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第八章「迷えるキマイラ」
★電話中
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「その代わり!俺の服を脱がしたりしたら即終了だからな!」
「おう、任せとけ」
「…」
本当に大丈夫なのだろうか。と不安になりつつもまたザクの前の椅子に腰かけた。手がのびてくる。髪を指ですいてくるだけだった。
「な?大丈夫だろ?」
「...はあ」
俺も消毒の作業に戻った。
「…」
「…イッ…つー」
大きな刃物に抉られたかのような傷痕を消毒するとザクは痛みに目を細める。その動きに連動して腹筋が震えた。俺はなるべく傷痕を痛めないよう優しく消毒していく。
「…」
すると、おもむろにザクの手が首の後ろにまわって俺の頭を引き寄せてきた。
「っなにす」
「ちゅーしようぜ」
「しない」
邪魔、と近くにある顔をどけようとする。ひょいっと避けられ隙のできた右頬に口付けられてしまう。
「っ、こら!なんでそんな」
「だって最近双子ばっかだったし」
「は?」
「なんでもねーよばーか」
「んむむむっ!?」
何かを言う前に口付けられてしまい、反論はザクの口のなかに消えていってしまう。
「んんっう、ふっ…!」
別の生き物のように動く舌を押し出そうとする。しかし逆にそれを絡み取られてしまう。俺は目を瞑ってそれに耐えた。
(ああでも、なんかもうどうでもよくなって…)
ぼんやりと思考を鈍らせて、ぼーっとザクの赤い髪を見てると
りりりりりりりリン!!!
突然けたたましい音が鳴り響いた。その音は廊下からで、どうやら電話の呼び出し音のようだ。あまりにも使わないもので初め何の音かわからなかった。
「ーっでなきゃ」
ドンッとザクの胸を押し退ける。結構深めのキスだったため互いの口が離れるとき涎が糸をひいた。なんだかそれがとても恥ずかしくてごしごしと口をこすってザクから離れる。
「~~っ!」
「けけけ、かーわいっ」
「っっ死ね!!」
多分今の自分の顔は真っ赤に違いない。耳まで熱い。ザクから目を離し廊下に出た。うるさいそれを取り耳に当てる。
「はい、もしもし」
『ルト君ですか?私です』
「あ、ラルクさん?」
どうしたんですか?と、言おうとした時だった。急に背後に気配を感じ、振り返る。思ったとおりザクが立っていた。
「なにし...」
「しーー」
電話中だろ?と口の前に人差し指を立ててきた。そのまま指が口の中に入ってくる。
「!!?」
「~♪」
鼻歌でも歌い始めそうなほどの上機嫌っぷり。なんだかすごく嫌な予感がしてザクを思いっきり睨んで押しのけた。
「...っは、なれろ!」
『ルト君?』
「っあ、すみません」
『離れろ?誰かそこにいるのですか』
「き、気にしないでください!ただ猫がじゃれてきただけで」
ザクの腕をひじでどけながら笑った。腰にまわされた腕は下に行き...服の上から俺の下半身をさぐり始める。
「っ...!!」
(やめろ!)
目で訴えるがザクは手を止めようとしない。むしろ強く力を込めてくる。睨めば睨むほど嬉しそうに牙を見せて笑った。悪魔だ。
ぺろっ
抱き寄せられ背後からうなじを舐められた。ゾクゾクと体が震え声が出そうになるのをなんとか堪える。
「~~っふ...んっやめ、」
『それでルト君、実は双子のことでお話があるのですが』
ラルクさんの落ち着いた優しい声が耳に響き渡り、それすらも刺激に変わる。このままではやばい!
(と、とっとと電話を切らないと・・っ!)
