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五話
“赤い女"
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チリリーン
「やっほー!お邪魔しまーす!」
昼になってユウキが現れた。ユウキの底抜けの明るさのおかげで店内が一気に明るくなる。
「ユウキ、わざわざありがとな」
寝起きの俺はカウンター席でコーヒーを飲みながら出迎えた。
「えへへ!ここがライがお世話になってるとこか~思ってたより広いし綺麗だね!店長さんに挨拶しなくていい?」
「まだ寝てるし後で俺から言っとく。ユウキもコーヒー飲むか?」
「えーライにお酒作ってほしいなー」
「未成年だろが」
どこに未成年に酒をすすめるスナックがあるんだ。問答無用でコーヒーをいれてると横から奪われた。
「私が持っていこう」
ユウキはフィンの姿をみて顔をしかめる。
「げげっ今日はこの人もいるんだ…」
「ようこそ、狐の子」
「あざっす…」
フィンはにこにこと笑顔を浮かべているが目は笑っていない。
「ごゆっくり」
「~!!」
ユウキはコーヒーを受け取ったあと逃げるように俺の前(カウンター席)に移動してくる。ひそひそと耳打ちしてきた。
「俺ってあの人に嫌われてるよね~…」
「まあ、出会い方が悪かったしな」
「あっはは」
俺をさらった時点で良い印象は抱かないだろう。いや、普通に接してる俺の方がおかしいのか。
「それで?例の不良くんはどこ?」
「奥で寝てる」
ユウキを控え室に連れていく。不良学生はソファベッドに横たわっていた。あれから一向に目を覚ます気配がなく今も寝たきりだった。
(どこか怪我してるわけでもねえし、単純に疲れてるだけと思いたいが)
学生の顔を見たユウキが「なーんだ」と呟いた。
「店に引き取られてた奴って山田だったのか」
「?」
「ほら、不良の中にクラスメイトが一人いるって言ったでしょ。それが山田。目の前のこいつだよ」
「なるほど唯一の知り合いってわけか」
「うん。引き取るのはいいけど山田の住所わかんないよ」
「クラスメイトに聞くとかできねえのか」
「友達いないって言ってる俺にそれ言う~?」
ユウキはけらけらと笑った後ふと真剣な顔になった。
「くんくん。なんか山田から血の匂いするね」
「え、そうか?少し火傷はしてるがほとんど怪我はしてないと思うが」
「いや、軽い怪我でつく匂いじゃないなあ…」
俺にはさっぱりだったがフィンも同意するように頷く。
「血の匂いは昨日からずっとしてる。普通に生活していて付着するレベルのものではない。何かに追われていた様子だったしその者の匂いの可能性があるな」
追われていたって何に追われてたんだよ。あんな夜中の暗い路地で何に追われるってんだ。怖いこと言わないでくれ。
「気絶する前に“赤い女"と呟いてなかったか?」
「あ、そういや言ってたな…」
昨日店の外で嫌な視線も感じたし、不良学生を追いかけて“赤い女"がまだ近くにいたりして。
(まさか…幽霊か…??)
