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第八章「迷えるキマイラ」
愉快な双子
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ある日の深夜、教会の扉を叩く音がした。
「やあ、牧師さんいるー?」
「おーい、牧師さーん」
真っ暗の教会に二つの楽しげな声が響く。察知したザクが体をおこしたことで俺も眠りから覚めた。
「…ザク?」
「教会内に誰かいるな」
ザクが壁(そっちの方向には教会の礼拝堂がある)をにらんだままそういった。
「…いるって、何が」
「人外系?」
「なっ」
がばっ
布団を蹴りあげた。急いで耳をすますと、かすかに人の声が聞こえる。俺が焦るのとは逆で隣のザクはまた眠りにつこうとしていた。
「おい!!」
「敷地に入ってきてすぐは酔っぱらいかと思ったが…人外っぽかったから一応知らせといた。ということで仕事したし俺様は寝るわ」
「はあ?なんだよそれ!」
(侵入者がいるって伝えて終わりかよ!)
だが、ザクに俺の言葉は届いてないようだ。奴の閉じられた瞼は全く動かない。昼間あんだけ昼寝してるくせに、どんだけ寝れば気が済むんだ。
「はあ」
仕方ない。こいつはこういうやつだし、いって変わるとも思えない。俺一人で何とかしないと。
(幸か不幸か、ザクが反応しないってことはそれほど危険がないわけだしな)
その侵入者とやらを追い出してすぐに寝よう。俺は上着を着た後、階段を降りて礼拝堂に向かった。俺に気付いたのか侵入者たちが声をかけてくる。
「あ!牧師さん…って、あれ、子供じゃん」
「夜更かしはダメだよ少年」
「…」
礼拝堂の中央には青年が二人たっていた。明るめの茶髪に地味な服装。外見だけみれば街のどこにでもいそうだった。
(本当に人外系なのか?)
顔をよく見ると二人とも同じ顔をしていた。双子らしい。前髪をおろしてるか、オールバックにしてあるかの違いしかない。
(双子ってことはどっちが人外だ?まさか両方か…??)
この場にザクがいれば一瞬で解けた謎も俺だけでは深まるばかり。俺が黙ってると双子が近づいてきた。
「おーい、子供は早く寝た方がいいよー」
「背が伸びないぞ、少年」
「…」
まだ俺のことを教会の子供と勘違いしてるらしい。まあ牧師服じゃないし仕方ないか。俺は胸を張り大きめに咳払いをした。
「ゴホン!生憎だけど俺がここの牧師だ」
「えー!」
「嘘」
「はっ嘘ついてどうすんだよ!それよりお前ら今何時だと思ってるんだ」
「えーっと、リオ今何時」
「2時半過ぎだ、カプラ」
オールバックにしてある方がリオ、前髪をおろした方がカプラというようだ。ふむ、時間感覚は狂ってないようだな。確信犯かよ、よりタチが悪いな。
「そうだ、今、夜だぞ。ていうか深夜なんだぞ。用があるならせめて昼間にしてくれ」
「でもなー昼間じゃだめなんだおれら」
「みつかっちまう」
見つかる??誰に…っていうか
「まさかお前らも、匿ってほしいとか言うんじゃないよな」
「お、すげえ!よくわかったね!」
「おれら追われてるんだよ」
いつぞやもこんなことがあったような。言っとくが、牧師は便利屋じゃないんだからな。それに追われてるってどんな悪いことしたんだ?内容によっては今すぐにでも出ていってもらいたい。
「・・・」
その時、俺は相当嫌そうな顔をしていたに違いない。双子が顔を見合わせカプラと呼ばれた方が前に出て相談し始めた。
「おれら、生まれたときから身寄りがなくて、生きるか死ぬかの瀬戸際を常に歩いてきたんだ」
「…」
「だから生きるのに必死で…色々やってきたんだ」
急にしおらしい態度になった双子に目を丸くする。なるほど、同情させて俺の気を引こうってか。だが残念だったな、俺にはとっておきの前情報があったんだよ。
「人の道を外れてもか」
「!!」
「っ!」
双子が揃って動揺を見せた。落ち着きのなくなるカプラとは違い、リオはすぐに平常心を取り戻す。
「どうして、それを?」
「これでも牧師だからな」
とかいって、ザクの前情報のおかげですけどね!!そんな裏事情を知らない双子は一気に俺を警戒しだした。
「えっと、その、」
カプラが混乱しつつも口を開く。続いてリオも。
「そこまでわかってんなら話は早い!」
「おれらを匿ってほしい」
「はあ、だから怪しい奴らを入れるわけにはいかないんだって」
「たのむよ~」
「もうここしかないんだ」
「あのなあ…そもそもなんで追われてるんだ?追っ手は何者なんだ?」
「それはヒミツ」
「言えない」
話にならない。
「なんだよそれ馬鹿にしてんのか」
「だって!言ったら牧師さんも追われちゃうかもだし」
