牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十四章「海賊船と呪いの秘宝」

★交渉

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「ザク!おい、ザクってば!!」

 声をかけても、名前を呼んでもこっちに気づくことすらない。俺はこのまま両方が傷つけあっていくのを見てるしかできないのか。

「一つだけあるよ、止める方法」
「えっ」
「ルトなら、同じ牧師だしできるかもしれない。ほらあれ、見える?」

 レインがイーグルの手元を指差した。

 (動いててよく見えない…)

 じっと目を凝らすとイーグルの手には何かが握り締められていることに気づいた。それは、こぶし大の黒い物体で、時々不気味に脈立っている。

「なんだっあれ…」
「あれが王の破片、全ての元凶だよ」
「!!」

 もう一度その物体を見た。よくよく見れば、イーグルの体から出てると思った臭気は、その物体から放出されていたのだと気づく。その臭気はすでにイーグルの手をとり込み黒く染めていた。

(様子がおかしいと思ったら、あの破片に操られていたのか…!なら、早くイーグルからあの物体を引き離さないと…っ)

 破片がどんな効果をもたらすのかは知らないが、噂の内容からして絶対良からぬ事が起きる。レインが欲しがってるしタチが悪いものだというのは確実だ。

「にしても…イーグルくんは目がいいと思ってたけど、まさかこんなに早く見つけてきてくれるとは思わなかったなあ。すごいすごい」

 のんきに笑うレインを見て、すぐにイーグルに目を戻した。我を忘れたザクと対峙できているイーグルはすでに人間離れした動きをしていた。俺の見間違いでなければ破片を持ってる手が焼け爛れてるように見えた。あの臭気は人間には毒なんだ。今すぐに止めないと。俺は走り出した。

 ダッッ!

「あっルト」

 危ないよ、とレインが声をかけてくる。構わず路地を駆け抜けていく。そして、そのまま戦い続ける二人に突っ込み…そのまま通り過ぎた。

「…あれ?ん、二人を止めるんじゃなかったの?」

 クスクスと笑うレインは、どこか嬉しそうだった。俺が予想外の行動を起こしたから喜んでいるのだろう。ザク達から離れ、まっすぐ路地を進む。するとその先に、バラバラに壊された白い壁が見えてきた。

(ここだけ壁の色が違う、けど…建て替えでもしたのか?)

 まだ辺りに砂塵が舞ってることから、この壁を壊したのはイーグルだと察する。

「じゃあ、この先にあるはずだ」

 ゴクリと唾を飲み込み、壁の先に踏み込んだ。一気に辺りの温度が5度ぐらい下がった気がする。ひんやりとした空気が肌をついてきて痛い。

 ジャリジャリ

 壁の破片を踏みしめてどんどん進んでいく。イーグルが進んだと思われる形跡の残る道を、一歩ずつ慎重に踏みしめて進んだ。

「あっ」

 10m程進むと、その先の地面に白い光を放つ十字架が落ちているのが見えた。その十字架に駆け寄り、直接は触れず観察する。

「これが、破片を封印してた道具…イーグルの欲しがっていた秘宝なのか?」

 その十字架は純白に光っていて、大理石でできてるのかと思ってしまうほどに輝いていた。サイズ的にはそれほど大きくなく、俺の手のひらにおさまるぐらいの大きさだ。どこか暖かくて柔らかい光を放ってる。

「なんか、落ち着く…」

 近くにあるだけで安心させてくれるような力があった。イーグルの持っていた黒い物体とは正反対の存在だというのはすぐにわかる。

「じゃあイーグルはこれをどけて、破片を手に入れたのか」

 でも、おかしいだろ。これがあるのに、イーグルは何故破片の方を握っていた?イーグルが欲しいのは、悪魔の王の破片ではなく、この秘宝のはずだ。

「彼はこの土壇場で、求めるものが変わったんだろうね」
「!!」

 急に後ろに気配がしたと思えば次の瞬間、どしっと背中に重いものがのしかかってきた。

 ドサッ

 バランスを崩し前のめりに地面に転んだ。顔だけ後ろに向ければ、俺の背中を足で踏みつけるレインと目があった。

「レインっ!」
「よく見つけられたね、偉いよルト」
「はなせ!!足をどけろ!」

 踏みつけてくるレインの足を掴む、が、いくら力を込めてもびくともしない。優しい笑顔を浮かべながら問答無用というように踏みつけてくる。

「いい子だから、それを俺に渡してくれないかな?」
「なんでだよ!お前はあっちの破片が欲しいんじゃないのか?!」
「あれは簡単だから後回し。アイツの手足を切り離して回収すればいいだけだし。でもこっちはそうとはいかないんだよ」
「?」
「聖なる道具は聖なるものにしか探し出せず、触れられない」
「…?」
「だけど、聖なるものが許したものには…たとえどんな相手だとしても聖なる道具を譲渡できるんだ」

 つまり、俺が渡そうとしない限りこの十字架をレインは手に入れることができない?ってことか。

「レインは十字架の譲渡の為に俺を巻き込んだのか」
「どうだろう、俺がルトに会いたかった、っていうのもあるけど」

 読めない表情で、笑いかけてくる。その笑顔を睨みつけ、頭を振った。

「ダメだ。これは…渡せない。これがないとイーグルの目を覚ますことができない!助けられなくなる!」
「ずっと不思議だったんだけど、あの男にどうしてそこまで執着するのかな?」
「っ…!!」

 ぐぐっ

 少しだけ表情を固くしたレインが背中を踏む力を強めた。肺が押され苦しくなる。

(どうしてイーグルを助けたいか?)

