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第6章 【龍の涙】

第6章3 【砂浜の戦い】

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「ねえヴァル、見てこれ」

「なんだ?ビーチバレー大会?」

「これに出ようよ」

「なんで」

「だって楽しそうじゃん」

「そうか?」

「ほら、それに賞金も出るみたいよ」

「え~っと......、1万ゼル......意外と出るんだな」

*1ゼル=200円

 こんな小さな大会で1万も出るのは驚きだ。だが、だからこそ狙いがいがある。

 参加人数は4人以上。準決勝までは4人で、決勝は6人まで参加させていいそうだ。

「参加は、私とヴァルとヴェルドとシアラでいいか。決勝にネイりんとエフィを入れる感じで」

「なんで俺まで巻き添えなんだよ」

「いいじゃないですかぁ。私はヴェルド様と一緒に参加できて嬉しいですよ」

「だからくっ付くな!お互い水着だから余計変な目で見られる!」

「あの、別に私は不参加でいいんですけど。これ、6人必須ってわけじゃないですし」

「そんな事言わない。ネイりんも少しは運動する!」

「えぇ......」

「ネイりん、力を使わずにかけっこしたら、確実に私達が勝つでしょ」

「それとこれとは関係ないと思うのですが......」

「いいからネイりんもメンバー。エフィと一緒に準決勝まで見学してて」

「決勝に行ける前提ですか......」

「考えてみて。ヴァルがいるんだよ」

「いけますね」

 相変わらずヴァルに対する信頼が厚いが、ネイりんの説得はこれでいい。

「しゃあねえ。いっちょ世界獲ってきますか」

「獲るのは賞金だけどね」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「えい!」

「おりゃァ!」

「25点!チームグラメモの勝利!」

「やったぁ!」

 これで無事に決勝進出。

「驚きましたよ。まさか、本当に決勝まで駒を進めるなんて」

「どうだ見た事か我がチームを!」

 正直、ヴァルとヴェルドが思った以上にノリノリだったから勝てたのだが......。

 ヴァルとヴェルドのスパイクは、あれは打たれたら可哀想だと思うレベルで早いし、力強かった。

 だって、砂の中に潜り込んで、ボール探しで試合が中断されるほどだったんだもん。強すぎるよヴァル。まあ、それ以降は手加減するように伝えたのが、このバカは加減知らずだ。見事に2回戦でも自慢の力技を発揮した。ちなみに、その攻撃を防ごうとした相手が負傷したのは内緒だ。

「決勝の相手は......マジック&ミーニャ?」

 私達が言うのもあれだが、変なチーム名だなと思う。

「やっほー!ヴァル君ヴェルド君ー!まさか君達がこの大会に参加してるとはねー」

 突如、猫耳のカチューシャをつけた女の子が私達の前に現れた。

「あれ?ミーニャかお前?」

「誰?知り合い?」

「マジックアルケミストのおてんば娘だよ。何年か前に仕事で一緒になった」

「そういうわけさー。で、君は誰だい?前にグラメモのギルド覗いた時にはいなかった面子が3人ほど増えてるにゃー」

「まあ、ここ最近に増えた新しい仲間だからな。お前が知ってるはずがない」

「そうだよねー。んじゃ、決勝よろしく!」

 え?私達のことは興味なし!?

「で、結局あれはなんだったの?」

「マジックアルケミストっていう、錬金術師が多いギルドでな。その筆頭がさっきのミーニャって奴。おてんば娘だが、結構強いんだよなぁ」

「へー......」

 マジックアルケミストなんて聞いた事がないな......。ギルドを決める時に色々調べてみたけど、見てたのは有名どころのギルドだけだったしなぁ。

 というわけで決勝。

 相手の『マジック&ミーニャ』はまさかの5人体制。それを知ったネイりんは「じゃあ、私休む」と逃げたのであった。

 まあ、5対5のフェアプレイで行こう。

「行くよー!セルン!トーリヤ!ハイルン!サリアー!」

「「「 おー! 」」」

 なんか、こっちよりもノリが良さそうなチームだな......。

「あっちに負けるな!ヴェルド!セリカ!エフィ!シアラー!」

「「「 お、おー...... 」」」

 あ、ダメだ。勢いで向こうに負けてる。

「せーのっ!とりゃァ!」

《ビュンッ!》

 なんか、隣を物凄いスピードで何かが飛んで行った気がした。

 砂浜がえぐれてる......。

 うちは大概だと思ってたが、向こうも大分おかしい。

トーリヤ「おいミーニャ、いくら相手が魔導士だからって本気出しすぎだぞ?」

「えー今のでも手加減した方にゃんだけどにゃー」

 あれか。この人も加減知らずなタイプか。世界は広いな!