「あ、はい!双子が何か?...んっ」
『はい、実は双子のことで少し問題がありまして』
「え?!?」
ラルクさんの言葉で急に現実に引き戻される。双子はあの後気絶してしまい近くにあったラルクさん家で預かってもらっていた。まさか、二人になにか異変があったのだろうか?!気になるのに、ザクから与えられる刺激のせいで集中できない。絡みつく腕を引き剥がしながら必死に邪念を打ち消していた。
『これは...来てもらうのが一番だと思います』
「そうなんですか?わかりましっ…んっ!!?」
『どうしました?ルト君』
下を向く。服の中にザクの手が入ってきていた。思わず俺は黙り込んでザクを見てしまう。
「ほら、電話」
まぶたに口づけられたあと、耳元で俺にしか聞こえないほどの小さい声で囁かれる。痺れるような低音で顔が真っ赤になった。
「ーっ!!」
言われた通り、心配そうに名前を呼んでるラルクさんに応えた。ちっとも集中できないまま。
『ルトくーん?おーい』
「は、はい!」
『ああよかった、切れてしまったのかと思いました』
「すみません...」
『かけ直しましょうか?』
「は、い...すみませ...んっ」
そわそわと下半身にのびそうな手を必死に堪える。少しずつ熱くなっていく体はもう限界に近づいてきていた。心配そうなラルクさんにはとても申し訳ないけれど、一回これは切らせてもらおう。
「俺から、かけなおすんで、」
後ろにいる馬鹿を殴ってからもう一度かけなおしますから。そう思いながら必死に切ろうとするが、ザクの舌が肩を、指が胸を、それぞれに刺激を与えてくるせいで言葉にならない。やばい。これ以上は声も我慢できない。
「じゃ、じゃあこれで...うっ」
『あ、すみません』
「んっ...へ?」
『近くに悪魔くんはいますか?』
「ひえ?!」
耳を噛まれたのと同時に鋭い質問が来て変な声が出た。咄嗟に手で口を塞ぐが後の祭り。
『え?』
「....い、います」
『では、ちょっと代わってもらってもいいですか?』
「は。はい」
(よかった、今の状況がバレたのかと思った...)
俺は胸を撫で下ろし受話器をザクに持っていく。俺に持たせたままザクはめんどくさそうに口を開いた。
「あんだよ」
『~~~~』
「おう」
『~~~』
「うん」
ラルクさんの声は聞こえないがザクが相槌をうっているので会話は成り立ってるようだ。この二人って喋れたのか...変なとこで感心してるとザクの指がするっと離れていった。
(ほっ...やっと終わった)
そう安心したのが馬鹿だった。
ッグ
突然、ぐりりっと下半身に何か硬いものが押し付けられ、嫌な予感が駆け抜けていく。
(まさかっ)
電話を持つ手が震える。
「ちょ、ざ、ザク....っ」
「おう、そうだぜ」
『~~~』
「ああ最高」
「ザクっおいってば!」
ラルクさんに聞こえないように、小声で訴える。しかしザクは全く見向きもしないで話し続けてる。手は着実に行為の準備をしているのに。いつの間にか下着まで脱がされていた(上着はそのまま)。電話を持ってるので逃げるわけにもいかない。俺のなかで焦りと快感が募っていく。当たり前のように後ろに指を入れてきて慣らされ始めた。
「っ...う、は..」
『~~~』
「だよな~」
「っく...んんんっザク...やめ」
『~~ー~』
「けけけ、それな」
そう言ってザクの指が勢いよくぐるっと掻き回してきた。痛みと気持ち悪さ以外のものがこみ上げてきて声が我慢できない。
「あう、う~~っ、ザ、クっ...!!」
涙目で睨む、初めてこっちを見てくれた。しかし、そのギラギラと光る赤い瞳には迷いのない欲望の色があり、より絶望することになる。口に一度口づけられたあと指が引き抜かれた。
「っああ...っ」
「これ、噛んでろ」
差し出されたザクの指は自分の液で濡れていて、しかし快感に溺れかけた俺はそれどころではなく黙って噛みついた。するとザクはいつもやるように首元に噛み付き、立ったままゆっくりと挿入してきた。声が漏れる。
「~~っふ...く、う!!」
『~~~~?』
「ああ、今な」
こんな時も普通に会話してるザクの精神を疑う。もう持っていられないのを察したのか受話器を持つ手をザクが支えてきた。そのまま浅く動き始める。
「...んんっ!!ーーっぁ...んっ!」
『~~~~』
「っは...そうか?」
「んっ...うーっく..ざ、く、んうっ」
『~~~~』
「ああ、まあな」
「ーっあ...ザク...ざく!」
腕に爪をつきたて、必死にザクに訴える。傷だらけの腕に新しい傷ができ、そこからうっすらと血が滲んだ。
(しまっ...やりすぎた、か、も)
少しだけ罪悪感が胸に浮かぶ。
「?」
それに気づいたザクは、おもむろに腕を口元に持っていき赤い舌で傷を舐め上げた。口元に血がついたまま笑うザクは、とても野性的で今やつに突っ込まれてるのかと思うと不安にしかならなかった。
(早く終わってくれ...!!)
