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第十章「フラれ悪魔様の告白」
波乱の吸血鬼城へ
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城につき、俺様は違和感を感じた。吸血鬼の臭いに混じって土臭い匂いがするのだ。しかもかなり複数の。これは、バーでも嗅いだ狼男の臭いに近い。
(まさか、吸血鬼城に狼男が乗り込んだのか?)
昔から犬猿の仲だった吸血鬼と狼男たち。最近は少し大人しくなったと思ったが、今更また争いをし始めたのか。あのレインがでしゃばる依頼も気になるし悪い予感しかしない。
(レイン。あのクソ野郎が狼男に何を依頼された?それか、依頼はカモフラージュでルトが目的?)
「つーか、そんな争いの場になんでルトがいるんだ??」
空に投げかけて、すぐに察した。あぁ。そうか、あいつ。ハーフ吸血鬼野郎がいるからか。きっとあのツンデレお人好しルトのことだから、何かしら関わっちまったんだろう。そんでそこでレインに出くわした、と。きっと不安で震えているはず。
(俺様がいないのにレインと遭遇しちまって…怖い思いさせちまった)
「くそっ・・・早く見つけてやんねーと」
あと、ハーフ野郎をぶっとばす。よくもルトを面倒事に巻き込んだなハーフめ。今日こそ白黒つけてルトから距離を置いてもらう。
タッタッ
城の警備はそれほどきつくなく、暗くなっている城壁を登って中に入った。周囲を軽く確認してると、パーティ用のドレスを着た少女とぶつかる。
「おっと、失礼」
彼女が顔を上げる前に服を変え(パーティ用の服に)手を差し出す。それを見た少女は顔を真っ赤にして俺様を眺めた。
「な、なんて凛々しい殿方なの...!」
「え?」
もじもじとしたあと、ガバッと手を取り自分の発展途上の胸にあててきた。それで俺様がなびくとでも思ってるのだろうか。
(うん…Aだな)
あえて手をどける必要もないのでそのままにされておく。
「お嬢さん、走ったら危ないですよ」
「すみません…」
「いえ、せっかくの服が汚れてしまいますしあなたほど美しい女性に傷などついてしまったら、世の男が泣きますよ」
「ー!!!」
顔を真っ赤にして目をパチクリする少女。きっと慣れてないんだろう。俺様の安い言葉を信じきっていた。
パリイイン!!
近くの窓が割れる。続けて中から複数の悲鳴が聞こえてきた。少女がびくりと体を震わす。
「中では、何が?」
尋ねると不思議そうな顔をする少女。中で起きてる事を知らないの?と言う顔だ。
「すみません、遅れてきたので事態が把握できていないのです。お嬢さんが走っていたのも城の事と関係が?」
「ええ...実はあのバカ、いえ狼男の一部が反乱を起こしまして…騒ぎはそのせいなのです」
「一部?」
「はい、吸血鬼との友好を良しとしない者たちが襲ってるのです」
「なるほど」
吸血鬼の城に友好を深めようと狼男が訪れてきた。それから暴れだしたと。
(どうしたものか)
ただの種族間の喧嘩なら俺様が乱入して両方しめればうまくいくと思っていたが。意外にも状況はややこしい。今ここで全員倒しても吸血鬼と狼男の問題は解決しないだろう。
「それでは私はそろそろ失礼しますわ」
落ち着いてきた城に戻ろうとする少女。しかし、五歩ほど進んだあと振り返ってまた近寄ってきた。
「あ、あの!!お、お名前を…教えていただきたいのです」
完全に好かれてしまったようだ。うーん、悪魔だっていうわけにいかないしな。まあこの子も狼種族で人間ではないし隠す必要はない。
「ザクです」
「ザク様ですね!ま、またお会いしましょう!」
「...」
引きつった笑顔で手を振る俺様。ったく、紳士のふりってのは疲れるな。慣れないことはするもんじゃない。
「んーじゃあまずはこっちか」
先程割らされた窓を見る。そこに血はついてないが、何か起こったのは確かだ。
「おじゃましまーす」
窓を開けようとしたらギザギザに割れた窓枠に服を引っ掛け破いてしまった。何度か繰り返したがどうやっても服が引っかかる。
「あーもー鬱陶しい!」
足で窓枠ごと蹴破った。バリバリ!!というものすごい音と共に窓が内側に落ちていく。破片が舞うなか俺様は堂々と着地した。
「ひ!!また来たわ!!」
「狼男よ!」
「今度は外からよ!」
「え??いや、待て俺様は狼男じゃ…」
弁解しようとしたが、今しがたしてしまった行為を思い出す。背後の蹴り破られた窓枠、自身のボロボロの服。うん。この状況では狼男と勘違いされてもおかしくない。俺様はため息をつきマダム達の横を走り抜けた。
「逃げたわ!!」
「誰か追って頂戴!」
「野蛮族め!」
背中に降りかかる言葉を無視し廊下を進んでいく。野蛮族という事は彼らは吸血鬼か。
(ったく、なんで俺様が狼男への暴言を受けなきゃいけねーんだ...)
