96 / 434
外伝 【白と黒の英雄】
外伝14 【白の家族】
しおりを挟む
「なんなんだ、この化け物共は!」
「分からない。だが、黒月の兵器ではなさそうだ」
「チッ......、あいつらなら、これくらい用意できるとは思うがな!」
橋の麓で幾重もの血が重なる。
敵味方関係なく血を撒き散らし、あたりを真っ赤に染めあげていく。
「サツキ、離れるなよ。奴らがどこから来るか分からんからな」
「分かっている。セイヤッ!」
サツキの槍が化け物共の体を串刺しにした。
「カンナ!状況は!」
「は、はい......、ええええええっと、死者2000人超え。負傷者もかなり多く、とても治療が追いつきません」
カンナの慌てぶりはいつもの事だが、いつもに増して慌てている。
「状況は非常にまずい傾向にあります。このままでは、軍隊が壊滅してしまうでしょう」
1人冷静なクウガがそう言う。
言われなくても分かってはいる。分かっていても、この状況を打破することが出来ない。
「暗殺隊の方にも、同じような騒ぎが起こっています。ただ、向こうは犠牲者が少ないようです」
「当たり前だ。向こうは暗殺隊とかいう化け物組織なんだ。悔しいが、実力は遥かに上なんだ」
こんなことなら、白陽にもそれなりの専用組織を作っておけばよかった。
いくら数が多くても、個々の実力は暗殺隊に比べ物にならないほど劣る。
「カンナ危ない!」
慌てふためくカンナに、血飛沫を浴びて真っ赤に染まった化け物が襲いかかってきた。
「いやっ......」
「セヤァッ!」
空間を切り裂き、そこから派生した雷の刃が化け物の体を真っ二つにする。
真っ赤な血飛沫が、カンナの顔にかかる。
「下がってろカンナ」
「兄さん、下がれと言われて、どこに下がればいいんだ?」
サツキに言われて気がついた。
「クソっ、奴ら......」
奴らは、軍隊を丸ごと囲んでいた。
「逃げ場なし。見事なまでに奴らの作戦勝ちですな」
悔しいが、本当にその通りだ。
襲いかかってきた当初の、姿が見えない、という特性は血飛沫によってある程度見えるようになった。ただ、それでも一切血の付いていない奴らはたくさんいる。そのせいで、1人、また1人と、数を減らされてきている。
「撤退しようにも出来んとは......」
万事休す。この状況を把握するまでに時間をかけすぎた。
いや、だとしたら、なぜ黒月はあまり死者が出ていないのだ。いくら勘のいい軍隊と言えど、姿が見えないのだから初撃でかなり数を減らされるはず。
考えすぎか。暗殺隊なら敵の存在を感じ取るのは容易だ。悔しいほどに。
「兄さん。あまり、考え事はしないでくれ。敵の狙いが分からない以上、兄さんを失うわけにはいかないんだ」
「すまん。少し、考えすぎてしまっていた」
戦いに集中しなくては。
四方八方から飛びかかってくる化け物。手当り次第に雷の刃を当てる。
それでも、手が回らないところが出てくる。
「まずい、ジリ貧だ......」
「兄さん!」
気を抜いた俺に、サツキがいつもに増して慌てた声で槍を突き刺してくる。
「なっ......」
気づいた時には遅かった。
俺に襲いかかってきた化け物が、俺の顔面にまで迫る。サツキの槍も、俺の刀も間に合いそうにない。
「えいっ!」
間に合わないと思っていた化け物の体が、突如真っ二つに割れ、その血を俺の顔に浴びせる。
「デルシア......!?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
月が、赤く染まった大きな橋を照らしている。
橋の中央辺りは、あまり色が変わっていないが、両端の部分は暗い赤色で染まり尽くしている。
目の前に見える光景は、白陽の兵が1人、また1人と数を減らしている様。
(お願い......兄さん......)
全速力で駆け抜ける。
敵は万を余裕で超えている。白陽の軍隊は見事なまでに囲まれている。逃げ場はないし、外から近づくこともできない。
ならば......