 確かに、あいつには、許せないようなことをたくさんされた。一方的だし、嘘ばかりで、よくわかんないやつだ。

(でも…)

 時々見える、イーグルの素の顔を見てると、やっぱりただの人間なんだって実感した。今までみたいな化物相手じゃない。

 (それに、俺のせいでイーグルは巻き込まれたようなものだ)

 俺が、ここまで案内しなかったら、あんな事にはならなかった。たとえ人よりもずっと目がよくて、勘が鋭い海賊だとしても、俺の踏み入った情報がなければ王の破片に見つける事はなかった。あんな危険なものに触れずに済んだはずなんだ。

(俺のせいで踏み込ませてしまった)

 その後悔が今も胸を占めていた。

「ねえルト。あの男が何故、その道具ではなく王の破片の方を選んだんだと思う?」
「…?」

 おもむろに、ザク達のいる方角を見つめ、レインが話しだした。その表情は冷たくいつも以上に心が読めない。

「それは、ルトを好きになったからだよ」
「は?!馬鹿な、イーグルが俺を?そんなわけが」
「宝ではなく、ルトが欲しいと思ったから、ああなったんだ」
「…えっ、なんでだよっ…う、そだ!」
「嘘なんかじゃない。体だけじゃなくて心も欲しいと思ったから、破壊の力を求めた。悪魔を倒して、奪えるぐらい強くなりたいと願ったんだ」
「…!」

 レインが腰を下ろし、俺の太ももに手をあててきた。そのまま優しく撫でたあと、突き刺すように爪を立ててくる。

「イっ…!?」
「ルトが狂わせたようなものだ、そうだろ?」
「そんなっこと…」
「ルト、あの男はね、こんな厄介な道具に頼らずとも、ただ一言いえば救えるんだ。イーグルが好きだ、って一言言えば止まるはずだよ」
「…っ、い、いえるわけが、ないだろ!」

 言えるわけない。あの場には、ザクもいる。たとえ一瞬の隙を作るためだとしても、嘘だとしても…ザクの前でそんなことは言いたくない。黙って下を向いていると

「ほら、やっぱり自分が可愛いから道具に頼る。いけない子だ」
「…っ」
「じゃあわかった。ルトが俺にそれを渡したくなるぐらい従順ないい子に調教してあげる」
「いっ、いらなっ、やめろっうぐっ!!」

 レインを拒絶しようとすると、後頭部を掴まれ地面に押し付けられた。そのまま慣れた手つきで俺の両手を拘束してくる。ネクタイのようなものできつく縛られたあと、服を下だけ脱がされた。十字架の光が目に入ってくる。

「ん、うあっ!!っやめっ…!」
「はは、なんだかんだで俺がルトとやるのは初めてか。本当はベッドの上でやりたかった所だけど贅沢は言えないか」
「レインっ本当に無理っ…いやだ!」
「大丈夫、昨日だってイーグルくんのをここに咥えてただろ」

 ぐりっと指が入り込んできて涙がにじむ。何度も経験したこの侵入感。けど、一向に慣れれそうにない。吐き気さえ浮かぶ感覚に体がガタガタと震えた。視界に入る十字架がキラキラと眩しい。

「ううっ、いや、だ…っ、んんっ、うああああぁっっ??!うあっ!そこはっ」
「ははっ、ここか」

 中からとんとんとつかれながら、指先がある部分にかすった。途端に体がびくんと揺れた。今までの比にならないぐらいの震えと快感がそこから伝わってくる。気持ちよくなるわけがないのに、レインのことなんか、好きなわけないのに体が喜び始めてわけがわからなくなってきた。

「うううっいや、だっ、もうやめ…っ」
「あ、泣いたからかな。少し緩くなってきた」
「ーっっ、はあ、はあっれ、レインっ」
「なんだい、ルト」
「レインっ…っ、はあ…も、もうやめて、く、れっ、ぬいてっ」
「なんで、気持ちいいだろ」

 だからだ。レインの手で感じたくなんかない。涙を我慢することもできず、前も反応している。こんな惨めな自分なんて嫌だ。

「そんなに俺が嫌?」
「ううっ、はあ、当たり、前だ、ろっ!」
「…そう」

 レインはそう言ったあと…今まで見せたことのない、欲情した顔で見下ろしてきた。その顔に俺は凍りついたように動けなくなり、レインのギラギラと光る瞳から目が離せなくなる。

「それはよかった。俺、無理矢理の方がもえるんだ」
「!!」

 そしてレインの手が俺の腰を掴んだ。もう片方の手が俺の後頭部から離れ、自分の下に向かう。

「ルトの心はルトのものだけど、ルトの体は俺でも奪える。それを教え込む瞬間って最高の気持ちになるんだ」
「最低野郎っ…!」
「それでもルトは俺を好きになるよ」
「なるわけない!!」
「はは、確かに今は無理そうだな。じゃあ諦めて今回は体だけ奪わせてもらおうかな」

 そう言ってすぐ入り込んできたその圧倒的な質量に、目の裏側がチカチカと光った。

 グググッ・・・!

