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Ⅳ 新しい朝

第40.5話 魔法使いと錬金術師

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アーロン:魔法使いの助手兼用心棒をしている青年。21歳。
アリア:災厄の魔女と呼ばれた錬金術師。21歳。

シャルル・ロベール:パレトワールの執政官を務める男性。53歳。


 芸術の街・パレトワール、星の門広場。

アーロン 「アルトに行って、何するってんだ?」

アリア 「あれから1000年経っているんだ。封印がどういう状態になっているのか、確認したい」

アーロン 「ま、それもそうだな」

アリア 「……それにしても、この星の門が、この時代に帰る重要なファクターになっていたとはね」

アーロン 「それをアリアが作っちまったんだよな」

アリア 「はは、作ったのはほとんどパティだ」

(SE 足音)

シャルル 「……星の門に、興味がおありで?」

アーロン 「ん? ああ、いや、俺たちは……」

シャルル 「この星の門は、ハルモニア帝国建国時代に建立されたものでして……」

アーロン 「聞いちゃいねえ……」

シャルル 「そしてあの意匠は、かつて存在した星の錬金術師を讃えたもので……」

アリア 「オリヴィア……」

シャルル 「オリヴィア様をご存知で!?」

アリア 「ま、まあ、私も錬金術師だからね」

シャルル 「なるほど、そうでしたか」

アーロン 「というか、なんでおっさんがオリヴィアを知ってるんだ?」

シャルル 「オリヴィア様は、ロベール家の出ですからね。……あ、申し遅れました、私はシャルル・ロベール、この街の執政官をしております」

アーロン 「シャルル・ロベール……、もしかして、エスカの……」

シャルル 「……!! エスカの、知り合いでしたか」

アリア 「エスカ……、ああ、あの香水を使っていた……」

シャルル 「……もしや、エスカを訪ねていらしたのですか?」

アーロン 「……」

シャルル 「……そうでしたか。すみません、エスカは……」

アーロン 「そう、だったか」

シャルル 「……娘がいなくなってしまってから、ちょうど1年になります」

アーロン 「……そうだ、おっさ、いや……、エスカの恋人の……」

シャルル 「フィリップくんのことかい?」

アーロン 「ああ、フィリップは……」

シャルル 「フィリップくん、彼が一番エスカのことを想ってくれているんだが……。彼は、心に深い傷を負ってしまったようで……」

アーロン 「そうか……」

シャルル 「ええ、それもそうです。エスカは、よりにもよって彼と待ち合わせをしていた日にいなくなってしまったのですから……」

アーロン 「……」

アーロン (そういや、おっさんの過去について、察するところはあったけど、詳しくは聞いてなかったな……)

アリア 「待ち合わせをしていた日、か」

シャルル 「……エスカをさらった犯人どころか、エスカの遺体すら、見つかっていないのです」

アリア 「犯人なら、わかっているんじゃないか?」

シャルル 「え?」

アーロン 「おいアリア、まさか」

アリア 「その話を聞いて、疑わない理由はないだろう。その彼の想いとやらが、正真正銘の本物だと、言い切れるのかな?」

シャルル 「…………」

アーロン 「アリア!」

シャルル 「いえ、貴女の言うことはもっともです。しかし、私には、彼がエスカを拐したなど、考えられないのです。私は、彼を信じています」

アリア 「どうも私には理解できないな。おいアーロン、そろそろ行くぞ」

(SE アリアが歩き出す音)

