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第2章 ギルド体験週間編―初日
ギルド体験週間初日⑤ 純色 対 純色
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「では、これよりフルミネ・ライカ対ゲイリー・シュトロームの決闘を行います。観戦は自由ですが、流れ弾に関しては自己責任でお願いします。それでは……はじめっ!」
フランチェスカの合図と同時にゲイリーが口を開く。普通であれば魔法の詠唱に入るのだが、ゲイリーが放った言葉は一言だけだった。
「来て、シルヴィア」
ゲイリーの周りに風が踊る。まるで生きているかのように風が踊り、ゲイリーの服をふわふわと撫でる。
「あれが…契約召喚…」
通常の魔法による妖精の使役は、自分の魔力が適合する妖精全体に呼びかけて、そのうちの任意の一体とのリンクが形成される。そのため、魔法の詠唱から妖精の使役までは一定の時差が生じる。これが、魔法の行使に時間がかかる理由の一つである。
また、普通の魔法であれば、魔法使いの魔力のレベルによって、使用できる魔法が決まってくる。高位の魔法を使用するためには、それだけ多くの妖精、もしくは位の高い妖精を使役する必要があるために、一度にたくさんの魔力を必要とする。
例えば、低位魔法発動に必要な最大量1000マナを例にとって考えてみよう。
ある魔法使いの魔力生成速度が1000以上であれば、詠唱と同時に必要な魔力量を供給することができる。
もちろん魔法の発動には、魔法詠唱にかかる時間や、生成した魔力から調理法に基づき妖精に与えるお菓子を作り出す時間などもかかるので、それよりさらに余分に時間がかかることになる。この時間は練習や魔法の熟練度によってある程度は短縮できる。
仮に魔力生成速度が100だとすると、大体10秒くらいで1000の魔力を生成できるので、詠唱開始から10秒後に魔力が必要量に達することになる。低位魔法の発動に10秒もかかる魔法使いはEランクであるが。
しかし、仮に最大魔法量が900だとすると、この魔法使いが1回の詠唱で使用することができる魔力は900となるので、この魔法使いはどんなに頑張っても自力で魔力が900以上必要な魔法を使用することができないということになる。
これが魔力ランクによる、使用可能魔法の限界である。
しかし、『契約召喚』は違う。『契約召喚』は妖精個人と直接特別な契約をし、その個人を召喚する。契約した妖精は他の魔法使いによって使役されることはない完全に専属の妖精となる。そのため、妖精とのリンク形成にかかる時差は一切ない。また、魔法を行使するたびに長い詠唱文を読み上げる必要もなく、契約の条件にもよるが、魔法を使用するたびに魔力を供給する必要もない。
奇跡を起こすのに必要な力自体は妖精が持っているものであり、魔力ではないからだ。魔力は妖精に対する対価として支払うものであって、奇跡そのものを起こせる力ではないのだ。
妖精個人との契約が成立してしまえば、本来同程度の魔法を発動するのに必要な魔力が100だろうが1万だろうが無関係である。すべて、妖精に伝えるだけで行ってくれるのである。
もちろん『契約召喚』にも弱点はある。契約召喚は妖精1人との契約になるため、2人以上が必要な魔法は使用することができない。その妖精が1人で起こすことができる奇跡しか起こすことができないのである。その妖精の位によってはそれほど強力な奇跡や大規模な奇跡を起こすことができないということもあり得る。使える魔法は全て契約した妖精次第と言うことになる。契約召喚を行える魔法使いだとしても、契約している妖精が起こせない奇跡を起こしたい場合には、通常の魔法使いと同様に詠唱によって魔法を発動する必要があるということである。
それに加えて『妖精との個人的な契約』はそれ自体が非常に難しく、ほとんどの魔法使いは契約することすらできない。妖精とは元来気まぐれな性格であるため、契約が成立するかどうかは完全にその妖精に気に入ってもらえるかどうかによる。また、契約に必要な条件は、その妖精が提示してくるが、場合によっては非常に理不尽なものだったり、常識的に考えて絶対に不可能だったりすることもある。