ラルクさんにバレないように声を殺さないといけないのも辛いし、立ちながら突っ込まれるのも慣れてないためかなり体力を奪われた。息を荒げながら必死に耐える。
「...も、いい、だろ!」
「ん?」
「っは...でんわ!」
「ああ」
そうだったな。と受話器を見た。そして奴は、衝撃の言葉を口にする。
「そろそろルトが限界っぽいから切るわ」
「ー!!!?」
(え?!今、なんっ..)
『~~~~』
「ああ、早漏なんだよな~」
「は!?!ザク、何を話して..!」
「んあ?ハア…きっつ、ずっと今のプレイの話してたけど?」
「~~~~~!!!」
パクパクと口は動くが言葉は出なかった。一気に脳内が沸騰しそうなほど熱くなる。
「んじゃ切る前に一言いうか?」
「?!」
(な、何考えてるんだよ?!)
受話器を口元に持ってこられ、それとザクを交互に見る。こ、この状況で何を言えってんだよ...てゆうかどうしよう、これからラルクさんとどんな顔して話せばいいんだ...絶望しかない。
『~~?』
「ん~ルト、気持ちよすぎて喋れないってさ」
「それはちがっあああっ」
否定しようと思えば奥まで突き入れられ、大きく鳴いてしまう。もう隠すつもりもないのか、いつもの荒々しい動きで俺の思考を追い詰めとかしていく。自分の吐息と声しか聞こえない。
「っは...ああっ、もう、んっ!!」
「けけけ、とゆうことだから、切るぜ」
『~~』
「うあっ、い、ザク...!!」
「ん?わかった」
俺に対してではないザクの答え。受話器が俺の耳元に来る。
「えっ...ん、ハア」
『ではルト君、双子の件お願いしますね、お待ちしています』
「ハア、は、い...あ、ハア...」
『お邪魔してすみませんでした、どうぞ楽しんでくださいね...悪魔との』
ブツッ
ザクが電話をそこで切ってしまい言葉は自動的に消えてしまった。しかし今の俺に、ラルクさんに気を使えるほど理性が残ってはいなかった。
「あっ、も...いく、ザク!」
「いいぜ、ここまでよく頑張りましたってとこだな~」
「う、っさい!ハア誰のせい」
「けけけ、かわいいな~」
後ろからぎゅっと抱きしめられ涙がこぼれた。これは生理的な涙だと思い込んでおく。ザクのも限界なのかかなり熱く大きくなっていた。その存在感に押しやられそうになりながら自分のに手を伸ばす。もう、我慢できない..っ
「ん、ザク...あ、あああっ!!」
「ッハ...あ、く」
ほぼ同時に震える俺とザク。
ドクッドク・・
ザクのものが俺の中で脈打つのを感じながら余韻に体を震わせる。それぞれが欲望を吐き出し終えたところで俺たちは座り込んで荒い息を整えた。
「...は...ハア、」
「ああ、気持ちよかった」
「......死ね」
「なんだよ、怒ってんのか~?あんなに気持ちよさそうだったのに」
「そういう問題じゃないっ」
俺が吐き出したその液体を廊下の床からすくい上げて俺の前に持ってくる。顔をそらしてザクの胸板に肘鉄をお見舞いしてやった。いつもならなんともないその攻撃も傷だらけのザクには効いたようで、低い声で唸っている。
「いっつー...ひどいぜルト、これでも一応怪我人だぞこら」
「こんな事しといて怪我人ヅラすんな!バカ!死ね!もうお前とは二度としない!」
「んな怒んなよ~」
後ろから絡みついてくる腕を避けて体を引き離そうと膝立ちになった。その時にザクのものが出ていく感覚に背中がぶるっと震えてしまう。
どろっ・・・
「あっ・・・!」
「ルトやばい!!!えろい!」
俺の反応を見たザクの、立ち上がったそれに目がいく。まだやるつもりかよ!?とドン引きした。
「くっつくなーっ!!」
「もう一回!」
「しない!」
「今度は先生のとこで」
「~~っしない!!ていうか絶対許さないからな!!!!ラルクさんになんてこと話してるんだよっ」
「ああ、それは」
「もう知るか!死ね!馬鹿ザク!」
俺は走ってシャワー室に逃げ込んだ。その背後でザクが頭をかきながらこんなことを呟いていたのには気づかず...
