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Ⅳ 新しい朝

第41話 想いの力

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アーロン:魔法使いの助手兼用心棒をしている青年。21歳
アリア・エインズワース:帝都郊外の森で店を営んでいる魔女。天才だがどこか抜けている。21歳。

アリア・メイザース:災厄の魔女と呼ばれた錬金術師。冷徹。21歳。※できればエインズワースと兼。演者は別でも可。

ハミルトン:ローレンス小隊を監督する騎士団参謀。23歳。
シンシア:ローレンス小隊に配属されたばかりの新人騎士の少女。16歳。


 アルトの町。

メイザース 「ようやく到着か」

アーロン 「懐かしいな」

メイザース 「そういえばキミは、この町で騎士をやっていたんだったね」

アーロン 「ああ。ま、ここは9年前だから、まだ騎士にすらなってないんだけどな」

ハミルトン 「む? 見ない顔だな。旅の者か?」

アーロン 「ハミルトン……!」

ハミルトン 「どこかで会ったか?」

メイザース 「騎士団参謀ともなれば、顔を知らない者のほうが少ないだろう」

ハミルトン 「……そういうものか」

メイザース 「ああ、私たちは、この町に観光に来たんだ。美味しいワインが飲めると聞いてね」

ハミルトン 「ふむ……」

(SE 走る音)

(SE 騎士の徽章が揺れる音)

シンシア 「ハミルトンさん!」

ハミルトン 「シンシアか」

シンシア 「もう、探していたんですよ? ……この方たちは?」

ハミルトン 「旅の途中だそうだ」

シンシア 「そうなんですね」

ハミルトン 「そういえば、名を聞いていなかったな」

アーロン 「俺は、アー……」

(SE アリアがアーロンをどつく音)

アーロン 「うぐ、なにすんだよ」

メイザース 「(小声で)馬鹿正直に答えてどうする? 私たちはハミルトンと面識があるんだぞ?」

アーロン 「(小声で)確かに、そうだな……」

ハミルトン 「どうした? 名乗れない理由でもあるのか?」

アーロン 「あーいや、そうじゃないんだが……」

メイザース 「失礼。私は、セシル・エインズワース。魔法使いを生業としている。こっちはアレン、私の用心棒兼助手だ」

ハミルトン 「ほう、魔法使いか」

シンシア 「魔法使い、ですか……。帝都の外で見るのは初めてですね」

アーロン 「……」

シンシア 「あ、ハミルトンさん、そろそろ会議の時間です」

ハミルトン 「む、もうそんな時間か」

(SE ハミルトンたちが去っていく音)

ハミルトン 「ああ、引き止めてすまなかったな。良い旅を」

メイザース「……」

アーロン 「……ふぅ」

メイザース「さて、邪魔はいなくなった。遺跡に行こうか」

アーロン 「アリア、いったいなんの真似だ」

メイザース 「なんのことかな?」

アーロン 「よりにもよって、あんな偽名を使わなくてもいいだろ」

メイザース 「面白いことを言うね。アレン・ウィル・ハルモニア、というのはキミの本名だろう?」

アーロン 「それは……」

メイザース 「まあ、そのうちわかるさ。それよりも、今は遺跡の方が重要だ」



 アルトの町、遺跡、最深部。

メイザース 「ふむ、最深部まで来てみたが、魔素に乱れはないみたいだね」

アーロン 「……そうだな、俺が近づいても反応がない」

メイザース 「……やはり、調律の剣シュティムングビーベルはないか」

アーロン 「ああ、先代の皇帝のときに回収されたって話だからな」

メイザース 「そうか……。ならば、当面は調律の剣シュティムングビーベルを探すべきだろうな」

アーロン 「俺が死神を倒すためにも必要だしな……」

メイザース 「…………」

(SE 魔石を構える音)

アーロン 「……今回の目的は達成できたし、とっとと外に出よ……ッ!?」

(SE 魔石の魔力が解放される音)

アーロン 「アリア……っ!? なにを……!?」

メイザース 「ふふ、少し油断し過ぎたな、アーロン」

アーロン 「……っ」

(SE 魔石に魔力が吸収される音)

メイザース 「キミの死神の力、奪わせてもらうよ」

アーロン 「ぐぁッ……!?」

(SE アーロンが倒れる音)

メイザース 「アーロン、キミのことは気に入っている。だが、その死神の力は邪魔だ」

アーロン 「…………」

メイザース 「ふふ、これで……ッ!?」

(SE 霧が立ち込める音)

メイザース 「この霧は、幻術……? まさか、もう一人の私が……?」

メイザース 「……ッ!!」

(SE アリアが倒れる音)