「じゃあ、もうちっと手加減するにゃー。せーのっ!」

「今度はさせねえっって痛ってぇ!」

 なんとかヴェルドが弾き返したが、腕に赤い跡が......あわわわわわ。

「おっとしまった」

 トーリヤって人のところに跳ね返ったが、油断してたのか跳ね返されることはなかった。運が良かった......。

「ヴェルド大丈夫?」

「こんくれぇで倒れてたら大会なんて夢のまた夢だろ!行くぞ!俺が打つ」

「ま、任せた」

「行くぞ!せーのっ!おりゃァ!」

「てりゃぁ!」

 ヴェルドの力強い球をミーニャが軽々と弾き返す。そして、それはトーリヤの頭上へ行き、トーリヤからハイルンという男の元へ。

「喰らえグランメモリーズ!」

「え?え?え?えぇ!?」

 運悪くその球はエフィの元へ。

 ビビったエフィは思わずしゃがみこんで避けた。これは誰も責められない。むしろ、責める人が現れるのなら私の前に現れてみろ。今すぐぶっ潰してやるから。

「お前ら容赦がねえな!相変わらず!」

「へっへーん。大会に参加するんだったりゃ、これくらいは弾き返してもらわにゃいと困るねー」

「?もしかして、あの人達も大会に出るの?」

「あいつら、人数が少ないギルドの割には色んな意味で強い奴らの集まりだからな。毎年決勝大会に駒進めてる」

 そりゃあ、強いわけだ。

「んじゃあ、サリア任せたよー」

「OK任せといて!せーのっ!とぉっ!」

「うっ......」

 こっちはまだ弱い方だった。だが、ヴァルとヴェルドに任せ切りで決勝まで進んだ私にとって、この珠は中々に痛いものだった。

「ナイスだセリカ。ヴァル行け!」

「任せろ!オラァ!」

「ひっ......」

 あれ?向こうのセルンって人もエフィみたいに避けた。

「ちょっとあんたらー!セルン狙うとか卑怯だにゃー!」

「お前らだってうちのエフィを狙っただろうが!」

「そんな弱い子だったにゃんて知らなかったにゃー!」

「うちだって知らなかったよ!見た事ねえ顔だったんだしよー!」

 もうお互い様ってことで良いんじゃないだろうか......。

「シアラー!任せたぞー!」

「任せてくださいヴェルド様!シアラ頑張ります!とりゃぁ!」

 シアラにサーブを渡したことがなかったけどーーこれはヴァルとヴェルドがストレートで打ち続けたせいーーシアラも中々の威力で放った。だが、ヴェルドに比べると威力は数段に劣る。

「さ、サリアさん!」

「任せなセルン。ミーニャ!」

「行っくよー!猫力!にゃー!」

「ヴェルド様に愛を込めてぶはァッ!」

 ミーニャのアタックが、運悪くシアラの顔面に......。

「大丈夫かシアラ!」

「ヴェ、ヴェルド様ぁ......」

 ダメだこりゃ。シアラはもう戦闘不能だな。いや、向こうのミーニャって人強すぎるんだが物理的に......。

 どうしよう......こちらは4人になってしまった......。実質4体3の戦いだが、1人欠けてるのは厳しい状況だ。

「ちょっとネイりん呼んでくる」

「無理矢理にでも引っ張り出してこい」

「了解」

 てなわけで、ネイりんがいる木陰へ。

「ネイりんお願い。シアラがやられちゃって、戦力が欠けてるの」

「ビーチバレーでやられるとか、どれだけ激しい戦いをしてるんですか......」

 いや、事実そうなんだけどさ......。私だって、ビーチバレーでここまでの戦いになるとは思わなかった。

「お願い。ヴァルも呼んでるから」

「はぁ......分かりましたよ」

 と、無事にネイをチームに加え、試合再開。

 あまり考えたくないが、向こうの力自慢4人対力自慢2人と考えると、もう負けなんじゃないかと考えてしまう。ネイりんなんだか気怠そうだし......。

「んじゃあ、トーリヤ、なるたけ手加減してよろしくー」

「それお前が言うか?」

「まあまあ。怪我させない程度に頑張ってねー」

 怪我をさせた張本人が何を言っている?

 ちなみに、この大会において怪我をさせたとか、そういうのでペナルティは発生しない。なんでかって?この戦いを見ればそれが出来ない理由も分かるだろう。そう、怖いからだ。これ以上にないシンプルな理由だ。まあ、仮にもビーチだし、怪我をするとかは想定されてもいなかったんだろうな。

