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Maledictio4章 【物語の罰】
Maledictio4章3 【崩れ落ちる未来】
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ーーヒカリたちが煙の化け物と出くわした時刻とほぼ同時刻。
「だァ!クソ!なんだコイツら!」
トゥインクルアスタロトのギルドで留守番していたところだが、そこを突然例の煙たちが攻めてきた。
狙いは全くもって不明。ただ身動き1つ取れない状況を作られてしまい、とりあえずこのままじゃヤベェってのが肌感覚で分かるから必死に応戦してる……のだが。
「クソ!やっぱ効かねぇかァ!」
前に説明されたように、この化け物共には普通の魔法が効かねぇみたいだ。当たったと思ったら煙のようにぶわってどっかに行っちまうし、かと思えばすぐに戻ってくるしでやり辛ぇったらありゃしない。
「おいヴァル!ボーッとすんなよ!」
ヴァル「分かってる!」
ヴァルの野郎も、普段とはどこか違う態度を見せながら必死に応戦している。あの爆発的な火力ならもしかしたら、と考えたが、ここは孤児院も兼ねてるギルド。避難させたとは言え子供たちはまだ建物内だ。下手なことは出来ねぇなァ。
ヴァル「クソ……。俺のせいだ。俺が、あいつを救ってやれたらこんなことには……」
「何言ってんのか知らねェが、手ェ動かせ手ェ!」
ヴァル「分かってる!」
お互いに建物内ということもあって全力を出すことが出来ない。あー、もう!ったく!焦れったいったらありゃしねぇ!
「死ねゴルァ!」
怒りそのままに強烈な殴りを入れてみるが、当然こんなん効きはしない。
アリス「おいお前ら。いつまでそんなの相手に苦戦している」
「あァ!?テメェ何様のつりで言ってんだゴルァ!」
ここでアリスことアポカリプスがノコノコとやって来た。魔女様に大分力を抑えられちまった奴が今更何が出来るんだってんだ!ペッ!
アリス「ガキ共は魔城で囲んでおいた。多少の無茶を働いても早々に壊れん」
「あ?テメェ何勝手なことしてんだァ!」
アリス「避難させろと言ったのはお前らだろう。俺はその通りにしただけだ」
「けっ!それでガキ共死んでたらタダじゃおかねぇぞ」
アリス「どの道タダにはせんだろ。ーーこの煙共を薙ぎ払えばいいんだろ」
「ま、その通りだけどな。言っとくが普通の魔法は効かねぇぞ」
どうもアリスが何とかしてみせる気でいるみてぇだが、人間のガキに懐かれるような可愛げを手に入れちまった龍に何が出来るってんだか……。
アリス「第六星・終焉の宙」
アリスが放った禍々しいオーラを纏った黒色の弾は、ゆっくりと煙共の中心へ進んで行きーー
アリス「消えろ」
パッと瞬間的に輝き、周りの煙共を巻き添えにして消えて行った。
「……は?」
アリス「生憎だが、俺の魔法は普通のそれじゃない。その気になればいつでもお前らを殺せることを覚えておけ」
「はぁ……」
危機は去った……んだな。
はー、こいつなんだかんだ言って邪龍ってわけかァ。弱体化喰らってこれって、俺らあん時魔女様いなかったらどうなってたんだァ?