「えいっ!」
空高くに飛び、兄さん達がいる場所へと真っ直ぐに落ちる。その際、兄さんに迫っていた化け物を1匹斬り倒した。
「デルシア......!?」
「大丈夫ですか!兄さん!」
「......だ、大丈夫だ!」
兄さんはすぐに理解したようだ。
『今はデルシアの言うことを聞いた方がいい』。少なくとも、それに近い何かは感じてくれたはずだ。
「兄さん、説明は後でします。今は」
「この状況を打破する。だろ?デルシア」
「......はい!」
互いに背を合わせての戦いが始まった。
姿が見えず、どうにかして存在を察知するしかない敵。暗殺隊と違って、こちらの兵はその存在に気づきにくいようだ。
「兄さん!一方向だけを攻撃し続けてください。ここは撤退した方がいいです!」
「分かった。だが、側面の敵はどうするんだ。逃げてる間にも奴らはやってくる」
それは、私がどうにかする。敵の存在は簡単に感じ取れるようになっている。みんなを逃がしている間、他の奴らの相手は十分できる。
「姉さん。なんでも1人でやろうとしないでくれ。私は姉さんを信じている。だから、姉さんも私を信じてくれ」
隣に立つサツキが頼もしい表情でそう言ってくる。
「死ぬかもしれませんよ」
「元より承知の上だ!行くぞ!」
サツキの突き出した槍が、橋とは反対の方向にいる敵を一掃する。
「まだまだ!」
なんとなくでしかないが、逃げ道の確保はできた。あとは、なんとかして追手を逃れるだけ。
「全員撤退!殿は俺達が務める!」
「し、しかしシンゲン様。そ、それではシンゲン様の身ががががが......」
「心配するなカンナ。俺には、頼れる妹が2人いるからな」
それでも心配そうな顔をしていたカンナだが、クウガに背を押されて撤退する兵達の後を追った。
「女に頼るとか、男として恥ずかしくないのか兄さん」
「信頼している、と受け取ってくれ」
「......了解だ」
サツキがやれやれと見せつつも、ほんの少しの笑みを浮かべていた。
「貴様らの相手はこの俺達だ!誰一人としてこの先へは進ません!」
兄さんの雷の刃が、化け物達を取り囲むように雷の牢を作っていく。
「デルシア、奴らは何体いる?」
「向こう側に2万、こちら側には、恐らく1万くらい......」
「1万か......」
「厳しいか?」
「......俺を誰だと思っている。余裕だ」
そう言うと、兄さんは刃を天高くに上げる。すると、雷の牢の中に最早雨とも言えるほどの雷が降り注ぎ、敵を丸焼きにしていく。
今ので、軽く2000程は死んだだろうか?
「この際だからハッキリさせておく。デルシア、お前は俺達の味方か?」
「味方です。でも、戦争を続けると言うのなら、敵になるかもしれません」
「そうか。考えておく」
シンゲン兄さんとは、関わった時間が少なかった故に話が通じないと思っていたが、どうやらそれはただの思い過ごしだったらしい。
話せば分かることもある。アルフレア兄さんはそうじゃなかったが......。いや、あれは兄さんの頭が硬すぎたからかな?
敵は、あの雷の攻撃を見たあとも怯まずにやってくる。その様は、まるで暗殺隊を彷彿とさせるが腕はあちらの方が遥かに上。本能のままに殺すのと、命令によって的確に殺すのとではかなり違う。だからこそ、奴らの動きは単調であり、難しい。
「オラオラオラァ!」
橋の方から大声を上げて化け物を斬り殺していく音が聞こえる。
「デルシア!助けに来たぞ!」
あれは......ネイ!?いや、ジーク!?なのか?
