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第三章「ヘンタイ博士登場」
★人魚の歌
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=これです兄貴!人魚の=
=ほうほう、これがかね=
声が聞こえる。多分、影悪魔とその仲間の声だろう。
(は・・・早くこんなとこ出て、ザクを手当しないと...)
でも、おかしなぐらい体が重い。
=どうしますか?起こします?=
=どうしたものか=
「う...おき、てる」
口は動くので、ゆっくりと答えた。
=きひひ!人魚のお目覚めだ=
「くっ…なに、がしたいんだ、お前ら…」
=手荒な真似をして悪かった、私の願いを聞いてもらえればすぐに元の世界へ返そう=
「っは...それが、ペットになれとかじゃないだろう、な」
体の感覚が少しずつ戻ってくる。ギシギシと音をさせながら上半身だけ起こしてみた。しかし、目を開けても真っ暗、閉じても真っ暗な世界に戸惑う。今自分が目を開けてるのか閉じてるのかもわからなくなってくる。
=それも面白いが・・・わたしの仲間に歌を歌ってほしいんだ=
「う、歌…!?」
=そうだ、お前の歌だ=
俺は一瞬何の話かわからなくなる。てっきり体とかそういう無理難題を求められるとばかり思っていた。それがまさか歌を求めてくるなんて。
=あんたの歌はよく聞こえてくるんだ、影の中にいても=
「いや、でも、え・・・?俺そんな人前で歌ったことなんかないと思うけど」
=教会で歌っていただろう、あれでよいのだ=
リリと一緒に歌ってるあれだろうか。俺の故郷の子守唄を、眠る前のリリによく聞かせているのだ。
=わたしの仲間の最後を、あの歌で安らかに送らせてやりたい=
「...仲間、死にかけてるのか」
=死ぬというのは人間だけにあてはまる概念だ。我々は弱っても、仲間同士融合し存在が消えることはない。ただ、この形としては別れることになる・・・だから、それなりに心を尽くしたいものでな=
「・・・」
=申し訳ないが付き合ってもらえないか、人魚よ=
「・・・」
別れる仲間のために力を尽くしたいと思うなんて、ありえないと思ってしまった。だって相手は悪魔だ。人間を惑わし悪の根源であるはずの悪魔が、そんな風に相手を想って行動するなんて信じられない。でも目の前の悪魔に、嘘を言っているような様子はなかった。
「悪魔にも、こんな風に考える奴ら・・・いるんだ」
=珍しいだろうが、いるさ。人間だって悪いものも良いものもいるだろう?=
「...うん」
本当にその通りだ。悪魔だから悪い奴、ではないのかもしれない。とっさにアイツの顔が浮かんで、すぐに頭を横に振った。
「あのさ...俺、歌うのはいいけど、こっちの願いも聞いてもらっていいか?」
=願いによるな=
神妙な声で問いかけてくる。俺がどんな交渉をしてくるのか不安なのだろう。
「そんなすごいことじゃないんだ・・・アイツ、ザクをを助けたくて」
=...=
「すごい傷だった、致命傷かもしれないんだ・・・このままじゃ・・・気が気じゃなくて、仲間を送る歌なんて歌えそうにない」
今も苦しんでるかもしれない。包丁が深く突き刺さって苦しそうに呻くザクを想像して、顔をしかめた。
(ザクが死んだらどうしよう・・・、ザク・・・!)
こんな真っ暗な世界にいるのに、俺が思い描くザクは太陽のように光っている。早くアイツを助けに行かないととより強く思わされた。
「てか、あれ??!」
スタスタスタ・・・
想像のはずのザクがこちらに近づいてきてる。迷わず俺の方に。
「え、え、え・・・?」
がばっ!!
戸惑っていると、懐かしい香りが俺の体を包んできた。
「バカかお前!!なんでこんなとこに連れられてまで俺様の心配してんだよ!」
「・・・ざ、ザク?!え、どうしてここに!ていうか本物?!」
「俺様にできねえことはねーよ!そんでもって紛れもない本人だから安心しろ」
そう言って耳をがぶっと噛んできた。
「あうっ?!」
ラルクさんのせいで敏感になっていた体が、堪らず震える。
「何その可愛いこえっーぐふっ」
奴の胸あたりにパンチを何度かお見舞いしてやった。見えないけど多分当たりだ。腹筋にぶつかって拳が痛い。
「~~うるさい!」
「い、いててっ・・・傷にしみる・・・っ」
蹲っているのか声が小さくなるザク。その様子に俺はうろたえた。あまりにも普通に現れたから怪我なんてなかった事になってるものかと…急いで肩に手を置いた。
「あ・・・ザク、ごめ」
「って、うっそぴょーん」
「・・・」
ボカッ!ガッ!ゴスッ!
