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第1章 【獣の爪痕】

第1章8 【真相】

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「確か、ディランの部屋はここだったよな?」

 俺はセリカにそう尋ねる。

セリカ「多分、3階にあるドアの大きな部屋だったはずだから、ここ出会ってると思う」

「そうか」

《コンコン》

 俺は自分でも珍しいと思うほどご丁寧にノックをした。

「誰だ?」

 返事が返ってきた。

「俺だ、あんたに確認したいことがあって来た」

ディラン「入れ」

 ディランが入室を許可してきた。

 今朝までとはまるで違う口調だ。なんかあるな、こりゃ。

 ただの勘だが、俺はそう思った。

「入るぞ」

 そう言ってから俺はドアを開ける。

ディラン「確認したいことがあるって言ってたな。とりあえず座れ」

セリカ「あ、はい」

 セリカはそのまま促されるままにソファに腰掛けようとしたが、俺はそれを手で止めた。

セリカ(どうしたの?)

(いいから立ったまま聞いてろ)

 セリカは俺の言葉の意味が分からないらしいが、まあここら辺は新人だからだ。長い間色んな仕事をしていると、相手の放つ匂いで危険かどうかが分かるようになる。

「確認したいことってのはそんな難しい事じゃねえ、ただ、あんたが今回の事件の首謀者なのかどうか知りたいだけだ」

 俺は隠すこともなくド直球にそう聞いた。

ディラン「フッ、どうしてそう思うんだ?」

「理由は幾つかある。まず第一に何故あんたはエフィが森の中にいると思ったんだ?」

 あの時は特に疑問に感じなかったが、俺はヴェルドやセリカとの話から疑問に思ったことを問う。

ディラン「それは......」

 ディランはどう返すべきか悩んでいるようだ。

「他にもある。なんで、村の警備隊は誰一人として動いてないんだろうな?」

ディラン「それは、集めるのに時間がかかったからな」

 苦しい言い訳だ。警備隊なんてもんは1つも動いてない。

「そうか、じゃあ最後に1つ」

 俺は人差し指を立てながらディランの前まで近づく。

「なんで、そこにフウロの剣が置いてあるんだ?」

 俺はディランの後ろに置いてある剣を指さしながら言う。

ディラン「何を言う。これは私の剣だ」

「本当か?フウロはな、自分の剣に必ず紋章を入れてるんだよ」

ディラン「チッ」

 ディランが舌打ちをした。

 それは今までのが嘘だったと言っているようなものだ。

ディラン「なぜ分かった?」

 ディランが俺を睨みながら言う。

「剣に紋章を入れてるなんて言ったけどあれは嘘だ。ただお前がバカで助かったよ」

 適当についた嘘だったが、効果は抜群でボロを出してくれた。後はディランを捕まえて尋問すれば終わりだ。

 俺はそう思っていた。

ディラン「ふん、仕方ない」

 ディランは諦めたように椅子に腰掛けた。

「あれはな、6年程前だ。私はその時から村の村長をやってた」

 ディランが昔話を話すように語りだした。

ディラン「ある日の事だ。村を魔獣が一斉襲ってきたんだ王国騎士団がやって来てな。騒ぎはすぐに鎮圧出来たんだが......」

セリカ「エフィのお母さんが傷ついた魔獣達を助けてたんですね」

ディラン「なぜ、知っているのか、と聞きたいところだが、その通りだ。その女性は傷ついた魔獣達を助けようとして自分の命を落とした。つくづく馬鹿なヤツだ」

セリカ「そんな事ない!」

 セリカが俺より1歩前に出て大きな声を出した。

ディラン「ふん、威勢のいい女だ。ただな、あの時に起きた魔獣騒ぎは私が起こしたものではないが、今回のことは私がした事だ」

ヴェルド「ちっ、分かってたことだが、なんでそんな事をした」

 ヴェルドが問いかけた。

ディラン「ただ、力を試したかっただけだ」

ヴェルド「力を......試したかった?」

 ヴェルドが聞き返した。

ディラン「そうだ、私は丁度去年の暮れの頃にとある人物から絶大なる力を貰った」

 そう言うとディランは机の引き出しから小さな箱のようなものを出した。

