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最終章 【創界の物語】

最終章27 【自由の権能】

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ヴァル「何とか、それっぽい入口は見つけられたな……」

 ネイりんの目覚めを待ってから地下に潜入した私達は、あっちこっちを行ったり来たりしながらそれらしき道を探していた。そんなに時間はかからなかったけど、もしも、もう少しかかっていたら、きっとヴァルあたりが壁を壊して進みそうなくらいにはイライラが程よく溜まってしまったのは、敢えて語ることもないだろう。

 さて、どう見ても新しく付けられたと思われるこの扉に辿り着いた私達。ちょっとやそっとの事では開かず、当たり前の話だがヴァルの拳骨でも壊れない。開けるためには横に設置されてあるキー入力式の鍵を解除しないといけないんだけど、1度でも失敗すれば2度と開けられないということがヒカリんの調査で分かった。

ネイ「壊せたら楽だったんですけどね~」

ヒカリ「脳筋な考えはよしときなさいよ。それで大事なものまで壊しちゃったらどうするのよ……」

ネイ「その時はその時です」

 なんて無駄な会話を交えつつも私達は突破法を探る。一応、ヒカリんが怪しげな機械を使って番号を調べてはくれているけれど、多分その方法では一生見つからない気がする。

ライオス「……」

「どうしたの?ライオス」

 ふと、ライオスが扉の下側を凝視していたのが目に映り、私はそう問いかける。

ライオス「いや、ここは地下施設。もしかしたら、通気口がどこかにあるのではないかと思ってな。とりあえず足元から探してみていたところだ」

 なるほど、通気口か。確かに、地下施設だというのであれば普通にありそうな気がする。

レイ「もしかしたら、ここに来るまでの途中であったかもしれないわね。私、ちよっと探してくるわ」

「あ、私も行く」

フウロ「では、何かあった時のためにヴァルをここに残し、残りの私達で探しに行こうか」

ヒカリ「ええ、それが1番かもね」

 ーーというわけで、私達は来た道を辿り、通気口がどこかにないかとあちらこちらを探し回った。やたらと行き止まりが多い施設なので、ちょっとでも気を抜くと迷子になっちゃいそう。なので、岐れ路
に辿り着くと、最低でも基本は2人1組で動き、行き止まりにまで行ったら元の分岐点に戻って皆が帰ってくるのを待つようにしている。

 私はネイりんと共に行動し、通気口を求めて歩き回った(ネイりんが疲れたとかなんだと言って、みんなよりかなり時間がかかってしまったが……)。まあ、こういう時だけは無駄にくじ運が良い私。なんと、誰よりも早くに見つけることが出来た。ーーけど、なんか思ってた以上に狭い。これ、ギリギリ通れるくらいかな?

 しかも、見つけた場所が天井側なので、仮に入れる大きさだったとしてもそこそこ苦労しそうではある。まあ、何も見つからないよりかはマシか。

 ーーというわけで、みんなを呼び、この通気口のところにまで戻ってきた。

ライオス「よくやった、と言いたいところだが、流石にこの大きさでは通れないな」

 そりゃそうだろう。ヴァルより肩幅が広いのに、こんな狭いところを通れるわけがない。

ネイ「何でもいいからとりあえず入りましょうか」

 軽々とした跳躍で通気口の中に手を引っかけ、するする~っと頭を入れるネイりん。しかし、ある程度過ぎたところでネイりんが急につっかえてしまった。理由は簡単、飛龍族としての大きな羽と、羨ましすぎるくらいに大きな胸が原因だ(胸の方に関しては、多分我慢すれば入れると思う)。

「ネイりん、足をどれだけバタつかせたところで、入れないもんは入れないよ」

ユミ「そうですよ、ヨミさん。無理なものは無理です。諦めましょう」

 諦めるように促すのだが、ネイりんは謎の負けず嫌いを発揮してずっとしがみついている。いや、引っかかってるから入れないのに、いつまでもそこにいないでよ。時間も多分無いんだしさー。

 仕方ないので私とフウロの2人で無理矢理引き下ろした。

フウロ「私が行こうにも、多分ライオスと同じ理由で難しいだろうな」

「だね。フウロもフウロでスタイル良いし……」

 ユミもユミで鬼族らしくたくましい肉付きをしてるし(半分くらいはミイの人格が影響してるけど)……となると、必然的に私だけで潜り込まなきゃいけなくなるのか。なんか嫌だなぁ、1人でこんなところに入るの。