「あーあ、行っちまった。てかあれ冗談なんだけどな~」
俺様とストレッチしてるって言っただけだし、とイタズラっぽく笑い、手についた生暖かい液体を舐めとった。ルトの味だ。この後のザクが、心なしか傷が治っているような気がしたのは勘違いなのかそれとも...。
***
「おや、早かったですねルト君」
「...」
ぶすーっとしかめっ面のまま下を向く。なるべく目を合わさないようにして頷いた。
「さっきはごめん…そ、それで双子は?」
「ああ、それが...」
ラルクさんが何か言うより先にとある声が邪魔をしてきた。
「あ、先生だー!」
「ん、ルト先生ー」
とてとてと音がしそうな歩き方で少年二人が走り寄ってくる。10歳ぐらいの背丈、そっくりの顔に茶髪、どこかで見たことのある雰囲気だった。
「?」
「わからないの?おれたちだよ」
「こんなんだけど、おれたちだぞ」
「え...ま、まさか」
双子の少年が、俺の両手をそれぞれ握りこんでくる。両手に花?両手に少年?どっちでもいいけどやっと俺は気づいた。
「カプラと、リオなのか?」
「あたり!」
「正解!」
にこにこと嬉しそうに俺の腕をふってる。俺は戸惑いを隠せず近くにいたカプラを抱き上げた。軽い。本当に子どもになってる。
「うわあ、なにすんだー」
「これ、子供の体だよな」
「くすぐったい~」
「おれもおれも!」
リオが俺の腕を掴み自分もやれとせがんできた。混乱を隠せないまま双子を抱き上げているとラルクさんが眼鏡をかけ直しながら説明してくれた。
「どうも、双子は悪魔と契約した時の年齢まで若返ってるようですね」
「ええ?!」
たしか、10歳ぐらいの時だったか?そう言われればそれぐらいの年に見える。でもなんとなくだが精神年齢も少し若返ってるような?
「キメラになった時から双子の体は成長を止めていたのでしょうね。やっと悪魔の契約がとけ、幼いまま成長を止めていた体に戻っていったのではないかと考えられます、精神については脳も10歳のままですから自ずと若返るのでしょう。記憶はそのままという矛盾は残っていますがそれ以外は問題なさそうです」
「なるほど...」
これが悪魔の契約の反動か。これぐらいで済んでよかったのか微妙なとこだけど、とりあえず双子が元気で、楽しそうなので今はよしとする。
「なんだよ、ルト、とうとう子供ができちゃったのか?」
「うわっ!?」
「おわああ!」
「すげええ!」
ザクが双子を抱えた俺ごと抱き上げてきた。突然のことで固まる体。しかし双子は楽しそうに笑ってる。
「こんなでっかい子供いつの間に作ってたんだ~?けけ」
「っちがう!このふたりはキメラの」
「わかってるって。ちぇーせっかくルトを孕ませられたのかと喜んじまったのに、ぶはっ!!」
「死んどけ!!!」
「ひゃー痛そう」
「あれは痛いな」
俺の鉄拳をくらい鼻血を出し倒れたザクを、双子が見下ろして笑ってる。
「それで彼らについてなのですが」
「あ、はい」
ラルクさんが本をパラパラとめくりながらこっちを見た。
「彼らには両親や引き取ってくれる親族がいません。故郷に戻ったとしても普通の生活は望めないでしょう」
死んだと思われていた双子が現れたら今度こそ悪魔の子だと殺されてしまうかもしれない。俺も二人を故郷に帰すのは反対だった。
「なので、二人には私の元で助手をしてもらおうと思っています」
「えっ?!」
「双子の意思は確認済みです」
「そ、そうなのか?」
「うん!」
「やるよおれら」
声を揃えて誇らしげに胸を張る双子。ラルクさんの助手ってのは少し心配だけどこの二人なら大丈夫かもしれない。それにこういう言い方は失礼だが、普通状態のラルクさんなら教育者をやれるぐらいしっかりしているはずだ。
「そっか、ラルクさんのところに」
「先生、さみしい?」
「おれら、ルト先生んちに行こうかとも思ったんだ」
「え」
「でも、なあ」
「ああ...」
