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第5章 【黒の心】

第5章14 【雨は色を写す】

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「でやぁ!」

「ぐわぁっ......」

「......片付いたぞー」

「早すぎだろお前」

 仕方ねえじゃん。こいつら全員雑魚なんだし。

「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ......」

「お前は逆に遅すぎだな」

「肉体労働は......聞いて......ないです......」

「これ、本当にお前?」

「さあ?」

 これが、俺かどうかと聞かれると、別人と答えたくなる。でも、紛れもなくこの弱虫は俺自身なのだ。なんでこんなに差がついた?

「フウロ、あとどれくらいだ?」

「今のが盗賊の下っ端全員だろうな。後は、頭が2、3人いるくらいか」

「ほら、あともうちょいだから頑張るぞ」

「......いっそ、このアジト全部を爆破してしまえば早いのに」

「やめとけ。ここには盗品がうん1000万単位で詰め込まれてんだ。俺らに賠償問題がかかる」

「めんどくさい話ですね。人の物盗んだら即天罰が降るとか、そういうシステムは無いんですか」

「よく分かんねえ事言うな。あと、それくらいの事だったら、お前でどうにかできるだろ」

「めんどくさいからやりたくありません」

「この怠惰!」

「いいからお前ら行くぞ。下っ端は雑魚でも、ボスは強敵の可能性もある」

「下っ端が雑魚だったら上も雑魚だよ」

 フウロの言葉に対してそう言ってやる。

 俺の経験上(世界の書庫ワールドアーカイブ情報)だと、下っ端が雑魚だと上も大したことはない。不意打ちにだけ気をつけていれば殺されることも、傷一つ付けられることもないだろう。

「しゃぁねぇ。そこの怠惰な俺に代わって俺が全部片付けてやる。黙って見てろ」

「あー、それは楽でいいですねー」

「お前も行くんだよ!今のメンバーで治癒術使えんのはお前だけなんだから。つか、なんでペット連れて来てんだ!」

 本当だ。頭の上にちょこんとシロップが居座ってる。全然気づかなかった。いや、本当にいつの間に?姿なんてどこにもなかったのに。

「家に1匹置いて行けません。連れて来ても、私は後方支援なんですし、問題ないでしょ」

「大事な依頼に、ペット連れて来るバカがどこにいる?」

「ここにいます」

 清々しい程の開き直りだ。あれ、絶対俺じゃねえよ。確信持って言えるわ。

「死ねぇ!」

「おっと......」

 グダグダしてる間に、向こうからやって来た。大人しく逃げてれば命だけは助かったかもしれないものを。

「殺していいのか?」

「いや、生かしておけって、さっきの下っ端戦から言ってるんだけどな」

「悪ぃ先に手が出ちまう」

「ぐぁぁ!」

「全く、お前という奴は......」

「1人残してたら十分だろ?それとも、拷問用にもう1人残しておくか?」

「......じゃあ、私が1人拘束させておく。お前は、できれば気絶程度で済ませてやってくれ」

「りょーかい。フウロさん」

 気絶程度か......。舐めてんのか?

 まあいいや。それで十分ってんなら......。

「オラっ!」

「ぐぁ......」

 こんなもんだろう。腕とか足から血が出てるが、致命傷は与えてないし、死ぬ心配はない。なんで死ぬ心配をしなければならないのだろうか。人間ってのはよく分かんねえ。

「仕事が早えなぁ。俺ら必要だったのか?」

「俺とフウロの2人で十分だ。わざわざ4人で出掛ける必要なんて無かったんだよ」

 むしろ、雑魚2人が付いてくると、なんかの時に足でまといになりそう。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「それは......本当にあんたら必要だったの?って話だね......」

