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Ⅳ 新しい朝

第39.5話 凱旋

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アーロン:魔法使いの助手兼用心棒をしている青年。
アリア:災厄の魔女と呼ばれた錬金術師。

ルートヴィヒ・フォン・アイヒホルン(ルイ):気品を漂わせる貴族の男性。毒舌だが、その心の内に熱さを秘めている。アイヒホルン家当主を務める。25歳。
パトリツィア・フォン・アイヒホルン(パティ):ルイの親戚の女性、錬金術の腕は天才的だが、おつむは弱い。分家の出で、ルイを護衛する役目がある。21歳。



 死神討伐から3日が経った。 

 死神討伐の報せは、瞬く間に各地へ広がった。人々は、恐怖からの解放と明日への希望を嚙み締めた。

 しかし、それも束の間、帝都が陥落したことによる従来の皇政の崩壊は、この世を再び動乱へと導く。

 あるところでは、民衆が決起しクーデターを起こし、あるところでは、貴族の圧政が一層厳しくなり、混乱を極めた。

 天下を統一した皇帝の存在は、良くも悪くも、人々の歯止めとなっていたのかもしれない。

学術都市・フリージア、アイヒホルン邸。

ルイ 「……すまないな、死神討伐、という大恩があるにも関わらず、祝宴の席すら容易できずに」

アーロン 「あ? そんなの気にしてないって」

アリア 「ああ、私たちにも目的があったからね」

ルイ 「すまない」

アーロン 「謝んなって。第一、死神にとどめを刺したのは、ルイじゃねえか」

ルイ 「皆の助力あってこその勝利だ。俺ひとりでは、あのドラゴンを相手に時間を稼ぐことはできなかったさ」

アリア 「……そういえば、パティはどこに行ったんだ? 先ほどから姿が見えないのだが……」

ルイ 「パティなら、遣いに出しているが……。それにしては遅いな」

アリア 「そうか、錬金術について、色々聞きたいことがあったんだが……」

ルイ 「錬金術か。確かにパティは、オリヴィアにこそ劣るが、錬金術の腕は確かだからな。だが、お前たちの時代では、あの程度は普通ではないのか?」

アリア 「まさか。魂や時間を扱う錬金術なんて、そうそうできるものじゃない」

ルイ 「ほう。だが、アリアは魂を扱う錬金術を成功させているじゃないか」

アリア 「人間の生体情報を抜き出すことによる簡易魂魄の錬成か。あれは、あくまで簡易的な魂を作り出したに過ぎない。オリヴィアやパティのやっていたような芸当はできないさ」

ルイ 「……アリア、ひとつ質問だ。その記憶、どのように引き出し、どのように口にした?」

アーロン 「……」

アリア 「その質問の意図は図りかねるが、私が私の記憶をどのように引き出すかなど、私の勝手だと思うがね」

ルイ 「そうか……、変な質問をしてすまなかったな」

アリア 「まったくだ」

ルイ 「だがひとつ忠告だ。俺の瞳は魂を見通す。下手な嘘は吐かない方が身のためだぞ」

アリア 「肝に銘じておくよ」

アーロン (……今のアリアは、本当に、元の時代を旅したアリアなのか?)

(SE パティがばたばたと走ってくる音)

パティ 「ルイ! フリージアに人が押し寄せてきてるんだけど!?」

ルイ 「なに?」

パティ 「とりあえず外に来て!」

────────────

 フリージア、広場。

(SE がやがや)

アーロン 「おいおい、こんなに人通り多かったか?」

アリア 「見たところ、平民だけじゃなく貴族もいるようだね」

ルイ 「……何があった?」

パティ 「皆、アイヒホルン卿を訪ねてきているのですよ。皇帝亡き今、このハルモニアを導くことができるのは貴方しかいない」

ルイ 「俺が……?」

パティ 「ええ、私も、貴方しかいないと思うわ」

ルイ 「……死神討伐の次は、俺に、皇帝になれと?」

パティ 「ええ」

ルイ 「だが……」

アーロン 「は、俺はあんたみたいなのが皇帝に相応しいと思うけどな」

ルイ 「ふ、未来ではそうなっているのか?」

アーロン 「あ、言っとくけど、ハルモニア帝国の初代皇帝がどんなやつか、なんて俺は知らないからな」

ルイ 「……」

アーロン 「未来がどうとかじゃなくて、俺はただあんたに皇帝をやってほしい」

ルイ 「……! ふ、そうまで言われてしまったら、やるしかないだろう」

パティ 「ありがとう、ルイ!」

(SE 台に上がる音)

(SE 魔力が込められる音)

