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第4章 【時の歯車】
第4章6 【傷心の時】
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「よう、ネイ」
今日も今日とて飽きもせずにネイのところに行く。
「......」
ネイはこちらを一瞬だけチラッと見て、すぐさま本に目を戻す。
「体調は良くなったか?」
「まあ、そこそこ良くなったぞ」
ネイがなぜか照れくさそうにそう言う。
「すまなかったな、昨日は。妾も少しばかり、疲れておったようじゃ」
「......そうか。元気になって何よりだ」
やけに素直だな、と思ったが、口には出さずにしておいた。多分、心を読まれていると思うけど......
「それで、創界神に関する話じゃったな」
「?何がだ?」
「昨日、お主が気になるって言っといたことじゃ」
「ああ......、そういやそんな話もしてたっけ」
全然記憶にない......
「全く、お主は鳥頭か......」
「俺の頭は鳥の形なんかしてねえぞ」
「3歩歩いたらさっきまでのことを忘れる鳥のように阿呆な頭をしておるという意味で言ったのじゃ」
「鳥って3歩歩いたら忘れるのか......」
「......」
この切り返しには、流石のネイも言葉が出なかったらしい。
最近学んだことは、ネイの言葉に対して一々まともに返していたらネイの思う壷だということが分かった。なので、こうやって別の話にするような切り返しをしている。
「はぁ......。それで、創界神に関してじゃが」
諦めたのか、本題に入った。
「創界神というのは、この世界を創り、管理する者。お主ら人間が言う神様に値する人物じゃ」
「神様ねぇ......」
「お主らが困った時に頼りにする存在じゃろうが。そんな奴が実際にちゃんとおるんじゃぞ」
「つっても、願いとかを叶えてくれるわけじゃねえんだろ?」
「当たり前じゃろうが。神様は人間共を見守るだけで良いんじゃ。そして、問題を起こしそうな輩がおったら歴史から消すだけ」
「もう、何もツッコまねえぞ」
「実を言うと、妾も歴史から消されそうになったのじゃがな」
「お前も何か問題を......そういや、昨日言ってたな。何をやらかしたんだ?」
「やらかしたという程ではない。ただ、世界を壊す魔法を編み出したまでよ」
「うん。それやったら神様に怒られるでしょ」
「妾はただ知的好奇心の赴くままに研究しただけなのじゃがな......」
「昔からやらかし癖は存在していたということか......」
ネイが聖魔の神殿であんなにも目を輝かせていた理由がよく分かった。
こいつ、知りたい試したいと思ったことは、行動に移さずにはいられないやつだ。
「まあ、それで、歴史から消すだけなら簡単な仕事じゃと創界神は思っとったらしいが......」
「なんとなく、問題になってしまったことが分かったぞ。お前を消したら歴史の辻褄合わせがめんどくさくなったとかだろ」
「お主、凄いな。その通りじゃ」
マジか......。外れてると思って言ったんだけどな......
「それで、めんどくさくなったグランウォーカーはどうしたんだ?」
「その頃、人間共は争いを続けるばかりじゃったし、世界丸ごとリセットするか、って考えになったらしい」
「いや、そっちの方がめんどくせえだろ?」
「いや、ただ世界を壊して創り直すだけじゃから実に簡単な作業なのじゃ。歴史とかそういうものは全て、人間にまた構築させればいいし」
「......それで、そんな中でお前は何をやってたんだ」
あまりにも壮大すぎて、話についていけない。
「世界を守る魔法を編み出した。これには、創界神も腹を抱えて笑っとったな」
「神様も笑うのか......」
「まあ、それで。妾の行いに対して、奴は『儂と共に来ないか?』などとぬかしおったのじゃ」
「それで、世界とお前はどうなったんだ?」
「世界は、なんやかんやあって創り直されたな」
「なんやかんやで済ましていい問題じゃねえだろ」
「ちなみに、その世界を壊す作業をやったの妾な」
「......」
お前だったんかーい!