「行くぞ!オラァ!」

「......ヴァル、ネット左側スレスレに待機。ヴェルドはそのまま高く飛んでボールをこっちに叩いて」

「わ、分かった。オラァ!」

 ヴェルドがアタックに近い球をネイりんに向けて放つ。

「ヴァル、そこで高く飛んで右手をアタックの形に」

 それを聞いたヴァルが、球がやってくる前に構える。

「......」

 ネイりんが送った球は、ヴェルドがあれだけの威力で渡したというのに綺麗にヴァルの右手へと辿り着いた。そして、構えていたヴァルはそのまま勢いよく叩きつける。

 この速さには、流石のミーニャも反応できなかったようだ。

「へ、へー......やるね......」

 そういや、みんな忘れたけてたけど、ネイりんって凄い策士だったな。

「ネイ、お前サーブ出来んのか?」

「舐めないでください。こんな軽い球、出来ない方がおかしいですよ」

 そう言いつつ、ネイが放った球は、ミーニャにも匹敵するほどのパワーだった。

「うりやぁ!」

 球を受け止めたミーニャが、反動で後ろに下がる。強すぎ......。

「クソっ、なんだこの球!」

 トーリヤがカバーしようとするが、ボールは変な方向に傾いており、トーリヤが構えていた方向とは逆に飛んでいってしまった。

「真っ直ぐなボールを投げるだけが戦いじゃありませんよ」

「もしかして、ボールに凄い回転をかけてた?」

「当たり前でしょ?それくらいしないとサーブだけで点は稼げませんよ」

 ねえ?本当にユミはもういないんだよね?いつもの不器用なネイのはずだよね?器用過ぎない?

「ほらっ、どんどん行きますよ!おりゃぁ!」

「と、トーリヤ任せたぞー!」

「回転するなら、こっちで構えてたらいいだろ」

 トーリヤは、ボールが上がった方向とは逆に構える。

「え?」

 ボールは、真っ直ぐに、どこへ曲がることもせずにストンと落ちた。

「やったぁ!」

「普通、2回も同じことはしませんよ。不意打ちが効くのは1回だけですから」

 ここで1つ気づいたことがある。

 私達必要?

 いや、このままの勢いだとマジでサーブだけで25点まで行きそうなんだが......。

「おりゃぁ!」

「そう何回も上手くはやらせないよ!」

 何を考えたか、ミーニャは1発でこっちに返してくる。だが、力負けしているのか、勢いは強くない。

「セリカさんこっちにボール。ヴェルドとヴァルは同時に攻撃の構え!」

 ヴァルとヴェルドがネイを挟んだ状態で構えている。これなら、ネイがどっちに渡すかは直前まで分からない。なんかこれ、ジャ○プのバレー漫画で見たことがある気がするぞ。

 確か......なんて言ったっけ?

「「「 シンクロアタック! 」」」

 そうそう、そんな技名だったなって、あんたら本気すぎだろ!

 ちなみに、ネイがボールを送ったのは、ヴァルの方である。多分だが、この3人の関係を考えると、ヴァルに渡す確率が1番高かった気がする。それさえ知っていれば守りを固めることが出来たな。

「うぇ、え?えぇ!?」

 この攻撃には、流石のミーニャ達も反応できなかったようだ。慌ててサリアがボールを取るが、取ったボールは誰もいない方向へ。そのまま砂浜に落ちて私達の点になった。

 そんなこんなで、「これ本当にビーチバレー?」と思うくらいの攻防が続き、見事私達が大差をつけて勝利した。

「おっしゃあ!」

 ネイりんの采配完璧すぎ......。もっとその才能を活かして欲しいくらいだ。

「あぅ......」

「お疲れさんネイ」

「......」

「ネイ?」

「なんか......体が熱くて......とてもダルいです......」

「......!おい!ヴェルド今すぐ大量に氷を作れ!」

「わ、分かった!」

 もしかして......

「熱中症?」

「こいつ暑さに弱すぎるからな。オマケに、こんなパーカーを被ったままやって、熱中症にならないわけがねえ。悪いが、パーカーは外すぞ」

「......いや......それは......ダメ......」

 龍の羽と角が顕になるが、それを気にしてはいられない。今は熱を逃がさないと。

「エフィ......って、そういや、ネイりんに治癒術は効かないんだった」

「わっ、龍人の子だー!珍しー」

「こらミーニャ、今はそんな事言わない。ねえ、私達にも手伝えることある?」

「とりあえず、飲み水と涼しい環境と日を遮る環境を提供してくれ」

 いや、いくらなんでもそれは難しいんじゃ......

「ミーニャ、私があのでっかい木を広げるから、あんたは風を吹かせて。そして、トーリヤはこの海水を浄水に、ハイルンはヴェルドが作り出した氷を包んで体に当てる。セルンは治癒術で回復だ」

「任せろ!うにゃ~」

 いや、ここで吹いても意味ないと思うが。とりあえず、あの木陰にまで運ぼう。

「あれ?治癒術が全然効きません」

「あ、こいつ治癒術が効かねえからやめとけ。マナの無駄遣いだ」

「え?え?」

 まあ、治癒術が効かない体って、普通じゃ理解できないだろうなぁ。かと言って、アンデットだって説明出来るわけないし......。

 まあ、それでもこの人達は普通にいい人達だな。ヴァル達が全くの警戒を示さない理由もよく分かる。
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