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Ⅲ from A to A
第20話 終幕への序章
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アリア・エインズワース:帝都のはずれにある森で店を営んでいる魔女。21歳。
アーロン・ストライフ:魔法使いの助手兼用心棒をやっている青年。21歳。
ソフィー:ハルモニア帝国第2皇女、ソフィア・リ・ハルモニア。18歳。
フィリップ・ベルナルド:元帝国騎士団所属だった鳥使いの男性。本名はウルフィリア・レインフォルス。32歳。
ルーナ:ハルモニア帝国第4皇子の側近をしている女性。20歳。
レオンハルト・ハイデルバッハ:帝国騎士団で隊長を務める青年。19歳。
アルトリウス・フォン・ハルモニア:ハルモニア帝国第4皇子。18歳。
セシル・エインズワース:アルトリウスの側近をしている魔女。30歳。
アレン・ウィル・ハルモニア:元ハルモニア帝国の皇子。アルトリウスの側近をしている剣士。30歳。
ソフィア:ハルモニア帝国第二皇女のコピーとして生み出されたホムンクルス。感情の起伏が感じられない少女。
アレキサンダー・ザ・ハルモニア:元ハルモニア帝国第1皇子。地下牢に収容されている。27歳。
~モブ~
大臣:皇位継承の儀を執り行う大臣。50代。
民衆①②③
魔法使いの店。昼。
(SE 料理皿を置く音)
アーロン 「はいよ、今日はシチューにしたぞ」
アリア 「あ、ありがとう……」
アーロン 「なんだよ、まだ慣れてないのか?」
アリア 「い、いや、そんなことは、ない」
(SE 料理皿を置く音)
(SE 席に着く音)
アーロン 「……さて、食べるか」
アリア 「ああ、いただきます」
アーロン 「おう。あむ……」
アリア 「……やはり、少し量が多くないか? いや、キミのシチューならいくらでも食べられるが……」
アーロン 「なんか、一気に食い手が減ったから、つい作り過ぎちまうんだよ」
アリア 「ふふ、本当に久しぶりだよね、この家に2人きり、なんて……」
アーロン 「おい、自分で言って照れるな」
アリア 「……あれから、もう一週間も経つんだね」
アーロン 「……ああ、そうだな」
アリア 「この一週間で、ソフィーが皇女として城に戻ったり、フィリップが姿を見せなくなったり、色々あったものだ」
アーロン 「ああ、そういや、レオが今回の功績を認められて、隊長に昇格したらしいぞ」
アリア 「へぇ、彼にとって、あの遠征は、成長のきっかけになったんだろうね」
アーロン 「だな」
アリア 「そういえば、アルトリウスが騎士団をまとめ上げたこともあって、皇位継承が確実なものになったみたいだよ」
アーロン 「あー、街に出たとき、その噂で持ちきりだったな」
アリア 「近々、皇帝選の結果が発表されるらしいね」
アーロン 「…………待て、それ明日じゃなかったか?」
アリア 「…………そうだったな」
(SE 扉がノックされる音)
レオンハルト 「(外から)アーロンさん、アリアさーん、いますかー?」
アーロン 「噂をすれば……」
アリア 「まったく、昼食中だというのに……」
アーロン 「俺が出てくる」
(SE 席から立つ音)
ルーナ 「(外から)来てやったわよー」
アーロン 「今出るっての」
(SE 扉を開ける音)
ルーナ 「やっと出た」
レオンハルト 「良い匂い……。あ、お食事中でしたか? すみません」
ルーナ 「昼食にしては遅いわね。昨夜は忙しかったのかしら~?」
アリア 「な、なななな、なわけないだろう!?」
ルーナ 「あら、聞こえてた?」
アーロン 「で? どうしたんだよ」
ルーナ 「迎えに来たのよ。ほら、とっとと準備しなさい。城に行くわよ」
アリア 「まだ食べている最中だろう」
ルーナ 「アンタねぇ~」
レオンハルト 「あはは、まあ、時間はまだ大丈夫ですし……」