「っぐはあ!!」
「一回死んでこい!!!」
驚くべき事に、さっき刺されてたはずの腹にはなんの跡も残ってなかった。よくわかんないけど、安心した俺は再度殴ることにした。
=きひひ、早速結界破られちゃってるし~どうしましょう兄貴~=
=・・・=
「っけ、お前ら覚悟はいいだろうな?俺様のものに手を出しといて無事でいられると思うなよ」
=きひいい!!=
「ま、待てザク!これには訳があるみたいで!」
「...は?」
訝しげにこっちを見てる。そりゃそうか、誘拐犯のことを誘拐されたやつが庇うなんておかしいよな。でもこのままシャドー達がザクにぶっ飛ばされるのは気分がよくない。きちんと説明してわかってもらおう。
「こいつら悪意はないみたいなんだ、約束を守れば開放してくれるだろうし。だよな?」
=ああ、もちろんだ=
「へえ?いつの間に俺様のご主人様はどこの馬の骨とも分からぬ悪魔と仲良くなられたんですかね~?」
面白くない、というような顔をする。
「嫉妬は醜いぞ」
「ジェラってねーし!」
「じゃあ、黙ってろ」
「っけ!たく、変なとこでお人よしなんだからお前は・・・」
ザクも納得したところで、俺は影悪魔に近づいた。
「俺の願いは叶ったからそっちの願いを聞くよ・・・案内してくれるか?」
=ああ=
シャドーは嬉しそうに頷き、仲間の下へ俺たちを案内していく。
「~♪・・・っと、こんな感じ、でいいか?」
=ありがとう、人魚。仲間は安らかにいけたはずだ=
「そっか、だと嬉しいけど」
=こちらこそすまなかったな=
=助かったぜ、人魚っち~この恩はいつか返すから!=
「はは、今度は影から引きずり込むのはやめてくれよ?」
=それはどうかな~?きひひっ=
シャドー達の言葉を聞きながらザクのもとに戻る。ザクは胡座をかいてこっちをぶっすーと見ていた。
「ごめん、待たせたな、行こう」
「なるほどね~まあ、気持ちはわかるかもな」
「?」
「お前の歌は、嫌いじゃない」
さらっと言われて一瞬意味がわからなかった。理解すると同時に顔が真っ赤になる。
「!!お、お前まで気持ち悪いこと言うな!!」
「だーからなんでそうやってすぐに殴るんだよ~俺様はサンドバッグじゃねーんだぞ?」
「うるさい!行くぞ!」
「へいへい、女王様の言うとおりにー」
「誰が女王様だ!」
ザクに連れられ元の世界へと戻っていく。世界が少しずつ白んできた。
***
むくり
「ああ、遅かったねルト君♪」
「ひい!」
帰ってきてすぐ、聞きたくもない男の声が耳に入り飛び起きる。
「し、シータ?!どうしてここに」
「いや、変態がうざいから引き取れって君のお守りに言われてさ」
「お守り??」
「けけけ」
「え、ザクのこと?!いやいやこいつはお守りじゃないから!どっちかといえば俺が・・・ていうか、どういうことだよこれはっ」
「起きたのですね、ルト君」
落ち着いた声が、後ろからする。急いで振り返ると
「!!!!」
天井に、つるし上げられてるラルクさんと目が合う。え、ちょ、なんで吊るされて...いや、吊らされてるのは大賛成だけど、誰がどうやって...