「知ること自体、すでに奴らにとってはタブーかもしれない」
「なっ…そ、そんなにヤバイことに足突っ込んでるのかよ」
見た感じ普通の青年なのに。俺が戸惑っていると、急にカプラがこっちに近づいてきた。顎に手がのびる。
「それともあれかな、代金が必要?」
指で顎をくいっとあげられる。焦げ茶色の瞳としばしの間見つめあった。突然の接近に心拍数がはね上がる。
「っそんなの」
いるか、と言おうと思った瞬間
ドオオオンッ
「ゴラアアああああああっ!!!!ルトに触ってんじゃねー!!!」
「うわあ!なんかでた!」
「…裸?…男?」
「ザク!!」
一気にカオスになる礼拝堂。ザクの馬鹿力によって吹っ飛ばされた礼拝堂の扉は椅子の方まで飛んでいき、扉の代わりに出てきたのは裸のままのザク。双子は顔を見合わせお互いに疑問を投げ掛けあってる。俺はといえば
「馬鹿ザク!!」
ゴツッ
「いってええ!!」
「扉の修理代高いんだぞ!後でお前が直しとけよ!」
「わりーわりー…って!そうじゃねえよ!ルト大変だぜ!上空になんかいる」
「空に?」
いくつもある礼拝堂の窓に近づいた。
「あれだ」
ザクが後ろから指を指してくる。耳に吐息がかかってくすぐったい。
「なんか飛んでる?」
大きな黒い影が教会の上をぐるぐると旋回していた。だが一向に降りてこようとはしない。高い位置から見下ろしなにかを血眼になって探してるようだ。
「ああ、動きから見て、なにか探してるみてーだけど」
そこまで言うとザクの体がびくっと反応した。背後を見れば、俺たちの後ろから双子も外を覗き込んでいた。
「あいつらもうここまで来たのか」
「さすが、仕事が早いな」
双子の呟きに俺は顔が引き攣る。
「え、あの影に追われてんのお前ら?!」
「そうそう」
「そうだ」
「ええー!?」
「安心しろルト。あれは夜にしか動けないタイプでしかも目が悪い。こうやって隠れていればまず見つからないだろう」
ザクが珍しく解説してくれた。その話に、双子は感心して聞いている。
「そうなのかー怖いなー」
「ああ、見つかったらきっと八つ裂きにされるな」
双子がまたしおらしく震え始めた。
「ここを追い出されたら、おれたちは死ぬってことか」
「馬鹿!そんな状況で神の使徒である慈しみ深い牧師様が追い出すわけないだろ」
「・・・」
わざとらしく泣き出す双子。いい年して大の男が泣くなよ。ていうか、双子のやり取りが茶番にしか見えない俺は心が汚れてるんだろうか。
(白々しい)
だが、双子がここを出たら危ないという事は間違いじゃないのだろう。ザクが黒い影から視線を外さず睨んでいるところをみるとそれなりに厄介な奴なのがわかる。
(茶化してはいるけど、今の俺の判断が双子にとってすごい重要なはずだ)
「...はあ」
「牧師さん~」
「牧師さん」
「ああもうわかったよ、絶対悪さしないって約束するか?」
「する!」
「誓ってする」
目の端に映るザクが不機嫌そうな目で見てきている。寝起きの機嫌の悪さ故なのか部外者が教会に入ってくる嫌悪のせいか。だが俺の言葉を遮ることはしなかった。一応信じてくれてるのか。
「じゃあ一階の部屋、勝手に使っていいから…あ、二階は入ってこないように」
教会の離れの一階にはキッチン、客間、空き部屋(元々はザクが使っていたが最近は俺の部屋で寝てるため今はほとんど使われていない)がある。そこら辺を使ってもらうとしよう。二階はもちろん俺の部屋があるので立ち入り禁止。もう一度釘をさし、階段を上がっていく。後ろから双子の感謝する声が届く。
「ありがとーー!」
「ありがとう」
この代価は、何事もなく朝を迎えさっさと彼らが去ってくれることでお願いしたい。
=っち=
「あ、猫に戻ってる」
=人でいるのも疲れたんだよふわーあ…とりあえず外の奴は様子見しかねえな=
「うん」
眠そうな赤毛猫を抱きかかえ自室に向かう。俺もすでに瞼が閉じかけていた。廊下の窓から見える時計台は3時を指している。
(明日は眠いだろうな)
何て考えながら俺たちは眠りについた。
チュンチュン
鳥のさえずり。窓から入ってくる暖かな日差し。
「・・・」
うっすらと目をあけボーッとしていると、下から美味しそうな匂いが漂ってきた。パンの焼ける香ばしい香りに、紅茶の甘く柔らかな香り。
「パン?」
起き上がり、辺りを見る。自分のお腹の上で大の字になって寝てる猫が一匹いるだけで変わりはない。
「あ」
朝が弱い俺はそこでやっと思い出した。急に現れた双子の事を。勢いで泊めてしまったはいいが、一夜あけて変なことしてないかと不安になる。
「…」
ぐううううう
俺の心とは裏腹にお腹は素直だった。とりあえず下にいって食料を確保しよう。ていうかすごく美味しそうな香りがするんだけどどゆこと。
