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《Parallelstory》IIIStorys 【偽りの夢物語】

第12章14 【安寧を与える死の世界】

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セリカ「ヴァル……?」

 ふらつく足取り。ボヤける視界。何一つ安定しないこの体。そんな弱々しい体で俺は歩く。目指すのは、この書庫の最上階。この書庫をこんな禍々しいものに変えちまった原因を燃やし尽くすために……

「みんな、休憩時間は終わりだ。さっさと上に上がろう」

ミラ「良いけれど、なんだか様子が変よ?ヴァル」

 様子が変……まあ、そりゃそうだろうな。

 俺は自分の足場すら固められない男だってことを知った。少しだけ優しい言葉をかけてくれていたあいつが、改めて心を鬼にして俺に現実を突きつけた。

 そりゃ、そんなことで簡単に心が折れるようじゃダメだってのは分かってる。でも、俺はこの世界を逃げる口実に使おうとしてたってことに気付けた。あれこれ理由を並べてたが、結局俺は逃げたかっただけなんだ。辛い現実から1番に逃げたかった。だから、俺は死んでると分かってるはずのあいつの死体を抱いていた。そうしてれば、いつか蘇ってくれるんじゃねぇかって、わけの分からない望みを抱いていた。

ミューエ「……そうね。私はやり残したことは何も無いわ。行きましょう」

クロム「俺も、色々と考えは固められた。後は、アルトとかいう奴と話をするだけだ」

ゼイラ「私も同じです」

 みんな、すげぇよ。ただ本を読んだだけだってのに、立派に覚悟を固められてる。俺なんか、好きな子に無理矢理激励されなきゃやるべき事すら分かんねぇのにな。

「……クソっ!」

 右手に炎を灯し、俺は自分の頬を自分で思いっきり殴った。

セリカ「ちょ、ちょっとヴァル!?」

「悪ぃ。自分で自分を鼓舞しただけだ。エフィもすぐ治療しようとかしなくていいから」

エフィ「え、でも凄く痛そうです……」

「今はこれくらい痛い方が丁度いいんだよ」

 そう言って、俺が先頭について上に登るための坂を登り始めた。恐らく、この次の階が最上階だと思う。そんな気がするんだ。

クロム「何があったかは知らんが、無茶だけはするなよ」

「お前にだけは言われたくねぇよ」

 そして、俺を戦闘に長い坂を登る。鬱蒼としていた触手も段々と本数を減らし、数分ほど登り続けてやっと頂上が見えてきた。

 そして、そんな頂上を守るかのようにして鎮座する人型の化け物もいたんだ。

「やっぱいたか……」

セリカ「下の階で邪魔してきた奴らね」

ミラ「手早く片付けちゃいましょう」

 お互いに敵意があることは明白で、俺と奴との目が合った瞬間に戦いの火蓋が切って落とされる。

「極龍王の咆哮!」

 まずは手始めに熱いのを1発お見舞いする。

クロム「聖龍・ルイン!」
セリカ「サモンズ・スピリット!カグヤ!エキドナ!」

 敵からの反撃が来る前にとみんなが俺の炎に合わせて猛追を仕掛ける。だが、敵もただやられっぱなしになるわけがなく、素早く俺の炎を斬り裂いて反撃に出る。

エレノア「黄・聖なる守り!」

 だが、敵の攻撃は自身の過去を乗り越えたエレノアの盾で防がれる。

ミラ「行くわよー!デビル・ストライク!」
アルテミス「フェイト・ライン・アロウズ!」

 ミラの突進攻撃とアルテミスの援護射撃が奴を挟んで交わり、皮膚片のようなものが飛び散る。

「……」

「……なんか不気味だな」

 形勢はこちらが圧倒的に有利。奴が何かする前にみんなの素晴らしい連携で事前にそれを阻止している。確かに、下の方で戦った奴らも大して強くはなかった。だが、仮にも最重要な場所と思われる頂上の番人だ。こんなに弱くていいのか……?

エフィ「ヴァルさん、ボーッとしないでください」

「……あ、ああ。極龍王の狂陣!」

 エフィに背中をつつかれ、ハッとなった俺は慌てて敵を炎の中に取り囲む。

ミューエ「このまま押し切るわよ!」

クロム「任せろ!聖龍・ジャッジメントレイン!」

エレノア「青・水面の輪!」

 ミューエ、クロム、エレノアのが同時に仕掛けた瞬間、俺は奴の目が赤く染まったことを見逃さなかった。

「……っ!極龍王の咆哮!」

 確実に嫌な予感がした俺は慌てて炎をぶつけるが、それよりも先に3人の攻撃が届いてしまう。

 ーーそして、3人の攻撃が当たった瞬間に奴が大きく後ろに下がり、そこから空中で身動きの取れない3人に対して巨大な咆哮?を放ってきた……!