「そりゃ俺様の力でちょちょいのちょいだ」
包丁に刺された後ザクは自力で回復してラルクさんを縛り上げた、そして俺のところに救出に来た…という事だろうか。
「…そういう事か」
「おいおい、もっと感謝してくれてもいいだろ~?」
「ありがとうありがとう、これでいいな」
「心がこもってねえ!」
鬱陶しい、とザクを横に押しやりラルクさんに視線を戻した。
「で、ラルクさん。・・・弁解はありますか?」
「なっ」
俺の言葉に驚き一瞬言葉を失うラルクさん。後ろに立ってるザクとシータもやれやれと肩をすくめている。
「・・・君にそんなことを言われるとは、思いませんでした。てっきり八つ裂きにされて海に沈められるのかと」
「いや、俺どんな悪人だよ!そんな事しないって」
「しかし、ルト君・・・」
「まあ・・・怒ってはいるけどさ」
「ですよね。...すみませんでした。見苦しい言い訳にしかなりませんが・・・私は悪魔のことになると夢中になり我を忘れてしまうのです。それが分かっていてあなたの側から離れなかった私に落ち度があります。」
「...そう、聞いてたけど本当にそうだったんだな」
「はい」
そう言って項垂れた。
「...」
「...」
俺とラルクさんがお互い黙ってしまうと、シータが仲裁に入ってきた。
「ほらいったじゃんか、僕とこの人はそう変わらないよってさー?変態は変態それ以上でもそれ以下でもないんだってばー!それを聞かずに放置したルト君も悪いんじゃっぶ!!」
「ちょっと黙ってろ」
「あい...」
急所に俺の蹴りを受け床に突っ伏す馬鹿は放っておき。俺は再度ラルクさんに視線を戻した。それからゆっくりと手を伸ばす。
しゅるるっ・・・
「!」
縄を解き、ラルクさんを床におろしてやった。
「え・・・?」
ラルクさんが不思議そうな顔で見てくる。
「ほら、そろそろ学会の時間だろ」
「...!」
「何つったってんの、早く行けってば・・・っうわあ」
がばっ!!
メガネを曇らせながら近寄られ、強く抱きしめられる。嫌なことを思い出してゾッとしたが、すぐに体が離れたので不快感も一瞬で消えた。
「ありがとう!・・・君の、本当の魅力がわかった気がします!ルト君!」
「あーもう早く行きなって・・・ほんとに遅刻するぞ」
「ありがとう!いってきます!!」
俺の態度も気にせずニコニコと笑いながら手を振り、去っていくラルクさん。ほんと、したたかな人だ。あの感じだとまたひょっこり顔を出してきそうな気がする。ある意味最強だろう。
「ふう」
外を見てみると朝日が昇っていた。影の中にいるとそんなに感じなかったが、相当の時間拘束されていたみたいだ。やはり悪魔と関わるとそれなりに負荷があるらしい。
「はあ。」
「今回も波乱だったなあ~」
「なに他人事で締めようとしてるんだ!元はといえばお前が教会から姿を消したのが悪いんだろ!!」
「なんだよその言い草~心配だからこんなに早く帰ってきてやったのにひでえなあー!」
「しかも刺されて心配させるし!!」
「それは俺様のせいじゃねえ!汗」
「あーあーもう、バカップルですかーっての..もう僕帰ろーあほらし」
そう言ってシータもキッチンから姿を消した。俺とザクの二人きりになる。ふと、ザクが真剣な顔になった。
「...ルト。」
「トイレ、いってくる」
俺はそそくさとキッチンを後にする。実はずっと前から下半身が疼いていて辛かったのだ。早くこれを収めて、ベッドに入って寝たい。
かちゃっ
トイレの扉を開け、鍵をしめた。そうして自らの下半身に手を伸ばしたそのとき
「なあ、ルトー?」
びくっ!
その声に、思わず手が止まる。
「俺様さー結構今回頑張ったよな?」
「え?あ、ああ、多分」
どうでもいいから早くどこかへ行ってくれ。集中できない。
「ご褒美、欲しいんだけど~?」
「..知るかっ」
いいからあっち行けって!
「そこでどうせオナるんだろ?声聞かせてくんな~い?」
「――っはああ??!」
血管が切れるかと思った。ついで顔が真っ赤になる。ど、どうしてここでしようとしたのバレて...るんだよ!?
「な?お願いだって」
「ダメだ!っき、気が散るからあっち行けバカっ!!」
「...」
俺の言葉に納得したのか、トイレの前の廊下が静かになる。
(諦めてくれたか・・・)
俺はふうと一息をつき、もう一度下半身に手を伸ばす。
ッガ
が、その手をまた引き止められた。今度は本当にリアルの腕で止められてしまった。
「って、腕????」
振り返ってみると、扉から...腕だけが生えてる奇妙な風景が広がってた。絶句。あまりの不気味さに、悲鳴すら出ない。
「~~~!!?」
「ならしょうがねー、無理やりやらせてもらうとするか」
「え、ちょ待て待て!ばか!」
その声が聞こえたかと思ったら、見慣れた赤髪が扉から生えてきて...眼帯も見えてくる。
「え、な、はああ?!」
まさか体全てこっちにすり抜けてくる気じゃ...とか青ざめていたら、いち早く扉の内側に移動していた奴の右手が俺のをつかみ動かし始めた。
=ほうほう、これがかね=
声が聞こえる。多分、影悪魔とその仲間の声だろう。
(は・・・早くこんなとこ出て、ザクを手当しないと...)