「あぁっ、ああああああっんむぐ!?」
「可愛い声が聞こえないのは残念だけど悪魔君に邪魔されたくないからさ」

 口を手で塞がれながら後ろを突かれる。レインの手に噛み付いてみても攻めは緩むことはなかった。遠慮なく押し進めてくる圧迫感に吐き気がする。息ができない。

「んっ、ンンーっ…!!」
「はあ…いい締め付け、だな…。皆ハマるわけだ。はは」
「んんーっ!んんっ!」
「大丈夫だって。ルトは女の子じゃないから。俺が中で出しても子供はできないよ」
「んんん!!」

 (そうじゃない!)

 必死に抵抗してもレインの動きは止まってくれない。それ以上の力で奥を突かれ、もっと大きな声がでてしまう。慣らされてない所を何度も突かれて、体がえぐられているみたいな引き裂くような痛みが走る。

「さて、っ、もう少し堪能したい所だけど、そろそろ終わろうか」
「んんんんっーー!!」
「ははは、すごい抵抗、やっぱり中は嫌かな」

 俺が暴れると、嬉しそうにグチュグチュと音を立ててかき混ぜてきた。

「知ってる?ルト。野生の動物でもオス同士でやることがあるんだって。その時もこうやって中に出して、上下関係をはっきりさせるらしい。俺がオスとして、動物として上だ、って体に分からせるためにね」
「!!」

 頭を振り、涙をこぼす。

 (それだけはやめてくれ!これ以上ザクを裏切りたくない…!)

 ザクと向き合えなくなるのは嫌だ。

 スッ

「じゃあ最後に、交渉と行こうか」
「?!」

 ふと体の動きが止まる。おかげで思考が少しできるようになった。

 (交渉?今…交渉といったのか?)

 一体俺とレインで何の交渉をするつもりだ。

「ルトが選べばいい。このまま中で俺のを受け止めるか、十字架を俺に渡すか」
「…!」

 光り輝く十字架を指差して、甘く囁いてくる。

「渡してくれたら、俺はすぐにでも引いてあげる」

 それは、ボロボロの今の俺にとって、ありえないぐらい魅力的な言葉だった。

(この悪夢が、終わ、るのか…?)

 震えながらレインを見つめる。汗を流し、眉にしわを寄せ笑うレイン。中のレインのそれは脈打って今にも弾けそうだった。顔を見る限り、嘘をついてそうな感じはしない。だがレイン相手に油断できるわけない。信用するなんて以ての外だ。

「ああ、ごめんね」

 レインが俺の口から手を離し、喋れるようにする。ついでに拘束も外されたので十字架を取ることもできた。

「…っふ、あ、はあ、はあっ、れ、レイン…」
「なに?ルト」
「…」

 俺は必死に頭を回した。ザクのこと、レインのこと、イーグルのこと、王の破片や十字架のこと、白服とか、街のこと。最後にもう一度ザクのことを考えてみて…結局答えは一つだった。

(俺って、ほんと不器用…、いや、無力だ)

 震える手を十字架に伸ばし、掴み取った。そして…強く握り締める。

 ぎゅっ

「これは、渡せない」
「!!」
「レインには絶対渡さない!!」

 驚いて目を見開くレイン。こうなると予想してなかったのだろう。言葉を失っている。

(俺だってお前とこれ以上やるなんて、絶対嫌だ。すぐにでも離れたい!!けど……)

 それでも、俺はやっぱりイーグルを助けたい。レインにこれを渡したくない。

「ザクに、嘘をつきたくないっ!」

 手の中にある十字架を強く握り締めた。もしかしたら、この道具に頼らずとも対処できるかもしれない。でも、それはザクの前でイーグルに言わなきゃいけない。

 “イーグルが好きだ、こんなことをしなくても俺はイーグルのものだから”

 って言うことになる。仮にそれでイーグルを助けれても、その言葉が嘘だとしても、それを言ってしまったら俺はザクを裏切ることになる。傷付ける。

(そんなの、いやだ!)

「……」

 レインは俺の顔を信じられない、という顔で見下ろしてくる。そのまま停止して動く様子がない。

(いっ、今のうちに逃げないと!)

 けどのしかかってくるレインの体は重くて動かせそうにない。必死に身をよじって抜け出そうとすると、レインが急に覆いかぶさってきた。

「え、なっ?!」
「……………………」
「レイン?」

 黙ったまま俺の上で動かなくなったレイン。心配になって、後ろを見てみる。すると、獣のように怪しく光る瞳と視線がぶつかった。
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