ルイ 「……皆、よくぞここまでやってきてくれた! 私が、ルートヴィヒ・フォン・アイヒホルンだ!」

(SE 民衆のどよめき)

ルイ 「先の帝都陥落を受け、皆、不安に思っているだろう! 皇帝が亡くなり、この国の秩序は乱れ、各地で貴族の圧政、民衆の蜂起が起こっている! このままでは、弱者が虐げられる、暴力の支配する世となってしまうだろう」

(SE 民衆のどよめき)

ルイ 「だが、私は、そんなものは認めない! 私と心を同じにする者よ、私についてこい!!」

(SE 歓声)

パティ 「アーロン、ありがとうね」

アーロン 「あ?」

パティ 「私の言葉だけじゃ、こうはならなかったと思うわ」

アーロン 「んなわけあるか」

パティ 「え?」

アーロン 「あいつは皇帝になる道を選んだんだろ? そこに俺が言ったから、なんて関係ねえだろ」

パティ 「…………」

アーロン 「それに、なる気がなかったんなら、ハナから選ばねえだろうさ」

パティ 「それは、そうだけど……」

アリア 「はは、アーロン、感謝の言葉は素直に受け取っておくべきじゃないのか?」

アーロン 「あ? いや、だってよ、俺の言葉でハルモニア帝国の存亡が、とか考えたくないんだよ……」

パティ 「……ふ、ふふ、あはははっ!」

アリア 「ふ、キミにもそういうところがあるんだね」

アーロン 「な、なにがおかしいんだよ!?」



 アイヒホルン邸。

ルイ 「……ふぅ」

パティ 「お疲れ様、ルイ」

ルイ 「まさか、あの後すぐに帝国再建の計画を会議することになるとは思わなかった」

アリア 「帝都はあのままにするのか?」

ルイ 「いや、さすがに瓦礫をそのままにはできないだろう。だが、あの地をまた帝都にすることは考えていない」

アリア 「ほう」

ルイ 「あの地であったことを伝え、護る役割は必要とは思うが……」

パティ 「ふぅん、じゃあ新しい帝都の位置はどうするの?」

ルイ 「まだ協議中だ」

パティ 「まあ、そうよね」

ルイ 「だが、あのドラゴンを撃退したとき、ヤツの力が込められた石が落ちただろう?」

アリア 「……そういえば、あれはどうしたんだ?」

パティ 「私が預かっているわ。もちろん、魔力が暴走しないように、しっかりと術をかけているわよ」

ルイ 「……あの石を拾ったとき、魂の力が増すような、そんな感覚がした」

パティ 「魂の力が? 魂の力を引き出す、月の雫と同じ効果ということ?」

ルイ 「いや、それよりは、魂そのものの力が増すような感覚だ」

パティ 「なるほど……」

ルイ 「どんな影響が出るかわからない。あの石と死神を封印した魔石は近づけない方がいいだろう」

パティ 「じゃあ新しい帝都は、ここより東に?」

ルイ 「そうなるだろうな」

(SE 紅茶を飲む音)

ルイ 「……その関係で、明日からしばらく会議になる」

パティ 「帰りが遅くなるってこと?」

ルイ 「それもあるが、その間、未来へ帰る方法を探す手伝いができそうにない。アーロンとアリアには恩があるというのに、すまない」

アーロン 「いや、そんなの別にいいって、あんたにもやることがあるんだろ」

ルイ 「すまない。先日言ったとおりパティを好きに使っていいからな」

アーロン 「好きに、ね」

パティ 「ち、ちょっとアーロン!? 今、ヘンなコト考えていなかった!?」

アリア 「…………」

アーロン 「あ?」

パティ 「確かに、酒場のおじさんに男受けする身体してるって言われるけど……、ダメなんだからね!!」

アーロン 「ああいや、俺たちがパティと行動していたら、ルイの護衛はどうするんだよ、って思ったんだよ」

パティ 「へ……?」

ルイ 「……はあ、すまないな、こいつは自意識過剰なうえ馬鹿なんだ」

パティ 「ルイ!?」

アリア 「しかし、パティを私たちが独占してしまってもいいのかい?」

ルイ 「なに、俺だって腕には覚えがある。身を守る程度造作ない」

パティ 「だけど……」

ルイ 「アイヒホルン家当主としての命令だ、パトリツィア。アリアたちに協力しろ」

パティ 「……はあ、わかったわよ」

ルイ 「では、決まりだな」

アーロン 「ありがとうな、ルイ」

ルイ 「ふ、お前たちには世話になったからな」

パティ 「──────それじゃあ、明日から早速未来へ帰る方法を探しましょう!!」

つづく
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