「…」
ベッドから出て階段を降りる。その美味しそうな匂いは下に行けばいくほど強くなった。誰かがキッチンにいるってことか。
「!」
「おっはよー!牧師さん!」
「おはよう」
キッチンを我が物顔で使っていたのは双子だった。まあ当たり前っちゃ当たり前だけど。カプラは足手まといなのかただ椅子に座ってみてるだけだが。キッチンにたつリオが振り返り、朝ごはんを見せてきた。
「すまん、勝手に借りてる」
「おなかすいちゃってつい、ごめんねーん♪」
「…」
謝るリオにたいして、全く反省の色が見えないカプラ。同じ顔で同じ姿をしてる二人だが性格はまるっきり違うようだ。
ぐうううう…
「あれ?」
「お」
「…っ」
気を抜いたらまたお腹が鳴ってしまった。それにつられ双子がこっちを向く。
「おなかすいた?」
「一緒に食べよう」
「…え、あ」
「ほらほら座って、おれたちの間の椅子ね」
「皿はこれでいいか?」
「ちょっま…いや、リオそれはザクのだからその隣でっ…」
双子の勢いに押され椅子に座ってしまった。目の前に朝ごはんののったお皿がおかれる。またお腹がなった。
「…」
「食べないの?リオめっちゃ料理うまいから安心して」
「そこまではうまくない」
「わ、わかった、いただく。でも俺まずお祈りしないと」
「あーなるほど」
「牧師だもんな」
いつもの定型文を小さな声で言うと、それに続いて双子もお祈りを捧げた。独特の訛りのあるお祈りだったが二人共スラスラと唱えていて手馴れてる。
「?」
「ははー、覚えてるもんだね」
「だな」
「お前ら、お祈りしたことあるのか」
「教会育ちだからね」
「すんごい昔の話だけどな」
「へえ」
人外でありながら教会育ち?色々訳がありそうだ。でもこれ以上踏むこむのはタブーだろう。朝御飯に手を伸ばす。すると手が届く前にパンが消えた。
「ーっ?!」
「ふーん、なかなかうまい」
「ザク!!」
後ろから伸びたザクの手が、皿にのる残りの俺のパンを取っていく。
「おい!それ、俺の」
「いいじゃねーの、腹がへってんだよ」
「それは俺だって」
「まあまあ二人とも」
「おれらのやるから」
「でも…むぐっ」
俺たちがいつものように喧嘩をしだすと双子がとめにはいってきた。そしてなにかを言うより先にパンを口に放り込まれる。美味しい。
「美味しいでショー」
「いくらでも作ってやるから喧嘩だけはしないでくれ」
「ごくん…わかったよ…じゃあ先にザクに作ってやってくれ。また俺のがとられたらたまったもんじゃない」
「そこまで意地汚くねーよ」
「っていってまた俺の食べたな!」
「だーかーらー二人とも」
「カプラ、この二人の喧嘩は楽しそうだからまあいいだろ」
「そうかな?うん、そうだね」
ゴンゴンゴン!!
突然響いたノック音。鈍く低い音のため最初は気づかなかったが何度も繰り返し鳴らされてるため嫌でも気づかされた。
「今度は誰だ…やけに客が多いな…」
「今回は人間だぜ」
「わかった…」
立ち上がり廊下にでる。すると戸を叩く音がより大きくなった。どんだけ急いでるんだと顔をしかめる。素早くコートを羽織り外着っぽい姿にした。
ゴンゴンゴンッ!!
「…はい」
「失礼する!」
扉を開けた瞬間、よく通るハキハキとした声が教会内に響いた。この声量だとキッチンからでも聞こえそうだな。
「自分はルッダ地区担当の、教会支部保安官、マック・アーサーであります!」
「えっと…」
教会支部保安官?頭のなかでその言葉を必死に検索していく。
(確か・・・教会の保安を守る直属戦闘部隊だっけ?)
教会にも認可されており、街に一人いるかいないかぐらいの影の薄さ。実際の仕事はあまりなくて普段は暇そうにしてると聞いた。しかし、俺が洗礼を受け、牧師になったあの街。あそこで悪魔を撃退した、白い服装の男達も保安官だ。
「・・・」
悪魔に干渉しただけという理由で関係のない村人まで皆殺しにした恐ろしい集団が、一体この教会になんの用だ。動揺を悟られぬよう気をつけながら、保安官を見上げた。保安官は直立姿勢のまま俺の事を上から下まで眺めたあと、口を開く。
「ルト・ハワードでありますか!」
「あ、はい」
「急な話で申し訳ありませんが!教会の中を調べさせていただいてよろしいでしょうか!!」
「はああ??ちょっまっ」
ズカズカと入ってくる保安官を体で止める。無理矢理入ってくる様子はないが気を抜けばすぐに入り込まれてしまいそうだ。
「あの、困ります!」
確かに保安官は教会を自由に出入りできる権限を持っている。しかし俺の場合教会に住み込みで働いているためプライバシーの問題が生じるはずだ。
(悪魔や人外がごろごろいるから入られたらやばい!)