ただ、必要最低限の基本的な条件として挙げられるのが、魔力の質である。
通常の魔法は、妖精という種族全体と魔法使い全体との間で結ばれた法に則って行われるため、一定の拘束力がある。なので、火の妖精に働きかけるために魔力に赤以外が混じっていたとしても、使役は可能である。妖精としては自分好みの味に少し違う味が混じっていて、あまり美味しくないなと思っても、法がある以上従わなければいけないのである。もちろん、あまりにも雑味が混じっている場合には従わせることができない位の高い妖精も存在するが、火の魔法全体が使えないということではないということである。
しかし、妖精との個人的な契約には、この法が適用されない。ゆえに、その妖精が魔力が美味しくないから契約したくないと拒否してしまえばそれまでだということである。とくに基本6属性の地水火風光闇の妖精に関しては純色でなければ契約することは不可能と言える。これが、現在『契約召喚』を行うことができる魔法使いのほとんどが純色の魔法使いである理由であり、純色の魔法使いが特別視される理由でもある。
このようにして妖精と個人的に契約して召喚する魔法使いのことは『契約者』『妖精に好かれた者』などと呼ばれる。
「行くよ」
ゲイリーが右手を上から斜めに振り落とすようなポーズを取ると、手でなぞった所に沿って風の刃が発生し、目にもとまらぬ速さでライカめがけて飛んでいく。
ゲイリーは契約している風の妖精シルヴィアにジェスチャーで合図を送ることで魔法を発動していた。これによりゲイリーは、ほぼノータイムで魔法を発動することが可能であった。
ライカはその場から一歩も動かない。風の刃がライカに当たった瞬間、周囲を強風が襲う。ライカに当たった瞬間どういうわけか、風の刃は形を失い、分散してしまったのだ。
「魔法障壁?防御魔法?いつの間に?」
光の魔法にそんな効果がある魔法なんてあっただろうかと考えながら、ゲイリーは立て続けに風の刃をライカに飛ばす。
だが、そのすべてはライカに当たって分散し、ライカに傷一つ負わせることはできなかった。
「なによ、魔法使わないなんて豪語しながら、ちゃっかり使ってるじゃない」
ゲイリーがそう言うと、ライカは不敵に笑う。
「何を言っている?私は魔法なんて使ってないよ」
「嘘をおっしゃい!魔法を使わないで私の風の刃を防ぐなんてありえないわ!」
「だから言ったじゃないか。魔法だけがこの世に存在する不思議な力ではないと」
そう言って、ライカは手に持っている木刀をくるくると回して見せた。
「一体どうやって敵の攻撃を防いでいるのかしら?」
決闘を観戦していたルビアは、ルーシッドに尋ねた。
「多分だけど…木刀で弾いてるんだと思う…」
「でも刀を振っているようには見えないわよ?」
「目にも止まらぬ速さで振ってるんじゃないかな…風の刃を弾いた前後で、わずかにだけど刀を構えている位置が変化してる…」
「魔法を使わないでそんなことってありえるの?」
ルーシッドはその質問には答えず黙ってしまった。
「もう終わりか?ではこちらから行くぞ?」
そう言うと、ライカはふらっと前に倒れこんだかと思うと、次の瞬間にはゲイリーの前に移動していた。
「なっ!?」
ゲイリーは風の刃で木刀を受け止めつつ、ライカに向けて突風を起こす。ライカは風に押されて後ろに飛ばされるが、態勢を整える。
「なかなか良い判断だ」
「こ、この動きが魔法じゃないですって…嘘でしょ?」
「本当さ。正真正銘ただの身体的な技術だよ」
「ま、まぁ何だっていいわ!どちらにせよこれで終わりよ!」
そう言うとゲイリーはパチンと指を鳴らした。すると、ライカを囲むようにして竜巻が巻き起こる。
「この攻撃からは逃げられないわよっ!?」
そして、ゲイリーはポケットから石を数個取り出して、竜巻に投げつけた。竜巻によって石が高速で飛び交い、中にいる人に四方八方から攻撃を浴びせる。これを食らったら生身の人間であればひとたまりもないだろう。