アーロン 「はぁ、まあ入れよ」
ルーナ 「そうさせてもらうわ」
レオンハルト 「お邪魔します」
(SE 扉を閉める音)
アリア 「今日はシチューだよ。食べていくがいい」
ルーナ 「作ったのアーロンでしょ? なんでアンタが偉そうなのよ」
アリア 「家主は私だからな」
ルーナ 「大変ね、アーロン。同情するわ」
アーロン 「同情するなら、シチュー食ってけよ。作り過ぎちまったんだ」
ルーナ 「……アンタがそう言うなら、そうさせてもらうわ」
レオンハルト 「僕もいいんですか?」
アーロン 「当然」
レオンハルト 「ありがとうございますー」
────────────
アーロン 「そういや、レオの隊長姿、似合ってんじゃねえか」
レオンハルト 「ありがとうございます」
ルーナ 「馬子にも衣装よね」
レオンハルト 「ルーナさん……」
アリア 「衣装と言えば、ルーナもその白い衣装、久しぶりに見たね」
ルーナ 「ああ、親衛隊の制服? 一応仕事中だからね」
アリア 「へえ、ただの御側付きだと思ってたけど、親衛隊だったとはね」
アーロン 「親衛隊?」
レオンハルト 「親衛隊というのは、主に皇位継承権を持った皇族が、自分の身を守るために任命する騎士のことですね。通常は帝国騎士団所属の騎士を任命するそうですが、アルトリウス殿下は皇族の中でも特殊なお方ですので……」
ルーナ 「そういうこと。って言っても、私はほとんど御側付きって感じだけどね」
アーロン 「“私”は? ルーナ以外にもいるってことか」
ルーナ 「そりゃあね。ほら、ホロロコリスで会ったアリアの師匠とアレンっていう剣士も親衛隊なのよ」
アリア 「そういえば、アルトリウスの命令で助けに来た、と言っていたな」
レオンハルト 「……そういえば、フィリップさんはどうしてるんですか? かつての天才騎士に改めてお話を伺えれば、なんて思ってたんですけど」
アーロン 「それが、どっか行っちまって、俺たちもどこにいるかわからないんだ」
ルーナ 「ふーん、まあ、おっさんとしても、目的は果たしたわけだし、ここにいる理由もないんじゃない?」
アリア 「そうかもしれないね」
(SE 木製のスプーンを置く音)
アリア 「……ごちそうさま」
ルーナ 「……アンタ、私とレオよりも先に食べてたわよね?」
アリア 「それがどうした?」
ルーナ 「なのに、どうしてアンタが一番最後に食べ終わるのよ」
アリア 「む?」
ルーナ 「なによ、その『む?』は! ちょっと食べ過ぎなんじゃない? 太るわよ」
アリア 「なっ!? ……もし私が太ったら、アーロンは私のこと嫌いになるか?」
アーロン 「あ? ならねえよ、アリアはアリアだろうが」
アリア 「ふふ、キミという人は……」
ルーナ 「はぁ、幸せそうでなにより……」
アーロン 「だけど、食い過ぎは健康に悪いぞ」
アリア 「うん、わかっているよ。ただ、アーロンのシチューが美味しいんだよ」
アーロン 「食い過ぎて、錬金術にも支障が出るかもな」
アリア 「む、それは困るな……。ルーナ、私たち、破局の危機かもしれない……」
ルーナ 「危機なわけないでしょ! このバカップルが!! 食べたんならとっとと城に行くわよ!」
レオンハルト 「あはは……」
◇
帝都、城、アルトリウスの私室。
ルーナ 「殿下、お連れしました」
アルトリウス 「ありがとうございます、ルーナさん、レオンハルト隊長」
アーロン 「久しぶりだな……っと、あんたらもいたのか」
セシル 「ホロロコリスぶりだね、2人とも」
アレン 「あの騎士団長を本当に倒してくるなんてな」
アリア 「ギリギリでしたけど、なんとか……」
アーロン 「……それで、なんで俺たちをここに呼んだんだ? 明日だろ、開票は」
アルトリウス 「それはですね、改めて、貴方たちにお礼がしたかったんですよ……」
アーロン 「礼? そんなもん、いらねえよ」
アルトリウス 「そうですか……」
(SE 指を鳴らす音)
アーロン (……香水の匂い?)