双子は目配せをして意味ありげに俺とザクを見てくる。なんだその目は。こういう時だけ少年の清々しさは消えて大人のゲスさが映ってる。
「夜中うるさそうだし」
「邪魔しちゃあれだろ?」
「っ...!!!」
き、気遣われた、だと。ものすごい恥ずかしい。恥ずかしさを通り越して冷静になった。このまま死ねそう。恥ずか死ねる。拳を震わせ握りしめて、それから寝転がって欠伸してるザクを思いっきり殴った。
「イッテー!んだよルト!」
「…やつあたり」
あははと双子に笑われ、横で本を読むラルクさんにも笑われる。居たたまれない気持ちになった。でもこうして一緒に笑えるようになった双子の瞳に、前のような暗さはなくなっていた。
それがとても嬉しくて、俺もつられて笑顔になるのだった。
「おう、任せとけ」
「…」
本当に大丈夫なのだろうか。と不安になりつつもまたザクの前の椅子に腰かけた。手がのびてくる。髪を指ですいてくるだけだった。
「な?大丈夫だろ?」
「...はあ」
俺も消毒の作業に戻った。
「…」
「…イッ…つー」
大きな刃物に抉られたかのような傷痕を消毒するとザクは痛みに目を細める。その動きに連動して腹筋が震えた。俺はなるべく傷痕を痛めないよう優しく消毒していく。
「…」
すると、おもむろにザクの手が首の後ろにまわって俺の頭を引き寄せてきた。
「っなにす」
「ちゅーしようぜ」
「しない」
邪魔、と近くにある顔をどけようとする。ひょいっと避けられ隙のできた右頬に口付けられてしまう。
「っ、こら!なんでそんな」
「だって最近双子ばっかだったし」
「は?」
「なんでもねーよばーか」
「んむむむっ!?」
何かを言う前に口付けられてしまい、反論はザクの口のなかに消えていってしまう。
「んんっう、ふっ…!」
別の生き物のように動く舌を押し出そうとする。しかし逆にそれを絡み取られてしまう。俺は目を瞑ってそれに耐えた。
(ああでも、なんかもうどうでもよくなって…)
ぼんやりと思考を鈍らせて、ぼーっとザクの赤い髪を見てると
りりりりりりりリン!!!
突然けたたましい音が鳴り響いた。その音は廊下からで、どうやら電話の呼び出し音のようだ。あまりにも使わないもので初め何の音かわからなかった。
「ーっでなきゃ」
ドンッとザクの胸を押し退ける。結構深めのキスだったため互いの口が離れるとき涎が糸をひいた。なんだかそれがとても恥ずかしくてごしごしと口をこすってザクから離れる。
「~~っ!」
「けけけ、かーわいっ」
「っっ死ね!!」
多分今の自分の顔は真っ赤に違いない。耳まで熱い。ザクから目を離し廊下に出た。うるさいそれを取り耳に当てる。
「はい、もしもし」
『ルト君ですか?私です』
「あ、ラルクさん?」
どうしたんですか?と、言おうとした時だった。急に背後に気配を感じ、振り返る。思ったとおりザクが立っていた。
「なにし...」
「しーー」
電話中だろ?と口の前に人差し指を立ててきた。そのまま指が口の中に入ってくる。
「!!?」
「~♪」
鼻歌でも歌い始めそうなほどの上機嫌っぷり。なんだかすごく嫌な予感がしてザクを思いっきり睨んで押しのけた。
「...っは、なれろ!」
『ルト君?』
「っあ、すみません」
『離れろ?誰かそこにいるのですか』
「き、気にしないでください!ただ猫がじゃれてきただけで」
ザクの腕をひじでどけながら笑った。腰にまわされた腕は下に行き...服の上から俺の下半身をさぐり始める。
「っ...!!」
(やめろ!)
目で訴えるがザクは手を止めようとしない。むしろ強く力を込めてくる。睨めば睨むほど嬉しそうに牙を見せて笑った。悪魔だ。
ぺろっ
抱き寄せられ背後からうなじを舐められた。ゾクゾクと体が震え声が出そうになるのをなんとか堪える。
「~~っふ...んっやめ、」
『それでルト君、実は双子のことでお話があるのですが』
ラルクさんの落ち着いた優しい声が耳に響き渡り、それすらも刺激に変わる。このままではやばい!
(と、とっとと電話を切らないと・・っ!)