「まあそれで、彼奴と共に、色んな世界を見て、歴史を管理して、っていう今にして思えばつまらないことをやっておったな。ただ、途中で気づいたことがあるのじゃ」
「気づいたこと?」
「妾の体。老いを感じないし、まだ13の時じゃったからな、成長してる感じもなくなった」
「不老不死......」
「そう。それが、妾を6兆年も苦しませた原因」
「6兆年か......。相変わらず、壮大な話だ」
「今の妾にもその呪いは受け継がれておる」
「だろうな」
「ついでに、邪龍教と呼ばれる者共が不死な理由も妾にある」
「そうなのか?」
「妾が邪龍として暴走しとった時にな、最終的にエクセリアと聖王が倒したという話があったじゃろ?」
「ああ、そうだったな」
「倒される際、妾は物凄い傷を負って、妾の血を地上に降らしすぎたんじゃよ」
「......その血を浴びた奴は、不死の力を得られる、ということか」
「うむ。ただ、その血を浴びても、完全なる不死の力はない。奴らは数十回殺せば死ぬ」
「マジで?」
これはヴェルド達に報告するべき内容だ。何回も殺せば死ぬ。手間はかかるが、生き残りを倒す術はある。
「ただ、血を浴びせた本人である妾が斬れば、その血は消えてしまう。邪龍は自分の攻撃なら、自分の血を壊すことができる。じゃから、その血を生産できない教徒共は死ぬのじゃ」
「はぁ、なるほど。でも、お前は結局死ねなかったじゃねえのか?」
「死ねないのは、妾が自分で不死の血を永遠に生産し続けているからじゃ。それと、創界神のせいで死ぬことが許されておらん」
「死ぬことが許されねえって......」
「おかしな話じゃろ?普通、人間なら嫌でも死がやってくるのに、妾にはその死がやって来ない」
「死にたいのか?」
「......死にたいな。お主の手で死ねるのなら、尚良い。でも、お主の滅龍の魔法であれど、妾は死ぬことができない。試してみるか?」
「いや、遠慮しとく。お前がどれだけ死なないと言っても、傷つけるのには抵抗がある」
「臆病な男じゃのう」
「相手がお前だからだよ。仲間を傷つけるなんてできねえよ」
「仲間......か。妾にはそんなもの無いのじゃがな」
「何言ってんだ。お前は俺達の仲間だ」
「......残念じゃが、妾はお主らの仲間にはなれん」
「なんでだよ。今までずっと一緒にいたじゃないか」
「それは、妾がまだまともな状態だったからじゃ」
「今だって、普通に喋って、歩いてってまともな状態だろうが」
「さっきまであんな話をしておったのに、あえて精神面の方で話はしないのじゃな」
「......」
あえて話さないわけではない。それを言ってしまえば、ネイが傷つくだけだと分かっているから。
「分かっておるよ。妾の心は常に不安定な状態にある。今でこそお主と2人きりじゃから何もないが、外で他の奴らと触れ合った時には......」
何か、問題が起きるかもしれない。
ネイはそれを恐れている。
自分が邪龍であり、世界から憎まれてきた存在。
そして、その正体は、既にみなに知れ渡っている。
そこに、死んだはずの自分が現れたら......