フィリップ 「──────一刃・落陽」
(SE 短刀を振る音)
フィリップ 「二刃・宵闇」
(SE 闇魔法が発動する音)(SE 短刀を振る音)
ルーナ 「え、うそ! なに!? 動けない!?」
レオンハルト 「急に、なにも見えなく……!」
アリア 「これは……!」
フィリップ 「三刃・朝霧」
(SE 闇魔法が発動する音)(SE 短刀を振る音)
(SE アリア・ルーナ・レオンハルトが倒れる音)
アーロン 「みんな!!」
フィリップ 「ごめんね、青年……」
アーロン 「フィリップ!!」
(SE 剣を抜き放つ音)
セシル 「──────雷よ、茨となりてからみつけ、薔薇の雷……!」
(SE 雷魔法が発動する音)
アーロン 「ぐあああっ!!」
(SE 剣を落とす音)
アルトリウス 「フィリップさん、アーロンさんを取り残すなんて、今さら情が湧いたんですか?」
フィリップ 「青年は、死神の力を持ってる、慎重にもなるさ」
アーロン 「……フィリップ、その制服、やっぱり裏切ってたのか!?」
フィリップ 「ああ」
アーロン 「あの晩、書状を送ってたのは、アルトリウスにか」
フィリップ 「やっぱり、青年だったのね」
アレン 「ウルフィリア・レインフォルスともあろう者が、とんだ失態だな」
(SE 扉が開け放たれる音)
ソフィー 「みなさん! 大丈夫ですか!? …………!!」
フィリップ 「遅かったね」
ソフィー 「おじさん!? まさか……!」
(SE 銃を構える音)
アーロン 「やめろ! ソフィー! 逃げろ!!」
フィリップ 「──────三刃・朝霧」
(SE 闇魔法が発動する音)(SE 短刀を振る音)
(SE ソフィーが倒れる音)
アーロン 「ソフィー!!」
セシル 「これは、とんだ無礼を働いたものだね、フィリップ」
フィリップ 「そういう命令だろう?」
アーロン 「死神化!!」
(SE 黒いオーラを纏う音)
アルトリウス 「兄上、剣を」
アレン 「ほらよ」
(SE 剣を受け取る音)
アルトリウス 「その死神の力、貰いますよ……」
(SE アーロンが刺される音)
アーロン 「がはっ……!」
(SE 血が落ちる音)
アーロン 「くそ……」
(SE 魔力を吸収する音)
(SE 炎が出現する音)
アルトリウス 「!? なんです!?」
アレン 「ソフィアから炎が……!」
セシル 「フィリップ、術は効いてるんだよね?」
フィリップ 「当然だ」
ソフィー 「……! これは……?」
フィリップ 「まさか、ソフィーちゃんのもう一つの魔法……?」
アルトリウス 「ここで覚醒ですか……。どうりで、未来視が働かなかったわけだ。バーナードを倒したあとの道は少ないですから、こういうこともあるということか……」
ソフィー 「アーサー!」
(SE 銃声)
アルトリウス 「くっ!」
(SE 剣が落ちる音)(SE 魔力の吸収が終わる音)
アルトリウス 「しまった……!」
アレン 「やむを得ないか」
(SE 当て身する音)
ソフィー 「……っ」
アルトリウス 「……みなさんを、地下牢に入れておいてください。ああ、セシルさん、アーロンさんの傷はちゃんと治してあげてくださいね」
セシル 「わかったよ」
アルトリウス 「それと、アーロンさんだけ、隔離しておいてください」
セシル 「あの、皇族とごく一部の者しか入れない場所かい?」
アルトリウス 「はい」
セシル 「了解した」
────────────
アレン 「……結局、ソフィアの力は、なんだったんだ?」
アルトリウス 「あれは、浄化の炎、旧時代の魔法に対抗し得る力です」
アレン 「だから剣で魔力を吸収しようとしなかったのか」
アルトリウス 「はい、この調律の剣も旧時代の魔法の産物ですからね」
(SE 扉の開閉音)
フィリップ 「…………」
アルトリウス 「ご苦労様です」