戸惑う俺とは反対に、ハキハキと保安官は告げる。
「すぐに終わりますから!」
「いや、そういう問題ではなく…あなたが保安官という確証もないまま教会にいれるわけにはいきません」
「あ、そうでありました!これを…」
胸から手帳をだし掲げ保安官の証を見せる。そして舌が見えるように口を開いた。先の割れてない舌を見せることで悪魔ではないという証明をしてる。白い歯が美しくエナメルのようだ。彼の潔癖ぐあいが窺えた。
「これでよいでありますか!」
「だっだめです!」
また入ってきそうになり急いで押し留める。
「どうしてでありますか!」
「すみません。でも、教会本部に問い合わせてからにしてください。俺、ここの教会に住み込みで働いてるんです。教会に立ち入られるなら色々と私物を見せなくちゃいけないんで…ちゃんと確かめておきたいんです」
久しぶりにこんな長い台詞言ったな…何て感心しつつも保安官の様子をちらっとみてみる。難しそうな顔で唸ったあと、彼は力強くうなずいた。
「確かにその通りでありますな!いくら緊急事態とはいえ、牧師殿の安全は蔑ろにはできません!」
「ありがとうございます。今すぐ電話してくるので申し訳ないんですがしばらく教会の外でお待ちいただけますか」
「それぐらいなんともありません!」
「すみません」
そうして俺は教会の扉を閉め、急いで廊下に向かう。キッチンに行き、呼吸を整える前に三人に事情を説明する。
=っけ、めんど=
ザクはゆったりとあくびをしたあと、猫へと変身した。これでザクはなんとかなるだろう。双子の方を見れば、彼らは互いの顔をみたまま固まっていた。
「もしかしておれらの…」
「いや、まだそうと決まってはいない」
ボソボソと独り言のように話し合ってる。オープンな性格のくせに意外に秘密主義なんだよな、この二人。俺は時間が惜しいので双子を追い出すように裏口に案内する。
「とりあえず、教会から離れた方がいい。保安官は冗談抜きで融通がきかないから」
あの街の惨状が頭をよぎる。真っ赤に染まった街。酒場の皆。もうあんな思い二度としたくない。
「ほら早くしろって!」
「わかったわかった、痛いよ」
「あ、・・ごめん」
「平気だけどびっくりした。てっきりおれらのこと突き出しちゃうかと思ってたし」
「は?」
「だって保安官って教会に認可されてるいわば軍人だろ、それに比べおれたちは昨日転がり込んできた素性もよくわからない奴ら。どっちの言葉を信じるかと思ったら...。」
「ああ、そういうことか。...まああんたらすごい怪しいよな、全然自分達の事話してくんないし」
「うっ」
「うぐ」
「それにお前らじゃないけど、・・・俺、よく騙されるんだよ、助けた相手とかに騙されたりもする。でも最近思うようになったんだよな」
双子が目を見開いて俺の言葉に聞きいってる。
(今まで色々あったし命の危険を感じたこともある)
でも、救えたこともあった。出会えた人も、いた。だから
「俺、絶対後悔したくないから、目の前にいる人ぐらいは助けたいんだ。たとえ裏切られても、それで自分が傷ついてもさ」
「・・・」
「・・・」
「ま、そうゆうわけだからお前らには裏から逃げてもらうぞ!てゆうかお前ら見つかったら俺が怪しまれるしな!!」
居心地が悪くなり、黙ったままの二人の背中を押した。
「じゃ、気を付けるんだぞ!街にいくつもりなら公園の裏道を使うと人と会わずにすむからな!」
照れくさくて早口で説明する。裏口の手前で双子は立ち止まり、俺の方に振り返った。
「...ありがとう、牧師さん」
「...助かった、牧師さん」
「はあ、牧師牧師って、ルトでいいよ」
「・・・」
「・・・」
「なんだよさっきから、二人して固まって、早く行けってば…」
二人の背中を両手で押す。途端、双子の手がのび俺の腕をつかんだ。
「えっ・・・うわ!?」
そして同時に手の甲に口付けられる。まるで鏡あわせの人形のように、息のあった動きでみとれてしまった。
「っ!な、なななにすんだよっ」
「いやールト先生にころっと落ちちゃったなーおれら」
「だな」
「ななっ…なにいってんだよ!ふざけてないで早く行けってっ」
双子の背中を押し裏口に押し込んだ。
「牧師殿ー!まだでありますかー!」
教会の方から保安官の声が聞こえてくる。しびれを切らしたのか今すぐにでも入ってきそうな勢いだ。たまらず背中を押す力を強める。
「ほら!」
「わかったよーありがとねールト先生」
「この恩は必ず返すよ、ルト先生」
「せ、先生って...あ」
双子は手をふって歩いていく。その姿はすぐに公園の森のなかにとけていった。
「はあ。やっと行ったか・・・って、やばい、待たせてるんだった!」
一息つく間もなく走って教会の扉に向かった。扉を開ければすぐそこに保安官の姿があり驚いてしまう。
「うわっ」
「??大丈夫でありますか!」
よろけた所を腕で支えられる。
「すみません!焦りすぎました・・」
「いえ自分はなんともありませんのでお気になさらず!」
軽く礼を言って教会のなかに招き入れた。保安官の目があらゆる場所を舐めるように見ていく。
「あ、あちこち壊れてますけど、気にしないでください。修理する予定はあるんですが..」
「失礼しました!そういうわけじゃないんであります!」
「?・・・俺が職務怠慢してるとかで来たんじゃないんですか」
職務怠慢。まあ実際は色々してるんですがね。なにぶん報告できないものばっかで。保安官はそうでありました!といって謝辞をのべてきた。
「伝え遅れており申し訳ありません!自分は今回、ある報告を受けこちらに出向かせていただいたのであります!」
「報告?」
「まだ市民の皆様には開示されていない情報なのでありますが・・・この街に悪魔が潜伏しているらしいのです!!」
「…悪魔が?」
(へえ、悪魔の報告ですか。ぶっちゃけ今更すぎませんかねえ)
だがここで驚かないのも不自然なので、それっぽく驚くふりをしてみる。すると目の前の保安官はわたわたと俺を案じ始めた。案外この人扱いやすいかも。
「だっ大丈夫でありますよ!自分が来たからには悪魔に指一本触れさせませんので!」
「…あ、りがとうございます」
指どころか…色々突っ込まれて命の危機にも合いましたよ、保安官さん。
(まあ、それはともかくだ)
報告された悪魔って、どの悪魔なんだ。タイミングから考えればやっぱあの双子か?でもザクは人外と言っただけで悪魔とは言ってない。
(いっそザクのことだったりして?)
ふと足元に暖かいものがあたる。ザクの尻尾だった。手でしっしっと払うが、ひょいと避けられまたくっついてきた。
「なんだよ、今忙しいんだからあっちいけって」
「…そっそれはっ」
「え?!」
猫ザクをみて、保安官が尋常じゃないほど震えだした。顔は蒼白、体中に汗をかいて後ずさっていく。その変貌は尋常じゃなかった。
(ま、まさか…悪魔ってばれた?!)