1人の少女の姿が分かっているのに、なぜここまで誰なのかを悩む必要があるのだろうか。
「あの、背中の火傷は......」
「あぁん?これか?こんくれぇ大丈夫だ。ちょっとヒリヒリするけど、なんの問題もねえ」
ジークに問題がなくても、ネイの方に問題がある気がするのだが。
「デルシア、一応聞いとくが、この子は味方ってことでいいのか?」
当たり前の話だが、突然のネイの登場にシンゲンが驚きを隠さずに問いかけてくる。
「大丈夫です。味方っちゃ味方ですから」
「なんだその微妙な言い方は。おれはみ・か・た・だ!」
うるさい......。そんな耳元で言わなくても......、ネイだったらすぐに味方と言えただろうが、ジークは少し微妙な気がする。
「これ以上は聞かん方がいいんだな。なら、さっさとここをどうにかするぞ!」
全員の目が、化け物達がいる方へと集中する。敵は、未だに兄さんの出した雷の牢によってこちらに攻めてこれない。
「全員逃してはダメなんだよな?姉さん」
「そうです。奴らの生き残りが、いつどこで暴れるか分かったもんじゃないので」
「そう言うことだ。つーわけで、えーっと、滅び......いや違う、煌めき......これも違、ああ、流星剣!」
技名くらい考えとこうよ......。そんな締まらない感じで強そうな一撃を出さないでほしい。
「うーん......、イマイチピンとくるのが思いつかねえなぁ......」
技名に悩むジークは置いといて、私は私でこの問題を解決しなくては。
《ピュー!》
突然、サツキが口笛を吹く。
「空から攻撃した方が早い」
大きな天馬がやって来た。
「技名に悩んでいるようなら、いい感じのものを見せてやろう。ホーリースピア!」
天高くに飛んだサツキの槍が、無限に分身し、化け物達の頭上へと降りかかる。
「おぉ、かっけぇ!」
そんな男の子みたいに目をキラキラしないで。ジークはもうちょっとおっさんみたいな雰囲気を......いや、その体でやるのはやめてほしい。そう考えると、別に今のままでもいいやと思った。
「俺も負けてられんな。雷雨・閃光の刃」
兄さんがさっき見せた技をもう一度放つ。
サツキと兄さんのでかなりの数を減らすことができた。もうそんなに数もいない。あとは、己の感覚を頼りに残党を狩るだけ。
「逃がしません!」
横を突っ切ろうとした化け物を斬り殺す。赤い鮮血が辺りに散る。
「儚き?いや違ぇ、じゃあ、死滅?なんか違う。あぁ、流星剣!」
もう流星剣だけでいいんじゃないか?変な肩書きは付けなくていいだろ。
そう思ったのだが、きっと、ジークは『流星剣』だけでは気に入らないから何かを付け足そうとしているのだろう。技名ってそんなに大事なの?
「ふぅ......」
これで全部だ。他に気配は感じない。
全部片付いた時には、両腕が真っ赤に染っていた。あまり、血は好きではないが、全身が染まっているわけではないのでまだ良しとしよう。
「......デルシア。ありがとうな。お前のお陰で生き延びれた」
「いえ、私は兄さんと話をしたくて......」
「分かっている。その件に関しては、向こうとなんとかして進めよう」
兄さん達を助け出せれて、おまけに説得もできた。一石二鳥だ。
「お前はこの先どうするんだ。向こうに仲間達がいるんだったよな?」
「はい。だから、早く無事を確認しにーー」
「デルシア避けろ!」
ジークが物凄い勢いで迫ってくる。
避けろ。敵がまだいるということなのか?でも、気配はどこにも感じない。どこに避けーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「デルシア避けろ!」
少女がデルシアに向かって物凄い勢いで迫る。
避けるも何も、どこにも敵の存在は感じない。しかし、あの少女の顔はイタズラでもなんでもない。本物だ。
「あぅっ......」
少女の嫌な予感は当たった。
デルシアの背から大量の血が吹き出る。
「......デルシア!」
「姉さん!」
本当に一瞬の間にデルシアがやられた。息はしてあるが、このままでは危ないのは一目瞭然だ。
「おい!敵は!」
「チッ、どっかに逃げやがった......」
これも嘘ではない。敵は、本当に一瞬の間にデルシアへ迫り、そして致命傷になるような一撃を与えて去って行った。
「おい、お前。回復魔法は使えるか」
「悪ぃが、俺は武力専門だ。もしかしたら、こいつが使えるかもしれねえが今は無理だ」
よく分からないことを言ったが、とりあえず今は無理らしい。
馬車は全部引き上げてしまったし、一体どうすれば......。
「ああああああ、あの、私が手当します」
茂みからカンナとクウガが現れた。