ま、一応味方にいるなら頼もしいことこの上ねぇが、その気になればってのも魔女様がなんかしたせいでその気になれねぇだけだろうし。
「ヴァル!いる!?」
ーーと、一難去ってまた一難って言葉があるように、脅威が去るのはまだまだ先になりそうだァ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ってわけで」
グリード「まァた面倒事かよォ……」
ギルドに戻ってきた私たちを出迎えたのは、何故か戦闘後みたいな疲れ方をしているグリードたち。聞けばどうも私たちが来る前にも煙の化け物が来たらしいってんだけど、それはまさかのアリスがどうにかしてしまったみたい。
ヴァル「聞くに敵の親玉みてぇなもんか」
「多分ね」
サテラ「体が大きい獣ってのは大体その群れのリーダーって相場は決まってますもんね!」
グリード「どうでもいいが、さっさと処理しちまった方が良さそうだなァ。ーーうし、ここは俺様が残っておく。テメェらでどうにかしてこい」
「……分かったわ」
一瞬ただサボりたいだけねと思っちゃったけど、見た感じここに残ってた3人の中じゃ特にグリードの消耗が激しそうに見えた。
特に何か言うでもなく、私たちはグリードを残し現場へと急行する。ーーだが、そこに待ち構えていたのは。
「……は」
キツい血の匂いがする。
まるで水溜まりのように、歩を進める度にちゃぷちゃぷと水飛沫が散る。サテラが放つ灯りに照らされ、一面真っ赤に染まった噴水広場が広がる。
サテラ「……酷い」
赤色の水なんて、そんなもの考えなくたって分かる。……全部、血だ。それも、人の血。さっきまでこの広場にいた人間が、いや、それ以上の人間が殺されて出来たのがこの血溜まり……。
アリス「おいおい、あの化け物共は随分と派手をやるみてぇだな」
アリスが見上げた先、壊れた噴水の真上に鎮座する煙の化け物が、獣の見た目通りとでも言うか、人体をバキバキと嫌な音を立てながら貪り尽くしていた。
アリス「第六星・終焉の宙」
その光景に皆が唖然とする中、アリスだけが冷静な面持ちで化け物に攻撃を仕掛ける。だが、化け物は鋭く尖った爪先でアリスの魔法を掻き消してしまい、そのまま次の獲物を見つけたとばかりにこちらへ飛び込んでくる。
「っ……!」
サテラ「止まれ!」
咄嗟にサテラが言霊で動きを封じようとしたが、先程とは違いまるで効いてないかの如く化け物の動きは止まらない!
サテラ「嘘!」
ヴァル「ヤベェ!」
咄嗟にヴァルが私たち2人の頭を押さえ地面に伏せる。化け物は私たちの頭上を通り過ぎ、ズサササと建物を盛大にぶち壊しながら勢いを殺す。
今まで物理的な危害は加えてこないとばかり思ってたけど、そんなのただの幻想に過ぎなかったわね。
さてどうする?私たちの攻撃は現状効かないと考えていい。アリスの魔法が効くみたいな話をグリードが言ってたけど、さっき目の前で効かないところを見てしまった後だし……。
ヴァル「ヒカリ、ここは俺に任せろ」
とここで、ヴァルが黒色の炎を両手に纏わせ前に立つ。
「ヴァル、あんた……」
ヴァル「こういうのは英雄がどうにかするって相場は決まってんだ」
黒炎を全身に纏い、ヴァルが強い1歩を踏み出す。ーー瞬間、辺りに凄まじい熱波が吹き荒れる。
炎が、熱が、光が、全てが過去を凌駕する。
黒く、稲光のような輝きが、熱波の中にある肌を凍てつかせる冷気が、大地を震わすほどの衝撃が、ありとあらゆる属性が重なって、全ての光を吸い込むほどの黒い炎になって煙の化け物にぶつかる。
ヴァル「……現の炎」
一撃……たった一撃であの化け物を倒してしまった。……未来の彼を考えればそれくらい出来てもおかしくない……けど。
「……」
燃え上がる黒炎の前に佇む彼の横顔。そこにあるのはどこか悲しそうで、でもそこにいるのは確かにこの時代のヴァルで、昨日までの彼を思わせない強い覚悟を決めた顔がそこにはあった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「え、それ本当なの!?」
ヴァル「ああ。まだ感覚でしかねぇが、多分間違いじゃない」
煙の化け物を倒した後、ヴァルが突然発した「ギルドがヤベェ!」という言葉に付き添い、私たちは今トゥインクルアスタロトのギルドへ急ピッチで戻っている。