「魔法を使わない攻撃も許可されてるのよねぇ!?手も足もでないでしょう!?あはっ、あはははっ!」
「どこに向けて攻撃してるんだ?私はここだよ?」
「なっ…」
ふいに後ろからそこにいるはずのない人に声をかけられ、ゲイリーはぎょっとする。そして、ゲイリーは白目を向いて地面に倒れ込んだ。
あまりにも突然のことで何が起きたのかわからず、場内はしんと静まり返る。ライカはちらりとフランチェスカの方を向いて、コールを促す。
「しょっ、勝者、フルミネ・ライカ!」
ゲイリー・シュトロームは意識を失っていたので医務室に運ばれ、もう一人の男子生徒は迷惑行為に関する事情聴取のために、風紀ギルドの生徒によって連行されていった。
「やぁ、どうだった?」
ライカは飄々とした感じでルーシッド達のところに近づいてきた。
「どうだったじゃないわ…まったく…純血のメンバーと急に決闘だなんて」
フランチェスカはあきれたようにそう言った。
「すまない。誰だか知らないが、少々腹が立ったものでね。売られた喧嘩に乗ってしまったよ」
「あなた、一応風紀ギルドでしょ…前の会議で純血の要注意人物の話したじゃない…」
「あれ、そうだったか?気に入らないやつの顔と名前はすぐに忘れてしまうタチでね」
ライカは、はははと笑い、フランチェスカはそれを見てため息をつく。何となく2人の関係性が見て取れる。
「全く…ゲイリーともう一人の生徒、オルガ・シュタインは、純血の中でも特に上層意識が高くて警戒していたのよ。今回の迷惑行為の件で2人を拘束することができたわ。ありがとう」
「なに、役に立てたなら良かったよ」
ライカの爽やかな笑顔を見て、フランチェスカは顔を赤らめて、ふんっと目を背けた。この2人は意外に良いコンビなのかもしれない。サラに傾倒しているフランチェスカに言えば、怒られるかもしれないが。
「あの…ところで、ライカ先輩が使ったあの力は一体何だったんですか?」
「あれは、『アウラ』と呼ばれる人間の生体エネルギーを使った技術だよ」
「ライカ先輩の『魔眼』ですか?」
魔眼とは、人間にまれに発現する特殊能力のようなもので、先天性のものや、何かがきっかけとなり突然発現する場合などがある。私たちの世界で言えば『超能力』などに近いものかも知れない。
有名な魔眼には、視線を合わせたものを石にしてしまう『石化の魔眼』や、視線で物に発火することができる『炎視の魔眼』、隠れているものを見つけることができる『透視の魔眼』などがある。
魔法とは全く別の能力であり、例えば魔力の色が赤系統でないのに、炎視の魔眼が発現したといった例も見つかっている。なぜ、またどのようにして発現するかなどはあまり解明されていない。いずれにしても便利な能力が多いので、魔眼を持っている人はうらやましがられる。魔眼を持っているかどうかは普段はわからないが、発動すると目が独特の光を放つことで知られている。それが魔眼という名称の所以である。
「いやいや、違うよ。クシダラには『アウラ使い』はたくさんいるよ。人間なら誰もが持っている力さ。普段は意識せずに使ったり放出したりしているけどね。これを感覚的に捉えて、自在に使いこなせるようになると、さっき私がやったように、常人の何倍も速く動けたり、持っている武器を強化できたりするんだよ」
「すごいですね…誰でも使えるようになるんですか?」
「もちろんセンスも少しはあるけど、練習すれば誰でもある程度はできるようになるよ。達人レベルにまでとなると、さすがに相当な修行が必要だけどね」
「私もライカに教えてもらって少しは使えるようになったわ。魔法と併用すると便利よ」
「わたしにも教えてくれませんか?」
「わたしも覚えたいです!」
「わたしもわたしも!」
ルーシッド、ルビア、フェリカの3人は興味津々に食いつく。
「もちろんいいよ。今日の放課後はルーシィの新飛行魔法発表会があるから、明日だね」
「そう、それよ!私はそれがすごく待ち遠しくて!」
フランチェスカはいつものクールな感じとは違う、子供っぽい感じのキラキラした目でそう言った。
「あ、そうだ、ライカ!あなたもさっきの件で一応聞きたいことがあるから、風紀ギルドのギルドホームまで来てもらうわよ!じゃあまた後でね!」