 どこでもない空間。ふたりのアリアが対峙している。

エインズワース 「…………」

メイザース 「驚いたよ。まさかキミが、幻術をかけてくるなんて、思ってもみなかった」

エインズワース 「アーロンに何をした?」

メイザース 「おや、少しは会話をしてくれたっていいじゃないか」

エインズワース 「アーロンに何をした!?」

メイザース 「そう心配するな。ただ気を失っているだけだ。死神の力は、もう完全に失ったけどね」

エインズワース 「死神の力を奪った……?」

メイザース 「そう。1000年前、オリヴィアが死神を封印したときに砕けた魔石を使ったんだ」

エインズワース 「死神の力を、どうする気だ?」

メイザース 「おや、気づいてないのかい? この魔石、知らないとは言わないだろう?」

エインズワース 「…………私が、アーロンに飲ませた石……!」

メイザース 「そのとおり。さて、それはいったい誰から貰った?」

エインズワース 「師匠……」

メイザース 「そう。セシル・エインズワースと名乗る魔女だろう?」

エインズワース 「……」

メイザース 「ふふ、その記憶の魔女こそ、この身体の主導権をキミから奪った私だ」

エインズワース 「そうか。私の世界では、私が負けたのか……」

メイザース 「ほう。キミがやろうとしていることがわかったよ」

エインズワース 「……」

メイザース 「この精神世界で私を殺し、キミがこの身体の主導権を握るつもりか」

エインズワース 「今更それがわかったところで、私たちには戦う道しかない」

メイザース 「そのようだ」

(SE 氷魔法が発動する音)

メイザース 「つまらん」

(SE 氷魔法が発動する音)

エインズワース 「くっ……」

メイザース 「悪いけど、キミと私では錬度が違う」

エインズワース 「それでも、勝たせてもらう!」

(SE 炎魔法が発動する音)

メイザース 「普段使わない属性をぶつけたところで同じだ」

(SE 炎魔法が打ち消される音)

メイザース 「つまらないな。この程度なのか? 別世界の私は」

メイザース 「──────咲き誇れ、氷の華よ!」

(SE 氷の華が咲き誇る音)

エインズワース 「この魔法は……!」

エインズワース 「──────炎王の護りよ!」

(SE 炎魔法が発動する音)

(SE 氷が蒸発する音)

メイザース 「防いだか。だが──────」

メイザース 「──────氷塵ダイヤモンドダスト!」

(SE 氷魔法が発動する音)

エインズワース 「ふ……」

(SE 水魔法が発動する音)

メイザース 「ほう……」

(SE 氷が砕ける音)

メイザース 「咄嗟に水で膜を張り、氷魔法から身を護ったか」

エインズワース 「──────いかづちよ、喰らいつくせ。雷竜の顎サンダーストライク!!」

(SE 雷魔法が発動する音)

メイザース 「──────土壁よ」

(SE 地属性の魔法が発動する音)

メイザース 「──────雷よ、貫け。雷神の怒りライトニングブラスト

(SE 激しい雷が貫く音)

エインズワース 「ぐあああっ!!」

(SE 吹き飛ばされる音)

メイザース 「魔法で私に勝てると思っているのか?」

エインズワース 「くっ……」

メイザース 「キミがくだらん絶望を抱いていたときも、私は研究を続けてきたんだ。まさに天と地ほどの差がある」

エインズワース 「──────氷の刃よ、驟雨しゅううとなりて、降り注げ!」

(SE 氷魔法が発動する音)

メイザース 「──────水流よ、ことごとくを押し流せ」

(SE 水魔法が発動する音)

エインズワース 「──────絶対零度の風よ、アブソリュートフロウ!!」

(SE 水が一瞬にして凍る音)

メイザース 「──────四元しげんよ、我が前に力を示せ! エレメンツ・レイ!!」

(SE 高出力の魔力の奔流)

エインズワース 「──────四元の壁よ」

(SE 魔力の壁が構築される音)

(SE 魔力の衝突)

(SE 魔力の壁が割れる音)

エインズワース 「ぐああああああっ!!」

(SE 吹き飛ばされる音)

メイザース 「辛うじて防いだか」

エインズワース 「くっ……」

メイザース 「だが、ここまでのようだね」

エインズワース 「……っ、は」

(SE よろよろと立ち上がる)

エインズワース 「ぐ、はあ……」

メイザース 「ほう、これは驚いた。まだ立てるだけの力はあるのか」

エインズワース 「──────我、この闇に終わりを告げる者、汝、この光を闇に染める者」

メイザース 「その魔法は……」

エインズワース 「──────光は闇を照らし、闇は光に影を落とす」

メイザース 「あの最後の朝に、私を倒すことになる魔法か」

エインズワース 「──────裁きのいかづちよ、闇を切り裂き光を示せ!」

メイザース 「ふふ、見極めてやろう」

エインズワース 「──────ジャッジメント・ブルーム!!」

(SE 強力な雷魔法が発動する音)

メイザース 「──────四元よ、障壁となれ」

(SE 魔力の壁が構築される音)

(SE 魔力の衝突)

エインズワース 「なっ……!?」

メイザース 「ふふ、どうやらキミは、自分の力を過信していたようだね。あの最後の朝、キミの隣にはアーロンがいた、ということを忘れていたのかい?」

エインズワース 「……っ」

メイザース 「キミは所詮、ひとりでは何もできない、かわいいかわいいお嬢さんなんだよ」

(SE 魔法陣が展開する音)