でも、おかしなぐらい体が重い。
=どうしますか?起こします?=
=どうしたものか=
「う...おき、てる」
口は動くので、ゆっくりと答えた。
=きひひ!人魚のお目覚めだ=
「くっ…なに、がしたいんだ、お前ら…」
=手荒な真似をして悪かった、私の願いを聞いてもらえればすぐに元の世界へ返そう=
「っは...それが、ペットになれとかじゃないだろう、な」
体の感覚が少しずつ戻ってくる。ギシギシと音をさせながら上半身だけ起こしてみた。しかし、目を開けても真っ暗、閉じても真っ暗な世界に戸惑う。今自分が目を開けてるのか閉じてるのかもわからなくなってくる。
=それも面白いが・・・わたしの仲間に歌を歌ってほしいんだ=
「う、歌…!?」
=そうだ、お前の歌だ=
俺は一瞬何の話かわからなくなる。てっきり体とかそういう無理難題を求められるとばかり思っていた。それがまさか歌を求めてくるなんて。
=あんたの歌はよく聞こえてくるんだ、影の中にいても=
「いや、でも、え・・・?俺そんな人前で歌ったことなんかないと思うけど」
=教会で歌っていただろう、あれでよいのだ=
リリと一緒に歌ってるあれだろうか。俺の故郷の子守唄を、眠る前のリリによく聞かせているのだ。
=わたしの仲間の最後を、あの歌で安らかに送らせてやりたい=
「...仲間、死にかけてるのか」
=死ぬというのは人間だけにあてはまる概念だ。我々は弱っても、仲間同士融合し存在が消えることはない。ただ、この形としては別れることになる・・・だから、それなりに心を尽くしたいものでな=
「・・・」
=申し訳ないが付き合ってもらえないか、人魚よ=
「・・・」
別れる仲間のために力を尽くしたいと思うなんて、ありえないと思ってしまった。だって相手は悪魔だ。人間を惑わし悪の根源であるはずの悪魔が、そんな風に相手を想って行動するなんて信じられない。でも目の前の悪魔に、嘘を言っているような様子はなかった。
「悪魔にも、こんな風に考える奴ら・・・いるんだ」
=珍しいだろうが、いるさ。人間だって悪いものも良いものもいるだろう?=
「...うん」
本当にその通りだ。悪魔だから悪い奴、ではないのかもしれない。とっさにアイツの顔が浮かんで、すぐに頭を横に振った。
「あのさ...俺、歌うのはいいけど、こっちの願いも聞いてもらっていいか?」
=願いによるな=
神妙な声で問いかけてくる。俺がどんな交渉をしてくるのか不安なのだろう。
「そんなすごいことじゃないんだ・・・アイツ、ザクをを助けたくて」
=...=
「すごい傷だった、致命傷かもしれないんだ・・・このままじゃ・・・気が気じゃなくて、仲間を送る歌なんて歌えそうにない」
今も苦しんでるかもしれない。包丁が深く突き刺さって苦しそうに呻くザクを想像して、顔をしかめた。
(ザクが死んだらどうしよう・・・、ザク・・・!)
こんな真っ暗な世界にいるのに、俺が思い描くザクは太陽のように光っている。早くアイツを助けに行かないととより強く思わされた。
「てか、あれ??!」
スタスタスタ・・・
想像のはずのザクがこちらに近づいてきてる。迷わず俺の方に。
「え、え、え・・・?」
がばっ!!
戸惑っていると、懐かしい香りが俺の体を包んできた。
「バカかお前!!なんでこんなとこに連れられてまで俺様の心配してんだよ!」
「・・・ざ、ザク?!え、どうしてここに!ていうか本物?!」
「俺様にできねえことはねーよ!そんでもって紛れもない本人だから安心しろ」
そう言って耳をがぶっと噛んできた。
「あうっ?!」
ラルクさんのせいで敏感になっていた体が、堪らず震える。
「何その可愛いこえっーぐふっ」
奴の胸あたりにパンチを何度かお見舞いしてやった。見えないけど多分当たりだ。腹筋にぶつかって拳が痛い。
「~~うるさい!」
「い、いててっ・・・傷にしみる・・・っ」
蹲っているのか声が小さくなるザク。その様子に俺はうろたえた。あまりにも普通に現れたから怪我なんてなかった事になってるものかと…急いで肩に手を置いた。
「あ・・・ザク、ごめ」
「って、うっそぴょーん」
「・・・」
ボカッ!ガッ!ゴスッ!