そう言うと、フランチェスカはライカの腕を引っ張って引きずっていった。ライカは引きずられながら、またねと手を振った。
フランチェスカの合図と同時にゲイリーが口を開く。普通であれば魔法の詠唱に入るのだが、ゲイリーが放った言葉は一言だけだった。
「来て、シルヴィア」
ゲイリーの周りに風が踊る。まるで生きているかのように風が踊り、ゲイリーの服をふわふわと撫でる。
「あれが…契約召喚…」
通常の魔法による妖精の使役は、自分の魔力が適合する妖精全体に呼びかけて、そのうちの任意の一体とのリンクが形成される。そのため、魔法の詠唱から妖精の使役までは一定の時差が生じる。これが、魔法の行使に時間がかかる理由の一つである。
また、普通の魔法であれば、魔法使いの魔力のレベルによって、使用できる魔法が決まってくる。高位の魔法を使用するためには、それだけ多くの妖精、もしくは位の高い妖精を使役する必要があるために、一度にたくさんの魔力を必要とする。
例えば、低位魔法発動に必要な最大量1000マナを例にとって考えてみよう。
ある魔法使いの魔力生成速度が1000以上であれば、詠唱と同時に必要な魔力量を供給することができる。
もちろん魔法の発動には、魔法詠唱にかかる時間や、生成した魔力から調理法に基づき妖精に与えるお菓子を作り出す時間などもかかるので、それよりさらに余分に時間がかかることになる。この時間は練習や魔法の熟練度によってある程度は短縮できる。
仮に魔力生成速度が100だとすると、大体10秒くらいで1000の魔力を生成できるので、詠唱開始から10秒後に魔力が必要量に達することになる。低位魔法の発動に10秒もかかる魔法使いはEランクであるが。
しかし、仮に最大魔法量が900だとすると、この魔法使いが1回の詠唱で使用することができる魔力は900となるので、この魔法使いはどんなに頑張っても自力で魔力が900以上必要な魔法を使用することができないということになる。
これが魔力ランクによる、使用可能魔法の限界である。
しかし、『契約召喚』は違う。『契約召喚』は妖精個人と直接特別な契約をし、その個人を召喚する。契約した妖精は他の魔法使いによって使役されることはない完全に専属の妖精となる。そのため、妖精とのリンク形成にかかる時差は一切ない。また、魔法を行使するたびに長い詠唱文を読み上げる必要もなく、契約の条件にもよるが、魔法を使用するたびに魔力を供給する必要もない。
奇跡を起こすのに必要な力自体は妖精が持っているものであり、魔力ではないからだ。魔力は妖精に対する対価として支払うものであって、奇跡そのものを起こせる力ではないのだ。
妖精個人との契約が成立してしまえば、本来同程度の魔法を発動するのに必要な魔力が100だろうが1万だろうが無関係である。すべて、妖精に伝えるだけで行ってくれるのである。
もちろん『契約召喚』にも弱点はある。契約召喚は妖精1人との契約になるため、2人以上が必要な魔法は使用することができない。その妖精が1人で起こすことができる奇跡しか起こすことができないのである。その妖精の位によってはそれほど強力な奇跡や大規模な奇跡を起こすことができないということもあり得る。使える魔法は全て契約した妖精次第と言うことになる。契約召喚を行える魔法使いだとしても、契約している妖精が起こせない奇跡を起こしたい場合には、通常の魔法使いと同様に詠唱によって魔法を発動する必要があるということである。
それに加えて『妖精との個人的な契約』はそれ自体が非常に難しく、ほとんどの魔法使いは契約することすらできない。妖精とは元来気まぐれな性格であるため、契約が成立するかどうかは完全にその妖精に気に入ってもらえるかどうかによる。また、契約に必要な条件は、その妖精が提示してくるが、場合によっては非常に理不尽なものだったり、常識的に考えて絶対に不可能だったりすることもある。
ただ、必要最低限の基本的な条件として挙げられるのが、魔力の質である。