想像してブルルっと身震いする。
「“赤い女"?」
ユウキが首を傾げながらスマホを操作する。しばらくするとハッと顔を上げた。
「これだ!一週間前の切り裂き事件!」
画面にはとあるニュースが流れていた。被害者は全身が切りつけられ死亡した状態で発見。犯人はまだ捕まっていないようで特徴が載っていた。
「犯人は小柄な若い女性で服装は赤いワンピースだって」
「赤いワンピースだから“赤い女"か…」
使われた凶器は不明だが鋭利な刃物を所持してる可能性が高く、近隣の小中学校は一時的に閉鎖しているらしい。
(一週間前といえば俺とフィンが水族館に行っていた頃だ)
やけにパトカーが多かったのはそのせいか。出くわさなくてよかったと胸をなでおろす。
「“赤い女"は足が速すぎるとか、目が合うと死ぬとか…噂では色々言われてる。“赤い女"っていうネーミングの不気味さも相まってホラーだよね~」
「それっぽすぎるだろ…噂じゃなくてちゃんとした記事はないのか」
「ちょっと待ってね。調べてみる。うーん。だめだな。この切り抜き以外残ってないや」
「元になったニュースもか?」
「うん。死亡事件としてニュースになったときは結構騒がれてたんだけど翌日からは全然流れなくなったし。こりゃ意図的に消されてんねえ~」
「匂うなあ」と悪い笑みを浮かべるユウキ。悪巧みの申し子であるユウキを喜ばせるのだ。かなりきな臭い話なのだろう。
「ちょっと失礼~」
ユウキが寝ている山田の服をあさり始めた。
「大体こういう所に隠すんだよなあ…んん?」
焦げた学生服から名刺のようなものが出てくる。表には「PAPILLON」と書かれていた。
「PAPILLON?」
「有名なホストクラブだね。系列店も結構ある」
「ホストクラブ??なんで山田がホストクラブの名刺を持ってるんだ??いや、そもそもどうしてお前がホストクラブに詳しいんだ」
「そりゃまあ、家の事情でね」
「ああ…(ヤクザの…)」
「俺はさておき山田が名刺を持ってる理由は謎すぎるよ。そんなキャラじゃなさそうだし」
“赤い女"、血の匂い、ホストクラブのトリプルコンボだ。きな臭いどころではない。絶対に何か巻き込まれてるだろう。
「見に行ってみる?」
「え?」
「だから、このホストクラブに行ってみない?って言ったの」
「はあ?!」
「だって手がかりっぽいの名刺だけじゃん。実際に行ってみたら何かわかるかもよ」
「それはそうだが…」
「山田が“赤い女"に追われてたとしたら他の四人は奴に捕まって逃げ出せない状況って考えるのが自然でしょ。そこまで知っちゃったら流石に見ないふりはできないって。どうせ警察は当てにならないしさ~」
「警察がか?こういう時こそ出番のはずだろ」
「狐の子の言う通りだぞ、ライ。報道規制されているなら警察も圧力をかけられてる可能性が高い。誰が圧力をかけてるかは知らないが…内々に“赤い女"を処理したいのだろう」
「圧力って、…」
(圧力をかけてる誰かに心当たりがあるのか?)
浮かんだ疑問を無理やり飲み込んだ。今はフィンと言い合いしてる場合じゃない。
「つまり、俺らが動くしか四人を助ける方法がないってことか」
「うん。面倒くさいけどそうなるね。圧力かけてる奴らがスーパーヒーロー並みに正義感のある奴だったら、“赤い女"の処理ついでに助けてくれるかもだけど」
「逆に口封じのために殺される可能性もある」
ユウキが言わずにおいた言葉をフィンが言った。重苦しい空気に包まれる。
じっ
ソファベットで寝てる山田をみた。彼らは体は大きくてもまだ子供だ。何故そんな面倒事に頭を突っ込んだのかわからないがここまできて知らん顔はできないだろう。
「…わかった。ホストでもなんでも行ってやろうじゃねえか」
「よっしゃ~!これで今日もライとお出掛けできる~!!」
「なっ…!おいそれが目的じゃないだろうな??」
「えー?あはは~」
「ったく…」
呆れてると横からフィンが割り込んできた。俺の肩に回されていたユウキの腕を無言で引き剥がす。
「もちろん私も行くからな」
そういってユウキと睨みあう。バチバチと二人の間に火花が散っているのが見えた。
「で、山田はどうする?店に寝かしておいて三人でホストクラブに行くか?それとも一人残ってお守りするか」
「ええっ俺ライとじゃなきゃ嫌だよ」
「まさか私を置いていくつもりではあるまい?」
二人が同時に言い寄ってくる。俺が一人残るのも、どちらか片方が行くのも許されないらしい。