「お主でも、妾の恐怖は分かるじゃろ?他人の心が読める妾にとって、表面上でどんなに明るく振る舞われても、心の奥底が筒抜けで見えるのじゃ。そして、あの時のように、我慢してため続けていた妾が壊れる。しかも、今度は邪龍の力が既に備わっておる」
「でも、邪龍を倒したのはお前だ。だから、みんなもそんな目で見ることはーー」
「果たして、どれ程の人間が妾に感謝しておるじゃろうな」
「......」
認めたくないが、ネイに感謝してるやつなど一人もいない。みんな、クロムに対してその念を抱いている。
「だとしても、ここにお前に感謝してる人間がいるんだ!」
俺は、自分に親指を指してそう言う。
「お主だけか?」
「いや、セリカもフウロもエフィも、ヴェルドだって少なからずお前に感謝してる」
「はぁ......なんで、妾がこんな話をしておるのか分かるか?」
「......自分を、認めてほしいから?」
精一杯考えて、その答えを出した。
「そんなわけなかろうが人間!」
「グァッ!」
いきなり、とてつもない魔法で本棚に向けて投げ飛ばされた。
「いきなり......、何するんだ......」
「妾がそんなちっぽけな思いを抱いておるわけなかろうが!」
一瞬で近くにやってきたネイに胸倉を掴まれて投げ飛ばされる。
「妾はお主ら人間が大っ嫌いじゃ!」
ネイの目から、涙が零れ出している。
「何も学ばん、何も知ろうとせん、同じことを繰り返して、挙句の果てには他人のせいにする」
「ガァッ」
今度は、足で腹を蹴られる。
「そんなに、妾が可哀想に見えるか、妾が憎いか!」
ネイに言われて気づいた。
ネイは、哀れみ、蔑み、恐怖、怒り、そういった感情で見られたくなかったのだ。
「なんで、お主がこんなものを持っておるのじゃ」
ネイが、俺が落とした2本のメモリを拾い上げる。
「これが、お主がここに鍵をかけているのにも関わらず入れた理由か......」
ネイが、その2本のメモリを本に戻して、棚に入れる。
「返せ......よ」
「出ていけお主。お主がここに来る理由は無くなった。妾は外には出ん。教徒共が妾にしか殺せれん、だからできるだけ早く連れ出したい。そんな思いは丸見えじゃぞ」
極力考えないようにしていたのに......
「お主ら人間に貸してやる力なんぞどこにもない!お主ら人間は、いつだって自由で、楽しそうで、そして、妾を裏切ってゆく......」
ネイの魔法で強制的に外に追い出される。
「なんで......」
ネイの目から、涙が止めどなく溢れている。
「なんで、みんな、妾を一人残して、先に逝ってしまうのじゃ......」
気づいた。
本当にネイが言いたかったことが分かった。
でも、それはどうしようもない問題だった。
だって......
「俺達は、ただの"人間"だから......」
さっきまで見えていた入口が見えなくなる。
あいつの顔も見えなくなる。
「こんな別れ方、俺は認めねえぞ」
あいつを泣かせたままにしておくわけにはいかない。
もう一度、あいつのところに行って、何か言ってやらねえと......
言葉はすぐには思いつかない。でも、あいつのところに......
「入口が、どこにもない......」
見渡す限りを探したが、どこにもそれらしきものはなかった。
今までは、あのメモリを持っているだけで、謎の空間が見えたというのに......
「鍵をかけているって言ってたな......」
ということは、ツクヨミは鍵をしていなかったから、俺は自然と入ってしまった。
でも、鍵を閉められているのなら、それを開けるための物が必要となる。
「クソッ、ヨミの警告をもっと真剣に考えておくべきだった......」
『ネイに負担をかけるな』
あれは、何も、邪龍との戦いの時だけに限った話ではない。
ずっと、この先も注意していかなければならなかった。
「なんで、あんな無責任なことを言っちまったんだ......」
もっとネイの言葉一つ一つを考えて、ちゃんとした答えを出してやるべきだった。なのに、外に連れ出すことばっかりを考えてしまったせいで......。何が考えるのをやめただ。思いっきり、そんなことを考えていたじゃないか......。
もう、後悔した時には何もかもが手遅れだった。
「俺は......」
何度同じ過ちを繰り返せば学ぶんだ......。本当に、あいつの言っていた通りの鳥頭ではないか......
「ネイ!俺が悪かった!だから、その扉を開けてくれ!」
森中に聞こえるよう、大声を出してそう叫ぶ。
当たり前のことだが、返事など返ってくるわけがない。
「クソッ......」
俺は、地面に向けて拳を振り落とした。
あいつを助けると言ったのに、あいつを連れ出してやると言ったのに、あいつを守ってやると言ったのに......