通常の魔法は、妖精という種族全体と魔法使い全体との間で結ばれた法に則って行われるため、一定の拘束力がある。なので、火の妖精に働きかけるために魔力に赤以外が混じっていたとしても、使役は可能である。妖精としては自分好みの味に少し違う味が混じっていて、あまり美味しくないなと思っても、法がある以上従わなければいけないのである。もちろん、あまりにも雑味が混じっている場合には従わせることができない位の高い妖精も存在するが、火の魔法全体が使えないということではないということである。
しかし、妖精との個人的な契約には、この法が適用されない。ゆえに、その妖精が魔力が美味しくないから契約したくないと拒否してしまえばそれまでだということである。とくに基本6属性の地水火風光闇の妖精に関しては純色でなければ契約することは不可能と言える。これが、現在『契約召喚』を行うことができる魔法使いのほとんどが純色の魔法使いである理由であり、純色の魔法使いが特別視される理由でもある。
このようにして妖精と個人的に契約して召喚する魔法使いのことは『契約者』『妖精に好かれた者』などと呼ばれる。
「行くよ」
ゲイリーが右手を上から斜めに振り落とすようなポーズを取ると、手でなぞった所に沿って風の刃が発生し、目にもとまらぬ速さでライカめがけて飛んでいく。
ゲイリーは契約している風の妖精シルヴィアにジェスチャーで合図を送ることで魔法を発動していた。これによりゲイリーは、ほぼノータイムで魔法を発動することが可能であった。
ライカはその場から一歩も動かない。風の刃がライカに当たった瞬間、周囲を強風が襲う。ライカに当たった瞬間どういうわけか、風の刃は形を失い、分散してしまったのだ。
「魔法障壁?防御魔法?いつの間に?」
光の魔法にそんな効果がある魔法なんてあっただろうかと考えながら、ゲイリーは立て続けに風の刃をライカに飛ばす。
だが、そのすべてはライカに当たって分散し、ライカに傷一つ負わせることはできなかった。
「なによ、魔法使わないなんて豪語しながら、ちゃっかり使ってるじゃない」
ゲイリーがそう言うと、ライカは不敵に笑う。
「何を言っている?私は魔法なんて使ってないよ」
「嘘をおっしゃい!魔法を使わないで私の風の刃を防ぐなんてありえないわ!」
「だから言ったじゃないか。魔法だけがこの世に存在する不思議な力ではないと」
そう言って、ライカは手に持っている木刀をくるくると回して見せた。
「一体どうやって敵の攻撃を防いでいるのかしら?」
決闘を観戦していたルビアは、ルーシッドに尋ねた。
「多分だけど…木刀で弾いてるんだと思う…」
「でも刀を振っているようには見えないわよ?」
「目にも止まらぬ速さで振ってるんじゃないかな…風の刃を弾いた前後で、わずかにだけど刀を構えている位置が変化してる…」
「魔法を使わないでそんなことってありえるの?」
ルーシッドはその質問には答えず黙ってしまった。
「もう終わりか?ではこちらから行くぞ?」
そう言うと、ライカはふらっと前に倒れこんだかと思うと、次の瞬間にはゲイリーの前に移動していた。
「なっ!?」
ゲイリーは風の刃で木刀を受け止めつつ、ライカに向けて突風を起こす。ライカは風に押されて後ろに飛ばされるが、態勢を整える。
「なかなか良い判断だ」
「こ、この動きが魔法じゃないですって…嘘でしょ?」
「本当さ。正真正銘ただの身体的な技術だよ」
「ま、まぁ何だっていいわ!どちらにせよこれで終わりよ!」
そう言うとゲイリーはパチンと指を鳴らした。すると、ライカを囲むようにして竜巻が巻き起こる。
「この攻撃からは逃げられないわよっ!?」
そして、ゲイリーはポケットから石を数個取り出して、竜巻に投げつけた。竜巻によって石が高速で飛び交い、中にいる人に四方八方から攻撃を浴びせる。これを食らったら生身の人間であればひとたまりもないだろう。
「魔法を使わない攻撃も許可されてるのよねぇ!?手も足もでないでしょう!?あはっ、あはははっ!」
「どこに向けて攻撃してるんだ?私はここだよ?」
「なっ…」
ふいに後ろからそこにいるはずのない人に声をかけられ、ゲイリーはぎょっとする。そして、ゲイリーは白目を向いて地面に倒れ込んだ。