(かといって山田を一人にさせるのもなあ…)
一人になった所を狙われる事も十分にありえる。何より起きた時に山田がどんな行動するか読めないのでなるべく一人にさせたくない。
ガチャリ
「その子はあたしが引き受けるワ」
グレイが私室の扉を開けて顔を出した。まだダルそうだが昨日よりは回復しているようだ。顔色がいい。
「グレイ…!」
「すやすや寝てたらあんた達の声が聞こえて起きちゃったじゃないノ」
「わ、悪い…」
「冗談ヨ。とりあえずこの子を店で預かっておけばいいんデショ。子供一人隠すぐらいならできるから安心シテ」
「大丈夫かよ…そんな体で…」
「これぐらい平気ヨ。昨日助けてもらったし、今日はお休みだから余裕ヨ。任せてチョーダイ」
「ありがとな…グレイ」
病み上がりに申し訳ないが、グレイがいてくれるなら安心だ。
「そっちこそ変な事件に巻き込まれて死なないでヨ?あんた達に任せたい仕事がたくさんあるんだから」
「ああ、わかってる」
いってらっしゃいと見送られる。そんなこんなで俺たちは謎面子(三人)でホストクラブに行く事になったのである。
***
PAPILLONというホストクラブは系列店として全国的に展開されていた。ホストクラブの中でもかなりの大手らしい。県内にも何店舗かあったがひとまず名刺に書かれた住所の店舗に向かう事にした。
「営業時間まで時間があるしなんか食べにいく~?」
ユウキの言う通り繁華街の奥にPAPILLONはあるのだがまだ夕方なので入る事ができない。簡単に周りを調べてみたが学生たちの足取りはつかめず。中に入る必要があるという結論が出て終わった。
「そうだな。あと一時間か…」
フィンの方をみた。フィンはやけにピリピリしていて店で落ち着いて食事するという感じではない。
「…出店で軽く買ってベンチで食うか」
「いいね!じゃあ辛いの食べたい!辛い唐揚げ!ポテトも!」
「わかったわかった」
繁華街のいくつかの店に向かう。最近流行りなのか辛い系がとにかく多い。ユウキが「一番辛いやつ」とうるさいので言われるまま激辛を購入する。店の前は混雑してるので隣接してる大きめの公園に移動した。
「ユウキ、激辛食えんのか?」
「もちろん!俺辛いの大好きなんだよね~ぱくっ!うま!から~!最高!」
「おい、ソース溢すなよ」
「子ども扱いし…ああー!!服に!!」
「ほら言わんこっちゃない。あーあ、一回洗ってこいよ。拭くだけじゃ落ちねえぞこれ」
「ええ~~んもー~~!」
公園の手洗い場に走っていくユウキ。それを見送ってからため息をつく。賑やかな奴だ。気を取り直して、横にいるフィンに唐揚げを差し出した。
すっ
フィンはきょとんとこちらを見てくる。
「ライ?これは?」
「激辛の唐揚げ。フィンも買ってるの見てただろ」
「すまない…考え事をしていた」
「…」
さっきからフィンは心ここにあらずという感じだった。
(何を考えてるんだか…)
俺は追及したい気持ちを抑え、唐揚げの方に視線を移す。今朝からフィンは食事をしていない。というか昨日も忙しくて食べれてなかったし、一日まともに食べれてないはず。
(フィンに倒れられたら困る)
箸で唐揚げを掴んでフィンの方に持って行った。フィンは瞬きを繰り返しながら俺と唐揚げを交互に見ている。
「ら、ライ…?!」
「俺の唐揚げが食えねえのか?(作ってないけど)」
「…い、ただこう」
観念したのか大人しく口を開けた。ソースを溢さないように気を付けつつ唐揚げを放り込んだ。もぐもぐと咀嚼するフィン。頬が膨らんでてリスみたいで可愛い。
「…美味しい」
「そりゃよかった。辛いの平気なんだな」
「ああ。刺激的で気に入った」
「ははっ」
好物になったらしい。お代わりを求めるように口を開けてくる。「自分で食えよ」と笑いながらもう一つ放り込んでやった。もぐもぐと美味しそうに噛みしめている。リスの餌やりしてるみたいで俺も楽しくなっていたのは内緒である。
「口についてるぞ」
フィンの唇の端にソースがついていた。指で拭いてやると
ぺろり
その指先をフィンに舐められた。
「なっ…!!!」
「辛いな」
ちゅっ
再度舐められ、指先を吸われる。びくりと体が揺れた。綺麗になった指とフィンの唇に糸が引いていて目が離せない。
「~~!!おいっ!フィン!」
「ソースを舐めただけだ」
何も問題はあるまい?と涼しい顔で言う。俺は顔を赤くしながら睨みつけた。
(この…!イケメンだからって!何でも許されると思ってんな…!!)
