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第5章 【黒の心】

第5章11 【十一節・黒と白の心】

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 日付は変わって1月の4日。

 正月休みがよく分からないことで潰された気がするが、まあ、もう過ぎた事だ。

「ヴァル、この後時間ありますか」

 隣を歩くネイがそう言ってくる。

「今日は一日暇だな」

「そうですか。なら」

 ギルドに足を踏み入れると、そこにはクロムがいた。

「ちょっと付き合ってほしいところがあります」

 なぜかクロムがこっちにやって来る。

「......?こいつと何か関係があるのか?」

 俺はクロムを指さして尋ねる。

「行く場所が場所なので」

「そういうことだ」

「お前は知ってんのか」

「知ってなきゃここで寝泊まりはせん」

「あっそう。んで、どこに行くんだ」

「邪龍の祠です」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「「 オェェェェェ 」」

「お前ら仲良しだな」

 この光景は久しぶりな気がする。

「だいろうぶだ。吐くほどにはオロロロロロ」

「何が大丈夫なんだ。思いっきりぶちまけてるじゃないか。そんなんで大丈夫なのか。いや、大丈夫じゃなかったな」

「ふっ、私レベルになるとオロロロロロ」

「神様レベルがなんだって?一々ただの人間であることを証明してくるな。それと、これ以上ここを汚すな」

 2人の○○が足元に○○◦○○◦になって不快な気分になる。

「はぁ、アラン、後どれくらいだ?」

「後1時間ほどです」

「1時間か......。まあ、頑張れ」

「それで頑張れたら苦労しねえんだよオェ」

「この馬車、空飛べないんですか。それと、道をもっと平面に出来ないんですか。気持ち悪すぎるんですよ」

「空を飛べる馬車がいたとしたら、それはサンタさんだろうし、道に関しては、そもそもここを使う人間などいない。よって整備する必要性はないんだ」

「どうでもいいから早く着かねえかなぁ」

 これからどこに向かうのか分かっているのだろうか。緊張感の『き』の字も感じられないのだが。

「一応聞いておくが、行ってどうなるんだ?あんなところに行っても、何も無いと思うのだが」

「それは、着いてかオロロロロロ」

 せめて話が出来る状態にまでは慣れてくれ。いや、本当に頼むから。

            △▼△▼△▼△▼△▼

「そろそろです。クロム様」

 小一時間ほど経って、アランがそう言ってきた。

「ほら、窓の外を見ろ。目当てのもんが見えてきたぞ」

「へぇー......興味ないね」

「ク○ウド風に興味ないねって言うな。ちょっとは興味を持て。目的地だぞ?」

「すみません。流石に、この世の全ての物は酔いに対して無力です」

「気を確かにしろ。お前ら本当に邪龍教を壊滅に追い込んだ英雄か」

「英雄なんて、そんな大層な名前で呼ばれた覚えはねえよ」

 自覚のない英雄がここにもいたとは......。まあ、こいつらにはそれがお似合いだろうな。

「どうせもうすぐ近くだし、降りて走るか?」

「そしたら、変な巨大ミミズが出てくんだろ?嫌だわ」

「それに関しては、俺もよく分からないが、戦う気はないんだな」

「そもそも、ミミズがこんなジャングルにも近い場所に現れるってどういう事ですか。絶対群れからはぐれたはみ出し者ですよ」

「そう言ってやるな。ミミズだって本気で生きてるんだから。ミミズもオケラもアメンボもみんな頑張って生きてるんだ」

「突然、何を語り出すんだお前は」

「いや、姉さんが生き物好きだったのを思い出してな。俺も環境保全に乗り出してみようかな、と」

「勝手にやってろ。それより、もう目的地だろ。いつまで走らせんだ?」

「邪龍の気が強くてな。薄くなってるところを探してるってそこだ!」

「「 おわぁぁ 」」

「目的地到着。エクセリア案内を終了致します」

「突然止まるなバカ!もうちょっとでゲロの中に顔埋めるところだったじゃねえか!」

「それはお前らのせいだろ!そして、ゲロとかいう汚い言葉を使うんじゃありません」

「うるせえな。ゲロはゲロだろうが。それともなんだ?ゲロのことをお前は○○とかって表現すんのかあぁ?」

「もういいから、行きましょう」

 そう言って、ネイがスタスタと歩いていった。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「薄汚ねえ洞窟だな。心まで汚くなっていきそうだ」