セシル 「ふぅ、注文通り、アーロンは隔離してきたよ」
フィリップ 「…………」
アルトリウス 「くくく……」
アレン 「アーサー?」
アルトリウス 「駄目ですね。皇帝の威光をまだ手に入れていないというのに、つい笑ってしまいます」
セシル 「その封印は明日解けるんだ。目標は達成したも同じだよ」
アルトリウス 「何事にもイレギュラーはつきものです」
アレン 「ま、俺らにはわかんねえけど、お前は途方もない時間を頑張ってきたんだろ? いいじゃねえの、それくらい」
アルトリウス 「兄上……、ありがとうございます」
セシル 「……そうだアルトリウス、先の一件で、魂を使ってるはずだろう。明日のためにも、魂を休めておくんだ」
アルトリウス 「そうですね。そうさせてもらいます」
◇
城、地下牢。
アーロン 「…………」
アーロン 「……ん、んん」
アーロン 「……っ、ここは……?」
アーロン 「……牢屋? こんなもん……っ!」
アーロン 「……はあああ、死神化!」
(SE 微弱な黒いオーラが出る音)
アーロン 「はあっ!!」
(SE 鉄格子を殴る音)
アーロン 「……っ! 痛って……」
アーロン 「ちっ、やっぱだめか……」
アーロン 「死神の力が弱まってるのか……?」
アーロン 「……はぁ、アリアたちは大丈夫か……?」
────────────
(SE 階段を降りてくる足音)
アーロン 「…………」
(SE 足音)
アーロン 「……! ソフィー!?」
ソフィア 「……すみません、私はオリジナルのソフィア・リ・ハルモニアではありません」
アーロン 「あ? ってことは、ホムンクルス……?」
ソフィア 「はい。オリジナルより、アーロン・ストライフを牢から出すよう命令を受けています」
アーロン 「ソフィーに? ってことは、あの後、ソフィーは助かったのか?」
ソフィア 「不明です」
アーロン 「……どういうことだよ」
ソフィア 「オリジナルより受けた命令は、オリジナルが戻ってこなかった場合、アーロン・ストライフをこの牢から出すように、という内容です」
アーロン 「……じゃあ、ソフィーも捕まったのか……」
ソフィア 「恐らく……」
アーロン 「くそ!」
(SE 鉄格子を殴る音)
ソフィア 「……では、鍵を外します」
(SE 解錠する音)
ソフィア 「開きました」
(SE 牢の扉が開く音)
アーロン 「……サンキュ」
ソフィア 「行きましょう」
アーロン 「行くってどこに?」
ソフィア 「オリジナルの私室に向かいます」
アーロン 「おい、ソフィーたちはどうすんだよ?」
ソフィア 「助け出すのは不可能です。ここにはいません。他の場所に収容されているものと推測されます」
アーロン 「あんたがそこの鍵も持ってんじゃないのか?」
ソフィア 「私の権限では手に入れることができません」
アーロン 「じゃあなんでここのは持ってたんだよ」
ソフィア 「この地下牢は、皇族と限られた者にのみ存在が知られている場所ですので」
アーロン 「なるほど。ソフィーも考えなしにつっこんできたってわけじゃないのか」
(SE 物音)
アレキサンダー 「……うるせえな。せっかく良い夢見てたのによ」
アーロン 「あんたは……!!」
アレキサンダー 「久しぶりだな。アーロン・ストライフとかいったか」
アーロン 「アレキサンダー……。あんた、ここに入れられてたのか」
アレキサンダー 「あんときは世話になったな」
アーロン 「世話した覚えはないけどな」
アレキサンダー 「はっ、お前もアルトリウスにぶち込まれたんだろう?」
アーロン 「…………」
アレキサンダー 「だから言ったじゃねえか、アルトリウスは皇帝になっちゃいけない人間だってよ」
アーロン 「そりゃあんたもだろ?」
アレキサンダー 「いいのか? そんなこと言って」