実際俺も恥ずかしさはあってもちょっと喜んでしまっていたから同罪なのである。
「ねえ~!!ライ~!俺やばい事に気付いちゃったんだけど!」
そこでユウキが洗い場から戻ってきた。何やら慌てた様子である。
「なんだよやばい事って」
「ほら!俺未成年だからホストクラブ入れなくない?!」
「ああそうか、忘れてたな」
そもそも男だし全員入れないんじゃ…と嫌な予感はしたが。とにかく学生服で未成年丸出しの状態では入れてもらえないのは確実だろう。
「やだよ俺だけ置いてけぼりとか!変化してくるからちょっと待ってて!」
そう言ってトイレに消えていく。変化したところで未成年の中身は変わらないため法律的にはアウトなのだが、見た目上はセーフなのだろうか。1分後、背の高い男が現れた。こちらに近寄ってくる。
「じゃじゃーん」
「ユウキ…その格好はなんだ」
「え?格好いいでしょ?そろそろ時間だし行こー!」
「あ、おい!ったく…」
そう言って繁華街に戻っていくユウキ。俺たちはそれを無言で追いかけた。
「申し訳ありません。男性のお客様のみでのご入場はお断りしております」
「ええ~~!!」
「ほら、言わんこっちゃねえ」
入り口に立っていたスタッフに三人全員追い返されてしまった。やれやれと頭を抱える。
「なんでダメなんだよ~!こんなイケメンなのに!」
「いや男だからだろ」
「ええー?」
不満げに口を尖らせるユウキはハリウッドとかに出てきてもおかしくないダンディなイケオジに変化していた。フィンと並べるレベルのイケメンとなるとこっち系しかなかったのだろうか。いや、そんな事ないだろう。単純にユウキの好みなのだろうか。どっちにしてもテレビの中にしかいなさそうな国宝級イケメン二人連れてて入れるわけがない。普通に怪しすぎる。
「ったく、女性に変化してくれたら入れたかもしれねえのに」
「それは嫌だ!俺、ライの前では絶対女にならないからね!」
「はあ?なんだよその意地…」
「ぷいっ」
腕を組んだままそっぽ向くユウキ。イケオジの姿でやられるとなかなか笑える。
「お前なあ…」
「ライ、そこまでにしてやれ」
「!」
「人にはそれぞれ見せたい姿があるものだ」
「おおう…」
珍しくフィンがカバーに入ってきた。意外すぎてユウキへの文句が飛んでいく。
「あれ?そこにいるの…ボンキで見かけたお客様じゃないですか」
「!」
声をかけられ振り返る。すると、ボンキで襲ってきたメデューサ店員が立っていた。まさかの登場に目を見開く。
「やっほー!お邪魔しまーす!」
昼になってユウキが現れた。ユウキの底抜けの明るさのおかげで店内が一気に明るくなる。
「ユウキ、わざわざありがとな」
寝起きの俺はカウンター席でコーヒーを飲みながら出迎えた。
「えへへ!ここがライがお世話になってるとこか~思ってたより広いし綺麗だね!店長さんに挨拶しなくていい?」
「まだ寝てるし後で俺から言っとく。ユウキもコーヒー飲むか?」
「えーライにお酒作ってほしいなー」
「未成年だろが」
どこに未成年に酒をすすめるスナックがあるんだ。問答無用でコーヒーをいれてると横から奪われた。
「私が持っていこう」
ユウキはフィンの姿をみて顔をしかめる。
「げげっ今日はこの人もいるんだ…」
「ようこそ、狐の子」
「あざっす…」
フィンはにこにこと笑顔を浮かべているが目は笑っていない。
「ごゆっくり」
「~!!」
ユウキはコーヒーを受け取ったあと逃げるように俺の前(カウンター席)に移動してくる。ひそひそと耳打ちしてきた。
「俺ってあの人に嫌われてるよね~…」
「まあ、出会い方が悪かったしな」
「あっはは」
俺をさらった時点で良い印象は抱かないだろう。いや、普通に接してる俺の方がおかしいのか。
「それで?例の不良くんはどこ?」
「奥で寝てる」
ユウキを控え室に連れていく。不良学生はソファベッドに横たわっていた。あれから一向に目を覚ます気配がなく今も寝たきりだった。
(どこか怪我してるわけでもねえし、単純に疲れてるだけと思いたいが)
学生の顔を見たユウキが「なーんだ」と呟いた。
「店に引き取られてた奴って山田だったのか」
「?」
「ほら、不良の中にクラスメイトが一人いるって言ったでしょ。それが山田。目の前のこいつだよ」
「なるほど唯一の知り合いってわけか」
「うん。引き取るのはいいけど山田の住所わかんないよ」
「クラスメイトに聞くとかできねえのか」
「友達いないって言ってる俺にそれ言う~?」
ユウキはけらけらと笑った後ふと真剣な顔になった。
「くんくん。なんか山田から血の匂いするね」
「え、そうか?少し火傷はしてるがほとんど怪我はしてないと思うが」
「いや、軽い怪我でつく匂いじゃないなあ…」
俺にはさっぱりだったがフィンも同意するように頷く。
「血の匂いは昨日からずっとしてる。普通に生活していて付着するレベルのものではない。何かに追われていた様子だったしその者の匂いの可能性があるな」
追われていたって何に追われてたんだよ。あんな夜中の暗い路地で何に追われるってんだ。怖いこと言わないでくれ。
「気絶する前に“赤い女"と呟いてなかったか?」
「あ、そういや言ってたな…」
昨日店の外で嫌な視線も感じたし、不良学生を追いかけて“赤い女"がまだ近くにいたりして。
(まさか…幽霊か…??)
