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《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】

第12章18 【現実を賭けて】

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クロム「なんだかスッキリしたって感じの顔をしてるな」

「そうか?いつもと変わんねぇと思うけど」

クロム「その"いつも"に戻ったということだ。何かあったか?」

「そうだな……。まあ、逃げる言い訳は全部潰したってとこかな」

クロム「……そうか」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「セリカ、エフィ、ミラ、ゼイラ王女、クロム、ミューエ、アルテミスにエレノア。来てねぇ奴はいねぇんだな」

ネイ「私もいます」

「それは当たり前だから数えてねぇよ」

 誰か1人くらい逃げ出す奴がいるんじゃねぇかって、少しくらい心配したんだがそれは無かったようだな。まあ、この状況で真っ先に逃げ出すのは俺くらいなもんだからな。

ミューエ「大丈夫よ。こっちの世界のデルシアにはさよならって言ってきたから」

「肝座ってんな……」

ミューエ「そうでもないわよ。涙を堪えるので精一杯だったわ。ちゃんとさよならって言えたかどうか、ちょっと怪しいから」

クロム「俺もだな。昨日1日かけてかつての仲間達に挨拶回りしてたが、涙がどうしても堪えられん。情けない限りだ」

ゼイラ「私も同じです」

 まあ、ここら辺の面子は特にそうだろうな。俺達とは違う場所で生きてたんだ。俺らとはまた違う、それぞれの物語に終止符を打ってきたってところか。

セリカ「アルトを倒したらこの世界は終わる。それで間違いないんだよね?ヴァル」

「あいつがなんかしねぇ限りはそうだな。まあ、あいつは多分嘘だけはつかねぇから何もねぇと思う」

ミラ「……じゃあ、逃げるも行くも変えられるのは今だけってことかしら」

エレノア「逃げるつもりはありません。私は必ず帰ります!」

エフィ「私は変えません。皆さんと一緒に、置いてきてしまったものを取り戻しに行きます!」

シアラ「はいはい!シアラも嘘のヴェルド様とはお別れしてきました!盛大にふってやりましたよ!」

 俺よりしっかりした覚悟を持ってんな……。羨ましい限りだ。……いや、シアラ!?

「今更聞くほどでもねぇけど、最後の確認だ。逃げてぇ奴は逃げていいんだぜ。戦いたくねぇなら、このまま成り行きを見守ってくれてていい」

クロム「何をふざけたことを言っている。俺達の答えはさっき言っただろう?」

「まあ聞いてっけど、それでも念の為ってことだ」

アルテミス「逃げないよ。何があっても、私は逃げない。でしょ?みんな」

 その質問に、全員が軽く頷いた。

「よっしゃ。じゃあ行こうぜ!俺達の物語げんじつを取り戻しに!」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 深海に位置する都市・トーキョー。夢と現実の研究所ーー

「ここで、色々と狂わされちまったな……」

 白く、ドーム状の研究所を前にしてそっと息を吐く。俺達がここに来たことはもう知られてるはずだ。そして、自分の世界を崩すためにやって来たことも分かってるはずだ。だから、もう手加減はしてくれねぇだろうな。

『来たね』

エフィ「声……?」

「……やっぱどっからか見てんだな」

『君達の答えはもう知っている。おいで、僕の夢へ』

 突如聞こえてきたアルトの声から、連続して目の前に螺旋状の階段が現れる。

ネイ「ヴァル、もう後戻りは出来ませんよ?」

「するつもりはねぇよ。向こうから招待してくれてんだ。その面ぶっ飛ばしてやるぜ!」

 虹色に輝く螺旋階段を駆け上がり、空を突き破るほどに高く、高くに登る。招待してくれてる割には不親切な程に長い階段だったが、不思議と疲れはない。

 やがて、景色が明るかった都市の風景から暗い宇宙のような景色に変わる。感覚で言うと、アヌの世界に近い。でも、あれとは絶対的に違うのは、ちゃんとした景色があるってことだな。下の方を見ればさっきまでの背の高い街並みが見えてくる。星空もちゃんと見えるし、月もある。一応深海にいるはずなんだが、それを忘れてしまいそうなくらいには現実らしい景色だ。

「……いた」

 登ること数分、眼前の景色が開け、円形の大きな広場の奥側にアルトが立っていた。

アルト「待っていたよ」

「待たせて悪かったな」

セリカ「あの人がアルト……?なんか前に会った時と違う」

「前に?」

セリカ「うん。私もいつだったかにあの人と話をしたことがあったけど……」

アルト「ああ。セリカ君とも話をしたことがあったね。君はどこまでも友達思いの良い子だったよ。今回も、君の理想は常に他人のためだった。叶えるのに実は苦労してたりするかもね」