「祠と言っても、かつての邪龍を封印している場所だ。祠はただの飾りで、本体はただの洞窟だ」

「昔の私がどこに閉じ込められていたのか、ずっと知りたかったんですけど、こんなに脱出しやすい場所だったんですね」

「そう見えるか。一応、聖龍の力で邪龍の力は全て無にしてるんだが」

「そう言われると、なんだか全身が気怠い気がしてきました」

「気持ちの問題だろ。頑張れ」

 聖龍の力と言うくらいなら、もっと聖なる感じにならなかったのかねぇ......。ただの薄汚ねえ洞窟だし、力を全て封印されても脱出できそうな気がするが。

「体が朽ち果ててるって可能性はないのか?」

「ないです。あれはどんなに頑張っても、死ねる体じゃありませんから」

「不思議な体してんなぁ」

「触りますか?」

「いや、遠慮しとく」

「もう、もっと正直になっていいのに......」

「こんなところでなるかバカ!」

「お前ら夫婦漫才はその辺にしとけ。ヴェルドとシアラのことを言えなくなるぞ」

「それはちょっとよくありませんね」

「だな。弄り倒せなくなる」

 こうやって無駄なやり取りを続けているのだが、いつになったら、昔のこいつがいるところに辿り着くのだろうか。かれこれ2時間は歩いている気がする。

「歩き疲れたみたいな顔してるな」

「そうですね。これは脱出できるわけありませんね」

「なるほど。昔のお前がこんな簡単なところを脱出出来ない原因が分かったな。力塞いじまえば、お前はただの貧弱なガキだからな」

「ガキ言わないでください!私だって、力を出せれば......」

「その力が出なくなるように設計されてるんだ。無理をさせるなヴァル」

「......しょうがねえ。乗れ」

「助かります......」

 こいつはこいつで素直だな。変なプライド見せてこない。これがフウロ辺りになると、女王になった気分だ、とかで絶対に貧弱に見られるっていう状況を回避するのに。絶対に。

 まあ、自分はそういう奴って認めてるからなんだろうな。もしくは邪龍の意思と離れられたおかげ。

「......なーんか、一段と嫌な気が強くなってきたな」

「近づいてるって証拠だ。あともうひと踏ん張りだ」

「山登りしてるわけじゃねえのに、なんでこんな疲れるんだろう」

「私が重いって言いたいんですか」

「そうか。普段の荷物代わりにお前を背負ってるからか。納得」

「結局、重いんですね」

 声に出してハッキリとは言わないが、40をそこそこ超える重さがある奴を背負って歩き続けると、嫌でも腰が痛くなる。これ、明日確実に腰痛だな。

「......近い」

「そろそろか」

「もう降ろして大丈夫です」

「そうか。助かる」

「重かったんですね......」

「そこは気にしないでくれ」

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

「何しに来たんだ......」

 半信半疑で来たが、本当に昔の体に戻ってるとは......。

「おい、こいつは......」

「見ての通り、闇ネイです。面倒臭いからミイとでも呼びましょうかね」

「そういうこと聞いてんじゃねえよ。こいつはどういうことだ」

「元々、ここに来るという時点で大体の察しはつくと思いますが......」

「クロムは知ってたのか?」

「知ってなきゃこんなところには連れて来ん」

 ヴァルが気づかなかったのは予想外だが、そんなことはどうでもいい。

「てめぇら冷やかしにでも来たのか」

「いいえ。あなたを助けに来たんです」

「助けに、か......。よくもまあ、そんなくだらないことが思いつくわけだ。折角離れてくれたんだから、そのまま余所見していればいいものを......」

「そんなことが出来る性格だとでも思ったんですか?」

「思ってたな。なんせ、お前は俺なんだから」

「そうですね。でも、あなたと私は別れて、ちょっとは性格が変わってるんですよ?」

「そーかい」

 ぷいと顔を背ける。
 話を聞く気はない......か。

 それでも、話せるだけ話して、ダメなら引き返すで良いだろう。

「それで、マジで冷やかしに来たんじゃねえだろうな?」