化け物がいた噴水広場の方はあまり調査が出来ていない。しかし、あの場にフウロとユカリがいなかったこと。動きを止めたはずの化け物が勝手に動き出して血溜まりが広がっていたこと。この2点から、あの2人はもう死亡したと見ている。
ーーそして、ヴァルの言うギルドがヤバい。それは、先程までの惨状を見てればある程度どうヤバいのかが検討がつく。
「子供たちとグリード、無事だといいけど……」
ヴァル「……」
真っ暗闇の中、ギルドに戻った私たちを出迎えたのはツンと来る生臭い血の匂いだった。
「っ……!」
入ってすぐに気付いた。千切れた人の腕が転がってて、その先に人の時代があったこと。その死体が確認するまでもなくグリードのものだったこと。そして、奥の方に進めば、廊下にバタバタと倒れ込んだ小さな死体が出迎えてくる。
サテラ「そん……な……」
アリス「……」
どれもこれも見るに堪えない無惨な姿。犯人は考えるまでもなくあの煙の化け物。前は邪魔こそしてくるけどここまではしなかった。一体何が、何が起きているというのかしら……。
ヴァル「ちっ。読めたところで間に合わねぇんじゃ意味ねぇ……」
「……ねえヴァル。一体、この世界に何が起きてるの。あなたの未来に何が起きたって言うの。……ネイに、何があったの」
ヴァル「……この話はなるべく全員に聞かせたい」
「……そう。じゃあ、一旦ギルドに帰りましょう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァハト「……ガキ共が2人……それにトゥインクルアスタロトの連中が壊滅……か」
戻って来た私たちの報告により、ギルドにはこれまで以上に暗い空気が漂っていた。
ライオス「あのフウロとグリードが為す術なく……か」
エレノア「それどころかギルド1個が簡単に潰されてしまうだなんて……」
皆、思うことは同じようで、ただただ敵の脅威に恐れを抱いているみたい。最近は使ってなかったけど、ちょっと心の声を聞いてみれば、黒く淀んだ負の感情がひしひしと聞こえてくる。
ヴァハト「……で、お前さんはそんな状況だと言うのに眉一つ動かさんな」
ヴァル「……」
ヴァハトの視線に沿うようにしてみんなの視線がヴァルに集まる。
ヴェルド「珍しいな。こんな時ヴァルが感情的にならねぇなんて」
ヴァル「……そうだな。こんな状況、昔の俺だったらもっと騒いでたかもしれねぇ」
ライオス「昔……か」
ヴァル「……地獄はもう見た後だからな。そりゃ、助けられなかったって悔しい気持ちはある。でも、一々ウジウジしてられる時間はねぇんだ」
「「「 …… 」」」
ヴァル「これから俺が話すのは紛れもねぇ事実だ。信じられねぇ話ばっかかもしれねぇけど、これだけは言っておきたい。ーーみんな、俺を信じてくれ」
そしてヴァルが語り出すのは、私ですら知らなかった未来の先。滅んだ世界で抗った英雄の、最後の戦いだった。
「だァ!クソ!なんだコイツら!」
トゥインクルアスタロトのギルドで留守番していたところだが、そこを突然例の煙たちが攻めてきた。
狙いは全くもって不明。ただ身動き1つ取れない状況を作られてしまい、とりあえずこのままじゃヤベェってのが肌感覚で分かるから必死に応戦してる……のだが。
「クソ!やっぱ効かねぇかァ!」
前に説明されたように、この化け物共には普通の魔法が効かねぇみたいだ。当たったと思ったら煙のようにぶわってどっかに行っちまうし、かと思えばすぐに戻ってくるしでやり辛ぇったらありゃしない。
「おいヴァル!ボーッとすんなよ!」
ヴァル「分かってる!」
ヴァルの野郎も、普段とはどこか違う態度を見せながら必死に応戦している。あの爆発的な火力ならもしかしたら、と考えたが、ここは孤児院も兼ねてるギルド。避難させたとは言え子供たちはまだ建物内だ。下手なことは出来ねぇなァ。
ヴァル「クソ……。俺のせいだ。俺が、あいつを救ってやれたらこんなことには……」
「何言ってんのか知らねェが、手ェ動かせ手ェ!」
ヴァル「分かってる!」
お互いに建物内ということもあって全力を出すことが出来ない。あー、もう!ったく!焦れったいったらありゃしねぇ!
「死ねゴルァ!」
怒りそのままに強烈な殴りを入れてみるが、当然こんなん効きはしない。
アリス「おいお前ら。いつまでそんなの相手に苦戦している」
「あァ!?テメェ何様のつりで言ってんだゴルァ!」
ここでアリスことアポカリプスがノコノコとやって来た。魔女様に大分力を抑えられちまった奴が今更何が出来るんだってんだ!ペッ!
