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Ⅲ from A to A

第22話 世界創造

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アリア・エインズワース:帝都のはずれにある森で店を営んでいる魔女。21歳。
アーロン・ストライフ:魔法使いの助手兼用心棒をやっている青年。21歳。
ソフィー:ハルモニア帝国第2皇女、ソフィア・リ・ハルモニア。18歳。
ルーナ:ハルモニア帝国第4皇子の側近をしている女性。20歳。
レオンハルト・ハイデルバッハ:帝国騎士団で隊長を務める青年。19歳。

アルトリウス・フォン・ハルモニア:ハルモニア帝国第4皇子。18歳。

~モブ~
大臣:皇位継承の儀を執り行う大臣。50代。


 皇位継承の儀が執り行われる時間が刻々と差し迫っている。

 城内、工房。

アリア 「……これで治療は終わったよ」

レオンハルト 「ありがとうございます」

アリア 「すまない、まさか、こんなに時間がかかるとは……」

アーロン 「仕方ない。俺らの消耗も激しかったんだ」

ルーナ 「……だけど、皇位継承の儀は正午でしょ? どうするの?」

ソフィー 「私に、考えがあります」

ルーナ 「ソフィー……?」

ソフィー 「アリアさん、これを作って欲しいんです」

(SE 紙を渡す音)

アリア 「……これは……?」

ソフィー 「材料はすべて、ここに揃えてあります」

アリア 「ふむ……」

ソフィー 「……できますか?」

アリア 「ふっ、あたりまえだ」

(SE ローブを翻す音)

アリア 「私は、天才魔法使いだからね」

レオンハルト 「……!!」

ルーナ 「……ふ」

ソフィー 「なんだか、久しぶりに聞きました」

アーロン 「なんだよ、ふっきれたのか?」

アリア 「……失うばかりの人生だったが、私はようやく幸せを手に入れることができた」

アリア 「──────もう、失いたくはないからね」

(SE 杖を召喚する音)

アリア 「今から調合に移る。ソフィー、作戦の説明を」

ソフィー 「はい」

(SE 紙を広げる音)

アーロン 「これは?」

ソフィー 「この1週間を使って考えた、遠くからの狙撃を可能にした銃です」

ルーナ 「遠くから?」

ソフィー 「はい、遠見の魔法を銃に付与して、魔力を使って実弾を遠くまで届かせます」

レオンハルト 「そんなこと、可能なんですか?」

アリア 「理論的には可能だよ。銃も作れる。だけど、実現させるには、ソフィーの腕が問われることになるだろう」

ソフィー 「もちろん、実現させます。この作戦は、まずそれが前提です」

ソフィー 「さて、その作戦ですけど、皇位継承の儀は、皇帝に選ばれた者に皇帝の威光というペンダントが与えられます」

アーロン 「皇帝の威光?」

ソフィー 「私も詳しいことは聞かされていませんが、調律の剣シュティムングビーベルと組み合わせることで真価を発揮する皇帝の証だそうです。この皇帝選は、その皇帝の威光の封印を解くために必要な儀式魔法なんです」

レオンハルト 「そんなものが……」

ソフィー 「作戦では、皇位継承の儀で、アーサーがその皇帝の威光を受け取る瞬間を叩きます」

ルーナ 「そんなこと、できるの?」

ソフィー 「そのための、狙撃銃です。私が、皇帝の威光を撃ちぬきます」

アーロン 「待て、今のアルトリウスには、未来視がある。撃ちぬけるのか?」

ソフィー 「……昨日、私が飛び入ったとき、アーサーは予測できていませんでした。たぶん、まだ完全には未来視を使いこなせていないんだと思います」

アーロン 「そういえば、そうだったな」

ルーナ 「でも、そんなのアルトリウスが土壇場で未来視を発動させたらどうするのよ」

ソフィー 「そ、それは……」

アリア 「私たちのとれる選択肢は、もう残っていないんだ。ここは、ソフィーに賭けてみないかい?」

ソフィー 「アリアさん……」

アーロン 「そうだな。ソフィー、期待してるぜ!」

レオンハルト 「ソフィーさん、一緒に頑張りましょう!」

ソフィー 「アーロンさん、レオくん……」

ルーナ 「ふん、アンタみたいなちんちくりんに任せるなんて……」

ソフィー 「ルーナさん……」

ルーナ 「……って、前の私だったら言ったかもね。ソフィー、私たちが全力でこの作戦をサポートするわ。大船に乗ったつもりで構えていなさい!」

ソフィー 「ルーナさん! すきです!!」

(SE ソフィーがルーナに抱きつく音)