エレノア「っ!黄・聖なるーー」

 エレノアの防御も間に合わず、3人は無惨にも攻撃を喰らってその場に倒れ込んだ。

「っなんつー威力だよ……!」

エフィ「み、皆さん!」

「バカ!近付くな!」

エフィ「え……?」

 すぐさま3人を助けようとエフィが駆け出したが、それを待っていましたとばかりにあの巨体が一瞬にしてエフィの前に詰め寄る。そしてーー

エフィ「っ……!」

 静かな呻き声を上げ、エフィもその場に倒れ込む。

「まずいぞ……」

 主戦力3人に、治癒術担当のエフィが一瞬にして落とされた。ゼイラ王女は元々戦えねぇから後ろで身を隠してるが、あの顔は自分も何かをしたくて堪らねぇって顔だ。早めにケリをつけないとあの王女様まで自殺しに来る。

「セリカ!ウラノスは使えるか!」

セリカ「使いたいけど多分無理!」

「ならホウライとアルラウネを呼んであの4人を助けてやってくれ!」

セリカ「分かった!」

 そして、俺はセリカが邪魔されないようにと自らあの巨体に立ち向かう!

「極龍王の鉄砕!」

 正面から顔面を思いっきりぶん殴るが、こっちの手が痛くなるくらいにはあまり効いてる感じがしなかった。

「なら、極龍王の蹴撃!」

 足で顔を蹴り、そのまま後ろに下がって一旦距離を取る。だが、ほんの一息着いた瞬間に詰め寄られ、俺も凄まじい威力を誇る爪で殴り飛ばされる。

「っ……!」

ネイ「ヴァル!」

 ネイが慌てたような顔をして枯れた花畑を広げ、それで優しく包み込んでくれる。

「まずいぞ……このままじゃジリ貧だ……」

ネイ「……なら、私が奴を」

「それはダメだ。絶対にダメだ!」

ネイ「……」

 自分でもびっくりするくらいにはデカい声でネイにそう言った。

 こいつだけは前に出したくない。戦わせたくない。目の前で死んでいったあの姿のせいで、例え今生きていようと前に出したくねぇ。ーーまた、死なせちまうかもしれねぇのが怖い。

「俺があいつをどうにかする……!」

 花を乱暴に踏み散らかし、俺は奴と向き合うようにして立つ。

ミラ「ヴァル!危険よ!」

 またあの爪が降ってくる。だが、次はちゃんと攻撃が見えている。

「デカい武器相手にすんのは2回目だ。対処法も一緒だろ」

 爪を軽く避け、その爪の上に乗って奴の顔にまで近付く。そしてーー

「天照らす神話の炎!」

 至近距離で俺はとびっきりの炎を浴びせる。これならば、流石の奴でも少しは響くだろう。

 ーーそう思っていた。だが、現実は非常に無情で、俺はその次の瞬間にやって来た大きな衝撃に耐えられなかった。

「……っばっ!」

 一瞬意識を失いかけたところを、下を強く噛んでどうにか堪えた。

「なんだ……今のは……」

 明らかにあの爪で攻撃されたのとは違う別の攻撃。魔法……それも、俺の炎すら超えそうなくらいには熱い感覚があった。

 もしや、こいつには炎が効かないのではないだろうか?

「ちっ……俺が戦えなきゃ、誰がこいつを倒せるんだよ!」

 そうこう叫んでいる間にもミラがやられ、アルテミスも撃ち落とされてしまった。だが、そのお陰でハッキリと見えた。

 炎が舞っている。奴の体を包み込むように炎がまとわりついているんだ。それも、俺の炎を遥かに凌駕するレベルのが……。そりゃ、ここにいる面子じゃ勝てるわけねぇ。それどころか、アヌとかゼウスみたいな神様でも無理だろう。だってーー