想像してブルルっと身震いする。
「“赤い女"?」
ユウキが首を傾げながらスマホを操作する。しばらくするとハッと顔を上げた。
「これだ!一週間前の切り裂き事件!」
画面にはとあるニュースが流れていた。被害者は全身が切りつけられ死亡した状態で発見。犯人はまだ捕まっていないようで特徴が載っていた。
「犯人は小柄な若い女性で服装は赤いワンピースだって」
「赤いワンピースだから“赤い女"か…」
使われた凶器は不明だが鋭利な刃物を所持してる可能性が高く、近隣の小中学校は一時的に閉鎖しているらしい。
(一週間前といえば俺とフィンが水族館に行っていた頃だ)
やけにパトカーが多かったのはそのせいか。出くわさなくてよかったと胸をなでおろす。
「“赤い女"は足が速すぎるとか、目が合うと死ぬとか…噂では色々言われてる。“赤い女"っていうネーミングの不気味さも相まってホラーだよね~」
「それっぽすぎるだろ…噂じゃなくてちゃんとした記事はないのか」
「ちょっと待ってね。調べてみる。うーん。だめだな。この切り抜き以外残ってないや」
「元になったニュースもか?」
「うん。死亡事件としてニュースになったときは結構騒がれてたんだけど翌日からは全然流れなくなったし。こりゃ意図的に消されてんねえ~」
「匂うなあ」と悪い笑みを浮かべるユウキ。悪巧みの申し子であるユウキを喜ばせるのだ。かなりきな臭い話なのだろう。
「ちょっと失礼~」
ユウキが寝ている山田の服をあさり始めた。
「大体こういう所に隠すんだよなあ…んん?」
焦げた学生服から名刺のようなものが出てくる。表には「PAPILLON」と書かれていた。
「PAPILLON?」
「有名なホストクラブだね。系列店も結構ある」
「ホストクラブ??なんで山田がホストクラブの名刺を持ってるんだ??いや、そもそもどうしてお前がホストクラブに詳しいんだ」
「そりゃまあ、家の事情でね」
「ああ…(ヤクザの…)」
「俺はさておき山田が名刺を持ってる理由は謎すぎるよ。そんなキャラじゃなさそうだし」
“赤い女"、血の匂い、ホストクラブのトリプルコンボだ。きな臭いどころではない。絶対に何か巻き込まれてるだろう。
「見に行ってみる?」
「え?」
「だから、このホストクラブに行ってみない?って言ったの」
「はあ?!」
「だって手がかりっぽいの名刺だけじゃん。実際に行ってみたら何かわかるかもよ」
「それはそうだが…」
「山田が“赤い女"に追われてたとしたら他の四人は奴に捕まって逃げ出せない状況って考えるのが自然でしょ。そこまで知っちゃったら流石に見ないふりはできないって。どうせ警察は当てにならないしさ~」
「警察がか?こういう時こそ出番のはずだろ」
「狐の子の言う通りだぞ、ライ。報道規制されているなら警察も圧力をかけられてる可能性が高い。誰が圧力をかけてるかは知らないが…内々に“赤い女"を処理したいのだろう」
「圧力って、…」
(圧力をかけてる誰かに心当たりがあるのか?)