「あ、はい!双子が何か?...んっ」
『はい、実は双子のことで少し問題がありまして』
「え?!?」
ラルクさんの言葉で急に現実に引き戻される。双子はあの後気絶してしまい近くにあったラルクさん家で預かってもらっていた。まさか、二人になにか異変があったのだろうか?!気になるのに、ザクから与えられる刺激のせいで集中できない。絡みつく腕を引き剥がしながら必死に邪念を打ち消していた。
『これは...来てもらうのが一番だと思います』
「そうなんですか?わかりましっ…んっ!!?」
『どうしました?ルト君』
下を向く。服の中にザクの手が入ってきていた。思わず俺は黙り込んでザクを見てしまう。
「ほら、電話」
まぶたに口づけられたあと、耳元で俺にしか聞こえないほどの小さい声で囁かれる。痺れるような低音で顔が真っ赤になった。
「ーっ!!」
言われた通り、心配そうに名前を呼んでるラルクさんに応えた。ちっとも集中できないまま。
『ルトくーん?おーい』
「は、はい!」
『ああよかった、切れてしまったのかと思いました』
「すみません...」
『かけ直しましょうか?』
「は、い...すみませ...んっ」
そわそわと下半身にのびそうな手を必死に堪える。少しずつ熱くなっていく体はもう限界に近づいてきていた。心配そうなラルクさんにはとても申し訳ないけれど、一回これは切らせてもらおう。
「俺から、かけなおすんで、」
後ろにいる馬鹿を殴ってからもう一度かけなおしますから。そう思いながら必死に切ろうとするが、ザクの舌が肩を、指が胸を、それぞれに刺激を与えてくるせいで言葉にならない。やばい。これ以上は声も我慢できない。
「じゃ、じゃあこれで...うっ」
『あ、すみません』
「んっ...へ?」
『近くに悪魔くんはいますか?』
「ひえ?!」
耳を噛まれたのと同時に鋭い質問が来て変な声が出た。咄嗟に手で口を塞ぐが後の祭り。
『え?』
「....い、います」
『では、ちょっと代わってもらってもいいですか?』
「は。はい」
(よかった、今の状況がバレたのかと思った...)
俺は胸を撫で下ろし受話器をザクに持っていく。俺に持たせたままザクはめんどくさそうに口を開いた。
「あんだよ」
『~~~~』
「おう」
『~~~』
「うん」
ラルクさんの声は聞こえないがザクが相槌をうっているので会話は成り立ってるようだ。この二人って喋れたのか...変なとこで感心してるとザクの指がするっと離れていった。
(ほっ...やっと終わった)
そう安心したのが馬鹿だった。
ッグ
突然、ぐりりっと下半身に何か硬いものが押し付けられ、嫌な予感が駆け抜けていく。
(まさかっ)
電話を持つ手が震える。
「ちょ、ざ、ザク....っ」
「おう、そうだぜ」
『~~~』
「ああ最高」
「ザクっおいってば!」
ラルクさんに聞こえないように、小声で訴える。しかしザクは全く見向きもしないで話し続けてる。手は着実に行為の準備をしているのに。いつの間にか下着まで脱がされていた(上着はそのまま)。電話を持ってるので逃げるわけにもいかない。俺のなかで焦りと快感が募っていく。当たり前のように後ろに指を入れてきて慣らされ始めた。
「っ...う、は..」
『~~~』
「だよな~」
「っく...んんんっザク...やめ」
『~~ー~』
「けけけ、それな」
そう言ってザクの指が勢いよくぐるっと掻き回してきた。痛みと気持ち悪さ以外のものがこみ上げてきて声が我慢できない。
「あう、う~~っ、ザ、クっ...!!」
涙目で睨む、初めてこっちを見てくれた。しかし、そのギラギラと光る赤い瞳には迷いのない欲望の色があり、より絶望することになる。口に一度口づけられたあと指が引き抜かれた。
「っああ...っ」
「これ、噛んでろ」
差し出されたザクの指は自分の液で濡れていて、しかし快感に溺れかけた俺はそれどころではなく黙って噛みついた。するとザクはいつもやるように首元に噛み付き、立ったままゆっくりと挿入してきた。声が漏れる。
「~~っふ...く、う!!」
『~~~~?』
「ああ、今な」
こんな時も普通に会話してるザクの精神を疑う。もう持っていられないのを察したのか受話器を持つ手をザクが支えてきた。そのまま浅く動き始める。
「...んんっ!!ーーっぁ...んっ!」
『~~~~』
「っは...そうか?」
「んっ...うーっく..ざ、く、んうっ」
『~~~~』
「ああ、まあな」
「ーっあ...ザク...ざく!」
腕に爪をつきたて、必死にザクに訴える。傷だらけの腕に新しい傷ができ、そこからうっすらと血が滲んだ。
(しまっ...やりすぎた、か、も)
少しだけ罪悪感が胸に浮かぶ。
「?」
それに気づいたザクは、おもむろに腕を口元に持っていき赤い舌で傷を舐め上げた。口元に血がついたまま笑うザクは、とても野性的で今やつに突っ込まれてるのかと思うと不安にしかならなかった。
(早く終わってくれ...!!)
ラルクさんにバレないように声を殺さないといけないのも辛いし、立ちながら突っ込まれるのも慣れてないためかなり体力を奪われた。息を荒げながら必死に耐える。
「...も、いい、だろ!」
「ん?」
「っは...でんわ!」
「ああ」
そうだったな。と受話器を見た。そして奴は、衝撃の言葉を口にする。
「そろそろルトが限界っぽいから切るわ」
「ー!!!?」
(え?!今、なんっ..)
