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竜之助の身の上話 十四
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「やはり姫様、悉くを話すのはおやめください! 聞きたいことをすべて聞き終えた後に用済みと切り捨てられるかもしれません!」
「あら? 話さなくたって無用だと判断されれば切り捨てられますよ? 逆にこのように協力的、友好的に接すれば刀は鈍るものです」
「姫様! それともう喋らないでください! その男を刺激してしまいます!」
「あーもー女二人そろって姦しい! 喋っていいのは片方だ! 話が通じそうなお嬢さんのみ話すことを許す!」
うふふ、と笑う姫様。
「聞きたいことは全て聞いたでしょうに、まだ私を生かしてくださるのですか? お優しい方ですね」
「や、優しくなんかねえ……!」
「そんなお優しい竜之助様にお願いがあるのですが」
「だから優しくねえっての!」
「……このまま私たちだけを見逃していただけませんか?」
突然の提案。
「姫様、それは……!」
当然異を唱える朽葉だったが、
「誰が発言を許しましたか」
真っ先に諌めたのは姫様だった。
「っ……」
上下関係をしっかり叩きこまれているようで屈強な男にも有無を言わせない朽葉が黙り込んでしまった。
「竜之助様。聡明なあなたならもうおかりでしょうが、ここの暮らしはもう行き詰っているのです。あなたが手を加えるまでもなく、冬を待たずして皆が飢え死にします。死ぬのは弱いほうから……まずは私でしょうね」
「……まあ、そうなるだろうな」
竜之助は身を近づけてわかった。
どのような力関係があるのかわからないが、姫様になんの武力を感じられなかった。どんな理不尽な暴力だろうと、逃げられずに声すら上げられらずにねじ伏せられてしまうか弱さをひしひしと感じた。
「私は弱く脆いです……生きていても全く脅威を感じられない……だからこそこうして運よく生き延びているのですが……」
「……」
暗闇の中。息を潜めて、びくびくと怯えた小さな女がいた。
仲間の悲鳴を聞いたわけではない。血まみれの見知らぬ男が見えたわけではない。
明けない暗闇に、いつ来るかわからぬ死に恐怖していた、ように感じた。
突き立てようとした刃が止まった。
寝首を掻いた数人と同じように即死させようとしたが迷いが生まれたのは事実だった。
「あなたがどうしてここを襲いに来たのかは聞かないでおきます。ですので、私たちもここであったことは口外しないこと、そしてこの山を下りて二度と近づかないことをお約束します」
「そうやって別の場所にいる仲間を呼ぶんじゃないか」
「竜之助様。これは私の勘ですが、あなたはここにいる誰よりもこの山を知り尽くしているのではありませんか? ここを見つけられたことがその証左。逆に問いますがそう簡単に仲間など隠せる場所なんてあると思いですか? もしも心配だというのであれば私たちより先に下山されてはいかがでしょうか? そうすればあなたの身は安全安心だと思いませんか?」
上手く丸め込まれそうになる。竜之助は頭より本能で否定する。
「買いかぶってくれるなよ。俺は不勉強だし臆病なんだ。女であろうと、平気で、切ってきた」
忘れたくても忘れられない過去がある。
柄をきつく握る手が震える。
「まあ、怖い。もっとお優しい方だと思っていたのに」
「それはこっちの台詞だ。お嬢さんよ、可愛い顔してえらくえぐいことをするじゃないか。仲間を見捨てて命乞いだなんて恥ずかしくないのか?」
「私は侍でもなければ男でもないので」
「ずるい女だ」
「今は動乱の時代。こうでもしないと生き残れませんので、おほほほ」
竜之助は悩む。依頼を受けた以上、賊の殲滅が義務であり果たさなくてはいけない。償いようのない罪に苛まれていても義理の心を持っていた。
見逃すこともできる。仲間と合流しようとしなかろうと冬を待たずして人知れずに消えるであろう。もしも本当に二人きりで下山したとしてももう今ほどの勢力に、脅威にはならないであろう。