浮かんだ疑問を無理やり飲み込んだ。今はフィンと言い合いしてる場合じゃない。
「つまり、俺らが動くしか四人を助ける方法がないってことか」
「うん。面倒くさいけどそうなるね。圧力かけてる奴らがスーパーヒーロー並みに正義感のある奴だったら、“赤い女"の処理ついでに助けてくれるかもだけど」
「逆に口封じのために殺される可能性もある」
ユウキが言わずにおいた言葉をフィンが言った。重苦しい空気に包まれる。
じっ
ソファベットで寝てる山田をみた。彼らは体は大きくてもまだ子供だ。何故そんな面倒事に頭を突っ込んだのかわからないがここまできて知らん顔はできないだろう。
「…わかった。ホストでもなんでも行ってやろうじゃねえか」
「よっしゃ~!これで今日もライとお出掛けできる~!!」
「なっ…!おいそれが目的じゃないだろうな??」
「えー?あはは~」
「ったく…」
呆れてると横からフィンが割り込んできた。俺の肩に回されていたユウキの腕を無言で引き剥がす。
「もちろん私も行くからな」
そういってユウキと睨みあう。バチバチと二人の間に火花が散っているのが見えた。
「で、山田はどうする?店に寝かしておいて三人でホストクラブに行くか?それとも一人残ってお守りするか」
「ええっ俺ライとじゃなきゃ嫌だよ」
「まさか私を置いていくつもりではあるまい?」
二人が同時に言い寄ってくる。俺が一人残るのも、どちらか片方が行くのも許されないらしい。
(かといって山田を一人にさせるのもなあ…)
一人になった所を狙われる事も十分にありえる。何より起きた時に山田がどんな行動するか読めないのでなるべく一人にさせたくない。
ガチャリ
「その子はあたしが引き受けるワ」
グレイが私室の扉を開けて顔を出した。まだダルそうだが昨日よりは回復しているようだ。顔色がいい。
「グレイ…!」
「すやすや寝てたらあんた達の声が聞こえて起きちゃったじゃないノ」
「わ、悪い…」
「冗談ヨ。とりあえずこの子を店で預かっておけばいいんデショ。子供一人隠すぐらいならできるから安心シテ」
「大丈夫かよ…そんな体で…」
「これぐらい平気ヨ。昨日助けてもらったし、今日はお休みだから余裕ヨ。任せてチョーダイ」
「ありがとな…グレイ」
病み上がりに申し訳ないが、グレイがいてくれるなら安心だ。
「そっちこそ変な事件に巻き込まれて死なないでヨ?あんた達に任せたい仕事がたくさんあるんだから」
「ああ、わかってる」
いってらっしゃいと見送られる。そんなこんなで俺たちは謎面子(三人)でホストクラブに行く事になったのである。
***
PAPILLONというホストクラブは系列店として全国的に展開されていた。ホストクラブの中でもかなりの大手らしい。県内にも何店舗かあったがひとまず名刺に書かれた住所の店舗に向かう事にした。
「営業時間まで時間があるしなんか食べにいく~?」
ユウキの言う通り繁華街の奥にPAPILLONはあるのだがまだ夕方なので入る事ができない。簡単に周りを調べてみたが学生たちの足取りはつかめず。中に入る必要があるという結論が出て終わった。
「そうだな。あと一時間か…」
フィンの方をみた。フィンはやけにピリピリしていて店で落ち着いて食事するという感じではない。
「…出店で軽く買ってベンチで食うか」
「いいね!じゃあ辛いの食べたい!辛い唐揚げ!ポテトも!」
「わかったわかった」
繁華街のいくつかの店に向かう。最近流行りなのか辛い系がとにかく多い。ユウキが「一番辛いやつ」とうるさいので言われるまま激辛を購入する。店の前は混雑してるので隣接してる大きめの公園に移動した。
「ユウキ、激辛食えんのか?」
「もちろん!俺辛いの大好きなんだよね~ぱくっ!うま!から~!最高!」
「おい、ソース溢すなよ」
「子ども扱いし…ああー!!服に!!」
「ほら言わんこっちゃない。あーあ、一回洗ってこいよ。拭くだけじゃ落ちねえぞこれ」
「ええ~~んもー~~!」
公園の手洗い場に走っていくユウキ。それを見送ってからため息をつく。賑やかな奴だ。気を取り直して、横にいるフィンに唐揚げを差し出した。
すっ
フィンはきょとんとこちらを見てくる。
「ライ?これは?」
「激辛の唐揚げ。フィンも買ってるの見てただろ」
「すまない…考え事をしていた」
