牧師に飼われた悪魔様

リナ

文字の大きさ
上 下
17 / 97
第三章「ヘンタイ博士登場」

博士

しおりを挟む
「ハア...ハア...君、いいですね。素晴らしい...」
「ちょま、待て!近寄んな!!」
「ハア...もっと見せてもらえませんか?」
「ぜってーやだ!キモイ!さわるな!馬鹿!ヘンタイ!!!」
「ああ、つれない君もいいですね。ハアハア」

「~っ!ハアはあ、うるさいいーーっ!!!」

 突然だが、かなりピンチだ。ヘンタイに襲われている。


 ***


「君、落としましたよ」
「あ。」

 人でごった返す噴水広場を抜けようとした時だった。俺は後ろから声をかけられ一瞬戸惑ったあと振り返る。

「!」

 彼の手には、俺が大事にしている懐中時計があった。かなり古いが懸命な管理のおかげで長生きしてくれている。

(やば、落としてたのか)

 人波をかき分けるうちに落としたのだろう。急いでそれを受け取り、ぼそぼそと礼を言う。

「ありがとうございます・・・えっと・・・失礼します」

 あまりの人の多さに気分が悪くなってきた。

(早くこれを届けないといけないのに...)

 教会への定期報告がかかれた文書を見下ろし大きくため息をつく。

「おや、大丈夫ですか?気分でも優れませんか?」

 時計を拾ってくれた男が俺の様子に気づき、近づいてくる。

「大丈夫です!すみません。人混み、慣れてないだけなんで...」

 俺はそういってすぐ逃げるように歩き出す。しかし三歩ほど進むと、くらりと目眩に襲われバランスを崩してしまう。

「うっ・・・」
「おっと。」

 男が俺の腰に手を伸ばし支えてくれる。おかげで顔面から転ぶことはなかった。だが、何とも言えぬ気まずさと恥ずかしさに襲われる。

「...っ」
「少し、そこで休憩したらどうでしょうか?」

 噴水広場から見える見晴らしのいいベランダ席を指差してくる。あそこはシータの店の・・・かつてのお気に入り席だ。確かにあそこなら人はいないし、休めるが...

(だけど、シータがいるし・・・)

 迷っている俺を見かねて男は軽く背中を摩ってきた。

「ここにいても、下手に目立ってしまいますし、ね?」

 腰からすっと手を離し、ニコリと笑うその仕草は大人の色気があった。なんだかそうしないといけないような気がしてくる。それに俺達を遠巻きに見ている野次馬が増えてきた...

「...じゃあ、少しだけ」
「では行きましょうか。...歩けますか?」
「…はい」
「それはよかった」

 偉い偉いと頭を撫でられる。なんだろう、この人は危ない人じゃない気がする。一緒にいても安心するし、バンより大人っぽくて色気のある感じって言えばいいのかな。邪気を感じない。

(俺を変な目で見たりしないし。――って!会ってばかりの奴についてどんだけ勘ぐってんだよ!すぐに別れんだし、気にしても無駄だって!)

 そんなこんなで俺は謎の男と共にシータが働いている店に行くことになった。


「や、やあ!ルト!来て、くれたんだ..!」
「んー...」
「いつもの席でいい?」
「んー...」
「ちょっと待ってて!用意してくるよ」

 店の入り口にたどり着くと光の速さでシータに見つかってしまった。すかさず案内される。

「・・・」

 俺たちのそんな様子を、後ろについてきた男が不思議そうな顔をしてみていた。

「あの、もう大丈夫なんで..その」

 もうどっか行ってくれと言うのは流石に気が引ける。この人には悪気がないんだしあまり強く言いにくい。

(でも俺っててきつい言い方しか出来ないし...)

 悩んでるとどんどん言葉が出なくなる。

「うん、でも私も学会で演説したばかりで喉が渇いていて。よければ同席させてもらってもいいですか?」
「あ、はあ...それなら、全然」

(学会?演説??)

 結局断れず、共に席に案内される。

「遅くなってしまったけど、私はラルクといいます、とある方面で“博士”をやっているんですよ」
「あ...俺は、ルトです。一応、牧師、やってます。」
「ほう、牧師ですか...それは興味深いですね」
「?」

 ふむとラルクさんは考えこむような仕草をする。その仕草でさえ色気があった。

(俺の周りにはあまりいないタイプだな)