あまりにも突然のことで何が起きたのかわからず、場内はしんと静まり返る。ライカはちらりとフランチェスカの方を向いて、コールを促す。
「しょっ、勝者、フルミネ・ライカ!」
ゲイリー・シュトロームは意識を失っていたので医務室に運ばれ、もう一人の男子生徒は迷惑行為に関する事情聴取のために、風紀ギルドの生徒によって連行されていった。
「やぁ、どうだった?」
ライカは飄々とした感じでルーシッド達のところに近づいてきた。
「どうだったじゃないわ…まったく…純血のメンバーと急に決闘だなんて」
フランチェスカはあきれたようにそう言った。
「すまない。誰だか知らないが、少々腹が立ったものでね。売られた喧嘩に乗ってしまったよ」
「あなた、一応風紀ギルドでしょ…前の会議で純血の要注意人物の話したじゃない…」
「あれ、そうだったか?気に入らないやつの顔と名前はすぐに忘れてしまうタチでね」
ライカは、はははと笑い、フランチェスカはそれを見てため息をつく。何となく2人の関係性が見て取れる。
「全く…ゲイリーともう一人の生徒、オルガ・シュタインは、純血の中でも特に上層意識が高くて警戒していたのよ。今回の迷惑行為の件で2人を拘束することができたわ。ありがとう」
「なに、役に立てたなら良かったよ」
ライカの爽やかな笑顔を見て、フランチェスカは顔を赤らめて、ふんっと目を背けた。この2人は意外に良いコンビなのかもしれない。サラに傾倒しているフランチェスカに言えば、怒られるかもしれないが。
「あの…ところで、ライカ先輩が使ったあの力は一体何だったんですか?」
「あれは、『アウラ』と呼ばれる人間の生体エネルギーを使った技術だよ」
「ライカ先輩の『魔眼』ですか?」
魔眼とは、人間にまれに発現する特殊能力のようなもので、先天性のものや、何かがきっかけとなり突然発現する場合などがある。私たちの世界で言えば『超能力』などに近いものかも知れない。
有名な魔眼には、視線を合わせたものを石にしてしまう『石化の魔眼』や、視線で物に発火することができる『炎視の魔眼』、隠れているものを見つけることができる『透視の魔眼』などがある。
魔法とは全く別の能力であり、例えば魔力の色が赤系統でないのに、炎視の魔眼が発現したといった例も見つかっている。なぜ、またどのようにして発現するかなどはあまり解明されていない。いずれにしても便利な能力が多いので、魔眼を持っている人はうらやましがられる。魔眼を持っているかどうかは普段はわからないが、発動すると目が独特の光を放つことで知られている。それが魔眼という名称の所以である。
「いやいや、違うよ。クシダラには『アウラ使い』はたくさんいるよ。人間なら誰もが持っている力さ。普段は意識せずに使ったり放出したりしているけどね。これを感覚的に捉えて、自在に使いこなせるようになると、さっき私がやったように、常人の何倍も速く動けたり、持っている武器を強化できたりするんだよ」
「すごいですね…誰でも使えるようになるんですか?」
「もちろんセンスも少しはあるけど、練習すれば誰でもある程度はできるようになるよ。達人レベルにまでとなると、さすがに相当な修行が必要だけどね」
「私もライカに教えてもらって少しは使えるようになったわ。魔法と併用すると便利よ」
「わたしにも教えてくれませんか?」
「わたしも覚えたいです!」
「わたしもわたしも!」
ルーシッド、ルビア、フェリカの3人は興味津々に食いつく。
「もちろんいいよ。今日の放課後はルーシィの新飛行魔法発表会があるから、明日だね」
「そう、それよ!私はそれがすごく待ち遠しくて!」
フランチェスカはいつものクールな感じとは違う、子供っぽい感じのキラキラした目でそう言った。
「あ、そうだ、ライカ!あなたもさっきの件で一応聞きたいことがあるから、風紀ギルドのギルドホームまで来てもらうわよ!じゃあまた後でね!」
そう言うと、フランチェスカはライカの腕を引っ張って引きずっていった。ライカは引きずられながら、またねと手を振った。
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