『~~~~』
「ああ、早漏なんだよな~」
「は!?!ザク、何を話して..!」
「んあ?ハア…きっつ、ずっと今のプレイの話してたけど?」
「~~~~~!!!」
パクパクと口は動くが言葉は出なかった。一気に脳内が沸騰しそうなほど熱くなる。
「んじゃ切る前に一言いうか?」
「?!」
(な、何考えてるんだよ?!)
受話器を口元に持ってこられ、それとザクを交互に見る。こ、この状況で何を言えってんだよ...てゆうかどうしよう、これからラルクさんとどんな顔して話せばいいんだ...絶望しかない。
『~~?』
「ん~ルト、気持ちよすぎて喋れないってさ」
「それはちがっあああっ」
否定しようと思えば奥まで突き入れられ、大きく鳴いてしまう。もう隠すつもりもないのか、いつもの荒々しい動きで俺の思考を追い詰めとかしていく。自分の吐息と声しか聞こえない。
「っは...ああっ、もう、んっ!!」
「けけけ、とゆうことだから、切るぜ」
『~~』
「うあっ、い、ザク...!!」
「ん?わかった」
俺に対してではないザクの答え。受話器が俺の耳元に来る。
「えっ...ん、ハア」
『ではルト君、双子の件お願いしますね、お待ちしています』
「ハア、は、い...あ、ハア...」
『お邪魔してすみませんでした、どうぞ楽しんでくださいね...悪魔との』
ブツッ
ザクが電話をそこで切ってしまい言葉は自動的に消えてしまった。しかし今の俺に、ラルクさんに気を使えるほど理性が残ってはいなかった。
「あっ、も...いく、ザク!」
「いいぜ、ここまでよく頑張りましたってとこだな~」
「う、っさい!ハア誰のせい」
「けけけ、かわいいな~」
後ろからぎゅっと抱きしめられ涙がこぼれた。これは生理的な涙だと思い込んでおく。ザクのも限界なのかかなり熱く大きくなっていた。その存在感に押しやられそうになりながら自分のに手を伸ばす。もう、我慢できない..っ
「ん、ザク...あ、あああっ!!」
「ッハ...あ、く」
ほぼ同時に震える俺とザク。
ドクッドク・・
ザクのものが俺の中で脈打つのを感じながら余韻に体を震わせる。それぞれが欲望を吐き出し終えたところで俺たちは座り込んで荒い息を整えた。
「...は...ハア、」
「ああ、気持ちよかった」
「......死ね」
「なんだよ、怒ってんのか~?あんなに気持ちよさそうだったのに」
「そういう問題じゃないっ」
俺が吐き出したその液体を廊下の床からすくい上げて俺の前に持ってくる。顔をそらしてザクの胸板に肘鉄をお見舞いしてやった。いつもならなんともないその攻撃も傷だらけのザクには効いたようで、低い声で唸っている。
「いっつー...ひどいぜルト、これでも一応怪我人だぞこら」
「こんな事しといて怪我人ヅラすんな!バカ!死ね!もうお前とは二度としない!」
「んな怒んなよ~」
後ろから絡みついてくる腕を避けて体を引き離そうと膝立ちになった。その時にザクのものが出ていく感覚に背中がぶるっと震えてしまう。
どろっ・・・
「あっ・・・!」
「ルトやばい!!!えろい!」
俺の反応を見たザクの、立ち上がったそれに目がいく。まだやるつもりかよ!?とドン引きした。
「くっつくなーっ!!」
「もう一回!」
「しない!」
「今度は先生のとこで」
「~~っしない!!ていうか絶対許さないからな!!!!ラルクさんになんてこと話してるんだよっ」
「ああ、それは」
「もう知るか!死ね!馬鹿ザク!」
俺は走ってシャワー室に逃げ込んだ。その背後でザクが頭をかきながらこんなことを呟いていたのには気づかず...
