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「というわけでシャンナ・・・・、きみを縛るものはもう何もない」
「あ、あの……?」
「もしかして、まだ侯爵夫人の立場に未練があった? それともレオナール個人に何かある? きみは婚約破棄を取り下げて、元通りになりたいの?」

 わたくしは即座に、ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。

(婚約破棄はむしろしてほしいです。あなたがここにいらっしゃって、しかもわたくしの味方をしてくださっているらしいことが、解せないだけです。昨日はよくも当て逃げしようとしたな平民、首を出せ、ということならわかりますが……)

 殿下はわたくしの返事にうんうん、と満足そうに頷かれ、そのまま身をかがめられて――。

 身をかがめて?
 抱き上げた?
 ――わたくしを!?

 キャアアア! と野次馬から黄色い声が上がるが、それどころではない。
 今絶対呼吸が止まった。きっと心臓も止まった。たぶん目はつぶれた。わたくしはもう駄目だ。次の人生に期待しよう。

「婚約破棄したのだし、そちらの用事は済んだのでしょう? ぼくはシャンナを送っていくよ。顔色が優れないし、まだ本調子じゃないだろうからね」
「そ、そんな――」
「あれ? まだいたの、デュジャルダン侯爵令息。それで、ぼくに何か?」
「い、いえ……殿下には何も……」

 フフッ――耳から何か殿下の声とレオナールの声らしき音は入ってきているのですが、まるで意味が理解できませんね。天井のシミでも数えればいいのかな。いやここ屋外だから駄目だ。世界って青くて広いなあ……。

「それではごきげんよう。真実の恋人と末永くお幸せに」

 結局、わたくしが自失して混乱を極めている間に、殿下は爽やかに、それでいてピシャンとレオナールに別れを告げる。

 そして踵を返し、颯爽とわたくしをその場から連れ去ったのだった。

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