ディラン「この力があれば私は王になれる。誰も逆らうことができない魔王にな」

 そう言うとディランはその小さな箱を開け、中にあった長方形で小さな箱のようなものを体に突き刺した。

ディラン「これはグランメモリ、または記憶の欠片と言ってな、ただの人間である私にもお前らを超える超人的な力をさずけてくれるのだ!」

 ディランがそう言うとディランの体がみるみる獣の姿に変わっていく。

《モンスター》

 グランメモリと呼ばれた物から音がした。

「離れろセリカ!」

 俺はそう叫び、セリカの体をこちら側に引き戻そうとする。

「きゃぁぁぁ」

 だが、もう手遅れで、セリカは化け物になったディランの腕の中だった。

ヴェルド「セリカを離せ!」

 ヴェルドが叫ぶ。

ディラン「この娘は人質として預かっておこう」

 魔獣の姿になったディランはそのままセリカを抱え、窓から外に飛び出す。

ヴァル「待てゴルァ!」

 俺はそう叫びながらディラン目掛けて炎の拳を打つが1歩手前で当たることは無かった。

「クソっ!」

 もう、ディランの姿は見えなくなっていた。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

セラ「セリカ様がさらわれた!?」

 セラが大きな声で言う。

「あぁ」

ジン「……しかし、やはりディラン様が真犯人だったとは......」

 ジンが溜息をつきながら言う。

 その気持ちは痛いほどに分かる。今まで信じて付いて行った奴が黒幕だったんだ。そりゃ、どうしたらいいか分からなくなる。

セラ「ディラン様がどこに行ったか分かりますか?」

 セラが尋ねてくる。

「飛んだ方向から見て、多分、森の中だ」

セラ「となると、救出しようと迎えば魔獣達が襲いかかってきますね。しかも、その魔獣はディラン様が作り、操っているもの......」

ヴェルド「村の警備隊はどれくらいの強さがあるんだ?」

 ヴェルドが尋ねる。

ジン「総勢20名ほど、力はヴァル様が1人で戦ってるのと同じくらいの強さかと思われます」

「そんなに弱ぇのか?」

 俺はついつい本音を言ってしまう。

セラ「とても、あの魔獣達に立ち向かえるような連中ではありません」

「チッ、フウロが戦える状況だったら......」

フウロ「呼んだか?ヴァル」

 いつの間にかフウロが俺の後ろに立っていた。

「うぉっ!?大丈夫なのか?お前」

フウロ「何を言う。私はそんな簡単にくたばらん」

「フウロ様、今は少しでも休んでてください」

フウロ「そうする訳にはいかん。なんせ、私が寝ぼけている間にセリカがさらわれたらしいからな。今すぐにでも森の中に向かおう」

「無茶するなって言いてえところだけど今は少しでも戦力が欲しい」

ヴェルド「ここまで来たら行くしかねえな」

セラ「では、私共も御一緒します」

「そう言って貰えると助かる。何としてでもセリカを助け出すぞ」

ヴェルド「おう!」
フウロ「あぁ」

 ヴェルドとフウロは俺の掛け声に剣と拳を挙げて返事をする。

フウロ「ところで、黒幕がディランだったって話は本当か?」

 フウロが俺の方を向いて問いかけてくる。

「あぁ、ただあいつは『グランメモリ』とかいうのを使って自分の体を魔獣の姿に変えた」

フウロ「グランメモリ......うちのギルド名と一緒だな」

「確か、『グランメモリーズ』ってのは『神々の記憶の元に集まった仲間』とかいう意味で付けられたらしいんだよな?」

フウロ「先代の話ではそうなっている。グランメモリ、『神々の記憶』というわけか......」

ヴェルド「まあ、何でもいい。要は奴をぶっ飛ばしてセリカを助ければいいんだろ」

 ヴェルドが正に的を得た発言をする。

「そうだな」

セラ「森の中には魔獣が構えているはずです。気をつけて行きましょう」

 戦闘用に衣装を整えてきたセラが俺達の話に割って入ってきた。

 何にしてもセリカを助け出す。そして、ディランを捕まえれば全てが終わる。



 俺はそう思っていた。まさか、『グランメモリ』なんてもんが後々ずっと引っ張り続けられる物になるとも知らずにーー
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