「お前達、なぜ逃げてない!」
「すみません。シンゲン様。責任は私がとります」
「いや、今はどうでもいい。むしろ、居てくれて助かる」
カンナが両の手から治癒術をかける。
ひとまずはこれで大丈夫だろうが、今すぐにでもしっかりとした手当をしなければならない。
「白陽に連れ帰らねば......」
デルシアの仲間にどうやって伝えるべきか......。
「おいお前。デルシアをこっちで預かることを、向こうに伝えてきてくれないか?」
「無理......だ......」
少女までもがその場に倒れ伏した。
「どうやら、この体、そろそろ、充電、切れ、だ......」
そのまま目を閉じて寝てしまった。
「......仕方ない。不安にさせてしまうが、今はこうするしかない」
「置き手紙でも置いとくか?」
「一応そうしといてくれ。無駄だろうが」
聞きたいことが山ほどあったと言うのに、厄介なことが舞い込んできた。早くに目を覚ましてくれると良いのだが......。
「分からない。だが、黒月の兵器ではなさそうだ」
「チッ......、あいつらなら、これくらい用意できるとは思うがな!」
橋の麓で幾重もの血が重なる。
敵味方関係なく血を撒き散らし、あたりを真っ赤に染めあげていく。
「サツキ、離れるなよ。奴らがどこから来るか分からんからな」
「分かっている。セイヤッ!」
サツキの槍が化け物共の体を串刺しにした。
「カンナ!状況は!」
「は、はい......、ええええええっと、死者2000人超え。負傷者もかなり多く、とても治療が追いつきません」
カンナの慌てぶりはいつもの事だが、いつもに増して慌てている。
「状況は非常にまずい傾向にあります。このままでは、軍隊が壊滅してしまうでしょう」
1人冷静なクウガがそう言う。
言われなくても分かってはいる。分かっていても、この状況を打破することが出来ない。
「暗殺隊の方にも、同じような騒ぎが起こっています。ただ、向こうは犠牲者が少ないようです」
「当たり前だ。向こうは暗殺隊とかいう化け物組織なんだ。悔しいが、実力は遥かに上なんだ」
こんなことなら、白陽にもそれなりの専用組織を作っておけばよかった。
いくら数が多くても、個々の実力は暗殺隊に比べ物にならないほど劣る。
「カンナ危ない!」
慌てふためくカンナに、血飛沫を浴びて真っ赤に染まった化け物が襲いかかってきた。
「いやっ......」
「セヤァッ!」
空間を切り裂き、そこから派生した雷の刃が化け物の体を真っ二つにする。
真っ赤な血飛沫が、カンナの顔にかかる。
「下がってろカンナ」
「兄さん、下がれと言われて、どこに下がればいいんだ?」
サツキに言われて気がついた。
「クソっ、奴ら......」
奴らは、軍隊を丸ごと囲んでいた。
「逃げ場なし。見事なまでに奴らの作戦勝ちですな」
悔しいが、本当にその通りだ。
襲いかかってきた当初の、姿が見えない、という特性は血飛沫によってある程度見えるようになった。ただ、それでも一切血の付いていない奴らはたくさんいる。そのせいで、1人、また1人と、数を減らされてきている。
「撤退しようにも出来んとは......」
万事休す。この状況を把握するまでに時間をかけすぎた。
いや、だとしたら、なぜ黒月はあまり死者が出ていないのだ。いくら勘のいい軍隊と言えど、姿が見えないのだから初撃でかなり数を減らされるはず。
考えすぎか。暗殺隊なら敵の存在を感じ取るのは容易だ。悔しいほどに。
「兄さん。あまり、考え事はしないでくれ。敵の狙いが分からない以上、兄さんを失うわけにはいかないんだ」
「すまん。少し、考えすぎてしまっていた」
戦いに集中しなくては。
四方八方から飛びかかってくる化け物。手当り次第に雷の刃を当てる。
それでも、手が回らないところが出てくる。
「まずい、ジリ貧だ......」
「兄さん!」
気を抜いた俺に、サツキがいつもに増して慌てた声で槍を突き刺してくる。
「なっ......」
気づいた時には遅かった。
俺に襲いかかってきた化け物が、俺の顔面にまで迫る。サツキの槍も、俺の刀も間に合いそうにない。
「えいっ!」
間に合わないと思っていた化け物の体が、突如真っ二つに割れ、その血を俺の顔に浴びせる。
「デルシア......!?」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
月が、赤く染まった大きな橋を照らしている。
橋の中央辺りは、あまり色が変わっていないが、両端の部分は暗い赤色で染まり尽くしている。
目の前に見える光景は、白陽の兵が1人、また1人と数を減らしている様。
(お願い......兄さん......)