「…」
さっきからフィンは心ここにあらずという感じだった。
(何を考えてるんだか…)
俺は追及したい気持ちを抑え、唐揚げの方に視線を移す。今朝からフィンは食事をしていない。というか昨日も忙しくて食べれてなかったし、一日まともに食べれてないはず。
(フィンに倒れられたら困る)
箸で唐揚げを掴んでフィンの方に持って行った。フィンは瞬きを繰り返しながら俺と唐揚げを交互に見ている。
「ら、ライ…?!」
「俺の唐揚げが食えねえのか?(作ってないけど)」
「…い、ただこう」
観念したのか大人しく口を開けた。ソースを溢さないように気を付けつつ唐揚げを放り込んだ。もぐもぐと咀嚼するフィン。頬が膨らんでてリスみたいで可愛い。
「…美味しい」
「そりゃよかった。辛いの平気なんだな」
「ああ。刺激的で気に入った」
「ははっ」
好物になったらしい。お代わりを求めるように口を開けてくる。「自分で食えよ」と笑いながらもう一つ放り込んでやった。もぐもぐと美味しそうに噛みしめている。リスの餌やりしてるみたいで俺も楽しくなっていたのは内緒である。
「口についてるぞ」
フィンの唇の端にソースがついていた。指で拭いてやると
ぺろり
その指先をフィンに舐められた。
「なっ…!!!」
「辛いな」
ちゅっ
再度舐められ、指先を吸われる。びくりと体が揺れた。綺麗になった指とフィンの唇に糸が引いていて目が離せない。
「~~!!おいっ!フィン!」
「ソースを舐めただけだ」
何も問題はあるまい?と涼しい顔で言う。俺は顔を赤くしながら睨みつけた。
(この…!イケメンだからって!何でも許されると思ってんな…!!)
実際俺も恥ずかしさはあってもちょっと喜んでしまっていたから同罪なのである。
「ねえ~!!ライ~!俺やばい事に気付いちゃったんだけど!」
そこでユウキが洗い場から戻ってきた。何やら慌てた様子である。
「なんだよやばい事って」
「ほら!俺未成年だからホストクラブ入れなくない?!」
「ああそうか、忘れてたな」
そもそも男だし全員入れないんじゃ…と嫌な予感はしたが。とにかく学生服で未成年丸出しの状態では入れてもらえないのは確実だろう。
「やだよ俺だけ置いてけぼりとか!変化してくるからちょっと待ってて!」
そう言ってトイレに消えていく。変化したところで未成年の中身は変わらないため法律的にはアウトなのだが、見た目上はセーフなのだろうか。1分後、背の高い男が現れた。こちらに近寄ってくる。
「じゃじゃーん」
「ユウキ…その格好はなんだ」
「え?格好いいでしょ?そろそろ時間だし行こー!」
「あ、おい!ったく…」
そう言って繁華街に戻っていくユウキ。俺たちはそれを無言で追いかけた。
「申し訳ありません。男性のお客様のみでのご入場はお断りしております」
「ええ~~!!」
「ほら、言わんこっちゃねえ」
入り口に立っていたスタッフに三人全員追い返されてしまった。やれやれと頭を抱える。
「なんでダメなんだよ~!こんなイケメンなのに!」
「いや男だからだろ」
「ええー?」
不満げに口を尖らせるユウキはハリウッドとかに出てきてもおかしくないダンディなイケオジに変化していた。フィンと並べるレベルのイケメンとなるとこっち系しかなかったのだろうか。いや、そんな事ないだろう。単純にユウキの好みなのだろうか。どっちにしてもテレビの中にしかいなさそうな国宝級イケメン二人連れてて入れるわけがない。普通に怪しすぎる。
「ったく、女性に変化してくれたら入れたかもしれねえのに」
「それは嫌だ!俺、ライの前では絶対女にならないからね!」
「はあ?なんだよその意地…」
「ぷいっ」
腕を組んだままそっぽ向くユウキ。イケオジの姿でやられるとなかなか笑える。
「お前なあ…」
「ライ、そこまでにしてやれ」
「!」
「人にはそれぞれ見せたい姿があるものだ」
「おおう…」
珍しくフィンがカバーに入ってきた。意外すぎてユウキへの文句が飛んでいく。
「あれ?そこにいるの…ボンキで見かけたお客様じゃないですか」
「!」
声をかけられ振り返る。すると、ボンキで襲ってきたメデューサ店員が立っていた。まさかの登場に目を見開く。
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