「……」

 大した関係じゃなさそうだな。まあそれはいい。

「アルト。俺達が来たってことは、分かってんだろうな?」

アルト「うん。もうお互い形振り構ってられない状況だってわけだ」

 アルトから黒いオーラが見える。顔も昨日一瞬だけ見せたあの時のように、怖い表情になっている。

クロム「雰囲気が変わったな」

ミューエ「みんな構えて!」

アルト「僕は誓ったんだ。願ったんだ。僕はこの世界に救いを求める。救いのある世界にする。だから、ここからは力ずくで君達にこの世界を認めてもらうよ」

 黒いオーラの高まりに思わず脚がすくみそうになる。しかし、覚悟は固めてきたんだ。地面を強く踏み直し、拳と脚、そして心に炎を灯してどっしりと構える。

「力ずくで認めさせてやる。俺達は、あの現実でも生きていけるってことを!」

アルト「諦めさせてあげるよ!」

 アルトが放つ黒いオーラと、俺が突き出した炎の拳がぶつかり合い、辺りに強い衝撃波を発生させた。それを合図に、後ろで構えていた仲間達が一斉に飛び出す!

クロム「セヤァッ!」
ミューエ「はぁっ!」

 クロムとミューエが互いの剣と槍を交差させてアルトの黒いオーラを切り払う。

ミラ「デビルバード!」
エレノア「赤・豪炎の光!」
アルテミス「フェイト・フィアーズアロウ!」
シアラ「ウォーター・スプラッシュ!」

 そして4人が開いた空間から攻撃を仕掛ける!

アルト「僕も本気で行かせてもらうよ」

 しかし、4人が合わせた力だと言うのにアルトはその攻撃を片手1つで防いだ。いや、正しくはその片手にまとわりついた黒いオーラ、オーラってよりかは煙に近いようなそれで吸収してしまったんだ。

セリカ「攻撃の手は緩めない!サモンズスピリット・カグヤ!ネメシス!」

ゼイラ「お供致します!サモンズスピリット・ソフィ!」

 援護射撃のようにセリカとゼイラ王女……ゼイラ王女!?が精霊を呼び出し、4人が引いたところに攻撃を合わせた。

 ゼイラが呼び出した精霊は、エフィくらいには小さな女の子で、小悪魔みたいな小さな羽を生やした……多分悪魔なのか?という精霊だった。

「精霊魔導士だったのか……」

ゼイラ「でなければ、大会の時にセリカさんの鍵をどう使うつもりだったと思いますか?」

「それもそうだな。頼りになるぜ」

ゼイラ「私も戦えるということをここで証明します!……まあ、戦うのは私じゃなくてソフィなんですけど」

ソフィ「王女、下らぬ会話に勤しんでないで指示を」

ゼイラ「あ、はい。ソフィ!今回の相手は強力です!ここにいるみんなと協力して倒してください!」

ソフィ「了解」

 みんなが有り合わせのメンバーとは思えないくらいに連携し、アルトの体勢をどうにかこうにか崩そうとするが、そこはこの世界の創造主であるアルト。簡単には崩れない。

ネイ「ヴァル、やはりここは私達が」

「ああ、最初っから全力をぶつけてやるぞ!」

「「 神聖奥義・親愛の絆!! 」」

 互いの手を繋ぎ、金色に輝く炎を直線上に放った。黒い霧を焼き付くし、無防備になったアルトの正面を凄まじい炎が襲う。

「燃え尽きろォ!」

アルト「無駄だよ。僕にその程度の炎は効かない」

 周囲を覆い尽くす霧は燃やせるものの、アルト自身が纏っている黒い霧は燃やせなかった。

クロム「まだだ!聖龍・ジャッジメントルイン!」

 青い炎、龍の審判がアルトに降る。

アルト「クロム君。君は元の世界に帰ってもいいと思ってるのかい?元の世界に君にとっての大事な人は誰もいない。そんな、悲しい世界を君は望むというのかい?」

クロム「愚問だな。俺は失くしたものを取り戻すために生きてるんじゃない!俺は、俺が手に入れたいと思ったものを守り、この両手いっぱいに掴めるだけのものを掴む。いつまでも過去に縋る愚かな王になどならん!」

 クロムの炎が俺のように金色に輝く。

クロム「俺は、俺が守りたいと思ったもののために戦う!夢になど頼らず、俺は俺の現実を生きる!」

 一瞬だけだが、クロムの剣がアルトが纏う霧を払った。しかし、アルトはすぐさま霧を纏い直し、1歩身を引いて体制を立て直しを図る。

ミューエ「回復はさせないわ!」

 だが、クロムと入れ替わるようにしてミューエが前に出て、守りの薄くなった部分を攻める!