「っぐはあ!!」
「一回死んでこい!!!」
驚くべき事に、さっき刺されてたはずの腹にはなんの跡も残ってなかった。よくわかんないけど、安心した俺は再度殴ることにした。
=きひひ、早速結界破られちゃってるし~どうしましょう兄貴~=
=・・・=
「っけ、お前ら覚悟はいいだろうな?俺様のものに手を出しといて無事でいられると思うなよ」
=きひいい!!=
「ま、待てザク!これには訳があるみたいで!」
「...は?」
訝しげにこっちを見てる。そりゃそうか、誘拐犯のことを誘拐されたやつが庇うなんておかしいよな。でもこのままシャドー達がザクにぶっ飛ばされるのは気分がよくない。きちんと説明してわかってもらおう。
「こいつら悪意はないみたいなんだ、約束を守れば開放してくれるだろうし。だよな?」
=ああ、もちろんだ=
「へえ?いつの間に俺様のご主人様はどこの馬の骨とも分からぬ悪魔と仲良くなられたんですかね~?」
面白くない、というような顔をする。
「嫉妬は醜いぞ」
「ジェラってねーし!」
「じゃあ、黙ってろ」
「っけ!たく、変なとこでお人よしなんだからお前は・・・」
ザクも納得したところで、俺は影悪魔に近づいた。
「俺の願いは叶ったからそっちの願いを聞くよ・・・案内してくれるか?」
=ああ=
シャドーは嬉しそうに頷き、仲間の下へ俺たちを案内していく。
「~♪・・・っと、こんな感じ、でいいか?」
=ありがとう、人魚。仲間は安らかにいけたはずだ=
「そっか、だと嬉しいけど」
=こちらこそすまなかったな=
=助かったぜ、人魚っち~この恩はいつか返すから!=
「はは、今度は影から引きずり込むのはやめてくれよ?」
=それはどうかな~?きひひっ=
シャドー達の言葉を聞きながらザクのもとに戻る。ザクは胡座をかいてこっちをぶっすーと見ていた。
「ごめん、待たせたな、行こう」
「なるほどね~まあ、気持ちはわかるかもな」
「?」
「お前の歌は、嫌いじゃない」
さらっと言われて一瞬意味がわからなかった。理解すると同時に顔が真っ赤になる。
「!!お、お前まで気持ち悪いこと言うな!!」
「だーからなんでそうやってすぐに殴るんだよ~俺様はサンドバッグじゃねーんだぞ?」
「うるさい!行くぞ!」
「へいへい、女王様の言うとおりにー」
「誰が女王様だ!」
ザクに連れられ元の世界へと戻っていく。世界が少しずつ白んできた。
***
むくり
「ああ、遅かったねルト君♪」
「ひい!」
帰ってきてすぐ、聞きたくもない男の声が耳に入り飛び起きる。
「し、シータ?!どうしてここに」
「いや、変態がうざいから引き取れって君のお守りに言われてさ」
「お守り??」
「けけけ」
「え、ザクのこと?!いやいやこいつはお守りじゃないから!どっちかといえば俺が・・・ていうか、どういうことだよこれはっ」
「起きたのですね、ルト君」
落ち着いた声が、後ろからする。急いで振り返ると
「!!!!」
天井に、つるし上げられてるラルクさんと目が合う。え、ちょ、なんで吊るされて...いや、吊らされてるのは大賛成だけど、誰がどうやって...