メイザース 「だが、キミにしてはよく頑張った。」

(SE 無数の剣が錬成される音)

メイザース 「──────千の剣よ、舞え!」

エインズワース 「……っ、はは、ここまでか……」

メイザース 「──────千剣万花ブレイドブルーム!」

(SE 無数の剣が射出される音)

エインズワース 「こんなとき、アーロンならどうするんだろうな……」

────────────

アーロン 「洒落くせえ!!」

────────────

(SE 剣が弾き飛ばされる音)

メイザース 「なに!?」

エインズワース 「おいおい、それで終わりか?」

メイザース 「……いったいなんの真似だ? まさか……」

エインズワース 「来ねえのか? なら、こっちから行くぜ?」

(SE 駆け出す音)

メイザース 「アーロンをその身に降ろしたとでも……」

(SE 剣を振る音)

メイザース 「くっ、動きまで、アーロンじゃないか!」

(SE 風魔法が発動する音)

メイザース 「だが、空中に逃げてしまえば……!」

(SE 弓を構える音)

エインズワース 「それはどうかな? 煌めけ! 流れ星!」

(SE 高威力の矢を放つ音)

メイザース 「く……ッ!」

(SE メイザースが撃ち落される音)

(SE 刀を構える音)

エインズワース 「──────斬月!」

(SE 刀の一閃)

(SE メイザースが吹き飛ばされる音)

メイザース 「ぐぅ……っ!!」

(SE メイザースが膝をつく音)

メイザース 「はあ、はあ……、そういう、ことか」

エインズワース 「…………」

メイザース 「自分自身に幻術をかけることで魂をも騙し、仲間の技術をその身で再現させた、というところか……。ある種の、神降ろしじゃないか……」

(SE 魔法陣が展開する音)

メイザース 「だが! ここで私が負ければ、私という存在そのものが消えてしまう!!」

(SE 魔法陣の輝きが増す音)

メイザース 「──────極光の輝きよ、すべてを無に帰せ! アブソリュート・レイ!!」

(SE 高威力の氷魔法が発動する音)

エインズワース 「四元しげんの壁よ」

(SE 魔力の障壁が構築される音)

(SE 魔力の衝突)

メイザース 「くっ、その状態でも自分の魔法は使えるのか……!」

エインズワース 「どうやら、そのようだ」

メイザース 「……ッ!」

エインズワース 「──────叢雲」

(SE 霧が発生する音)

(SE 銃を構える音)

エインズワース 「──────魔弾・閃光の一撃フレアバースト!」

メイザース 「なにっ!? ぐあああああっ!!」

(SE 吹き飛ばされる音)

メイザース 「ま、まだだ……ッ!!」

(SE 無数の剣を錬成する音)

メイザース 「私は、なんとしてでも、勝たなければいけないんだ……っ! なんとしてでも、アルトリウスの世界創造を完成させなければ、私という存在は消えてしまうんだ!!」

エインズワース 「……!」

メイザース 「──────これが、私の錬金術だ! 百花繚乱、千の剣、舞え、舞え、さらに舞え!!」

(SE 無数の剣が飛び交う音)

エインズワース 「くっ……!」

メイザース 「──────剣の舞ブレイドダンス乱れ桜ディザイア!!」

(SE 無数の剣が斬り刻む音)

エインズワース 「──────獅子炎護陣ししえんごじん!」

(SE 魔力で構築された盾を構える音)

メイザース 「はあ、はあ……、やったか……?」

(SE 魔力の盾が消失する音)

メイザース 「そ、それは、レオンハルトの盾……?」

エインズワース 「……すまないな、私にも、勝ちたい理由があるんだ」

メイザース 「く……っ」

(SE 膝をつく音)

エインズワース 「これが、私の答え……!」

(SE 魔法陣が展開される音)

エインズワース 「──────魂の旋律よ、今ここに光をもたらせ!!」

メイザース 「光属性の魔法、だと!?」

エインズワース 「私は、みんなと歩いていきたい!!」

エインズワース 「──────シンフォニックルミナス!!」

(SE 光属性の魔法が発動する音)

メイザース 「ぐああああああああっ!!」

(SE 倒れる音)

メイザース 「……っ、なぜキミが、キミなんかが、旧ハルモニアの魔法を……!?」

エインズワース 「きっと、魂の力は、想いの力なんだ」

メイザース 「まさか、愛の力とか抜かすんじゃないだろうな?」

エインズワース 「愛、か。かもしれないね」

メイザース 「は、理解、できないな……」

エインズワース 「それが、私とキミの差だ」

メイザース 「くだらないな」

エインズワース 「ああ、案外、くだらないものなのかもしれないな。愛とか想いなんてものは。だが──────」

エインズワース 「それがあるから、また新しい朝に向かって歩いていけるんだ」

メイザース 「一生やってろ……」

(SE メイザースが塵となって消える音)

つづく
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