「あーあ、行っちまった。てかあれ冗談なんだけどな~」
俺様とストレッチしてるって言っただけだし、とイタズラっぽく笑い、手についた生暖かい液体を舐めとった。ルトの味だ。この後のザクが、心なしか傷が治っているような気がしたのは勘違いなのかそれとも...。
***
「おや、早かったですねルト君」
「...」
ぶすーっとしかめっ面のまま下を向く。なるべく目を合わさないようにして頷いた。
「さっきはごめん…そ、それで双子は?」
「ああ、それが...」
ラルクさんが何か言うより先にとある声が邪魔をしてきた。
「あ、先生だー!」
「ん、ルト先生ー」
とてとてと音がしそうな歩き方で少年二人が走り寄ってくる。10歳ぐらいの背丈、そっくりの顔に茶髪、どこかで見たことのある雰囲気だった。
「?」
「わからないの?おれたちだよ」
「こんなんだけど、おれたちだぞ」
「え...ま、まさか」
双子の少年が、俺の両手をそれぞれ握りこんでくる。両手に花?両手に少年?どっちでもいいけどやっと俺は気づいた。
「カプラと、リオなのか?」
「あたり!」
「正解!」
にこにこと嬉しそうに俺の腕をふってる。俺は戸惑いを隠せず近くにいたカプラを抱き上げた。軽い。本当に子どもになってる。
「うわあ、なにすんだー」
「これ、子供の体だよな」
「くすぐったい~」
「おれもおれも!」
リオが俺の腕を掴み自分もやれとせがんできた。混乱を隠せないまま双子を抱き上げているとラルクさんが眼鏡をかけ直しながら説明してくれた。
「どうも、双子は悪魔と契約した時の年齢まで若返ってるようですね」
「ええ?!」
たしか、10歳ぐらいの時だったか?そう言われればそれぐらいの年に見える。でもなんとなくだが精神年齢も少し若返ってるような?
「キメラになった時から双子の体は成長を止めていたのでしょうね。やっと悪魔の契約がとけ、幼いまま成長を止めていた体に戻っていったのではないかと考えられます、精神については脳も10歳のままですから自ずと若返るのでしょう。記憶はそのままという矛盾は残っていますがそれ以外は問題なさそうです」
「なるほど...」
これが悪魔の契約の反動か。これぐらいで済んでよかったのか微妙なとこだけど、とりあえず双子が元気で、楽しそうなので今はよしとする。
「なんだよ、ルト、とうとう子供ができちゃったのか?」
「うわっ!?」
「おわああ!」
「すげええ!」
ザクが双子を抱えた俺ごと抱き上げてきた。突然のことで固まる体。しかし双子は楽しそうに笑ってる。
「こんなでっかい子供いつの間に作ってたんだ~?けけ」
「っちがう!このふたりはキメラの」
「わかってるって。ちぇーせっかくルトを孕ませられたのかと喜んじまったのに、ぶはっ!!」
「死んどけ!!!」
「ひゃー痛そう」
「あれは痛いな」
俺の鉄拳をくらい鼻血を出し倒れたザクを、双子が見下ろして笑ってる。
「それで彼らについてなのですが」
「あ、はい」
ラルクさんが本をパラパラとめくりながらこっちを見た。
「彼らには両親や引き取ってくれる親族がいません。故郷に戻ったとしても普通の生活は望めないでしょう」
死んだと思われていた双子が現れたら今度こそ悪魔の子だと殺されてしまうかもしれない。俺も二人を故郷に帰すのは反対だった。
「なので、二人には私の元で助手をしてもらおうと思っています」
「えっ?!」
「双子の意思は確認済みです」
「そ、そうなのか?」
「うん!」
「やるよおれら」
声を揃えて誇らしげに胸を張る双子。ラルクさんの助手ってのは少し心配だけどこの二人なら大丈夫かもしれない。それにこういう言い方は失礼だが、普通状態のラルクさんなら教育者をやれるぐらいしっかりしているはずだ。
「そっか、ラルクさんのところに」
「先生、さみしい?」
「おれら、ルト先生んちに行こうかとも思ったんだ」
「え」
「でも、なあ」
「ああ...」
双子は目配せをして意味ありげに俺とザクを見てくる。なんだその目は。こういう時だけ少年の清々しさは消えて大人のゲスさが映ってる。
「夜中うるさそうだし」
「邪魔しちゃあれだろ?」
「っ...!!!」
き、気遣われた、だと。ものすごい恥ずかしい。恥ずかしさを通り越して冷静になった。このまま死ねそう。恥ずか死ねる。拳を震わせ握りしめて、それから寝転がって欠伸してるザクを思いっきり殴った。
「イッテー!んだよルト!」
「…やつあたり」
あははと双子に笑われ、横で本を読むラルクさんにも笑われる。居たたまれない気持ちになった。でもこうして一緒に笑えるようになった双子の瞳に、前のような暗さはなくなっていた。
それがとても嬉しくて、俺もつられて笑顔になるのだった。
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