全速力で駆け抜ける。
敵は万を余裕で超えている。白陽の軍隊は見事なまでに囲まれている。逃げ場はないし、外から近づくこともできない。
ならば......
「えいっ!」
空高くに飛び、兄さん達がいる場所へと真っ直ぐに落ちる。その際、兄さんに迫っていた化け物を1匹斬り倒した。
「デルシア......!?」
「大丈夫ですか!兄さん!」
「......だ、大丈夫だ!」
兄さんはすぐに理解したようだ。
『今はデルシアの言うことを聞いた方がいい』。少なくとも、それに近い何かは感じてくれたはずだ。
「兄さん、説明は後でします。今は」
「この状況を打破する。だろ?デルシア」
「......はい!」
互いに背を合わせての戦いが始まった。
姿が見えず、どうにかして存在を察知するしかない敵。暗殺隊と違って、こちらの兵はその存在に気づきにくいようだ。
「兄さん!一方向だけを攻撃し続けてください。ここは撤退した方がいいです!」
「分かった。だが、側面の敵はどうするんだ。逃げてる間にも奴らはやってくる」
それは、私がどうにかする。敵の存在は簡単に感じ取れるようになっている。みんなを逃がしている間、他の奴らの相手は十分できる。
「姉さん。なんでも1人でやろうとしないでくれ。私は姉さんを信じている。だから、姉さんも私を信じてくれ」
隣に立つサツキが頼もしい表情でそう言ってくる。
「死ぬかもしれませんよ」
「元より承知の上だ!行くぞ!」
サツキの突き出した槍が、橋とは反対の方向にいる敵を一掃する。
「まだまだ!」
なんとなくでしかないが、逃げ道の確保はできた。あとは、なんとかして追手を逃れるだけ。
「全員撤退!殿は俺達が務める!」
「し、しかしシンゲン様。そ、それではシンゲン様の身ががががが......」
「心配するなカンナ。俺には、頼れる妹が2人いるからな」
それでも心配そうな顔をしていたカンナだが、クウガに背を押されて撤退する兵達の後を追った。
「女に頼るとか、男として恥ずかしくないのか兄さん」
「信頼している、と受け取ってくれ」
「......了解だ」
サツキがやれやれと見せつつも、ほんの少しの笑みを浮かべていた。
「貴様らの相手はこの俺達だ!誰一人としてこの先へは進ません!」
兄さんの雷の刃が、化け物達を取り囲むように雷の牢を作っていく。
「デルシア、奴らは何体いる?」
「向こう側に2万、こちら側には、恐らく1万くらい......」
「1万か......」
「厳しいか?」
「......俺を誰だと思っている。余裕だ」
そう言うと、兄さんは刃を天高くに上げる。すると、雷の牢の中に最早雨とも言えるほどの雷が降り注ぎ、敵を丸焼きにしていく。
今ので、軽く2000程は死んだだろうか?
「この際だからハッキリさせておく。デルシア、お前は俺達の味方か?」
「味方です。でも、戦争を続けると言うのなら、敵になるかもしれません」
「そうか。考えておく」
シンゲン兄さんとは、関わった時間が少なかった故に話が通じないと思っていたが、どうやらそれはただの思い過ごしだったらしい。
話せば分かることもある。アルフレア兄さんはそうじゃなかったが......。いや、あれは兄さんの頭が硬すぎたからかな?