アリス「ガキ共は魔城で囲んでおいた。多少の無茶を働いても早々に壊れん」
「あ?テメェ何勝手なことしてんだァ!」
アリス「避難させろと言ったのはお前らだろう。俺はその通りにしただけだ」
「けっ!それでガキ共死んでたらタダじゃおかねぇぞ」
アリス「どの道タダにはせんだろ。ーーこの煙共を薙ぎ払えばいいんだろ」
「ま、その通りだけどな。言っとくが普通の魔法は効かねぇぞ」
どうもアリスが何とかしてみせる気でいるみてぇだが、人間のガキに懐かれるような可愛げを手に入れちまった龍に何が出来るってんだか……。
アリス「第六星・終焉の宙」
アリスが放った禍々しいオーラを纏った黒色の弾は、ゆっくりと煙共の中心へ進んで行きーー
アリス「消えろ」
パッと瞬間的に輝き、周りの煙共を巻き添えにして消えて行った。
「……は?」
アリス「生憎だが、俺の魔法は普通のそれじゃない。その気になればいつでもお前らを殺せることを覚えておけ」
「はぁ……」
危機は去った……んだな。
はー、こいつなんだかんだ言って邪龍ってわけかァ。弱体化喰らってこれって、俺らあん時魔女様いなかったらどうなってたんだァ?
ま、一応味方にいるなら頼もしいことこの上ねぇが、その気になればってのも魔女様がなんかしたせいでその気になれねぇだけだろうし。
「ヴァル!いる!?」
ーーと、一難去ってまた一難って言葉があるように、脅威が去るのはまだまだ先になりそうだァ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ってわけで」
グリード「まァた面倒事かよォ……」
ギルドに戻ってきた私たちを出迎えたのは、何故か戦闘後みたいな疲れ方をしているグリードたち。聞けばどうも私たちが来る前にも煙の化け物が来たらしいってんだけど、それはまさかのアリスがどうにかしてしまったみたい。
ヴァル「聞くに敵の親玉みてぇなもんか」
「多分ね」
サテラ「体が大きい獣ってのは大体その群れのリーダーって相場は決まってますもんね!」
グリード「どうでもいいが、さっさと処理しちまった方が良さそうだなァ。ーーうし、ここは俺様が残っておく。テメェらでどうにかしてこい」
「……分かったわ」
一瞬ただサボりたいだけねと思っちゃったけど、見た感じここに残ってた3人の中じゃ特にグリードの消耗が激しそうに見えた。
特に何か言うでもなく、私たちはグリードを残し現場へと急行する。ーーだが、そこに待ち構えていたのは。
「……は」
キツい血の匂いがする。
まるで水溜まりのように、歩を進める度にちゃぷちゃぷと水飛沫が散る。サテラが放つ灯りに照らされ、一面真っ赤に染まった噴水広場が広がる。
サテラ「……酷い」
赤色の水なんて、そんなもの考えなくたって分かる。……全部、血だ。それも、人の血。さっきまでこの広場にいた人間が、いや、それ以上の人間が殺されて出来たのがこの血溜まり……。
アリス「おいおい、あの化け物共は随分と派手をやるみてぇだな」
アリスが見上げた先、壊れた噴水の真上に鎮座する煙の化け物が、獣の見た目通りとでも言うか、人体をバキバキと嫌な音を立てながら貪り尽くしていた。
アリス「第六星・終焉の宙」
その光景に皆が唖然とする中、アリスだけが冷静な面持ちで化け物に攻撃を仕掛ける。だが、化け物は鋭く尖った爪先でアリスの魔法を掻き消してしまい、そのまま次の獲物を見つけたとばかりにこちらへ飛び込んでくる。
「っ……!」
サテラ「止まれ!」
咄嗟にサテラが言霊で動きを封じようとしたが、先程とは違いまるで効いてないかの如く化け物の動きは止まらない!