「あいつの、"傍"にいてやると言ってやったのに......」
今日も今日とて飽きもせずにネイのところに行く。
「......」
ネイはこちらを一瞬だけチラッと見て、すぐさま本に目を戻す。
「体調は良くなったか?」
「まあ、そこそこ良くなったぞ」
ネイがなぜか照れくさそうにそう言う。
「すまなかったな、昨日は。妾も少しばかり、疲れておったようじゃ」
「......そうか。元気になって何よりだ」
やけに素直だな、と思ったが、口には出さずにしておいた。多分、心を読まれていると思うけど......
「それで、創界神に関する話じゃったな」
「?何がだ?」
「昨日、お主が気になるって言っといたことじゃ」
「ああ......、そういやそんな話もしてたっけ」
全然記憶にない......
「全く、お主は鳥頭か......」
「俺の頭は鳥の形なんかしてねえぞ」
「3歩歩いたらさっきまでのことを忘れる鳥のように阿呆な頭をしておるという意味で言ったのじゃ」
「鳥って3歩歩いたら忘れるのか......」
「......」
この切り返しには、流石のネイも言葉が出なかったらしい。
最近学んだことは、ネイの言葉に対して一々まともに返していたらネイの思う壷だということが分かった。なので、こうやって別の話にするような切り返しをしている。
「はぁ......。それで、創界神に関してじゃが」
諦めたのか、本題に入った。
「創界神というのは、この世界を創り、管理する者。お主ら人間が言う神様に値する人物じゃ」
「神様ねぇ......」
「お主らが困った時に頼りにする存在じゃろうが。そんな奴が実際にちゃんとおるんじゃぞ」
「つっても、願いとかを叶えてくれるわけじゃねえんだろ?」
「当たり前じゃろうが。神様は人間共を見守るだけで良いんじゃ。そして、問題を起こしそうな輩がおったら歴史から消すだけ」
「もう、何もツッコまねえぞ」
「実を言うと、妾も歴史から消されそうになったのじゃがな」
「お前も何か問題を......そういや、昨日言ってたな。何をやらかしたんだ?」
「やらかしたという程ではない。ただ、世界を壊す魔法を編み出したまでよ」
「うん。それやったら神様に怒られるでしょ」
「妾はただ知的好奇心の赴くままに研究しただけなのじゃがな......」
「昔からやらかし癖は存在していたということか......」
ネイが聖魔の神殿であんなにも目を輝かせていた理由がよく分かった。
こいつ、知りたい試したいと思ったことは、行動に移さずにはいられないやつだ。
「まあ、それで、歴史から消すだけなら簡単な仕事じゃと創界神は思っとったらしいが......」
「なんとなく、問題になってしまったことが分かったぞ。お前を消したら歴史の辻褄合わせがめんどくさくなったとかだろ」
「お主、凄いな。その通りじゃ」
マジか......。外れてると思って言ったんだけどな......
「それで、めんどくさくなったグランウォーカーはどうしたんだ?」
「その頃、人間共は争いを続けるばかりじゃったし、世界丸ごとリセットするか、って考えになったらしい」
「いや、そっちの方がめんどくせえだろ?」
「いや、ただ世界を壊して創り直すだけじゃから実に簡単な作業なのじゃ。歴史とかそういうものは全て、人間にまた構築させればいいし」
「......それで、そんな中でお前は何をやってたんだ」
あまりにも壮大すぎて、話についていけない。
「世界を守る魔法を編み出した。これには、創界神も腹を抱えて笑っとったな」
「神様も笑うのか......」
「まあ、それで。妾の行いに対して、奴は『儂と共に来ないか?』などとぬかしおったのじゃ」
「それで、世界とお前はどうなったんだ?」
「世界は、なんやかんやあって創り直されたな」
「なんやかんやで済ましていい問題じゃねえだろ」
「ちなみに、その世界を壊す作業をやったの妾な」
「......」
お前だったんかーい!