 感心しているとシータが頼んでもいない飲み物と食べ物を持ってやってくる。

「おまたせ~」
「おい、こんな高いの頼んでない」
「僕からのサービス!」
「いらん」
「えーつれないなあ…」
「君たち、仲がいいんですね」

 ラルクさんが面白そうに俺とシータを見てくる。俺は反射的に否定した。

「よくない!俺は、こんなストーカードエロ変態男とは一切関わりたくない、むしろ死ねとさえ思ってる!」
「ひどいなあ~」

 大して傷ついた様子もなくただ困った顔をするだけのシータ。

「ふむ」

 俺の暴言に眉をひそめてるラルクと目が合った。牧師がこんな言葉遣いではいけないと思ってるのだろうか。

「...ふむ、変態ですか」
「ああ、だからコイツには気をつけろよ、ラルクさんも」
「私ガですか?」
「いや大丈夫、僕がそうなるのはルト君相手の時だけだから」
「ーっ死ね(゚Д゚)」
「あはは」
「ふふふ...でもわかるかもしれません、その気持ち」
「「ええっ」」

 俺とシータが同時に声を上げる。それから俺たちは信じられないという顔で博士の方を見た。

「私は本来、何事にも無気力で無関心な人間なんです。研究以外のことには興味がわかないといいますか...だからその反動でしょうね。いざ研究の事になると通常の人よりかなり強い執着を見せまして。この前も研究に没頭しすぎて食事を忘れてしまい、危うく死にかけました。」
「はあ?!没頭しすぎだろ...」

 少し引きそうになる。いや、引いた。俺はこまめな人間じゃないし集中力も人に自慢できるほどあるわけではない。でも人並みよりはある方だと思ってる。それでもその言葉は信じられなかった。集中しすぎて飢えるって・・・そんなことありえるのか???

「何を思ったのか先日は息をするのを忘れてて...あの時は本気で危ないと思いました。走馬灯なるものを見てしまいました。」
「っっ馬鹿だろ!あんた、バカだろ!!」
「これでも博士なのでそれなりの頭脳はあるはずなのですが...まあそうですね、人間性の面で言えば欠落している所があるのは認めます。だからシータ君の言うように、好きなものに変態的に夢中になるという気持ちは私もよく分かるんです」
「そっか、じゃあ同士だね!」
「はい」
「いやいや!おかしい!異議あり!!」
「えー」
「ラルクさんの変態性は社会的に正しい使い方をやれてるしそれで生計を立ててるけど、シータは本当の変態だし迷惑しか産んでない!」

 日頃は出さない大音量で熱弁する俺。なんかバカバカしく思えてきた...けど、シータがおかしいのは自信を持って言える!これを機にラルクさんみたいな合法的な変態(言ってて変だとは思ってる)になってもらいたいものだ。シータはえーっと口を尖らしてしょんぼりする。

「そこまで言わなくてもいいじゃない~」
「ふふ、私もそんな大した人ではないのですが...嬉しいです」
「え?」

 俺今何か喜ばれるような事言ったかな、ぶっちゃけ貶してたような。

「今まで、この変態性を認めてもらったことがなくて...とても感動しました」
「いや、そんな」

 俺はただシータにわかってもらいたくてだな、とか言おうと思ったけど...やめておいた。普通のやつに悪魔の話なんて、それこそ変人扱いされる。
 これだけ悪魔沙汰を起こしておいて説得力がないかもしれないが、これでもこの世界は「悪魔なんていない」と思ってる人間がほとんどを占めてるんだ。妖精とかの伝説や言い伝えもあるし悪魔を恐れる習慣もある、けど本当に存在してるとは思ってない。教会の描く「悪魔」という存在を恐れることで自らの行動を正す。それだけのために悪魔という言葉が存在してるといっても過言ではないだろう。

 (でも、だからこそ教会本部は本物の悪魔を隠し抹消したいと思ってるんだ...と思う)

 関わってしまった人間全て消してしまうような、恐ろしいほどまでに容赦ない判断を下せるのだ。

(悪魔なのはどっちだよ)

 未だに俺の中の教会本部への不審は拭えていない。

「あっ」

 ラルクさんが突然何かに気付いたように手をたたき、自分の白いコートをあさり始めた。何かを探すようにポケットや服の中に手を突っ込む。

「しまった...」
「え?どうしたんだ?」
「すみません、財布をなくしてしまったようで...」
「えええ???!」

 困ったなと言ったあと眼鏡を外し、目をこすっているラルクさん。

「この街には出張できたのですが、今朝やっと論文が完成して急いで飛び出したんです。だから財布以外何も持ってないんです...」
「そんな、じゃあ帰ることもできないんじゃ...」
「そのようですね」
「そのようですねって冷静すぎだろ!」

 この街はあんたが思うほど平和じゃないぞ。俺も甘く見ていた時期があったけど、痛い目を見るとかそういうレベルじゃなかった。ふと見たら、シータは何故か俺の隣に座って俺に用意された紅茶を飲んでる。図々しすぎるスタッフだな。