猫に変身してるとはいえ保安官の能力は底知れない。舌以外に見抜く方法を知ってるとしたら…
「それは…っ」
保安官が猫ザクに近寄っていく。俺もザクも身構えた。
「やあ、牧師さんいるー?」
「おーい、牧師さーん」
真っ暗の教会に二つの楽しげな声が響く。察知したザクが体をおこしたことで俺も眠りから覚めた。
「…ザク?」
「教会内に誰かいるな」
ザクが壁(そっちの方向には教会の礼拝堂がある)をにらんだままそういった。
「…いるって、何が」
「人外系?」
「なっ」
がばっ
布団を蹴りあげた。急いで耳をすますと、かすかに人の声が聞こえる。俺が焦るのとは逆で隣のザクはまた眠りにつこうとしていた。
「おい!!」
「敷地に入ってきてすぐは酔っぱらいかと思ったが…人外っぽかったから一応知らせといた。ということで仕事したし俺様は寝るわ」
「はあ?なんだよそれ!」
(侵入者がいるって伝えて終わりかよ!)
だが、ザクに俺の言葉は届いてないようだ。奴の閉じられた瞼は全く動かない。昼間あんだけ昼寝してるくせに、どんだけ寝れば気が済むんだ。
「はあ」
仕方ない。こいつはこういうやつだし、いって変わるとも思えない。俺一人で何とかしないと。
(幸か不幸か、ザクが反応しないってことはそれほど危険がないわけだしな)
その侵入者とやらを追い出してすぐに寝よう。俺は上着を着た後、階段を降りて礼拝堂に向かった。俺に気付いたのか侵入者たちが声をかけてくる。
「あ!牧師さん…って、あれ、子供じゃん」
「夜更かしはダメだよ少年」
「…」
礼拝堂の中央には青年が二人たっていた。明るめの茶髪に地味な服装。外見だけみれば街のどこにでもいそうだった。
(本当に人外系なのか?)
顔をよく見ると二人とも同じ顔をしていた。双子らしい。前髪をおろしてるか、オールバックにしてあるかの違いしかない。
(双子ってことはどっちが人外だ?まさか両方か…??)
この場にザクがいれば一瞬で解けた謎も俺だけでは深まるばかり。俺が黙ってると双子が近づいてきた。
「おーい、子供は早く寝た方がいいよー」
「背が伸びないぞ、少年」
「…」
まだ俺のことを教会の子供と勘違いしてるらしい。まあ牧師服じゃないし仕方ないか。俺は胸を張り大きめに咳払いをした。
「ゴホン!生憎だけど俺がここの牧師だ」
「えー!」
「嘘」
「はっ嘘ついてどうすんだよ!それよりお前ら今何時だと思ってるんだ」
「えーっと、リオ今何時」
「2時半過ぎだ、カプラ」
オールバックにしてある方がリオ、前髪をおろした方がカプラというようだ。ふむ、時間感覚は狂ってないようだな。確信犯かよ、よりタチが悪いな。
「そうだ、今、夜だぞ。ていうか深夜なんだぞ。用があるならせめて昼間にしてくれ」
「でもなー昼間じゃだめなんだおれら」
「みつかっちまう」
見つかる??誰に…っていうか
「まさかお前らも、匿ってほしいとか言うんじゃないよな」
「お、すげえ!よくわかったね!」
「おれら追われてるんだよ」
いつぞやもこんなことがあったような。言っとくが、牧師は便利屋じゃないんだからな。それに追われてるってどんな悪いことしたんだ?内容によっては今すぐにでも出ていってもらいたい。
「・・・」
その時、俺は相当嫌そうな顔をしていたに違いない。双子が顔を見合わせカプラと呼ばれた方が前に出て相談し始めた。
「おれら、生まれたときから身寄りがなくて、生きるか死ぬかの瀬戸際を常に歩いてきたんだ」
「…」
「だから生きるのに必死で…色々やってきたんだ」
急にしおらしい態度になった双子に目を丸くする。なるほど、同情させて俺の気を引こうってか。だが残念だったな、俺にはとっておきの前情報があったんだよ。
「人の道を外れてもか」
「!!」
「っ!」
双子が揃って動揺を見せた。落ち着きのなくなるカプラとは違い、リオはすぐに平常心を取り戻す。
「どうして、それを?」
「これでも牧師だからな」
とかいって、ザクの前情報のおかげですけどね!!そんな裏事情を知らない双子は一気に俺を警戒しだした。
「えっと、その、」
カプラが混乱しつつも口を開く。続いてリオも。
「そこまでわかってんなら話は早い!」
「おれらを匿ってほしい」
「はあ、だから怪しい奴らを入れるわけにはいかないんだって」
「たのむよ~」
「もうここしかないんだ」
「あのなあ…そもそもなんで追われてるんだ?追っ手は何者なんだ?」
「それはヒミツ」
「言えない」
話にならない。
「なんだよそれ馬鹿にしてんのか」
「だって!言ったら牧師さんも追われちゃうかもだし」
「知ること自体、すでに奴らにとってはタブーかもしれない」
「なっ…そ、そんなにヤバイことに足突っ込んでるのかよ」
見た感じ普通の青年なのに。俺が戸惑っていると、急にカプラがこっちに近づいてきた。顎に手がのびる。
「それともあれかな、代金が必要?」
指で顎をくいっとあげられる。焦げ茶色の瞳としばしの間見つめあった。突然の接近に心拍数がはね上がる。
「っそんなの」
いるか、と言おうと思った瞬間
ドオオオンッ
「ゴラアアああああああっ!!!!ルトに触ってんじゃねー!!!」
「うわあ!なんかでた!」
「…裸?…男?」
「ザク!!」