アーロン 「……悪かったな、貴族のおっさん」

シャルル 「いえ、気にしてなどいませんよ。彼女の言ったことは正しい」

アーロン 「……俺は、フィリップがエスカを、なんてありえないと思ってる」

シャルル 「え……?」

アーロン 「それじゃあ、俺も行くかな」

シャルル 「……ありがとうございます」



 どこでもない空間。二つの魂が揺らめいている。

アリア 「なぜ、あんなことを言ったんだ?」

アリア 「なに、私はただ事実から推測できることを述べたまでだ」

アリア 「だからと言って、あんなことを言う必要はなかっただろう」

アリア 「では、幻影ファントムとかいう名で、騎士団長の意向に沿わない者を粛清してきたウルフィリア・レインフォルスがエスカを騙していない、とでも?」

アリア 「それは……っ」

アリア 「フィリップ・ベルナルドは、キミたちを騙していたんだろう? エスカを殺すことなんて、訳ないだろうさ」

アリア 「…………」

アリア 「寂しがりやの可愛い少女には、受け入れ難い話だとは思うがね」

アリア 「自分で自分のことを可愛い少女だなんて言うんだね」

アリア 「失礼、私にはキミが可愛い可愛い少女に見えたものでね」

アリア 「なにが言いたい?」

アリア 「フィリップのことだって、大して知らなかっただろう? 自分が犯した罪ばかりに囚われ、周りを見ようとしていなかった」

アリア 「そ、そんなことは……っ!」

アリア 「ソフィーが心を開いてくれたのだって、アーロンが間をとりなしたからだろう。キミは結局、何もしていない。何もできなかった」

アリア 「……ッ」

アリア 「今だって、キミは見ていることしかできていないじゃないか」

アリア 「それは……」

アリア 「ふふ、これからも黙って見ているんだな。私も、アーロンという男に興味が湧いた。しばらく邪魔をしないでくれ」

アリア 「……っ」



 パレトワール、宿。

アリア 「すぐアルトに発てるものだと思っていたが……」

アーロン 「帝都行きの便と違って、アルト行きの便は一日一本だからな」

アリア 「まあ、キミと宿で一泊というのも、悪くはないかな」

アーロン 「そうかよ」

アリア 「……なんだか最近のキミはツれないな」

アーロン 「そうか?」

アリア 「……私たち、恋人、なんだろう?」

アーロン 「……やっぱ、姿や名前が一緒でも、魂が違えば別人なんだな」

アリア 「…………なに?」

アーロン 「俺の知ってるアリアだったら、今の会話で……」

────────────

アリア 「……! これが、倦怠期、というものなのか? とうとう私たちも、その域に達した、ということか?」

────────────

アーロン 「……なんて、神妙な顔して言うだろうな」

アリア 「ほう」

アーロン 「今のあんたは、災厄の魔女と呼ばれていたアリアなんだろう?」

アリア 「ふふ、勘が良いというのも考えものだな」

アーロン 「アルトリウスの世界創造に耐えられたのは、あの魔石を持っていたからだろう?」

アリア 「それで? それがわかったからといって、キミに何ができる?」

アーロン 「ま、そうだな。俺がどうこうできる問題じゃない」

アリア 「それじゃあ……」

アーロン 「だけど、俺はアリアを信じてる。まだいるんだろ? 魂ってやつは」

アリア 「ふふふ、信じる、信じる、か。いかにもキミらしい回答で良かったよ。そうでなければ、キミを殺していたかもしれない」

アーロン 「そりゃよかった」

アリア 「まあ、私としても本意ではないけどね」

アーロン 「んで? そんなあんたはこれからどうすんだ?」

アリア 「なに、しばらくはおとなしくしているさ。あの死神の封印がどうなっているのか、というのは本当に気になっているところだしね。そう言うキミはどうするんだい?」

アーロン 「ま、アリアを信じると言った手前、あんたから離れるわけにはいかないだろうさ」

アリア 「それはよかった」

アーロン 「なにがだよ?」

アリア 「なに、こちらの話だよ」

アーロン 「そうかよ」

アリア 「さて、明日に備えてそろそろ寝ようか」

アーロン 「そうだな。俺は椅子で寝るから、あんたはベッド使いな」

アリア 「一緒に寝ないのかい?」

アーロン 「アリアに怒られるからな」

アリア 「はいはい、ごちそうさま」

(SE 布団を被る音)

アリア 「おやすみ」

アーロン 「ああ」

つづく
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