アーロン 「あ? どういうことだよ」
アレキサンダー 「オリジナルのソフィアに、お前らが危ないって伝えたのは、俺なんだぜ?」
アーロン 「……そうだったのか?」
ソフィア 「いえ、私は何も」
アレキサンダー 「ま、俺としてもあいつに好き勝手されるのは気に食わねえからな」
アーロン 「そういや、あんたは未来を見ることができるんだったな」
アレキサンダー 「ああ、それで今日お前らがアルトリウスにやられるってことを見た」
アーロン 「なるほど。で、その未来視とやらで、今後どうなるのかってのは見えてんのか?」
アレキサンダー 「残念だが、俺にはもうそんな力はない」
アーロン 「……どういうことだ?」
アレキサンダー 「お前もあの調律の剣を見たんだろう?」
アーロン 「ああ」
アレキサンダー 「あれには、魂を隷属させる能力がある」
アーロン 「魂を?」
アレキサンダー 「そう。俺たち皇族の魔法はあれに敵わない。それどころか、力を奪われるんだ」
アーロン 「じゃあ、あんたの未来視は……」
アレキサンダー 「竜化ともどもアルトリウスに奪われた」
アーロン 「ってことは、俺の死神の力も奪われてるのか」
アレキサンダー 「死神の力? ああ、あの気味の悪い黒いオーラか」
アーロン 「あんた、魔法を完全に使えなくなったのか?」
アレキサンダー 「そうだな。今じゃ、魔力で身体を強化するのもままならない」
アーロン 「……そうか」
アレキサンダー 「伝えるべきことは伝えたからな。あとは、頼んだぞ。やつの目的はわからねえが、ロクなことにならないのは明確だ」
アーロン 「言われなくてもやるさ。仲間の命がかかってんだ!」
アレキサンダー 「それじゃ、俺寝るわ」
アーロン 「あっそ。……じゃあ行くぞ、ソフィア」
ソフィア 「はい」
◇
城、中庭。
(SE 石像が重々しく動く音)
アーロン 「……こんなところに出るのか」
ソフィア 「誰かに見られないうちに、移動しましょう」
(SE 足音)
フィリップ 「ごめんね、ここ、通すなって言われてるんだわ」
アーロン 「フィリップ……!」
(SE 剣を抜く音)
フィリップ 「アリアちゃんたちを助けたかったら、俺を倒していくことだね」
アーロン 「…………」
(SE 短刀を抜く音)
フィリップ 「こうやって、青年と剣を交えるのは初めてだね」
アーロン 「こんな状況じゃなかったら、素直に楽しめたのにな」
フィリップ 「およ、青年ってば俺様のこと、意外と好きなのね」
アーロン 「……悪りいけど、本気で行くぞ」
フィリップ 「青年ってば怖いな~」
(SE 短刀と剣がぶつかる音)
フィリップ 「ありゃ、防がれたか」
アーロン 「あんたのやり口はわかってんだよ」
フィリップ 「頭上に注意するんだな」
アーロン 「あ?」
(SE 矢が降ってくる音)
アーロン 「なっ!?」
(SE フィリップが距離をとる音)
アーロン 「ちっ、死神化!」
(SE 微弱な黒いオーラを纏う音)
(SE 矢を打ち払う音)
フィリップ 「さすがに、死神の力を完全には奪えなかったか」
(SE 高速で移動する音)
(SE 短刀と剣がぶつかる音)
フィリップ 「そんな微弱なオーラでも、やはり強力だな」
アーロン 「……っ」
フィリップ 「なんだ、もう音を上げるのか? そんなんじゃ、俺はおろか殿下には敵わないぞ」
アーロン 「くそ……っ」
(SE 矢を放つ音)
アーロン 「くっ!」
フィリップ 「そんなんで、アリアちゃん守れんの?」
アーロン 「……!」
フィリップ 「ほうら、次は右!」
(SE 短刀と剣がぶつかる音)
アーロン (なんだこれ、乱されてるってのか……!?)
フィリップ 「乱されてるんじゃない。乱れてるんだよ」
アーロン (心を、読まれてるってのか?)