敵は、あの雷の攻撃を見たあとも怯まずにやってくる。その様は、まるで暗殺隊を彷彿とさせるが腕はあちらの方が遥かに上。本能のままに殺すのと、命令によって的確に殺すのとではかなり違う。だからこそ、奴らの動きは単調であり、難しい。
「オラオラオラァ!」
橋の方から大声を上げて化け物を斬り殺していく音が聞こえる。
「デルシア!助けに来たぞ!」
あれは......ネイ!?いや、ジーク!?なのか?
1人の少女の姿が分かっているのに、なぜここまで誰なのかを悩む必要があるのだろうか。
「あの、背中の火傷は......」
「あぁん?これか?こんくれぇ大丈夫だ。ちょっとヒリヒリするけど、なんの問題もねえ」
ジークに問題がなくても、ネイの方に問題がある気がするのだが。
「デルシア、一応聞いとくが、この子は味方ってことでいいのか?」
当たり前の話だが、突然のネイの登場にシンゲンが驚きを隠さずに問いかけてくる。
「大丈夫です。味方っちゃ味方ですから」
「なんだその微妙な言い方は。おれはみ・か・た・だ!」
うるさい......。そんな耳元で言わなくても......、ネイだったらすぐに味方と言えただろうが、ジークは少し微妙な気がする。
「これ以上は聞かん方がいいんだな。なら、さっさとここをどうにかするぞ!」
全員の目が、化け物達がいる方へと集中する。敵は、未だに兄さんの出した雷の牢によってこちらに攻めてこれない。
「全員逃してはダメなんだよな?姉さん」
「そうです。奴らの生き残りが、いつどこで暴れるか分かったもんじゃないので」
「そう言うことだ。つーわけで、えーっと、滅び......いや違う、煌めき......これも違、ああ、流星剣!」
技名くらい考えとこうよ......。そんな締まらない感じで強そうな一撃を出さないでほしい。
「うーん......、イマイチピンとくるのが思いつかねえなぁ......」
技名に悩むジークは置いといて、私は私でこの問題を解決しなくては。
《ピュー!》
突然、サツキが口笛を吹く。
「空から攻撃した方が早い」
大きな天馬がやって来た。
「技名に悩んでいるようなら、いい感じのものを見せてやろう。ホーリースピア!」
天高くに飛んだサツキの槍が、無限に分身し、化け物達の頭上へと降りかかる。
「おぉ、かっけぇ!」
そんな男の子みたいに目をキラキラしないで。ジークはもうちょっとおっさんみたいな雰囲気を......いや、その体でやるのはやめてほしい。そう考えると、別に今のままでもいいやと思った。
「俺も負けてられんな。雷雨・閃光の刃」
兄さんがさっき見せた技をもう一度放つ。
サツキと兄さんのでかなりの数を減らすことができた。もうそんなに数もいない。あとは、己の感覚を頼りに残党を狩るだけ。
「逃がしません!」
横を突っ切ろうとした化け物を斬り殺す。赤い鮮血が辺りに散る。
「儚き?いや違ぇ、じゃあ、死滅?なんか違う。あぁ、流星剣!」
もう流星剣だけでいいんじゃないか?変な肩書きは付けなくていいだろ。
そう思ったのだが、きっと、ジークは『流星剣』だけでは気に入らないから何かを付け足そうとしているのだろう。技名ってそんなに大事なの?