一気にカオスになる礼拝堂。ザクの馬鹿力によって吹っ飛ばされた礼拝堂の扉は椅子の方まで飛んでいき、扉の代わりに出てきたのは裸のままのザク。双子は顔を見合わせお互いに疑問を投げ掛けあってる。俺はといえば
「馬鹿ザク!!」
ゴツッ
「いってええ!!」
「扉の修理代高いんだぞ!後でお前が直しとけよ!」
「わりーわりー…って!そうじゃねえよ!ルト大変だぜ!上空になんかいる」
「空に?」
いくつもある礼拝堂の窓に近づいた。
「あれだ」
ザクが後ろから指を指してくる。耳に吐息がかかってくすぐったい。
「なんか飛んでる?」
大きな黒い影が教会の上をぐるぐると旋回していた。だが一向に降りてこようとはしない。高い位置から見下ろしなにかを血眼になって探してるようだ。
「ああ、動きから見て、なにか探してるみてーだけど」
そこまで言うとザクの体がびくっと反応した。背後を見れば、俺たちの後ろから双子も外を覗き込んでいた。
「あいつらもうここまで来たのか」
「さすが、仕事が早いな」
双子の呟きに俺は顔が引き攣る。
「え、あの影に追われてんのお前ら?!」
「そうそう」
「そうだ」
「ええー!?」
「安心しろルト。あれは夜にしか動けないタイプでしかも目が悪い。こうやって隠れていればまず見つからないだろう」
ザクが珍しく解説してくれた。その話に、双子は感心して聞いている。
「そうなのかー怖いなー」
「ああ、見つかったらきっと八つ裂きにされるな」
双子がまたしおらしく震え始めた。
「ここを追い出されたら、おれたちは死ぬってことか」
「馬鹿!そんな状況で神の使徒である慈しみ深い牧師様が追い出すわけないだろ」
「・・・」
わざとらしく泣き出す双子。いい年して大の男が泣くなよ。ていうか、双子のやり取りが茶番にしか見えない俺は心が汚れてるんだろうか。
(白々しい)
だが、双子がここを出たら危ないという事は間違いじゃないのだろう。ザクが黒い影から視線を外さず睨んでいるところをみるとそれなりに厄介な奴なのがわかる。
(茶化してはいるけど、今の俺の判断が双子にとってすごい重要なはずだ)
「...はあ」
「牧師さん~」
「牧師さん」
「ああもうわかったよ、絶対悪さしないって約束するか?」
「する!」
「誓ってする」
目の端に映るザクが不機嫌そうな目で見てきている。寝起きの機嫌の悪さ故なのか部外者が教会に入ってくる嫌悪のせいか。だが俺の言葉を遮ることはしなかった。一応信じてくれてるのか。
「じゃあ一階の部屋、勝手に使っていいから…あ、二階は入ってこないように」
教会の離れの一階にはキッチン、客間、空き部屋(元々はザクが使っていたが最近は俺の部屋で寝てるため今はほとんど使われていない)がある。そこら辺を使ってもらうとしよう。二階はもちろん俺の部屋があるので立ち入り禁止。もう一度釘をさし、階段を上がっていく。後ろから双子の感謝する声が届く。
「ありがとーー!」
「ありがとう」
この代価は、何事もなく朝を迎えさっさと彼らが去ってくれることでお願いしたい。
=っち=
「あ、猫に戻ってる」
=人でいるのも疲れたんだよふわーあ…とりあえず外の奴は様子見しかねえな=
「うん」
眠そうな赤毛猫を抱きかかえ自室に向かう。俺もすでに瞼が閉じかけていた。廊下の窓から見える時計台は3時を指している。
(明日は眠いだろうな)
何て考えながら俺たちは眠りについた。
チュンチュン
鳥のさえずり。窓から入ってくる暖かな日差し。
「・・・」
うっすらと目をあけボーッとしていると、下から美味しそうな匂いが漂ってきた。パンの焼ける香ばしい香りに、紅茶の甘く柔らかな香り。
「パン?」
起き上がり、辺りを見る。自分のお腹の上で大の字になって寝てる猫が一匹いるだけで変わりはない。
「あ」
朝が弱い俺はそこでやっと思い出した。急に現れた双子の事を。勢いで泊めてしまったはいいが、一夜あけて変なことしてないかと不安になる。
「…」
ぐううううう
俺の心とは裏腹にお腹は素直だった。とりあえず下にいって食料を確保しよう。ていうかすごく美味しそうな香りがするんだけどどゆこと。
「…」
ベッドから出て階段を降りる。その美味しそうな匂いは下に行けばいくほど強くなった。誰かがキッチンにいるってことか。
「!」
「おっはよー!牧師さん!」
「おはよう」
キッチンを我が物顔で使っていたのは双子だった。まあ当たり前っちゃ当たり前だけど。カプラは足手まといなのかただ椅子に座ってみてるだけだが。キッチンにたつリオが振り返り、朝ごはんを見せてきた。
「すまん、勝手に借りてる」
「おなかすいちゃってつい、ごめんねーん♪」
「…」
謝るリオにたいして、全く反省の色が見えないカプラ。同じ顔で同じ姿をしてる二人だが性格はまるっきり違うようだ。
ぐうううう…
「あれ?」
「お」
「…っ」
気を抜いたらまたお腹が鳴ってしまった。それにつられ双子がこっちを向く。
「おなかすいた?」
「一緒に食べよう」
「…え、あ」
「ほらほら座って、おれたちの間の椅子ね」
「皿はこれでいいか?」
「ちょっま…いや、リオそれはザクのだからその隣でっ…」
双子の勢いに押され椅子に座ってしまった。目の前に朝ごはんののったお皿がおかれる。またお腹がなった。
「…」
「食べないの?リオめっちゃ料理うまいから安心して」
「そこまではうまくない」
「わ、わかった、いただく。でも俺まずお祈りしないと」