ネイ「心配しないで大丈夫てすよ。シロップも連れて行けば良いんですから」

 若干拗ね気味のネイりんがそう言うと、頭の上にちょこんっと乗っていたシロップが私の頭の上に席を移動させてきた。あー、このもふもふ感最高。

「じゃあ……頑張りますか」

 私はネイりんのようにして通気口に手を引っかけ、するすると中に潜り込む。ネイりんのように胸あたりでなんの引っ掛かりも起きないところを感じてしまうと、なんだか無性に悔しい気持ちになってくる。

フウロ「危ないと思ったらすぐ引き返すんだぞー」

「はーい、分かってるー」

 そもそも、危ない出来事自体には関わらないタイプの人間なんだから、余っ程うっかりしてもいない限りはすぐに逃げる。じゃないと死ぬもん。

シロップ「オイラが先頭で様子を見るから、セリカはゆっくりでいいよー」

 シロップは分岐点に着く度にチョロチョロと歩き回って次の目的地を選ぶ。私は、ほふく前進をしながらシロップの後をついて行き、ひたすらに耳を済ませていた。

 普通、通気口なんだからもっと定期的に通気穴があってもいいはずなんだけど、それがほとんど無いのよね。設計間違えてるんじゃない?私の知ったことではないけど。

「うー、腰とか痛めそう……」

 休憩できる場所などどこにもなく、ただひたすらに進み続ける。普段は絶対にしない体制で移動しているので、まだ数分と経っていないのに早くも体の節々が悲鳴を上げてきている。

 今更だけど、カグヤ辺りに任せた方が良かったんじゃないかと思った。あの子、やたらと万能な召使いだし、これくらいの大きさの穴なら何の苦労も無しに進めそう。

「まあ、今更思っても仕方ないか」

 こんな狭いところじゃ召喚は出来ないし、引き返すということも後ろが見えない状態で下がることになるから多分危険。ーーというか、通気口を潜るイベントなんて小説とかフィクションだけの存在だと思ってたのに、まさか私がそれをやることになるとは思わなかったなぁ。

シロップ「セリカー。出口っぽいもの見つけたけどどうするー?」

「出口?」

シロップ「うん。ほら、結構大きい穴だよー」

 本当だ。感覚的には10分程度しか進んでないけど、見つからないと思ってた第2の通気穴が見つかった。しかも、そこから覗ける足場はさっきまでの坑道と言っても差支えのない場所と違い、白く、きちんと整えられた床が広がっている。

 多分、ヒカリんが頑張って開けようとしている場所の先なのだろう。

「シロップ、ここ開けるから周りの様子見てきて」

シロップ「あいさー」

 ずっしりと重く感じる鉄の柵を持ち上げ、前方に押し進める。そして、シロップが小さな羽を広げて下に降り、キョロキョロと辺りを見渡してから私目か見て前方の方に進んで行く。

 ーーで、数分後、シロップが戻ってきた。

シロップ「そんな奥までは見てないけど、多分大丈夫だよー」

「そう。じゃあ、降りるか」

 ヒカリんの話じゃ、この施設には1人しかいないって聞いてたし、その1人にさえ出会わなければ大丈夫だろう。

 私は体を穴より前の方に進ませ、足からゆっくりと穴に通して降りる。こういう時、小柄で良かったなぁって思うけど、やっぱり謎の悔しさが込み上げてくる。まあ、それは今は置いとこう。

「えっと……複雑に進んできたけどどっちがヒカリん達がいる方向だったっけ?」

シロップ「後ろの方だけど、壁しかないよー」

 ……この施設、本当不思議な形してるわね。通気口で辿ってきた道程的に、後ろ方向に少しくらい道があってもいいはずなのに、見えるのは本当に壁だけ。

 仕方ない。敵に出くわす可能性はあるけど、前の方に進もう。

シロップ「オイラが先に行くからセリカは後からついてきてねー」

「分かった」

 そういや、この小龍って、確か私を迎えに来たあの大きな龍と同じなんだっけ。……やけに頼もしいなって思ってたけど、そういやこの小龍1000歳はゆうに超えてたな。

 人間の歳って本当何なんだろう。周りに桁が違いすぎる人がいるから分かんなくなっちゃう。てか、私って確か22歳だったよね?やば、早くに彼氏見つけないと婚期逃しちゃうじゃん。

シロップ「セリカー、違ってたらゴメンなんだけど、余計なことは考えない方がいいよー。命落とすってネイが言ってた」

「ーー考えてることバレてる?」

シロップ「いいや。オイラにはネイみたいな力はないよー」

 だとしたら勘が良過ぎやしないか?まあ、もしかしたら私の顔に考えてることが出てたのかもしれないけど。

シロップ「うーん?道自体は綺麗だけど、やっぱり複雑だねー。進んでるのか下がってるのか迷いそうになるよー」

「アハハ。ネイりんとヒカリんだったら一生抜け出せないかもねー」

シロップ「うん。方向音痴だったっけ?本棚の場所でもすぐ迷子になっちゃうからー」

「……」

 その本棚って場所はよく分からないけど、多分ここ以上に整えられた空間のはずだよね?迷うの?