西方将軍には適当な人相の悪い男の首を持っていけば納得してくれるだろう。
それではその娘、啓子はどうだ。騙すのは簡単だ。昔話の桃太郎の活躍劇のようにあることないことを話せば彼女は信じるかはともかく楽しく笑うだろう。
果たしてそれでいいのだろうか。
竜之助は別の道を見つける。
「……神妙にお縄につくのはどうだ」
自分で言っておいてなんだったが名案だと評価した。
賊は掴まり次第死罪。しかしそれはその土地の権力者の裁量による。西方将軍とは見知った顔。啓子を説得し味方にすれば、男は難しいが女であればあるいは。
「竜之助様……」
姫様は呆然とした顔で竜之助を見る。
「……生活は今より窮屈になるかもしれないが、だけどよ、しっかり自分の罪を償って──」
「ねえ、竜之助様……私は自由が好きなのです……」
竜之助の動きが止まる。
姫様の声色が変わったからではない。
艶めかしく股間を擦られたからだ。
「お、おまえ、何を……!」
「夜も更けてまいりました。もしも見逃していただけるなら私がお相手しますよ。こんなに張り詰めて……相当ためていらっしゃるのでは?」
「く、この期に及んでっ」
「口ではそう言っても体は正直ですね、ふふ」
竜之助も我慢を強いられた生活を送ってきた。思考が頭脳から股間に引きずられる。男の性。
姫様の提案は実に魅力的だった。
「外は寒かったでしょう。ささ、どうぞここで温め下さい」
竜之助の手を引っ張り、服の下に。
わずかな膨らみに、固い突起。
「……ん」
くすぐったそうな声がさらに男を駆り立てる。
竜之助が落ちる直前、
「竜之助!」
朽葉の声。
正気に戻った竜之助は刀を握りなおす。
「しまった、罠だったか!」
だが違った。
目の前にはいつの間にか全裸になった朽葉が立っていた。足元には衣服と長めのサラシ。
「私も加わる。少しでも姫様の負担を減らせるのであれば」
朽葉の体格は背丈がそうであるように胸も健やかに育っていた。
再び竜之助の思考は天高く飛翔する。悩みから重さから一時的に解放される。
「……二人ともそこの壁に手をついて並べ」
竜之助は久方ぶりの女を堪能する。
喉の渇きを麗しい冷水で潤すがごとく贅沢な快感。
しかし女二人の気が失うまで抱き続けたが彼は満足することはなかった。
「あら? 話さなくたって無用だと判断されれば切り捨てられますよ? 逆にこのように協力的、友好的に接すれば刀は鈍るものです」
「姫様! それともう喋らないでください! その男を刺激してしまいます!」
「あーもー女二人そろって姦しい! 喋っていいのは片方だ! 話が通じそうなお嬢さんのみ話すことを許す!」
うふふ、と笑う姫様。
「聞きたいことは全て聞いたでしょうに、まだ私を生かしてくださるのですか? お優しい方ですね」
「や、優しくなんかねえ……!」
「そんなお優しい竜之助様にお願いがあるのですが」
「だから優しくねえっての!」
「……このまま私たちだけを見逃していただけませんか?」
突然の提案。
「姫様、それは……!」
当然異を唱える朽葉だったが、
「誰が発言を許しましたか」
真っ先に諌めたのは姫様だった。
「っ……」
上下関係をしっかり叩きこまれているようで屈強な男にも有無を言わせない朽葉が黙り込んでしまった。
「竜之助様。聡明なあなたならもうおかりでしょうが、ここの暮らしはもう行き詰っているのです。あなたが手を加えるまでもなく、冬を待たずして皆が飢え死にします。死ぬのは弱いほうから……まずは私でしょうね」
「……まあ、そうなるだろうな」
竜之助は身を近づけてわかった。
どのような力関係があるのかわからないが、姫様になんの武力を感じられなかった。どんな理不尽な暴力だろうと、逃げられずに声すら上げられらずにねじ伏せられてしまうか弱さをひしひしと感じた。
「私は弱く脆いです……生きていても全く脅威を感じられない……だからこそこうして運よく生き延びているのですが……」
「……」
暗闇の中。息を潜めて、びくびくと怯えた小さな女がいた。
仲間の悲鳴を聞いたわけではない。血まみれの見知らぬ男が見えたわけではない。
明けない暗闇に、いつ来るかわからぬ死に恐怖していた、ように感じた。
突き立てようとした刃が止まった。
寝首を掻いた数人と同じように即死させようとしたが迷いが生まれたのは事実だった。
「あなたがどうしてここを襲いに来たのかは聞かないでおきます。ですので、私たちもここであったことは口外しないこと、そしてこの山を下りて二度と近づかないことをお約束します」
「そうやって別の場所にいる仲間を呼ぶんじゃないか」
「竜之助様。これは私の勘ですが、あなたはここにいる誰よりもこの山を知り尽くしているのではありませんか? ここを見つけられたことがその証左。逆に問いますがそう簡単に仲間など隠せる場所なんてあると思いですか? もしも心配だというのであれば私たちより先に下山されてはいかがでしょうか? そうすればあなたの身は安全安心だと思いませんか?」
上手く丸め込まれそうになる。竜之助は頭より本能で否定する。
「買いかぶってくれるなよ。俺は不勉強だし臆病なんだ。女であろうと、平気で、切ってきた」
忘れたくても忘れられない過去がある。
柄をきつく握る手が震える。
「まあ、怖い。もっとお優しい方だと思っていたのに」
「それはこっちの台詞だ。お嬢さんよ、可愛い顔してえらくえぐいことをするじゃないか。仲間を見捨てて命乞いだなんて恥ずかしくないのか?」
「私は侍でもなければ男でもないので」
「ずるい女だ」
「今は動乱の時代。こうでもしないと生き残れませんので、おほほほ」
竜之助は悩む。依頼を受けた以上、賊の殲滅が義務であり果たさなくてはいけない。償いようのない罪に苛まれていても義理の心を持っていた。
見逃すこともできる。仲間と合流しようとしなかろうと冬を待たずして人知れずに消えるであろう。もしも本当に二人きりで下山したとしてももう今ほどの勢力に、脅威にはならないであろう。
西方将軍には適当な人相の悪い男の首を持っていけば納得してくれるだろう。
それではその娘、啓子はどうだ。騙すのは簡単だ。昔話の桃太郎の活躍劇のようにあることないことを話せば彼女は信じるかはともかく楽しく笑うだろう。
果たしてそれでいいのだろうか。
竜之助は別の道を見つける。
「……神妙にお縄につくのはどうだ」
自分で言っておいてなんだったが名案だと評価した。
賊は掴まり次第死罪。しかしそれはその土地の権力者の裁量による。西方将軍とは見知った顔。啓子を説得し味方にすれば、男は難しいが女であればあるいは。
「竜之助様……」
姫様は呆然とした顔で竜之助を見る。
「……生活は今より窮屈になるかもしれないが、だけどよ、しっかり自分の罪を償って──」
「ねえ、竜之助様……私は自由が好きなのです……」
竜之助の動きが止まる。
姫様の声色が変わったからではない。
艶めかしく股間を擦られたからだ。
「お、おまえ、何を……!」
「夜も更けてまいりました。もしも見逃していただけるなら私がお相手しますよ。こんなに張り詰めて……相当ためていらっしゃるのでは?」
「く、この期に及んでっ」
「口ではそう言っても体は正直ですね、ふふ」
竜之助も我慢を強いられた生活を送ってきた。思考が頭脳から股間に引きずられる。男の性。
姫様の提案は実に魅力的だった。
「外は寒かったでしょう。ささ、どうぞここで温め下さい」
竜之助の手を引っ張り、服の下に。
わずかな膨らみに、固い突起。
「……ん」
くすぐったそうな声がさらに男を駆り立てる。
竜之助が落ちる直前、
「竜之助!」
朽葉の声。
正気に戻った竜之助は刀を握りなおす。
「しまった、罠だったか!」
だが違った。
目の前にはいつの間にか全裸になった朽葉が立っていた。足元には衣服と長めのサラシ。
「私も加わる。少しでも姫様の負担を減らせるのであれば」
朽葉の体格は背丈がそうであるように胸も健やかに育っていた。
再び竜之助の思考は天高く飛翔する。悩みから重さから一時的に解放される。
「……二人ともそこの壁に手をついて並べ」
竜之助は久方ぶりの女を堪能する。
喉の渇きを麗しい冷水で潤すがごとく贅沢な快感。
しかし女二人の気が失うまで抱き続けたが彼は満足することはなかった。
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