「あーなるほど」
「牧師だもんな」
いつもの定型文を小さな声で言うと、それに続いて双子もお祈りを捧げた。独特の訛りのあるお祈りだったが二人共スラスラと唱えていて手馴れてる。
「?」
「ははー、覚えてるもんだね」
「だな」
「お前ら、お祈りしたことあるのか」
「教会育ちだからね」
「すんごい昔の話だけどな」
「へえ」
人外でありながら教会育ち?色々訳がありそうだ。でもこれ以上踏むこむのはタブーだろう。朝御飯に手を伸ばす。すると手が届く前にパンが消えた。
「ーっ?!」
「ふーん、なかなかうまい」
「ザク!!」
後ろから伸びたザクの手が、皿にのる残りの俺のパンを取っていく。
「おい!それ、俺の」
「いいじゃねーの、腹がへってんだよ」
「それは俺だって」
「まあまあ二人とも」
「おれらのやるから」
「でも…むぐっ」
俺たちがいつものように喧嘩をしだすと双子がとめにはいってきた。そしてなにかを言うより先にパンを口に放り込まれる。美味しい。
「美味しいでショー」
「いくらでも作ってやるから喧嘩だけはしないでくれ」
「ごくん…わかったよ…じゃあ先にザクに作ってやってくれ。また俺のがとられたらたまったもんじゃない」
「そこまで意地汚くねーよ」
「っていってまた俺の食べたな!」
「だーかーらー二人とも」
「カプラ、この二人の喧嘩は楽しそうだからまあいいだろ」
「そうかな?うん、そうだね」
ゴンゴンゴン!!
突然響いたノック音。鈍く低い音のため最初は気づかなかったが何度も繰り返し鳴らされてるため嫌でも気づかされた。
「今度は誰だ…やけに客が多いな…」
「今回は人間だぜ」
「わかった…」
立ち上がり廊下にでる。すると戸を叩く音がより大きくなった。どんだけ急いでるんだと顔をしかめる。素早くコートを羽織り外着っぽい姿にした。
ゴンゴンゴンッ!!
「…はい」
「失礼する!」
扉を開けた瞬間、よく通るハキハキとした声が教会内に響いた。この声量だとキッチンからでも聞こえそうだな。
「自分はルッダ地区担当の、教会支部保安官、マック・アーサーであります!」
「えっと…」
教会支部保安官?頭のなかでその言葉を必死に検索していく。
(確か・・・教会の保安を守る直属戦闘部隊だっけ?)
教会にも認可されており、街に一人いるかいないかぐらいの影の薄さ。実際の仕事はあまりなくて普段は暇そうにしてると聞いた。しかし、俺が洗礼を受け、牧師になったあの街。あそこで悪魔を撃退した、白い服装の男達も保安官だ。
「・・・」
悪魔に干渉しただけという理由で関係のない村人まで皆殺しにした恐ろしい集団が、一体この教会になんの用だ。動揺を悟られぬよう気をつけながら、保安官を見上げた。保安官は直立姿勢のまま俺の事を上から下まで眺めたあと、口を開く。
「ルト・ハワードでありますか!」
「あ、はい」
「急な話で申し訳ありませんが!教会の中を調べさせていただいてよろしいでしょうか!!」
「はああ??ちょっまっ」
ズカズカと入ってくる保安官を体で止める。無理矢理入ってくる様子はないが気を抜けばすぐに入り込まれてしまいそうだ。
「あの、困ります!」
確かに保安官は教会を自由に出入りできる権限を持っている。しかし俺の場合教会に住み込みで働いているためプライバシーの問題が生じるはずだ。
(悪魔や人外がごろごろいるから入られたらやばい!)
戸惑う俺とは反対に、ハキハキと保安官は告げる。
「すぐに終わりますから!」
「いや、そういう問題ではなく…あなたが保安官という確証もないまま教会にいれるわけにはいきません」
「あ、そうでありました!これを…」
胸から手帳をだし掲げ保安官の証を見せる。そして舌が見えるように口を開いた。先の割れてない舌を見せることで悪魔ではないという証明をしてる。白い歯が美しくエナメルのようだ。彼の潔癖ぐあいが窺えた。
「これでよいでありますか!」
「だっだめです!」
また入ってきそうになり急いで押し留める。
「どうしてでありますか!」
「すみません。でも、教会本部に問い合わせてからにしてください。俺、ここの教会に住み込みで働いてるんです。教会に立ち入られるなら色々と私物を見せなくちゃいけないんで…ちゃんと確かめておきたいんです」
久しぶりにこんな長い台詞言ったな…何て感心しつつも保安官の様子をちらっとみてみる。難しそうな顔で唸ったあと、彼は力強くうなずいた。
「確かにその通りでありますな!いくら緊急事態とはいえ、牧師殿の安全は蔑ろにはできません!」
「ありがとうございます。今すぐ電話してくるので申し訳ないんですがしばらく教会の外でお待ちいただけますか」
「それぐらいなんともありません!」
「すみません」
そうして俺は教会の扉を閉め、急いで廊下に向かう。キッチンに行き、呼吸を整える前に三人に事情を説明する。
=っけ、めんど=
ザクはゆったりとあくびをしたあと、猫へと変身した。これでザクはなんとかなるだろう。双子の方を見れば、彼らは互いの顔をみたまま固まっていた。
「もしかしておれらの…」
「いや、まだそうと決まってはいない」
ボソボソと独り言のように話し合ってる。オープンな性格のくせに意外に秘密主義なんだよな、この二人。俺は時間が惜しいので双子を追い出すように裏口に案内する。