「まあ、いざとなれば野宿でもして助手が来るのを待ちます」
「野宿って、あ、危ないだろ!」
「ふふ、男ですし大丈夫です」

 白い肌に黒いクマ(徹夜続きだったのだろう)をくっきりと浮かばせるその顔を見てると心配になってくる。確かにその様子じゃどこへ行っても眠れるだろう。気絶したように寝てる姿が容易に想像できた。

「では、いい所がないか探したいのでそろそろ失礼します」
「っあ...えっと」

(何もしないくせして引き止めるなんて自分勝手すぎるな...)

「頑張って、ください」

 下を向いたまま俺はぼそぼそと言葉を絞り出した。ラルクさんは嬉しそうに頷いて礼を言ってくる。

「あなたの神によろしくお伝えください」
「う、うん。ラルクさんに、神の加護があらんことを」

 胸に手を置き、十字架のしぐさをする。こういう事はあまりしたことがなかったので少々照れくさかったがミスなくやれた、はず。満足したラルクさんは歩き出し、すぐにその背中も階段で見えなくなる。

「あーあ、行っちゃった」
「...」
「ちょっと、もう行っちゃうのルトくん」

 俺はため息をついて階段の手すりに手を伸ばす。後ろからシータがついてきた。

「お前と二人きりなんて身の危険しか感じないからな、それに仕事が残ってる」
「なんのお仕事?もうすぐ夜だよ、まさか夜のっげふっ」

 できるだけ力を込めてシータの腹を殴る。

「勘違いするな、牧師の仕事だ。じゃあ会計はお前持ちでよろしくな」

 そもそも俺何も頼んでないし、紅茶はこいつの腹の中に消えた。

「ちょ、それが牧師のセリフとは思えないんだけど、せめて口で一回」
「もう一度殴られたいのか、次は急所をやるぞ」
「ルトくんにやられるんだったらそれでも感じそうだけど、やっぱ痛いのはやだなー今日のとこは諦めるよ。まったね」
「ふん」

 懲りない馬鹿は置いておいてさっさと仕事に戻らないと。少し休んだおかげで人酔いも治ったし目眩もしなくなった。

 (あとはこの文書を役所に届けて、ザクたちの飯買って帰って...)

 俺は一人ブツブツ言いながら夜灯の付き始めた街を歩く。その背を追う者がいるとも知れず。


 ***


「おい、ルトー!腹減った~このままだと空腹で死ぬ~」
「知るか、そこらでくたばっとけ」
「ひっでー!」

 教会に戻ると珍しく人型のザクに出迎えられた。シャワーあとだったのか奴は上半身裸で、視覚的に暑苦しい。

「どうせ悪魔のお前は空腹ぐらいじゃ死なないんだろ」
「まーな☆」
「キモイ死ね」
「けけ、若干人型の時の方が辛辣な気がするなあ、傷つくわ~」
「ふん」

 全然平気そうな顔で何言ってんだか。

(お前が人型をしてるといろいろ思い出すんだよ、馬鹿。)

 俺がため息をつくとそれを見ていたザクがおもむろに手を伸ばし、俺が持っていた袋を奪っていった。

「あ、おい!それは...」
「なになに~パンと、果物とチーズと・・・また魚!?」
「魚の何が悪い」
「いや、俺様たまには肉が...」
「知るか」
「...ルト、五日連続魚なのは覚えてるか?」
「ボケてるわけじゃあるまいし。知ってるよ。肉と違って臭みもないし加工しやすい。」
「ただ単にお前の好物って事だろ~?」
「っ...」

 言い当てられ黙り込んだ。

 =にい~!おかえりい!=
「!!」

 袋を取り返し教会の中に入る。

「ただいま、リリ!」
 =きょうのごはんは~?=
「リリの好きな魚だぞー!あと豆も買ってきたし」
 =わーい!!ルトにいだいすきー!=

 嗚呼、やっぱり俺の癒しはリリだけだ。この子といると心があったまる。それに比べあいつときたら...

「なんだよ、俺様に見とれてんのか~?」
「...」

 その無駄に引き締まった体を見せつけてくるザクをゴミのように見て、俺は教会奥のキッチンに向かった。

「はいはいカッコいいカッコいい」
「おいコラ棒読みすぎるだろ!...って、ん?」

 ザクが背後で何かに気づいたかのように振り返っていたが俺は気にせず台所に向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂

朝井染両
BL
お久しぶりです! ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。 こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。 合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。 ご飯食べます。

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

処理中です...