アルト「ミューエ君も元の世界に帰りたいと願っているのかいっ……?」

 攻撃を受けながらもアルトはそう問いかけた。

ミューエ「敢えて同じことを言うわ。愚問よ」

アルト「それは本心から思ってることなのかい?君にとってーー」

ミューエ「デルシアは私にとっての全てじゃないわ。私にとって、あの子が願うことが全てなの。あの子がいるかどうかは関係ない。私は、あの子の願いを引き継ぐことこそが、生きる意味なのよ」

 ギリギリのところでミューエが押し切った!そこを逃さまいと加速したが、それよりも早く追撃を仕掛ける者がいた。

エフィ「アニマルファントム!」
ミラ「デビルドロップ!」
シアラ「奥義・水氷造形星陣!」

 エフィがライオンのような獣を象り、大きな顎で噛み付く。そして、ミラは上空から強い蹴りをアルトにぶち込む。最後にシアラが特大の魔法を打ち込んで締めた。

アルト「君達も……っ!」

エフィ「私、まだこんな歳だから何が正しいとか何が間違ってるとかよく分かりません!でも、少なくともこんな世界じゃ幸せになれないと、野生の勘がそう言ってるんです!」

ミラ「私ね、あの喧しいギルドが大好きだったの。でも、それは嘘の声で固められたものじゃなくて、ちゃんと生のある声が好きだったの」

シアラ「シアラも、嘘の幸せは要らないことに気付きました!シアラは本当の幸せが欲しいんです!」

「「「 だから、こんな世界は好きじゃない!! 」」」

アルト「っ……!」

 アルトの体勢が完全に崩れた。

セリカ「ヴァル!私とゼイラ王女で守りを完全に破るから……!」

「ああ、最後は俺とネイに任せろ!」

 セリカが鍵を黒色の鍵を構えて突撃する。あれは確か、ウラノスとかいう精霊界で1番強い奴の鍵だったような気がするが……

「まあ、使えるんだろうな」

 ここはセリカと王女様を信じて俺は地面を強く踏み込んだ。

ネイ「ヴァル、あれを倒せばもう終わりですよ。何か言いたいことはありますか?」

「そんな遺言残すみてぇな聞き方すんな。消えんのはお前の方だろ」

ネイ「じゃあ、私が残しますね」

 そう言ってネイが戦いの最中だというのにキスをしてきた。

ネイ「好きです。大好きでした」

「……」

 ……ああそうかよ。

「俺も好きだったぜ。好きにならせてくれて、ありがとうな!」

 ネイが剣を構え、俺は拳に黄金の炎を灯して準備を完了させた。

セリカ「お願い!ウラノス!」
ゼイラ「ソフィ!久し振りにあれで決めましょう!」

 2人して自身の体に精霊を憑依させ、アルトが微々たる力で耐えていたところを完全に落とした。

「今だ!」

「「 極邪龍・抜天豪! 」」

 2人で交差するようにアルトを貫き、そこから黒と金色に染まった炎が湧き上がる。今までで最高の連携技。流石に耐えるわけねぇだろとは思ったが、何となく手応えを感じなかった。

アルト「流石……だね……」

 背後からあいつの弱々しい声が聞こえた。

アルト「だけど、これが僕の本気だとでも思ってるのかい?」

「まさか、世界を賭けた戦いだってのに手を抜いてるって言うのか」

アルト「知ってるはずだよ、君達は。僕は君達の幸せを願ってるんだ。極力傷付けたくないんだよ……」

 声は弱い。だが、それでも余裕そうな態度でいられるのは、きっとここから逆転する術があるからなのだろう。

アルト「いいよ。僕の本気を見せてあげる」

 後ろから凄まじいほどに黒い煙が湧き上がった。後ろを振り向くと、アルトが全身を黒く染め上げ、やがて小さな龍のような形になった。

アルト「この力、君達の世界では邪龍と呼ばれてるんだろう?」

 ダミがかかった声でアルトがそう言う。

アルト「異世界から来たにしろ、何で僕がこの世界を創造できるような力を持ってたのか。きっと考えたことはなかっただろうね」

 段々と体が大きくなり、ネイが変身する邪龍・フェノンや、アポカリプスですら超えるほどの大きさに化けた。

「あの野郎……隠し球にしちゃ本気すぎんだろ……」

ネイ「なるほど。邪龍だったからこんな真似が出来たと。少し腑に落ちましたね」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇよ。あんなデカブツどうすんだ?」

ネイ「今までとやることは変わりませんよ。むしろ大きくなっただけ斬りやすくて助かります」

クロム「そうだな。俺もあれだけデカいとやりやすくていい」

 流石は剣士ってとこなのか?

アルト「本番はこれからだよ。今度は、僕の本気を君達に教えてあげるよ。そして、君達が死ぬ前に諦めてくれ」
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