「とりあえず、教会から離れた方がいい。保安官は冗談抜きで融通がきかないから」
あの街の惨状が頭をよぎる。真っ赤に染まった街。酒場の皆。もうあんな思い二度としたくない。
「ほら早くしろって!」
「わかったわかった、痛いよ」
「あ、・・ごめん」
「平気だけどびっくりした。てっきりおれらのこと突き出しちゃうかと思ってたし」
「は?」
「だって保安官って教会に認可されてるいわば軍人だろ、それに比べおれたちは昨日転がり込んできた素性もよくわからない奴ら。どっちの言葉を信じるかと思ったら...。」
「ああ、そういうことか。...まああんたらすごい怪しいよな、全然自分達の事話してくんないし」
「うっ」
「うぐ」
「それにお前らじゃないけど、・・・俺、よく騙されるんだよ、助けた相手とかに騙されたりもする。でも最近思うようになったんだよな」
双子が目を見開いて俺の言葉に聞きいってる。
(今まで色々あったし命の危険を感じたこともある)
でも、救えたこともあった。出会えた人も、いた。だから
「俺、絶対後悔したくないから、目の前にいる人ぐらいは助けたいんだ。たとえ裏切られても、それで自分が傷ついてもさ」
「・・・」
「・・・」
「ま、そうゆうわけだからお前らには裏から逃げてもらうぞ!てゆうかお前ら見つかったら俺が怪しまれるしな!!」
居心地が悪くなり、黙ったままの二人の背中を押した。
「じゃ、気を付けるんだぞ!街にいくつもりなら公園の裏道を使うと人と会わずにすむからな!」
照れくさくて早口で説明する。裏口の手前で双子は立ち止まり、俺の方に振り返った。
「...ありがとう、牧師さん」
「...助かった、牧師さん」
「はあ、牧師牧師って、ルトでいいよ」
「・・・」
「・・・」
「なんだよさっきから、二人して固まって、早く行けってば…」
二人の背中を両手で押す。途端、双子の手がのび俺の腕をつかんだ。
「えっ・・・うわ!?」
そして同時に手の甲に口付けられる。まるで鏡あわせの人形のように、息のあった動きでみとれてしまった。
「っ!な、なななにすんだよっ」
「いやールト先生にころっと落ちちゃったなーおれら」
「だな」
「ななっ…なにいってんだよ!ふざけてないで早く行けってっ」
双子の背中を押し裏口に押し込んだ。
「牧師殿ー!まだでありますかー!」
教会の方から保安官の声が聞こえてくる。しびれを切らしたのか今すぐにでも入ってきそうな勢いだ。たまらず背中を押す力を強める。
「ほら!」
「わかったよーありがとねールト先生」
「この恩は必ず返すよ、ルト先生」
「せ、先生って...あ」
双子は手をふって歩いていく。その姿はすぐに公園の森のなかにとけていった。
「はあ。やっと行ったか・・・って、やばい、待たせてるんだった!」
一息つく間もなく走って教会の扉に向かった。扉を開ければすぐそこに保安官の姿があり驚いてしまう。
「うわっ」
「??大丈夫でありますか!」
よろけた所を腕で支えられる。
「すみません!焦りすぎました・・」
「いえ自分はなんともありませんのでお気になさらず!」
軽く礼を言って教会のなかに招き入れた。保安官の目があらゆる場所を舐めるように見ていく。
「あ、あちこち壊れてますけど、気にしないでください。修理する予定はあるんですが..」
「失礼しました!そういうわけじゃないんであります!」
「?・・・俺が職務怠慢してるとかで来たんじゃないんですか」
職務怠慢。まあ実際は色々してるんですがね。なにぶん報告できないものばっかで。保安官はそうでありました!といって謝辞をのべてきた。
「伝え遅れており申し訳ありません!自分は今回、ある報告を受けこちらに出向かせていただいたのであります!」
「報告?」
「まだ市民の皆様には開示されていない情報なのでありますが・・・この街に悪魔が潜伏しているらしいのです!!」
「…悪魔が?」
(へえ、悪魔の報告ですか。ぶっちゃけ今更すぎませんかねえ)
だがここで驚かないのも不自然なので、それっぽく驚くふりをしてみる。すると目の前の保安官はわたわたと俺を案じ始めた。案外この人扱いやすいかも。
「だっ大丈夫でありますよ!自分が来たからには悪魔に指一本触れさせませんので!」
「…あ、りがとうございます」
指どころか…色々突っ込まれて命の危機にも合いましたよ、保安官さん。
(まあ、それはともかくだ)
報告された悪魔って、どの悪魔なんだ。タイミングから考えればやっぱあの双子か?でもザクは人外と言っただけで悪魔とは言ってない。
(いっそザクのことだったりして?)
ふと足元に暖かいものがあたる。ザクの尻尾だった。手でしっしっと払うが、ひょいと避けられまたくっついてきた。
「なんだよ、今忙しいんだからあっちいけって」
「…そっそれはっ」
「え?!」
猫ザクをみて、保安官が尋常じゃないほど震えだした。顔は蒼白、体中に汗をかいて後ずさっていく。その変貌は尋常じゃなかった。
(ま、まさか…悪魔ってばれた?!)
猫に変身してるとはいえ保安官の能力は底知れない。舌以外に見抜く方法を知ってるとしたら…
「それは…っ」
保安官が猫ザクに近寄っていく。俺もザクも身構えた。
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