サテラ「嘘!」
ヴァル「ヤベェ!」
咄嗟にヴァルが私たち2人の頭を押さえ地面に伏せる。化け物は私たちの頭上を通り過ぎ、ズサササと建物を盛大にぶち壊しながら勢いを殺す。
今まで物理的な危害は加えてこないとばかり思ってたけど、そんなのただの幻想に過ぎなかったわね。
さてどうする?私たちの攻撃は現状効かないと考えていい。アリスの魔法が効くみたいな話をグリードが言ってたけど、さっき目の前で効かないところを見てしまった後だし……。
ヴァル「ヒカリ、ここは俺に任せろ」
とここで、ヴァルが黒色の炎を両手に纏わせ前に立つ。
「ヴァル、あんた……」
ヴァル「こういうのは英雄がどうにかするって相場は決まってんだ」
黒炎を全身に纏い、ヴァルが強い1歩を踏み出す。ーー瞬間、辺りに凄まじい熱波が吹き荒れる。
炎が、熱が、光が、全てが過去を凌駕する。
黒く、稲光のような輝きが、熱波の中にある肌を凍てつかせる冷気が、大地を震わすほどの衝撃が、ありとあらゆる属性が重なって、全ての光を吸い込むほどの黒い炎になって煙の化け物にぶつかる。
ヴァル「……現の炎」
一撃……たった一撃であの化け物を倒してしまった。……未来の彼を考えればそれくらい出来てもおかしくない……けど。
「……」
燃え上がる黒炎の前に佇む彼の横顔。そこにあるのはどこか悲しそうで、でもそこにいるのは確かにこの時代のヴァルで、昨日までの彼を思わせない強い覚悟を決めた顔がそこにはあった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「え、それ本当なの!?」
ヴァル「ああ。まだ感覚でしかねぇが、多分間違いじゃない」
煙の化け物を倒した後、ヴァルが突然発した「ギルドがヤベェ!」という言葉に付き添い、私たちは今トゥインクルアスタロトのギルドへ急ピッチで戻っている。
化け物がいた噴水広場の方はあまり調査が出来ていない。しかし、あの場にフウロとユカリがいなかったこと。動きを止めたはずの化け物が勝手に動き出して血溜まりが広がっていたこと。この2点から、あの2人はもう死亡したと見ている。
ーーそして、ヴァルの言うギルドがヤバい。それは、先程までの惨状を見てればある程度どうヤバいのかが検討がつく。
「子供たちとグリード、無事だといいけど……」
ヴァル「……」
真っ暗闇の中、ギルドに戻った私たちを出迎えたのはツンと来る生臭い血の匂いだった。
「っ……!」
入ってすぐに気付いた。千切れた人の腕が転がってて、その先に人の時代があったこと。その死体が確認するまでもなくグリードのものだったこと。そして、奥の方に進めば、廊下にバタバタと倒れ込んだ小さな死体が出迎えてくる。
サテラ「そん……な……」
アリス「……」
どれもこれも見るに堪えない無惨な姿。犯人は考えるまでもなくあの煙の化け物。前は邪魔こそしてくるけどここまではしなかった。一体何が、何が起きているというのかしら……。
ヴァル「ちっ。読めたところで間に合わねぇんじゃ意味ねぇ……」
「……ねえヴァル。一体、この世界に何が起きてるの。あなたの未来に何が起きたって言うの。……ネイに、何があったの」
ヴァル「……この話はなるべく全員に聞かせたい」
「……そう。じゃあ、一旦ギルドに帰りましょう」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ヴァハト「……ガキ共が2人……それにトゥインクルアスタロトの連中が壊滅……か」
戻って来た私たちの報告により、ギルドにはこれまで以上に暗い空気が漂っていた。
ライオス「あのフウロとグリードが為す術なく……か」
エレノア「それどころかギルド1個が簡単に潰されてしまうだなんて……」
皆、思うことは同じようで、ただただ敵の脅威に恐れを抱いているみたい。最近は使ってなかったけど、ちょっと心の声を聞いてみれば、黒く淀んだ負の感情がひしひしと聞こえてくる。
ヴァハト「……で、お前さんはそんな状況だと言うのに眉一つ動かさんな」
ヴァル「……」
ヴァハトの視線に沿うようにしてみんなの視線がヴァルに集まる。
ヴェルド「珍しいな。こんな時ヴァルが感情的にならねぇなんて」
ヴァル「……そうだな。こんな状況、昔の俺だったらもっと騒いでたかもしれねぇ」
ライオス「昔……か」
ヴァル「……地獄はもう見た後だからな。そりゃ、助けられなかったって悔しい気持ちはある。でも、一々ウジウジしてられる時間はねぇんだ」
「「「 …… 」」」
ヴァル「これから俺が話すのは紛れもねぇ事実だ。信じられねぇ話ばっかかもしれねぇけど、これだけは言っておきたい。ーーみんな、俺を信じてくれ」
そしてヴァルが語り出すのは、私ですら知らなかった未来の先。滅んだ世界で抗った英雄の、最後の戦いだった。
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