「そりゃ俺様の力でちょちょいのちょいだ」
包丁に刺された後ザクは自力で回復してラルクさんを縛り上げた、そして俺のところに救出に来た…という事だろうか。
「…そういう事か」
「おいおい、もっと感謝してくれてもいいだろ~?」
「ありがとうありがとう、これでいいな」
「心がこもってねえ!」
鬱陶しい、とザクを横に押しやりラルクさんに視線を戻した。
「で、ラルクさん。・・・弁解はありますか?」
「なっ」
俺の言葉に驚き一瞬言葉を失うラルクさん。後ろに立ってるザクとシータもやれやれと肩をすくめている。
「・・・君にそんなことを言われるとは、思いませんでした。てっきり八つ裂きにされて海に沈められるのかと」
「いや、俺どんな悪人だよ!そんな事しないって」
「しかし、ルト君・・・」
「まあ・・・怒ってはいるけどさ」
「ですよね。...すみませんでした。見苦しい言い訳にしかなりませんが・・・私は悪魔のことになると夢中になり我を忘れてしまうのです。それが分かっていてあなたの側から離れなかった私に落ち度があります。」
「...そう、聞いてたけど本当にそうだったんだな」
「はい」
そう言って項垂れた。
「...」
「...」
俺とラルクさんがお互い黙ってしまうと、シータが仲裁に入ってきた。
「ほらいったじゃんか、僕とこの人はそう変わらないよってさー?変態は変態それ以上でもそれ以下でもないんだってばー!それを聞かずに放置したルト君も悪いんじゃっぶ!!」
「ちょっと黙ってろ」
「あい...」
急所に俺の蹴りを受け床に突っ伏す馬鹿は放っておき。俺は再度ラルクさんに視線を戻した。それからゆっくりと手を伸ばす。
しゅるるっ・・・
「!」
縄を解き、ラルクさんを床におろしてやった。
「え・・・?」
ラルクさんが不思議そうな顔で見てくる。
「ほら、そろそろ学会の時間だろ」
「...!」
「何つったってんの、早く行けってば・・・っうわあ」
がばっ!!
メガネを曇らせながら近寄られ、強く抱きしめられる。嫌なことを思い出してゾッとしたが、すぐに体が離れたので不快感も一瞬で消えた。
「ありがとう!・・・君の、本当の魅力がわかった気がします!ルト君!」
「あーもう早く行きなって・・・ほんとに遅刻するぞ」
「ありがとう!いってきます!!」
俺の態度も気にせずニコニコと笑いながら手を振り、去っていくラルクさん。ほんと、したたかな人だ。あの感じだとまたひょっこり顔を出してきそうな気がする。ある意味最強だろう。
「ふう」
外を見てみると朝日が昇っていた。影の中にいるとそんなに感じなかったが、相当の時間拘束されていたみたいだ。やはり悪魔と関わるとそれなりに負荷があるらしい。
「はあ。」
「今回も波乱だったなあ~」
「なに他人事で締めようとしてるんだ!元はといえばお前が教会から姿を消したのが悪いんだろ!!」
「なんだよその言い草~心配だからこんなに早く帰ってきてやったのにひでえなあー!」
「しかも刺されて心配させるし!!」
「それは俺様のせいじゃねえ!汗」
「あーあーもう、バカップルですかーっての..もう僕帰ろーあほらし」
そう言ってシータもキッチンから姿を消した。俺とザクの二人きりになる。ふと、ザクが真剣な顔になった。
「...ルト。」
「トイレ、いってくる」
俺はそそくさとキッチンを後にする。実はずっと前から下半身が疼いていて辛かったのだ。早くこれを収めて、ベッドに入って寝たい。
かちゃっ
トイレの扉を開け、鍵をしめた。そうして自らの下半身に手を伸ばしたそのとき
「なあ、ルトー?」
びくっ!
その声に、思わず手が止まる。
「俺様さー結構今回頑張ったよな?」
「え?あ、ああ、多分」
どうでもいいから早くどこかへ行ってくれ。集中できない。
「ご褒美、欲しいんだけど~?」
「..知るかっ」
いいからあっち行けって!
「そこでどうせオナるんだろ?声聞かせてくんな~い?」
「――っはああ??!」
血管が切れるかと思った。ついで顔が真っ赤になる。ど、どうしてここでしようとしたのバレて...るんだよ!?
「な?お願いだって」
「ダメだ!っき、気が散るからあっち行けバカっ!!」
「...」
俺の言葉に納得したのか、トイレの前の廊下が静かになる。
(諦めてくれたか・・・)
俺はふうと一息をつき、もう一度下半身に手を伸ばす。
ッガ
が、その手をまた引き止められた。今度は本当にリアルの腕で止められてしまった。
「って、腕????」
振り返ってみると、扉から...腕だけが生えてる奇妙な風景が広がってた。絶句。あまりの不気味さに、悲鳴すら出ない。
「~~~!!?」
「ならしょうがねー、無理やりやらせてもらうとするか」
「え、ちょ待て待て!ばか!」
その声が聞こえたかと思ったら、見慣れた赤髪が扉から生えてきて...眼帯も見えてくる。
「え、な、はああ?!」
まさか体全てこっちにすり抜けてくる気じゃ...とか青ざめていたら、いち早く扉の内側に移動していた奴の右手が俺のをつかみ動かし始めた。
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