 ヴァルとネイの話を聞いて、それしか言うことが出来なかった。

「あれ、絶対私じゃないですって。私、あんなに俊敏な動き出来ませんよ」

「もう1つの人格つっても、どこであんな動きを覚えるんだか......」

「多分、ヴァル達の動きを無意識に記録してたせいですかね......」

「それもそうだが、盗賊団のアジトにペット連れて来るバカがなんでいやがんだ。そんなことする奴は創作物だけでの話だと思ってたのに」

「え!?まさか、ネイりんその子連れてったの?」

「危険はないですし、1人にはしておけませんので」

「あっそう......」

 妙に説得力がある。これが強者の余裕ってやつか。

「怪我ももう治りきりましたし、問題があるとすれば、ちょっと食いしん坊なところですかね」

 そう言いながら、見せつけるかのようにたくましく育った胸元から切り刻んだカランを取り出す。別の意味で腹が立ってくる。

「何もしなくても、ネイはオイラを守ってくれるし、問題ないよセリカ」

 シロップの頭を撫でると、柔らかな毛並みが手に伝わってくる。このもふもふ感。最高。

「おら、達成報酬の金だ」

「あ、お帰り。ミイとフウロ」

「そこそこの額だったぞ。あれだけの被害額だったんだから、もうちょっと出ていいとは思ったんだがな」

「欲張りは良くねえぞ」

「そうだな。貰えるだけ感謝しとこう」

 被害額が......、確か、1000万を超えるとかだった依頼なのに、確かにこれは少ない方だな、と思った。騎士団直々の依頼でもあるし、まあそんなもんと考えておくのがいいんだろうな。

「そうそう。ついさっき、雨が降り出した。かなり強いやつだ。出かけるんだったら気をつけておけよ」

「忠告どうも」

 雨か......。出かける予定はないが、ここ最近天気がよく荒れるな。

「あの......ここって、グランメモリーズのギルドですか......?」

 ギィィィと嫌な音を立てて、1人の少女......かな?が入ってくる。

「いらっしゃい、依頼か、殺しか?」

「え?え?」

「いきなりそんな物騒なこと訊ねんなバカ」

「は?」

「か?」

「た?」

「の?」

「し?」

「お?」

「はい?」

「何やってんだお前ら」

 変な連携を見せた2人に、フウロの拳骨が降る。

「すまない、変なものを見せてしまって」

「あ、いえ。大丈夫です」

 フードのせいでよく見えないが、整った体型をしており、ちらりと見える肌も綺麗で、身だしなみの良さだけは分かる。まるで、出会った時のヒカリみたい。

「鬼族......」

「ひっ......」

「鬼?」

「オニ?」

 フードで隠れているのに、なんで鬼族だって分かったんだ?

「......おっといけない。今日は何の用だ?えーっと......」

「あ、ユミです」

「あぁ、ユミさん。今日は何の用だ?」

「えーっと依頼があって......」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「取り戻してほしいもの......か......」

 依頼内容はこうだ。

 先日、実家に強盗が押し入り、命だけは助かったものの、大事なネックレスが奪われたらしい。他の盗品はどうでもいいが、そのネックレスは母の形見らしく、それだけでも取り戻してほしいのだという。

 その強盗って、まさかヴァル達が行ってたところの盗賊なんじゃ......。

「話は分かった。引き受けよう」

「本当ですか!?」

「どんな依頼でもこなしてみせるのがうちのギルドだ。結果を楽しみに待っててくれ」

「ありがとうございます!」

 そう言い残して、依頼人のユミは去っていった。

「ーーところで、あの人は終始フードを外さなかったけど、なんで鬼だって分かったの?」

「え?それ聞きます?」

「だって気になるじゃん」

「そこは『まあ、ネイだし......』とかってならないんですか」

「いや、確かに最終的にそうなるけど......」

「それに関しては、俺も気になるな」

 やっぱり、ミイも気になるよね?

「......なんとなく、ですかね。なんとなくなんですけど、あの人、私と同じように隠してましたから」

「隠してたって角をか?」

「それもあるんですけど、体が冷たかったもんですから」

「?体が冷たいと、なんで鬼だって分かるんだ?」

「鬼族は過ごしてる環境とかの問題で体が冷たいんだ。それくらい覚えておけ」

「いや、覚えろって言われても、知らなかったんだしよ」

「それよりも依頼だ。私は、騎士団にそれに近いものがないか聞いてくる。あれだけたくさんの盗品があったくらいだ。強盗があいつらでもおかしくはない」

「そうだよね。じゃあ、そっちは任せて、私達はどうする?」

 今のところの手がかり(らしきもの)は例の盗賊団だけ。それ以外の情報はない。

「とりあえず、強盗だってんなら、それっぽいのを知ってる人がいるだろ。聞き込みに行くのが早いんじゃね?」

「お前、聞き込み出来んのか?」

「バカにすんな。そこにいるコミュ障とは格が違えんだよ!」

「いや、そうじゃなくて、お前は口が悪いからどうだかなって意味」

「それに関しては、お前が頑張って抑えろ」

「結局俺頼みかよ!仕方ねえ」

 何を思ったのか、ヴァルはミイの手を取って歩き出した。

「じゃあ、俺とこいつでそれっぽいの探してくるわ。ネイは本棚で調べてくれ」

「分かりました。オープン・ザ・ワールドアーカイブ」

 何が起きた?ネイを触っても、ピクリともしない。そもそも本棚ってなんなんだ?ヴァルがあーだこーだ言ってるけど、私達に隠してないにしろ、説明してないことが多すぎやしないか?