「ーーシロップ、止まって!」

シロップ「え?」

 突然、異様なマナの気配を感じ、私はすぐさま飛んでいるシロップを抱えて曲がり角に身を寄せた。なんだか物凄いプレッシャーを感じる……。見つかったら……殺される……。

 私は曲がり角から顔をちょっとだけ出し、異様なマナの気配を感じた方向に目を向ける。すると、そこには金髪ロング(ネイりんより少し短いくらい)で水色を基調としたドレスに身を包んだ巨乳のエルフがいた。あれで翼とか生やしてたらネイりんと見間違えそう。

 ーー全然強そうに見えないのに、ここまで圧倒的に感じるプレッシャーは何?

 とりあえず、カグヤとエキドナの鍵を握り締め、いつ何が起きてもいいようにマナを送り込みながら聞き耳を立てる。

「ふむ。もう既に彼らがここに迫ってきていますか。まあ、仕方のないことでしょう。だからまだ手を出すなと言ったのですが、自由奔放な者しか集まらない組織は利用しにくいものです」

 エルフの人はブツブツと何かを呟きながら白い道を歩いていく。私も、ある程度の距離を置いてついて行く。

「だー、クソ!あの野郎共次会ったらタダじゃおかねぇ!」

 しばらく歩いたところで、エルフの前に金髪ムキムキでヴァルに若干似ている少年が落下してきた。

「おや、ライザ。勝手に出ていった割には随分と無様な格好で戻ってきましたね」

ライザ「うるせぇな!ちと相手が悪かっただけだァ!」

 そう言うと、ライザは壁に向けて拳骨をし、それだけで大量の雷が辺りに散っていった。しかも、こっちにまで少し届いてきたので、危うく感電するところだった。危ない危ない。

「ライザ。私が止めることはしませんが、次に見つけた際は返り討ちに遭わぬようにしてくださいよ。ヒカリ程ではありませんが、尻拭いは大変なのですからね」

ライザ「うるせぇ!ーーちっ!」

 ライザはもう一度壁に拳骨をし、わざとらしくドカドカと音を立てて立ち去っていった。

「ーーさて。盗み聞きとははしたないですよ。貧乳の精霊魔導士さん」

「誰が貧乳じゃ!ーーあ」

 ついツッコミの勢いに任せて前に出てしまった。

「ふふ。バレたみたいな顔をしていますね。でも大丈夫ですよ。あなたが私を見つけた瞬間からバレていますので」

「……」

 優しそうな目をこちらに向けてくるが、その目にはこっちの足がすくみそうになるくらいの圧が込められてる。

 どうしよう。逃げ出すのが正解なんだろうけど、今この距離で逃げ出すのは命を投げ出すのと同義。でも、私1人が戦っても死んでしまうことに変わりはない。この人が非常に物分かりのいい人で、私を見逃してくれるってのならまだいいけど、これだけ圧をかけてくる相手が見逃してくれるわけないだろう。

 恐怖が体を蝕んでくるけれど、私は戦う覚悟を決め、鍵を強く握りしめる。

「あらあら、随分と緊張されていますね。まあ仕方ありませんか。私とあなたは敵同士という立場でありますし、互いの命を奪い合う関係。死を前に自由を失う者は多い」

「サモンズスピリット・カグヤ!エキドナ!」

カグヤ「月光・ムーンライト!」
エキドナ「炎蛇の舞!」

 召喚前から2人には指示を出しており、召喚と同時に2人がタイミングを合わせて攻撃を決める。

「自由とは命ある時にしか得られないもの。さて、あなたの自由は、いつまで続きますかね?」

 エルフは2人が左右から仕掛けた攻撃を両腕でそれぞれを受け止め、軽い動作で突き放す。

「あ、そうそう。名乗りが遅れていましたね」

 優しそうな笑み。でも、私には恐怖の象徴としてしか見えない……。

「私、光楼宗自由の席に座る者。ミカヤ・フリアラルと申します。ほんの一時ですが、よろしくお願いしますね」
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