廊下を突き進んでいると首の後ろがジワリと熱くなった。殺気だ。とっさに横にずれる。
「?!」
何も起きない。しかしこちらを見ているのは確実だ。
「誰だ!」
「やあ、彼氏くんじゃないか」
「?!」
聞き覚えのある声に体が固まった。廊下に面した一つの扉が音を立てて開き、見知った顔が現れた。
「...っお前は!」
人の良さそうな笑顔を顔に貼り付けた、あの男。レインだった。
「やっぱり来ると思ったよ悪魔くん」
「お前...!!」
殺意を込め睨みつける。しかし奴は肩をすくめて笑った。
「まったく。お姫様が寂しがってたよ?」
「...!」
「まあ今は違うナイトがいるみたいだけど」
「は?!てめえ!ルトに手出してねえだろうなあ!!そもそも何しに来た!!」
「そりゃお仕事に決まってるさ、俺だって暇じゃない」
「まさか…この騒ぎ、てめえのせいか」
正解、というように笑みを浮かべる。
「俺は何もしてないけどね。彼らが勝手にしたことだ。俺は少しだけ助言してあげただけ」
「...てめえらしいセコさだな」
じりじりと間合いを詰める。なんの狙いがあるのかは知らないが、護衛の悪魔は見当たらない(二匹はまだ総会にいるし)。今ならやつを仕留めれるかもしれない。
「じゃあそろそろ俺も行かないとな」
「?!」
あっさりと背中を見せ、スタスタと廊下を歩いていくレイン。その行動に驚き一瞬思考が停止した。
「ちょ、どこ行く!!」
「仕事が終わったから、依頼主に会いにいくんだけど?」
「!」
依頼主!?そいつが今回のことを仕掛けた親玉ってことか。じゃあそいつを見つけ出してぶっ潰せば解決するのか??
「彼氏くんは先にやることがあるだろ?耳をすませてみなよ」
「...?」
感覚を研ぎ澄ます。すると、複数の気配の中に嗅ぎなれた、愛しい匂いがした。
(ルトだ、ルトがいる)
匂いだけだが、ルトが今、怯えてるのはわかった。
(助けに行かねーと!!)
「でも、その前にてめえを...ん?!」
もうすでにレインの姿はなく廊下には俺様だけが立っていた。一瞬目をそらしただけだったはずなのに逃げられた!!!
「くそっ!!!」
自分の声が虚しく、無駄に広い城の廊下に反響した。
(・・・?)
そういえばやけに城の中が静かだな。さっきまでどこかしら悲鳴や破壊音が聞こえてたのに。今は人の気配一つ感じられない。考えられるとしたら...どこかの部屋に集まってる、とかか?もう一度目を閉じて探ってみる。さっきまでは狼男たちの騒ぎのせいで探ることができなかったが、今なら・・・
ざわざわ
「ーー!いた!」
奥にある広間のような場所で、たくさんの気配が蠢いてる。その中にルトの気配も感じとれた。
「やっと見つけたぜ!手間のかかる!」
早速向かおう。そう思い足を向けた時だった。
ドン!!