「今ネイはわーるどあーかいぶっていうでっかい本棚に入り込んでるんだよ。ネイが接続する前に、セリカがネイに触れていたら入れたかもね」

 へぇー......なんで、こっちの小さい小龍の方が物知りなんだ。

「今はネイに任せておいて、オイラ達は......」

「......することないね」

 結局、私は留守番ということか......。悔しい。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「ここが、鬼族の集落ねぇ......」

「中々に寒いところだな」

 場所は黒月王国北部の山岳地帯。ここ普通に寒いわ。

「多分、村長の羅刹って奴に話を聞けば何とかなるはずだ」

「へぇー......羅刹か......」

「あいつがデルシア達と戦ってた時の戦友だ。と言っても、全然関わりはなかったらしいがな」

「流石コミュ障」

「それ、俺に対しても言ってるようなもんだからな」

 お前らは別人なのか、同一人物なのかハッキリさせろ。同じだけど違うみたいな矛盾した状態になってるぞ。

「で、ここが羅刹って奴がいる家なのか。結構和を感じる豪邸だな」

「まあ、話を聞いてみようぜ。ガンガンガンガン!おい、羅刹って奴はいるかー!」

「バカやめろ!」

「は?何でだよ」

「俺が言うのもあれだけど、人様の家訪ねるのに、失礼すぎるだろ」

「んな事知らねえよ」

 こいつはこいつで常識が備わってない。どれだけ違いがあったとしても、性格と育ちの悪さは変わらねえな畜生。

「おい、人様の家で何やってんだコノヤロウ」

 ほーら、変なことしてるから家の奴が出てきた。外からだけど。

「すまん、うちのやつがーー」

「おい、ここが羅刹の家か?羅刹の家なら羅刹を出せ」

「だから、お前って奴は!」

「ここは羅刹の家で、俺が羅刹だ」

「あ、へぇー......」

 まさかの家主登場!もうどうすりゃいいんだよ。こいつと付き合ってると色々と調子狂うわ。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「いやー、驚いたぜ急に客人がやって来たかと思えば、ネイの知り合いだったとは」

「は、はは......」

 ノリのいい奴で助かった。真面目系男子だったらミイの態度が絶対に冗談で済ませられない。

「あいつ本当に強かったからなぁ。この俺でも強いって恐怖を覚えるくらいだったからなぁ」

 多分だけど、それミイの方だと思う。ネイが話していた時期的には、まだジークだけだし、魔法が使えることも分かってないし、それは暗殺者と呼ばれたミイの人格だな。

「それで、あいつは今元気にしてんのか?」

「あー......」

 どう答えてやろう。邪龍になったとでも話すか?それとも前世の記憶が蘇って不老不死になった話でもするか?

「あいつは元気だぜ。変人なことに変わりはねえけど」

「はっ、いつも通りだな」

 なるほど。ややこしい事なんか抜きで普通に話せば良かったのか。

「あいつのことを懐かしそうに語ってる俺だけどな、関わりはほとんどない」

「じゃあ、なんでそんなに懐かしそうに語れるんだよ」

「昔な。ここにアイリスって奴が暗殺隊っていう黒月最強の部隊を引き連れて襲ってきた時にな、命かけてこの集落を守ってくれたんだよ。あとから知った話だが、あいつはただ巻き込まれただけだったんだなって。遠目で見てたあいつの戦う姿は、まさに戦場に舞うプリンセスって感じだったよ」

 それどういう事?殺人鬼なら普通に分かるけど、プリンセスって何?一体何を見てたんだ???

「それで......えーっと、ユミって鬼の事だったな。話がズレてすまんかった」

「気にしなくていい。知れたら十分」

「んー......ユミって名前の奴は、ここの集落にはいねえんだよなぁ。アイリスみたいにはぐれ鬼族って奴じゃねえかと思うけど」

「知らないか......」

「ああ。ただ、鬼の伝を頼って探してみるよ」

「助かる」

 結局、めぼしい情報はなかった。唯一知れたことは、ネイの顔が意外と広いってことだな。

「近くに寄ることがったら、顔くらい見せに来いよー」

 見送る羅刹がそう叫んでいた。
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