ルーナ 「ちょっと! 離れなさいよ!」

ソフィー 「やはは、ごめんなさい~」

ルーナ 「それで、ソフィーが皇帝の威光を撃ちぬいたらどうするのよ?」

ソフィー 「まず、レオくんは住民を避難させてほしいの」

レオンハルト 「なるほど、わかりました」

ソフィー 「アーロンさんとルーナさんは、アーサーをおさえてください」

アーロン・ルーナ 「わかった」

アリア 「ふむ、私は、何をすればいい?」

ソフィー 「アリアさんは、私の援護をお願いできますか?」

アリア 「心得た」

ソフィー 「アーサーがどんな思いで皇帝になろうとしているかはわかりませんが、昨日のアーサーの様子からして、よくないことを企んでいるというのはわかります」

ソフィー 「絶対に、皇帝の威光を渡さないようにしましょう」



 帝都、貴族街、広場。

(SE ざわざわ)

ルーナ 「ふふ、この作戦が成功したら、私たち、大犯罪者ね」

アーロン 「なに、革命は成功したら罪じゃないんだぜ?」

レオンハルト 「物騒なこと言わないでくださいよ」

大臣 「──────皇帝の威光をここへ」

アルトリウス 「……!」

ルーナ 「ソフィー、頼むわよ」

アルトリウス 「ふっ……」

アーロン 「……! 待て、なにかおかしい」

(SE 遠くから銃声)

(SE 剣を抜く音)

(SE 剣で銃弾を弾く音)

アーロン 「なっ!?」

ルーナ 「うそ……」

アルトリウス 「……どうやら、神聖な儀式を邪魔するネズミが紛れているようですね」

(SE 民衆の阿鼻叫喚)

大臣 「殿下!」

アルトリウス 「大臣、皇帝の威光を渡してください」

大臣 「しかし……!」

アルトリウス 「いいからよこせ!」

大臣 「ひっ……!」

アーロン 「させるか!!」

(SE 剣と剣がぶつかる音)

アルトリウス 「くっ! やはり、あの2人はやられてしまいましたか……!」

レオンハルト 「皆さん、ここは危険です! 速やかに退避してください!」

大臣 「……!! な、なにが……?」

ルーナ 「──────斬月!」

(SE 刀を振る音)

アルトリウス 「……!」

ルーナ 「避けられた……。やっぱり……」

アーロン 「ああ、未来視だ」

ルーナ 「……やるしかないのね」

アルトリウス 「……アーロンさん、なぜボクの邪魔をするんですか?」

アーロン 「はっ、あんた、おっさん使って、俺らに何した?」

アルトリウス 「ふふ、彼はよく働いてくれました。僕が創る新世界で、彼は幸せに暮らすことでしょう」

アーロン 「新世界……?」

アルトリウス 「そうです! そこは、すべてがうまくいった世界なんです!!」

ルーナ 「すべてがうまくいった世界……」

アルトリウス 「はい、ルーナさん、貴女は4年前、妹を亡くされたそうですね。ボクの新世界では、そんなことはなかった。貴女の妹は、生きているんです」

ルーナ 「ステラが……」

アルトリウス 「アーロンさん、貴方も騎士団時代に幼馴染を亡くされていますし、数か月前には父親を亡くされていますよね?」

アーロン 「…………」

アルトリウス 「そう、ボクの創る新世界では、無意味な死などないのです!」

ルーナ 「そんなの、夢物語もいいところじゃない!」

アルトリウス 「夢物語? いえ、僕なら可能なんですよ……!」

(SE 斬撃音)

大臣 「ぐあああっ!!」

(SE ペンダントが落ちる音)

大臣 「で、殿下……!」

アルトリウス 「素直に皇帝の威光を渡していれば、苦しまずに済んだというのに……」

(SE ペンダントを拾う音)

アーロン 「しまった!」

(SE アリアとソフィーが走ってくる音)