向こう側から来た男と思いっきりぶつかってしまった。相手は俺様の体に弾き飛ばされ尻餅を付いていた。
「いちち...」
「悪い、って...ん?その匂い」
くんくん、と男の匂いを嗅ぐ。あれこれってどこかで嗅いだことのある匂いだな。香水のせいでいまいち思い出せないが。俺様が不思議がってると、突き飛ばされた紳士が起き上がり顔をパーッと輝かせた。
「あれ!君はバーのお隣さんじゃないか!えっと、おじさんだよ、わかるかい?」
「んん??昨日のバーのおっさんか!」
前髪が後ろに流されていてわからなかったが、昨日一緒に飲んだ狼男のおっさんだった。どうやら急いでたようで体中に汗をかいている。
「なんだ、いい子でも見つけたのかよ?汗なんかかいて走り回って」
茶化してやるとおっさんは苦笑した。
「はは、いい子ね~確かに見つけたんだが...今はもうひとつの問題をなんとかしなくちゃいけなくてさ」
問題。考えられるとしたら、やはり狼男のことだろう。おっさんも狼男だし年齢的にも立場は上のはず。
「反乱か、大変そうだな」
「おじさんがしっかりしてなかったから。仕方ないとも思うんだ」
「??」
「いやこっちの話、おじさん今から広間に行くんだけど君はどうする?」
「ん、俺様も行くぜ」
そっちの方にルトもいるしな。おっさんと並行して廊下を走った。
「ガハハハ!!動くな!!吸血鬼ども!」
広間に近づくと、馬鹿そうな男の声が廊下にまで響いてきた。それを聞いたおっさんが頭を傾けた。
「あちゃあ、もう始まってるなあ」
「なんか思ったよりフランクなんだな、この反乱」
「まあ彼らも根は悪い奴じゃないから...ドがつく程の、救いようのないおバカさんってだけで」
「いや、それフォローになってねえよ」
「はっはっは」
突っ込まれ軽く笑うおっさん。いつもその顔でいればモテモテになれそうなんだが、まあそれは黙っておこう。俺様たちも広間に入った。すごい数の人間、いや狼男と吸血鬼が集っている。その中に見慣れた真っ白な頭のルト(なぜか女物のドレスを着てる)を発見した。
「!!」
すぐにでも駆け寄ろうと思ったが、ルトの隣にいる男を見た瞬間、足が止まってしまった。ルトの隣には、あのハーフ吸血鬼がいた。しかも二人はいつもより親密そうでやけに距離が近い。
「...る、と..」
思っていたよりもずっと明るい顔をしたルトと、ハーフ吸血鬼。その二人を見ていると胸が締め付けられるような感覚になった。まるでそれは俺様など必要ないと言われているようで。
とんとん
肩を叩かれる。おっさんが話しかけてきた。
「おじさんがここを収めるから、君はここで暴れないでじっとしててくれるかい」
「え、でも俺様も」
「君がどんな事情でここに居るのかは知らないがこれは狼男と吸血鬼の問題だ。少しでいいから、頼むよ」
俺様が暴れるつもりだって察していたのか、おっさんは説得してきた。少し考えたあと、頷く。
「収まりそうになかったら問答無用で俺様も動くからな」
「わかった、ありがとう」
にこり、と笑うおっさん。次の瞬間、その笑顔からは想像もつかない、低く恐ろしい声が広間に響きわたる。
『鎮まれ!!!!狼の血族達!!!』
一気に静まり返る広場。そんな中おっさんはゆっくりと広間の中央に歩いていく。ほんの一瞬、ルトとおっさんが話したように見えたが、すぐにおっさんが歩きだしたのでよくわからなかった。
「おお?お前ってあの時の悪魔かあ?」
おっさんを見ていると背後からチャラそうな声が聞こえてきた。振り向いた先に立っていたのは、ギラギラ光る金髪に、ピアスだらけの体。目の下には真っ黒のクマができており、背丈は俺様と同じか少し小さいぐらいの男が立っていた。いや、男ではないか。口から覗く真っ赤な舌の先が、蛇のように二つに割れているのだ。
(レインの下僕悪魔か)
そういや、サキとインクが、レインの護衛だかでこっちにも使い魔が配置されてると言っていた。
(こいつには森での借りがある)
この金髪悪魔のせいでレインを逃がしてしまった。あの時潰せていたら今回の騒動も起きなかっただろう。しっかり借りは返させてもらう。
ぐぐっ
いつでも戦えるように足に力を籠める。それを見た目の前の悪魔がにやっと笑った。下品な笑い方だ。
(ルトを近づけさせないようにしねーと...)
そんな事を考えていると金髪悪魔が俺様の体を指さしてきた。
「ようぅ!!また会ったな!服装で一瞬誰かわかんなかったが、その染み付いた濃い血の匂いでわかったぜ。にしても、まさかあの悪魔王子サマがこんな所で人に飼われてるなんて知らなかったぜええ!?」
「...お前、指名手配されてるジャナスだな」
「へえ案外物知りじゃねええの」
法のない悪魔でも犯してはいけないことはある。伴侶を殺すこと、血縁の子供を殺すこと。もろもろ。それを犯せば王による裁きを受けることになっている。この男はとある禁忌を犯して、指名手配されていた。死んだと噂されていたが、まさか人間界で生きてるとは。
「ジャナスっつー悪魔はもういねえけどな。今のオレ様はジャックル様だあ!」
「いちいち叫ぶなよ暑苦しい」
何がそんなに楽しいのか。やけにご機嫌である。
「うっせえ!今オレ様はすんげえキゲンがいいんだあ!」
「そうか、今から最悪にしてやるぜ」
「まあ待て待て」
ニヤニヤと笑いながら俺様を見るジャックル。
「なんか、匂わねええ~?」
「は?」
「おいおい、王子の鼻は飾りかよお!」
「っち、意味わからね、...!!!」
悪魔がわざとらしく舌を出した。その舌には、何か白い液体がついていて...ほのかだが、嗅ぎなれた匂いが、その液体からした。それはルトの欲の塊(人間でいえば精液)の匂いだった。
ドガアアン!!!
その事実に気づいたとき、すでにもう俺様たちは外にいた。金髪を強制的に外に吹っ飛ばし、自分も外へ飛び出した。
(っこいつ!!許さねえ!!!)
『よくもルトをっ!!』
自分の体が燃え上がりそうなほどの強い怒りがこみ上がってきた。金髪野郎は全身を強く打ち傷だらけだったが、くっくっと嬉しそうに笑っている。
(まさか、吸血鬼城に狼男が乗り込んだのか?)
昔から犬猿の仲だった吸血鬼と狼男たち。最近は少し大人しくなったと思ったが、今更また争いをし始めたのか。あのレインがでしゃばる依頼も気になるし悪い予感しかしない。
(レイン。あのクソ野郎が狼男に何を依頼された?それか、依頼はカモフラージュでルトが目的?)
「つーか、そんな争いの場になんでルトがいるんだ??」
空に投げかけて、すぐに察した。あぁ。そうか、あいつ。ハーフ吸血鬼野郎がいるからか。きっとあのツンデレお人好しルトのことだから、何かしら関わっちまったんだろう。そんでそこでレインに出くわした、と。きっと不安で震えているはず。
(俺様がいないのにレインと遭遇しちまって…怖い思いさせちまった)
「くそっ・・・早く見つけてやんねーと」
あと、ハーフ野郎をぶっとばす。よくもルトを面倒事に巻き込んだなハーフめ。今日こそ白黒つけてルトから距離を置いてもらう。
タッタッ
城の警備はそれほどきつくなく、暗くなっている城壁を登って中に入った。周囲を軽く確認してると、パーティ用のドレスを着た少女とぶつかる。
「おっと、失礼」
彼女が顔を上げる前に服を変え(パーティ用の服に)手を差し出す。それを見た少女は顔を真っ赤にして俺様を眺めた。
「な、なんて凛々しい殿方なの...!」
「え?」
もじもじとしたあと、ガバッと手を取り自分の発展途上の胸にあててきた。それで俺様がなびくとでも思ってるのだろうか。
(うん…Aだな)
あえて手をどける必要もないのでそのままにされておく。
「お嬢さん、走ったら危ないですよ」
「すみません…」
「いえ、せっかくの服が汚れてしまいますしあなたほど美しい女性に傷などついてしまったら、世の男が泣きますよ」
「ー!!!」
顔を真っ赤にして目をパチクリする少女。きっと慣れてないんだろう。俺様の安い言葉を信じきっていた。
パリイイン!!
近くの窓が割れる。続けて中から複数の悲鳴が聞こえてきた。少女がびくりと体を震わす。
「中では、何が?」
尋ねると不思議そうな顔をする少女。中で起きてる事を知らないの?と言う顔だ。
「すみません、遅れてきたので事態が把握できていないのです。お嬢さんが走っていたのも城の事と関係が?」
「ええ...実はあのバカ、いえ狼男の一部が反乱を起こしまして…騒ぎはそのせいなのです」
「一部?」
「はい、吸血鬼との友好を良しとしない者たちが襲ってるのです」
「なるほど」
吸血鬼の城に友好を深めようと狼男が訪れてきた。それから暴れだしたと。
(どうしたものか)
ただの種族間の喧嘩なら俺様が乱入して両方しめればうまくいくと思っていたが。意外にも状況はややこしい。今ここで全員倒しても吸血鬼と狼男の問題は解決しないだろう。
「それでは私はそろそろ失礼しますわ」
落ち着いてきた城に戻ろうとする少女。しかし、五歩ほど進んだあと振り返ってまた近寄ってきた。
「あ、あの!!お、お名前を…教えていただきたいのです」
完全に好かれてしまったようだ。うーん、悪魔だっていうわけにいかないしな。まあこの子も狼種族で人間ではないし隠す必要はない。
「ザクです」
「ザク様ですね!ま、またお会いしましょう!」
「...」
引きつった笑顔で手を振る俺様。ったく、紳士のふりってのは疲れるな。慣れないことはするもんじゃない。
「んーじゃあまずはこっちか」
先程割らされた窓を見る。そこに血はついてないが、何か起こったのは確かだ。
「おじゃましまーす」
窓を開けようとしたらギザギザに割れた窓枠に服を引っ掛け破いてしまった。何度か繰り返したがどうやっても服が引っかかる。
「あーもー鬱陶しい!」
足で窓枠ごと蹴破った。バリバリ!!というものすごい音と共に窓が内側に落ちていく。破片が舞うなか俺様は堂々と着地した。
「ひ!!また来たわ!!」
「狼男よ!」
「今度は外からよ!」
「え??いや、待て俺様は狼男じゃ…」
弁解しようとしたが、今しがたしてしまった行為を思い出す。背後の蹴り破られた窓枠、自身のボロボロの服。うん。この状況では狼男と勘違いされてもおかしくない。俺様はため息をつきマダム達の横を走り抜けた。
「逃げたわ!!」
「誰か追って頂戴!」
「野蛮族め!」
背中に降りかかる言葉を無視し廊下を進んでいく。野蛮族という事は彼らは吸血鬼か。
(ったく、なんで俺様が狼男への暴言を受けなきゃいけねーんだ...)
廊下を突き進んでいると首の後ろがジワリと熱くなった。殺気だ。とっさに横にずれる。
「?!」
何も起きない。しかしこちらを見ているのは確実だ。
「誰だ!」
「やあ、彼氏くんじゃないか」
「?!」
聞き覚えのある声に体が固まった。廊下に面した一つの扉が音を立てて開き、見知った顔が現れた。
「...っお前は!」
人の良さそうな笑顔を顔に貼り付けた、あの男。レインだった。
「やっぱり来ると思ったよ悪魔くん」
「お前...!!」
殺意を込め睨みつける。しかし奴は肩をすくめて笑った。
「まったく。お姫様が寂しがってたよ?」
「...!」
「まあ今は違うナイトがいるみたいだけど」
「は?!てめえ!ルトに手出してねえだろうなあ!!そもそも何しに来た!!」
「そりゃお仕事に決まってるさ、俺だって暇じゃない」
「まさか…この騒ぎ、てめえのせいか」
正解、というように笑みを浮かべる。
「俺は何もしてないけどね。彼らが勝手にしたことだ。俺は少しだけ助言してあげただけ」
「...てめえらしいセコさだな」
じりじりと間合いを詰める。なんの狙いがあるのかは知らないが、護衛の悪魔は見当たらない(二匹はまだ総会にいるし)。今ならやつを仕留めれるかもしれない。
「じゃあそろそろ俺も行かないとな」
「?!」
あっさりと背中を見せ、スタスタと廊下を歩いていくレイン。その行動に驚き一瞬思考が停止した。
「ちょ、どこ行く!!」
「仕事が終わったから、依頼主に会いにいくんだけど?」
「!」
依頼主!?そいつが今回のことを仕掛けた親玉ってことか。じゃあそいつを見つけ出してぶっ潰せば解決するのか??
「彼氏くんは先にやることがあるだろ?耳をすませてみなよ」
「...?」
感覚を研ぎ澄ます。すると、複数の気配の中に嗅ぎなれた、愛しい匂いがした。
(ルトだ、ルトがいる)
匂いだけだが、ルトが今、怯えてるのはわかった。
(助けに行かねーと!!)
「でも、その前にてめえを...ん?!」
もうすでにレインの姿はなく廊下には俺様だけが立っていた。一瞬目をそらしただけだったはずなのに逃げられた!!!
「くそっ!!!」
自分の声が虚しく、無駄に広い城の廊下に反響した。
(・・・?)
そういえばやけに城の中が静かだな。さっきまでどこかしら悲鳴や破壊音が聞こえてたのに。今は人の気配一つ感じられない。考えられるとしたら...どこかの部屋に集まってる、とかか?もう一度目を閉じて探ってみる。さっきまでは狼男たちの騒ぎのせいで探ることができなかったが、今なら・・・
ざわざわ
「ーー!いた!」
奥にある広間のような場所で、たくさんの気配が蠢いてる。その中にルトの気配も感じとれた。
「やっと見つけたぜ!手間のかかる!」
早速向かおう。そう思い足を向けた時だった。
ドン!!
向こう側から来た男と思いっきりぶつかってしまった。相手は俺様の体に弾き飛ばされ尻餅を付いていた。
「いちち...」
「悪い、って...ん?その匂い」
くんくん、と男の匂いを嗅ぐ。あれこれってどこかで嗅いだことのある匂いだな。香水のせいでいまいち思い出せないが。俺様が不思議がってると、突き飛ばされた紳士が起き上がり顔をパーッと輝かせた。
「あれ!君はバーのお隣さんじゃないか!えっと、おじさんだよ、わかるかい?」
「んん??昨日のバーのおっさんか!」
前髪が後ろに流されていてわからなかったが、昨日一緒に飲んだ狼男のおっさんだった。どうやら急いでたようで体中に汗をかいている。
「なんだ、いい子でも見つけたのかよ?汗なんかかいて走り回って」
茶化してやるとおっさんは苦笑した。
「はは、いい子ね~確かに見つけたんだが...今はもうひとつの問題をなんとかしなくちゃいけなくてさ」
問題。考えられるとしたら、やはり狼男のことだろう。おっさんも狼男だし年齢的にも立場は上のはず。
「反乱か、大変そうだな」
「おじさんがしっかりしてなかったから。仕方ないとも思うんだ」
「??」
「いやこっちの話、おじさん今から広間に行くんだけど君はどうする?」
「ん、俺様も行くぜ」
そっちの方にルトもいるしな。おっさんと並行して廊下を走った。
「ガハハハ!!動くな!!吸血鬼ども!」
広間に近づくと、馬鹿そうな男の声が廊下にまで響いてきた。それを聞いたおっさんが頭を傾けた。
「あちゃあ、もう始まってるなあ」
「なんか思ったよりフランクなんだな、この反乱」
「まあ彼らも根は悪い奴じゃないから...ドがつく程の、救いようのないおバカさんってだけで」
「いや、それフォローになってねえよ」
「はっはっは」
突っ込まれ軽く笑うおっさん。いつもその顔でいればモテモテになれそうなんだが、まあそれは黙っておこう。俺様たちも広間に入った。すごい数の人間、いや狼男と吸血鬼が集っている。その中に見慣れた真っ白な頭のルト(なぜか女物のドレスを着てる)を発見した。
「!!」
すぐにでも駆け寄ろうと思ったが、ルトの隣にいる男を見た瞬間、足が止まってしまった。ルトの隣には、あのハーフ吸血鬼がいた。しかも二人はいつもより親密そうでやけに距離が近い。
「...る、と..」
思っていたよりもずっと明るい顔をしたルトと、ハーフ吸血鬼。その二人を見ていると胸が締め付けられるような感覚になった。まるでそれは俺様など必要ないと言われているようで。
とんとん
肩を叩かれる。おっさんが話しかけてきた。
「おじさんがここを収めるから、君はここで暴れないでじっとしててくれるかい」
「え、でも俺様も」
「君がどんな事情でここに居るのかは知らないがこれは狼男と吸血鬼の問題だ。少しでいいから、頼むよ」
俺様が暴れるつもりだって察していたのか、おっさんは説得してきた。少し考えたあと、頷く。
「収まりそうになかったら問答無用で俺様も動くからな」
「わかった、ありがとう」
にこり、と笑うおっさん。次の瞬間、その笑顔からは想像もつかない、低く恐ろしい声が広間に響きわたる。
『鎮まれ!!!!狼の血族達!!!』
一気に静まり返る広場。そんな中おっさんはゆっくりと広間の中央に歩いていく。ほんの一瞬、ルトとおっさんが話したように見えたが、すぐにおっさんが歩きだしたのでよくわからなかった。
「おお?お前ってあの時の悪魔かあ?」
おっさんを見ていると背後からチャラそうな声が聞こえてきた。振り向いた先に立っていたのは、ギラギラ光る金髪に、ピアスだらけの体。目の下には真っ黒のクマができており、背丈は俺様と同じか少し小さいぐらいの男が立っていた。いや、男ではないか。口から覗く真っ赤な舌の先が、蛇のように二つに割れているのだ。
(レインの下僕悪魔か)
そういや、サキとインクが、レインの護衛だかでこっちにも使い魔が配置されてると言っていた。
(こいつには森での借りがある)
この金髪悪魔のせいでレインを逃がしてしまった。あの時潰せていたら今回の騒動も起きなかっただろう。しっかり借りは返させてもらう。
ぐぐっ
いつでも戦えるように足に力を籠める。それを見た目の前の悪魔がにやっと笑った。下品な笑い方だ。
(ルトを近づけさせないようにしねーと...)
そんな事を考えていると金髪悪魔が俺様の体を指さしてきた。
「ようぅ!!また会ったな!服装で一瞬誰かわかんなかったが、その染み付いた濃い血の匂いでわかったぜ。にしても、まさかあの悪魔王子サマがこんな所で人に飼われてるなんて知らなかったぜええ!?」
「...お前、指名手配されてるジャナスだな」
「へえ案外物知りじゃねええの」
法のない悪魔でも犯してはいけないことはある。伴侶を殺すこと、血縁の子供を殺すこと。もろもろ。それを犯せば王による裁きを受けることになっている。この男はとある禁忌を犯して、指名手配されていた。死んだと噂されていたが、まさか人間界で生きてるとは。
「ジャナスっつー悪魔はもういねえけどな。今のオレ様はジャックル様だあ!」
「いちいち叫ぶなよ暑苦しい」
何がそんなに楽しいのか。やけにご機嫌である。
「うっせえ!今オレ様はすんげえキゲンがいいんだあ!」
「そうか、今から最悪にしてやるぜ」
「まあ待て待て」
ニヤニヤと笑いながら俺様を見るジャックル。
「なんか、匂わねええ~?」
「は?」
「おいおい、王子の鼻は飾りかよお!」
「っち、意味わからね、...!!!」
悪魔がわざとらしく舌を出した。その舌には、何か白い液体がついていて...ほのかだが、嗅ぎなれた匂いが、その液体からした。それはルトの欲の塊(人間でいえば精液)の匂いだった。
ドガアアン!!!
その事実に気づいたとき、すでにもう俺様たちは外にいた。金髪を強制的に外に吹っ飛ばし、自分も外へ飛び出した。
(っこいつ!!許さねえ!!!)
『よくもルトをっ!!』
自分の体が燃え上がりそうなほどの強い怒りがこみ上がってきた。金髪野郎は全身を強く打ち傷だらけだったが、くっくっと嬉しそうに笑っている。
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