「ふぅ......」
これで全部だ。他に気配は感じない。
全部片付いた時には、両腕が真っ赤に染っていた。あまり、血は好きではないが、全身が染まっているわけではないのでまだ良しとしよう。
「......デルシア。ありがとうな。お前のお陰で生き延びれた」
「いえ、私は兄さんと話をしたくて......」
「分かっている。その件に関しては、向こうとなんとかして進めよう」
兄さん達を助け出せれて、おまけに説得もできた。一石二鳥だ。
「お前はこの先どうするんだ。向こうに仲間達がいるんだったよな?」
「はい。だから、早く無事を確認しにーー」
「デルシア避けろ!」
ジークが物凄い勢いで迫ってくる。
避けろ。敵がまだいるということなのか?でも、気配はどこにも感じない。どこに避けーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「デルシア避けろ!」
少女がデルシアに向かって物凄い勢いで迫る。
避けるも何も、どこにも敵の存在は感じない。しかし、あの少女の顔はイタズラでもなんでもない。本物だ。
「あぅっ......」
少女の嫌な予感は当たった。
デルシアの背から大量の血が吹き出る。
「......デルシア!」
「姉さん!」
本当に一瞬の間にデルシアがやられた。息はしてあるが、このままでは危ないのは一目瞭然だ。
「おい!敵は!」
「チッ、どっかに逃げやがった......」
これも嘘ではない。敵は、本当に一瞬の間にデルシアへ迫り、そして致命傷になるような一撃を与えて去って行った。
「おい、お前。回復魔法は使えるか」
「悪ぃが、俺は武力専門だ。もしかしたら、こいつが使えるかもしれねえが今は無理だ」
よく分からないことを言ったが、とりあえず今は無理らしい。
馬車は全部引き上げてしまったし、一体どうすれば......。
「ああああああ、あの、私が手当します」
茂みからカンナとクウガが現れた。
「お前達、なぜ逃げてない!」
「すみません。シンゲン様。責任は私がとります」
「いや、今はどうでもいい。むしろ、居てくれて助かる」
カンナが両の手から治癒術をかける。
ひとまずはこれで大丈夫だろうが、今すぐにでもしっかりとした手当をしなければならない。
「白陽に連れ帰らねば......」
デルシアの仲間にどうやって伝えるべきか......。
「おいお前。デルシアをこっちで預かることを、向こうに伝えてきてくれないか?」
「無理......だ......」
少女までもがその場に倒れ伏した。
「どうやら、この体、そろそろ、充電、切れ、だ......」
そのまま目を閉じて寝てしまった。
「......仕方ない。不安にさせてしまうが、今はこうするしかない」
「置き手紙でも置いとくか?」
「一応そうしといてくれ。無駄だろうが」
聞きたいことが山ほどあったと言うのに、厄介なことが舞い込んできた。早くに目を覚ましてくれると良いのだが......。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
プロミネンス~~獣人だらけの世界にいるけどやっぱり炎が最強です~~
笹原うずら
ファンタジー
獣人ばかりの世界の主人公は、炎を使う人間の姿をした少年だった。
鳥人族の国、スカイルの孤児の施設で育てられた主人公、サン。彼は陽天流という剣術の師範であるハヤブサの獣人ファルに預けられ、剣術の修行に明け暮れていた。しかしある日、ライバルであるツバメの獣人スアロと手合わせをした際、獣の力を持たないサンは、敗北してしまう。
自信の才能のなさに落ち込みながらも、様々な人の励ましを経て、立ち直るサン。しかしそんなサンが施設に戻ったとき、獣人の獣の部位を売買するパーツ商人に、サンは施設の仲間を奪われてしまう。さらに、サンの事を待ち構えていたパーツ商人の一人、ハイエナのイエナに死にかけの重傷を負わされる。
傷だらけの身体を抱えながらも、みんなを守るために立ち上がり、母の形見のペンダントを握り締めるサン。するとその時、死んだはずの母がサンの前に現れ、彼の炎の力を呼び覚ますのだった。
炎の力で獣人だらけの世界を切り開く、痛快大長編異世界ファンタジーが、今ここに開幕する!!!
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
あなたがそう望んだから
まる
ファンタジー
「ちょっとアンタ!アンタよ!!アデライス・オールテア!」
思わず不快さに顔が歪みそうになり、慌てて扇で顔を隠す。
確か彼女は…最近編入してきたという男爵家の庶子の娘だったかしら。
喚き散らす娘が望んだのでその通りにしてあげましたわ。
○○○○○○○○○○
誤字脱字ご容赦下さい。もし電波な転生者に貴族の令嬢が絡まれたら。攻略対象と思われてる男性もガッチリ貴族思考だったらと考えて書いてみました。ゆっくりペースになりそうですがよろしければ是非。
閲覧、しおり、お気に入りの登録ありがとうございました(*´ω`*)
何となくねっとりじわじわな感じになっていたらいいのにと思ったのですがどうなんでしょうね?
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる