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竜之助の身の上話
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竜之助は孤独に行くあてのない放浪の旅に出ていた。
混乱に乗じて都から脱出していた。南の帝の妹君は負けて賊軍に成り下がるだろうがそれでも帝の血を引く者。戦場や刑場以外で身分の高い武士以外が殺めたとしたら咎められてしまう。
東か西かもわからずにひたすら歩き続ける。主要な街道を避け、人の目を避け、目的もないまま彷徨い続けた。
一歩一歩進むたびに死がちらつき、まとわりつく。側で川が流れていると飛び込みたくなったし、見るからに毒々しいキノコをかぶりつきたくもなった。
だがいつもすんでのところでお師匠様の顔が浮かぶ。
彼女は自分なんかのために命を挺して守ってくれた。
気付けば盗みでその日その日を食いつないできた悪童だった自分に生きる術を叩きこんでくれたお師匠様の教えを、時間を、死を無駄には出来なかった。
見知らぬ土地での放浪の旅でも飢え死にすることはなかった。さばいばる術も叩きこまれていたからだ。川があれば木の枝を銛代わりにして魚を取り、山があれば石を投げては鹿を取った。
しかし長居するとどうしても足がついてしまう。
そして生きる目的もないままではいつかお師匠様の後を追ってしまうと危惧もしていた。
前にも後ろにも進めない自分と比べたら、潮に流されながらもぷかぷか抗っている海月のほうがよほど精一杯に立派に生きている。人生が惨めに思えた。
そんな時だった。
第二の悪女との出会いは。
混乱に乗じて都から脱出していた。南の帝の妹君は負けて賊軍に成り下がるだろうがそれでも帝の血を引く者。戦場や刑場以外で身分の高い武士以外が殺めたとしたら咎められてしまう。
東か西かもわからずにひたすら歩き続ける。主要な街道を避け、人の目を避け、目的もないまま彷徨い続けた。
一歩一歩進むたびに死がちらつき、まとわりつく。側で川が流れていると飛び込みたくなったし、見るからに毒々しいキノコをかぶりつきたくもなった。
だがいつもすんでのところでお師匠様の顔が浮かぶ。
彼女は自分なんかのために命を挺して守ってくれた。
気付けば盗みでその日その日を食いつないできた悪童だった自分に生きる術を叩きこんでくれたお師匠様の教えを、時間を、死を無駄には出来なかった。
見知らぬ土地での放浪の旅でも飢え死にすることはなかった。さばいばる術も叩きこまれていたからだ。川があれば木の枝を銛代わりにして魚を取り、山があれば石を投げては鹿を取った。
しかし長居するとどうしても足がついてしまう。
そして生きる目的もないままではいつかお師匠様の後を追ってしまうと危惧もしていた。
前にも後ろにも進めない自分と比べたら、潮に流されながらもぷかぷか抗っている海月のほうがよほど精一杯に立派に生きている。人生が惨めに思えた。
そんな時だった。
第二の悪女との出会いは。
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