僕のΩは案外可愛い?

らんね

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6 ご飯が美味しいなんて

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香坂は料理上手だった。
 朝からご飯に味噌汁、卵焼きが出てきたのに驚く。「なんもねぇ」とか言って冷凍のおかずが出てきたけれど、それでもこんな和定食みたいなのをササッと用意するとか、尊敬するわ。卵焼きとかすげぇキレイだし。僕、料理はセンスがないし興味も向かないから、米を炊飯器にセットするくらいしかできんわ。

「いただきます」
「ありがたく食え」

味噌汁の塩味もちょうどいいし、卵焼きがフカフカだ。マジですげぇな香坂よ。聞けば、なんでも従兄の店で最初は調理補助で入ったのに、いつからかバーテンもさせられているんだってさ。将来飲食の店を持ちたいらしくて、そのために今の店で勉強中なんだとか。

「将来のこと、考えてんなぁ」
「っていうか、Ωだとそれが一番確実だろ?」
「搾取されたくなかったら、自分が社長になるのが一番ってか」
「そういうことだ」

僕がふむふむと頷きながら味噌汁を味わうのを、香坂はジトリと睨んでくる。

「……Ωで可哀想とか言っていると、ブン殴るからな」
「言ってないじゃん、将来設計がはっきりしているのを褒めたんじゃん!」

そういうの、被害妄想って言うんだぞからな! 僕が不満を表してふくれっ面をしていると、香坂は「ならいい」と引いてみせた。

「ソッチこそ、今なにしてんだよ?」
「僕? 経済学部でさ、在学中に税理士と司法書士の資格を取るつもり。今は先輩の事務所でバイトしているけど、卒業したらそのうち独立するし」

僕は自慢ではないがどんなにオーラが無くてもαなので、勉強はできるし自頭もいいのだ。ただ興味がないことにはとことんやる気を見せないのが玉に瑕だと、両親からよく言われる。
 そんな近況報告を交わしていると、玄関の方で物音がした。

「おぉい怜ぃ、なんか作ってんなら俺の分~!」

どっかで聞いたことがあるような声だと思ったら、ドタドタと足音を慣らして現れたのは、昨夜のあのニイチャンだった。香坂の従兄さんな。あと、余計なお世話をして僕らをこの部屋に押し込めた張本人。
 僕たちが二人で食事をしているのを見て、従兄さんがニヤァと笑った。

「仲良くしていたみたいだなぁ? 気ぃ利かせてラブホ行ってた俺に感謝しろ!」
「もともとの予定だったくせに、恩着せがましいんだよ!」

従兄さんの言い草に、香坂がガンギレしている。

「可愛くないヤツだなぁ~!」

しかしそんな香坂をものともせずに、グリグリと頭を撫でる従兄さんに、香坂が「やめろ!」と払いのけている。

「てかお前、ヒートのわりに異様に元気そうじゃん?」
「……今、薬が効いているからな」
「あぁ、前島クンのチンポっていう薬ぃ?」

 ドカッ!

 従兄さんのお下品発言に、香坂がとうとうケリを入れた。けどこれは僕も庇えないかな、言い方っていうのがあるじゃん? たとえその通りだとしてもさぁ。そしてちゃんと従兄さんの分も用意しているあたり、香坂は案外お人よしだ。
 まあ従兄さんが言う通り(僕のチンポが薬になったかはおいとくとして)、今なら抑制剤が効いているのは本当だし、出かけるなら今しかない。まだ病院が開く時間じゃないけれど、叔父さん診てくれるかな?


そんなわけで。
 スマホで連絡を取ると、叔父さんは「さっさと来い」と命令してきた。やっぱり、怒られるパターンだよ。
 けれど説教も仕方ないと腹を括って、香坂を叔父さんの医院に連れて行くことにした。香坂は病院に行くのが嫌そうだったけれど、避妊薬を貰うためだとこちらも腹を括ったようだ。

「個人医院だし、他の患者はいないようにするってさ」

説明してからタクシーに乗って、叔父さんの医院へ向かう。
 到着したら、医院の入口ではなくて、裏の自宅玄関の方を訪ねる。すると待ち構えていた叔父さんが出迎えてくれた。

「叔父さん、こっちは香坂、高校のクラスメイトね」
「……どうも」
「その子の叔父で産婦人科医、Ω診療もしている。さあ、来なさい」

お互いに自己紹介をしたところで、玄関から医院側へ通されたのは香坂だけだ。僕はこちらで待つことにする。

「大丈夫、叔父さんは優しい人だから」

一瞬不安そうにする香坂を、僕はそう励まして送り出した。
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