特にリシュオン公爵家は先代から王家と因縁がある。アリアナ・リシュオン公爵令嬢が先王ロベルトに薬を盛り、その間に純血を奪われ妊娠したと騒ぎ立てた。王家の醜聞ともとれるが、王に薬を盛った罪と合わせて公爵家と取引をして子供のみ引き取ったのだ。
 しかし生まれたのは明らかに異端な容姿をした女児。王家と繋がる機会を失ったリシュオン公爵家は何とか権威を持とうと貴族派のトップに立ち、クレアとレオナルドの婚約に反対し続けた。その裏には自身の娘マリエッタを王太子妃、ひいては王妃にしようと考えていた事は間違いない。

 それが失敗した今も何かと王家に突っかかって威信を潰そうとしてくるため、アルガスにとっては頭痛の種である。今回の襲撃も王家の責任問題にするためにリシュオン公爵が手を引いたと考えれば合点が行く。

 しかしそう仮定すると疑念が湧くのは国王の婚約者であり公爵令嬢のレイが襲われた事だ。レイはシンシアの孫であり、現リシュオン公爵にとっては親戚にあたる。権力欲の強い公爵ならばハルティア王国での地位確立のためレイとは懇意になるのを望みそうなものだが…


 ここまで考えたところで、アルガスは自分の仕事が止まっている事に気づいた。推理も良いが、仕事の手は止めないようにしなければ、と心に留めた。


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