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2章 王太子と公爵令嬢

秘密の話

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「レイ嬢……君はディアナをどう思う?」
「ディアナ様でございますか…?」
 突然の質問に私は戸惑ってしまいました。殿下の婚約者であるディアナ様ですから、慎重に答えなくては。かと言って、ディアナ様の良いところは1つも思いつきません。

「自らの意思をハッキリと言える方だと存じております。」
「そうか…」
 それとなく上手く受け流します。

「では、質問を変えよう。ディアナは王太子妃、ひいては未来の王妃にふさわしいと思うかい?」
「それは…………」
 殿下は私を試すような目で見ています。どう答えるのが正解なのか、検討もつきません。心臓ばかりが先行して早鐘を打っています。

「正直に答えてほしい。」
 ですが、殿下のその言葉に覚悟を決めました。

「申し訳ないですが、ディアナ様ではふさわしくないと思います。」
「……そうか。やはり、そうなのだな……」
「やはり」という事は、殿下も薄々気がついていたのでしょう。ディアナ様の言動があまりにも目に余るという事を。

「ここだけの話、ディアナと婚約破棄をしようと考えている。」
「え!?」
 急な爆弾発言に淑女らしからぬ声が出ました。それだけ大きな爆弾発言でした。王太子殿下の婚約破棄なんて、国の未来を揺るがします。私のような者にポロリと話しても良いのでしょうか。

「……失礼ですが、私に話してもよろしいのですか?」
「良いんだ。君は口が固そうだからね。」
 そう言いつつ、私を見つめる殿下の視線は優しくはありません。「絶対に口外するなよ?」とでも言いたげです。

「だが、一方的な宣告ではテレネシア公爵家が承諾しないだろう。テレネシア家は勢力を伸ばす為に何がなんでもディアナを王妃にしたいだろうからね。」
「そう、ですね。」
「しかし国の未来を担う身として言うと、ディアナが王妃になるのは間違いなく国の衰退の前触れだろう。」
 婚約者なのに結構言いますね殿下。それほどディアナ様を嫌っているのでしょうか。

「少し話しすぎてしまったな、すまない。公務疲れが酷いんだ。」
「いえ。そんなに公務は多いのですか?」
「父上の統治ぶりを見れば分かる。」
 つまり、途方もない量だと言いたいのでしょうか。私は会った事がありませんが、国王陛下の能力は殿下も自覚しているのですね。


 そう思うと殿下は本当に気の毒です。横暴の限りを尽くす婚約者に無能と蔑まれる父親。尻拭いは全て自分。

「どうか、ご自愛くださいますよう切に願います。」
「ありがとう。」
 殿下と別れ、私は会場に戻ります。中央で高笑いをしているディアナ様が先程より一層憎らしく見えました。
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