「まあそれで、彼奴と共に、色んな世界を見て、歴史を管理して、っていう今にして思えばつまらないことをやっておったな。ただ、途中で気づいたことがあるのじゃ」
「気づいたこと?」
「妾の体。老いを感じないし、まだ13の時じゃったからな、成長してる感じもなくなった」
「不老不死......」
「そう。それが、妾を6兆年も苦しませた原因」
「6兆年か......。相変わらず、壮大な話だ」
「今の妾にもその呪いは受け継がれておる」
「だろうな」
「ついでに、邪龍教と呼ばれる者共が不死な理由も妾にある」
「そうなのか?」
「妾が邪龍として暴走しとった時にな、最終的にエクセリアと聖王が倒したという話があったじゃろ?」
「ああ、そうだったな」
「倒される際、妾は物凄い傷を負って、妾の血を地上に降らしすぎたんじゃよ」
「......その血を浴びた奴は、不死の力を得られる、ということか」
「うむ。ただ、その血を浴びても、完全なる不死の力はない。奴らは数十回殺せば死ぬ」
「マジで?」
これはヴェルド達に報告するべき内容だ。何回も殺せば死ぬ。手間はかかるが、生き残りを倒す術はある。
「ただ、血を浴びせた本人である妾が斬れば、その血は消えてしまう。邪龍は自分の攻撃なら、自分の血を壊すことができる。じゃから、その血を生産できない教徒共は死ぬのじゃ」
「はぁ、なるほど。でも、お前は結局死ねなかったじゃねえのか?」
「死ねないのは、妾が自分で不死の血を永遠に生産し続けているからじゃ。それと、創界神のせいで死ぬことが許されておらん」
「死ぬことが許されねえって......」
「おかしな話じゃろ?普通、人間なら嫌でも死がやってくるのに、妾にはその死がやって来ない」
「死にたいのか?」
「......死にたいな。お主の手で死ねるのなら、尚良い。でも、お主の滅龍の魔法であれど、妾は死ぬことができない。試してみるか?」
「いや、遠慮しとく。お前がどれだけ死なないと言っても、傷つけるのには抵抗がある」
「臆病な男じゃのう」
「相手がお前だからだよ。仲間を傷つけるなんてできねえよ」
「仲間......か。妾にはそんなもの無いのじゃがな」
「何言ってんだ。お前は俺達の仲間だ」
「......残念じゃが、妾はお主らの仲間にはなれん」
「なんでだよ。今までずっと一緒にいたじゃないか」
「それは、妾がまだまともな状態だったからじゃ」
「今だって、普通に喋って、歩いてってまともな状態だろうが」
「さっきまであんな話をしておったのに、あえて精神面の方で話はしないのじゃな」
「......」
あえて話さないわけではない。それを言ってしまえば、ネイが傷つくだけだと分かっているから。
「分かっておるよ。妾の心は常に不安定な状態にある。今でこそお主と2人きりじゃから何もないが、外で他の奴らと触れ合った時には......」
何か、問題が起きるかもしれない。
ネイはそれを恐れている。
自分が邪龍であり、世界から憎まれてきた存在。
そして、その正体は、既にみなに知れ渡っている。
そこに、死んだはずの自分が現れたら......