「そんなわけありませんよ。あなたを助けに来たって言ったじゃないですか」

「へっ、気持ち悪い喋り方しやがって。俺はもうこのままでいいんだよ」

「本当にそうでしょうか?」

「本当にそうだよ。あれだけやらかして、今更お前らのところに戻れるかってんだ」

「戻れますよ。あなたなら」

「お前は極刑が決まった相手に対して、脱獄を協力するほど情が出てきそうなやつだな」

「なんですか、その例え」

「そんくらいアホだって言ってんだよ。いつか死ぬぞ」

「1度死んだ身なのですが」

「そういやそうだったな。俺と一緒に死んでたな。それで、お前は助けるっても具体的にどうするつもりなんで・す・か!」

 しつこい私に対して、やけくそを飛ばすかのようにそう言う。あ、その体で鼻ホジるのやめてくれますか。

「ふんっ。お前らなんかについて行ったところで、ろくなことにはならねえよ。また殺しをするかもしれないし、仲間への裏切りだってするかもしれないし、なにより、邪龍になっちまうかもしれないし」

 邪龍になるという不安は、ミイの方に受け継がれたようだ。その不安を払拭してあげたいのだが、どうすればいいのかは分からない。でも、ヴァルがかけてくれた言葉が、今の私の行動力になる。

「邪龍になんてなりませんよ」

「なんでそう言い切れんだ。あのまま俺が暴走してたら、確実に邪龍行きだぞ?」

「でも、あなたはならなかった。自分で抑えたんでしょ?」

「自分で抑える?なんで?あの時の俺なら、そのままなってても、なんにも思わなかったぞ」

「それはあの時、あの状況限定での話でしょう。でも、今は邪龍になる不安を抱えてるじゃないですか」

「不安......か......。俺の中に、そんな気持ちなんてなかったはずなのにな......」

 ミイがゆっくりと顔に手を当てる。

「......なあ教えてくれ。俺はどうすれば良かったんだ。お前みたいに、好かれる存在になるには、どうすれば良かったんだ。殺しをやめれば良かったのか?それともデルシアみたいになれって言うのか?」

「問題はそこじゃありませんよ。あなたは、とりあえず、みんなに謝るべきですかね。そして、ゆっくりでいいから、自分っていう存在を誇示してください」

「......無理だ」

「無理じゃありません。あなたは私なんですから」

「あんだけ暴れといて、今更あいつらの前に行けれるか......」

「だから謝れって言ってるんです。私も一緒に謝りますから。私として」

「なんでだ。なんでそんなに優しくしてくるんだ。俺はお前の体を取ろうとしたんだぞ?お前が好きな奴らを殺そうとしたんだぞ?無関係な奴まで殺そうとしたんだぞ?」

「知ってます」

「......なんで、誰も怒ってくれないんだ。こんな酷いことをした奴なのに......」

「怒ったって何も始まりません。それとも、怒られた方が気が晴れてスッキリしますか?」

「......違う。でも、だったらどうすりゃいいんだ!」

「まずは謝りましょう。そこからです」

「......謝ったら、あいつらは許してくれるか」

「さあ?それはあなたの誠意次第です」

「俺が......一緒にいて......いいのか......」

「良いですよ。むしろ、いてくれなきゃ私が困ります」

「......ごめん。ごめ......ん」

「私はあなたを許します」

 ミイを抱きしめようと、ボロボロになった檻を壊す。見た目はボロボロなのに、意外と硬かった。だが、檻は壊れてミイを抱き締めてあげられる。

「ごめん......ごめん......」

「私に謝るのもいいですけど、他のみんなにも、謝らないといけませんよ」

「......ヴァル、クロム、ごめん......」

「今回だけは特別だ。次からは迷惑かけんじゃねえぞ」

「......守れるかどうかは保証しない。でも、頑張る」

「なら許す。クロムは?」

「別に、俺はそこまで迷惑を被っていないからな。許せと言うなら許すが」

「そこは素直に許すって一言だけでいいんだよ」

「そうか?」


 アホな王様。バカな契約者。怠惰な私、それと、もう1人の私を連れて、帰路に就いた。
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