アリア 「アーロン!」

ソフィー 「すみません! 外してしまって!!」

アルトリウス 「ふふふふふ、はははははは!!」

ルーナ 「……終わった」

ソフィー 「……! 皇帝の威光……!」

アーロン 「悪い、とられちまった」

アルトリウス 「さあ、新世界の創造だ!!」

(SE 魔力が放出される音)

アルトリウス 「ふふふふふ、無知な貴方たちに教えてあげましょう。皇帝の威光は、この調律の剣シュティムングビーベルと組み合わせることで、魂の力を倍増させるんです」

アルトリウス 「つまり、皇族の魔法に秘められた真の力を発揮できるんです!!」

(SE 激しい魔力の奔流)

レオンハルト 「そ、空が赤くなって……」

アリア 「な、何が起きているんだ……?」

アーロン 「くっそ! 死神化タナトス!!」

(SE 黒いオーラをまとう音)

アーロン 「冥王一閃めいおういっせん!!」

(SE 黒いオーラをまとった一閃)

アルトリウス 「邪魔を!」

(SE 剣と剣がぶつかる音)

アルトリウス 「するな!!」

(SE アーロンが突き飛ばされる音)

アーロン 「ぐあああっ!!」

アリア 「アーロン!」

アルトリウス 「ボクの固有魔法は、時間遡行と理想の現実化。今までは魔力が足りなかったが、皇帝の威光を手に入れた今、ボクの理想はここに実現する!!」

(SE 魔力の輝き)

アルトリウス 「さあ、新世界を我が手に!!」

(SE 凄まじい魔力の奔流)

(SE 民衆の阿鼻叫喚)

レオンハルト 「うわ、なんですか、これ!? 住民の方々が、光に包まれて……!!」

(SE 民衆が消滅する音)

アーロン 「!? 何をしたああっ!?」

アルトリウス 「ふふふ、ははは!! 素晴らしい!!」

ルーナ 「人だけじゃない。家が、街全体が光に……」

(SE レオンハルトが光に包まれる音)

レオンハルト 「ひっ、僕も光に……!」

ソフィー 「レオくん!!」

(SE レオンハルトが消滅する音)

ルーナ 「う、うそ、でしょ……!? そ、ソフィー! 浄化の炎でなんとかならないの!?」

ソフィー 「やってるんですけど、浄化しきれません!!」

(SE ルーナが光に包まれる音)

ルーナ 「……!! アルトリウスううううっ!!!」

(SE ルーナが駆け出す音)

アルトリウス 「遅い」

(SE ルーナが消滅する音)

ソフィー 「い、いやあああああ!!」

(SE ソフィーがへたり込む音)

アーロン 「ルーナまで……!」

アリア 「く、雷よ、貫け!!」

(SE 雷魔法が発動する音)

アルトリウス 「今の僕に、普通の魔法は効きません」

(SE 魔法が霧散する音)

アリア 「……! まさか、神降ろし……」

アルトリウス 「降ろしたんじゃない。僕が神に成ったんです!!」

(SE ソフィーが光に包まれる音)

ソフィー 「……あ、私も、消えちゃうんですね……」

アーロン 「ソフィー……!」

ソフィー 「アーロンさん……!」

(SE ソフィーが消滅する音)

(SE アリアが光に包まれる音)

アリア 「……っ」

アーロン 「アリア!」

アリア 「アーロン……、そんな顔をしてないで、私の話を聞け」

アーロン 「だけど!」

アリア 「いいから聞くんだ」

アーロン 「…………」

アリア 「おそらく、キミだけが、これを……」

(SE アリアが消滅する音)

アーロン 「……!! アリアああああああっ!!」

アルトリウス 「終わりですよ」

アーロン 「アルトリウス!!」

(SE アーロンが光に包まれる音)

アーロン 「……!!」

アルトリウス 「はは、大丈夫ですよ。終わりといっても、死ぬわけじゃありませんから」

アーロン 「うるせえ! 黙れ!!」

(SE アーロンが駆け出す音)

アルトリウス 「血の気が多いですね」

(SE 剣と剣がぶつかる音)

アーロン 「うおおおおっ!! 冥王一閃めいおういっせん狼牙ろうが!!」

(SE 黒いオーラをまとった一撃)

アルトリウス 「うぐっ! 良い一撃ですが……」

(SE アーロンが消滅する音)

アルトリウス 「届かなかったみたいですね」

アルトリウス 「ふふふふ、ははははは!! 新世界の始まりだ!!」

つづく
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