「お主でも、妾の恐怖は分かるじゃろ?他人の心が読める妾にとって、表面上でどんなに明るく振る舞われても、心の奥底が筒抜けで見えるのじゃ。そして、あの時のように、我慢してため続けていた妾が壊れる。しかも、今度は邪龍の力が既に備わっておる」
「でも、邪龍を倒したのはお前だ。だから、みんなもそんな目で見ることはーー」
「果たして、どれ程の人間が妾に感謝しておるじゃろうな」
「......」
認めたくないが、ネイに感謝してるやつなど一人もいない。みんな、クロムに対してその念を抱いている。
「だとしても、ここにお前に感謝してる人間がいるんだ!」
俺は、自分に親指を指してそう言う。
「お主だけか?」
「いや、セリカもフウロもエフィも、ヴェルドだって少なからずお前に感謝してる」
「はぁ......なんで、妾がこんな話をしておるのか分かるか?」
「......自分を、認めてほしいから?」
精一杯考えて、その答えを出した。
「そんなわけなかろうが人間!」
「グァッ!」
いきなり、とてつもない魔法で本棚に向けて投げ飛ばされた。
「いきなり......、何するんだ......」
「妾がそんなちっぽけな思いを抱いておるわけなかろうが!」
一瞬で近くにやってきたネイに胸倉を掴まれて投げ飛ばされる。
「妾はお主ら人間が大っ嫌いじゃ!」
ネイの目から、涙が零れ出している。
「何も学ばん、何も知ろうとせん、同じことを繰り返して、挙句の果てには他人のせいにする」
「ガァッ」
今度は、足で腹を蹴られる。
「そんなに、妾が可哀想に見えるか、妾が憎いか!」
ネイに言われて気づいた。
ネイは、哀れみ、蔑み、恐怖、怒り、そういった感情で見られたくなかったのだ。
「なんで、お主がこんなものを持っておるのじゃ」
ネイが、俺が落とした2本のメモリを拾い上げる。
「これが、お主がここに鍵をかけているのにも関わらず入れた理由か......」
ネイが、その2本のメモリを本に戻して、棚に入れる。
「返せ......よ」
「出ていけお主。お主がここに来る理由は無くなった。妾は外には出ん。教徒共が妾にしか殺せれん、だからできるだけ早く連れ出したい。そんな思いは丸見えじゃぞ」
極力考えないようにしていたのに......
「お主ら人間に貸してやる力なんぞどこにもない!お主ら人間は、いつだって自由で、楽しそうで、そして、妾を裏切ってゆく......」
ネイの魔法で強制的に外に追い出される。
「なんで......」
ネイの目から、涙が止めどなく溢れている。
「なんで、みんな、妾を一人残して、先に逝ってしまうのじゃ......」
気づいた。
本当にネイが言いたかったことが分かった。
でも、それはどうしようもない問題だった。
だって......
「俺達は、ただの"人間"だから......」
さっきまで見えていた入口が見えなくなる。
あいつの顔も見えなくなる。
「こんな別れ方、俺は認めねえぞ」
あいつを泣かせたままにしておくわけにはいかない。
もう一度、あいつのところに行って、何か言ってやらねえと......
言葉はすぐには思いつかない。でも、あいつのところに......
「入口が、どこにもない......」
見渡す限りを探したが、どこにもそれらしきものはなかった。
今までは、あのメモリを持っているだけで、謎の空間が見えたというのに......
「鍵をかけているって言ってたな......」
ということは、ツクヨミは鍵をしていなかったから、俺は自然と入ってしまった。
でも、鍵を閉められているのなら、それを開けるための物が必要となる。
「クソッ、ヨミの警告をもっと真剣に考えておくべきだった......」
『ネイに負担をかけるな』
あれは、何も、邪龍との戦いの時だけに限った話ではない。
ずっと、この先も注意していかなければならなかった。
「なんで、あんな無責任なことを言っちまったんだ......」
もっとネイの言葉一つ一つを考えて、ちゃんとした答えを出してやるべきだった。なのに、外に連れ出すことばっかりを考えてしまったせいで......。何が考えるのをやめただ。思いっきり、そんなことを考えていたじゃないか......。
もう、後悔した時には何もかもが手遅れだった。
「俺は......」
何度同じ過ちを繰り返せば学ぶんだ......。本当に、あいつの言っていた通りの鳥頭ではないか......
「ネイ!俺が悪かった!だから、その扉を開けてくれ!」
森中に聞こえるよう、大声を出してそう叫ぶ。
当たり前のことだが、返事など返ってくるわけがない。
「クソッ......」
俺は、地面に向けて拳を振り落とした。
あいつを助けると言ったのに、あいつを連れ出してやると言ったのに、あいつを守ってやると言ったのに......
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エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
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