「俺の炎は、神すらも焼き尽くせる炎なんだ」

 それを上回れるレベルだなんて、そりゃ勝てっこない。せめて、ヴェルドの野郎でもいてくれたら……

シアラ「炎が相手なら、私がやります!」

 ーーだが、こんな絶望的な状況下でも果敢に挑む姿があった。

シアラ「ヴェルド様の分まで、私が生きます!アルティメット・ラヴ・スプラッシュ!」

 シアラが放ったまるで津波みてぇな威力の水は、俺がどれだけ叩いても崩れなかった奴の膝を崩れ落とさせた。

シアラ「まだまだシアラの愛は止まりません!奥義!水氷造形星陣!」

 一瞬、本当に一瞬だけだったが、あいつの隣にヴェルドの姿が映ったような気がした。

「あ、まずい……!」

 シアラの懇親の一撃は相当なものだった。だが、奴を倒すには至らず、またしてもあの炎が巻き上がる……!

「極龍王のーー」

 炎で攻撃の軌道を逸らそうとしたが、そもそも俺の炎は全然効かなかったことに意識を取られ、ダメ出しの攻撃ですら躊躇っちまった……!

シアラ「いやぁっ……!!」

 ーーそして、シアラは無惨にも奴の炎を喰らい、全身を炎に包まれたまま倒れてしまった。

「あ……」

 頭ん中に嫌な記憶が流れ出してくる。

 目の前で、仲間達が無残にもやられていったあの姿が……。やられてることにすら気付かず、適当にやってた俺の姿が……

「やめ……ろ……」

 奴が倒れた奴ら全員にトドメを刺そうとまた炎をまとわらせている。

「やめてくれ……!」

 俺はまた……また、あんな光景を見なきゃならねぇのか……

「あ……」

 ーーと思ったが、奴の狙いは俺だったようだ。

「……このまま……俺が先に死んじまうのか……」

 爪と炎とが同時に俺の首を狙う。

 あんな光景は二度と見たくない。ここで全員死んでしまうくらいなら、俺が真っ先に死ぬ方がマシだ。だからーー

「一思いに……殺っちまえよ……」

 奴が大きく腕を振り上げ、勢いをつけて振り落としてくる。眼前に迫る死を前に、俺は目を閉じることすらしなかった。だが、俺はそれを激しく後悔することになる。

ネイ「っ……!」

 ーー目を閉じてりゃ、また、こんな光景を見なくて済んだってのにな……

「…………なん……で」

 目の前の光景があの時と重なる。

 俺を庇って敵の攻撃を諸に喰らい、倒れるネイ。

「あ、……あぁ゛……!」

 涙で視界が滲む。それも、真っ赤に。

「ネイ……ネイ……!」

 慌ててネイの傍に駆け寄り、優しく抱き抱える。

ネイ「……」

「………………」

 なんでなんだ……

 なんで……なんだよ……!

「……安寧を与える死の世界デスワールド・ギブ・ピース

 世界を死の中に包み込み、俺の中の黒い炎が発火する。

 俺が死を願う者達は死に、生きて欲しいと願う者は死の天秤にかけられる。

 俺は死から目を逸らしたかった。でも、結局のところ俺が落ち着く先は死が答えの世界のみだったんだ。

「何でだよ……何でなんだよ……!」

 孤独の世界で、俺は1人悲しく叫んだ。そして、目の前にいる元凶に飛び付き、激しく怒りの炎で殴り飛ばす。

 炎がどんどん黒く染って行き、その度に俺の感情も怒りと悲しみだけに支配されて行く。

「お前のせいで……お前のせいで……!」

 視界が血の涙で赤く染まる中、俺はそう叫びながらずっと殴り続けた。炎だけがこの空間を包み込み、俺の拳が悲鳴を上げてもずっと殴り続けた。

 殴って殴って……それでも満たされないこの復讐心を満たすために……。否、そんなもの満たされるわけがない。

 そうだ。あの時だってそうだったんだ。

 あいつを失って、怒りのままに敵という敵を全て燃やして、それでも帰って来なかったから俺は泣いてたんだ。今回もそうなんだ。だから、俺はずっと泣いているんだ。満たされないのは復讐心なんかじゃない。心にぽっかりと空いてしまった何かを満たすためにやってるんだ。その何かが分かんねぇから何をすりゃいいのかも分かんねぇ。ただただ子供のように駄々を捏ねて、俺は満たされないもののために泣いている。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 最後に空っぽになった心から出せるだけの感情を込めて、奴を殴り潰した。

「なんで……なんだよ……!」
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