フィリップ 「普段の青年だったら、こんな簡単に考えてること読ませてくれないけどね」
アーロン 「ちっ」
フィリップ 「冷静になれ、青年。いつものアーロンは、熱くなっても冷静さは欠かなかったはずだ。見失うんじゃない」
アーロン 「……!」
フィリップ 「さて、そろそろ終わりにしよう」
(SE 無数の矢を放つ音)
アーロン 「……!!」
フィリップ 「──────耐えてくれよ? 魂の鳴動!!」
(SE 闇の魔力を解き放つ音)
アーロン 「……っ! 洒落くせえ!!」
(SE 闇の魔力がぶつかり相殺する音)
フィリップ 「…………ふ」
アーロン 「──────冥王一閃・飛燕!!」
(SE 黒いオーラをまとった一閃)×2回
フィリップ 「がはっ!」
(SE 血を吐く音)
アーロン 「……! おっさん……、今わざと受けたのか……?」
フィリップ 「へ、へへっ……、なんのことかな……?」
(SE フィリップが倒れる音)
アーロン 「おっさん!」
フィリップ 「は、敵に情けかけんなって……」
アーロン 「…………」
フィリップ 「……おっと、大事な鍵、落としちまった……」
(SE 鍵を落とす音)
ソフィア 「それは……」
フィリップ 「ありゃりゃ……、アリアちゃんたちの牢の鍵が……」
アーロン 「おっさん……」
フィリップ 「……やっと、か。エスカ……」
アーロン 「…………」
(SE フィリップが塵のように消滅する音)
アーロン 「……っ!!」
ソフィア 「敵対者の死亡を確認」
アーロン 「魂を使い果たしたってことかよ……。くそ」
ソフィア 「行きましょう……」
アーロン 「……ああ」
ソフィア 「アーロンさん、体力の消耗を確認、速やかな休息を提案します」
アーロン 「…………」
ソフィア 「アーロンさん……」
アーロン 「わかってる!!」
ソフィア 「では……」
アーロン 「行くぞ……」
◇
城、ソフィーの私室。
アーロン 「ソフィア、アリアたちはどこにいるんだ?」
ソフィア 「先ほどの中庭を抜けた先にある、階段を下りていったところにある牢だと推測されます」
アーロン 「じゃあ、仕掛けるのは明日だ。アルトリウスが何をするのかわからねえけど、明日の皇位継承の儀に合わせてアリアたちを解放する」
ソフィア 「はい。それが良案だと思います」
アーロン 「…………」
ソフィア 「フィリップさんのことを考えているのですか……?」
アーロン 「そりゃ、あんな死に方したんだからな」
ソフィア 「彼は、敵対していたのではないのですか?」
アーロン 「……わかんねえ。けど、あいつはわざと死を選んだ」
ソフィア 「…………」
アーロン 「おっさんは、どこか死に場所を求めてるみたいだった。だけど、形はどうあれ最期は俺たちを助けてくれた。だから、それを無駄になんかするもんか……! 絶対に、アリアたちを助ける!」
◇
翌日。帝都、貴族街広場。
民衆① 「とうとう、皇帝が決まるんだな」
民衆② 「当然、アルトリウス殿下が皇帝なんだろ?」
民衆③ 「そりゃそうだろ。帝都を守ってくださったんだぞ?」
大臣 「静粛に! これより、皇位継承の儀を執り行う!」
(SE 風が吹く音)
大臣 「まず、第99代皇帝選抜投票の結果を発表する!」
大臣 「──────まず、アレキサンダー・ザ・ハルモニア第1皇子殿下は、先の世界樹事変の首謀者であることから、候補から外れていることを了承いただきたい」
(SE ざわざわ)
大臣 「では、改めて、第99代皇帝選抜投票の結果──────」
(SE ざわざわが大きくなる)
大臣 「──────第99代皇帝に即位されるのは、アルトリウス・フォン・ハルモニア第3皇子殿下です!」
(SE 歓声)
大臣 「では、皇位継承の儀を執り行います! 皇帝の威光をここへ!」
アルトリウス 「ふふ……」
つづく
アーロン・ストライフ:魔法使いの助手兼用心棒をやっている青年。21歳。
ソフィー:ハルモニア帝国第2皇女、ソフィア・リ・ハルモニア。18歳。
フィリップ・ベルナルド:元帝国騎士団所属だった鳥使いの男性。本名はウルフィリア・レインフォルス。32歳。
ルーナ:ハルモニア帝国第4皇子の側近をしている女性。20歳。
レオンハルト・ハイデルバッハ:帝国騎士団で隊長を務める青年。19歳。
アルトリウス・フォン・ハルモニア:ハルモニア帝国第4皇子。18歳。
セシル・エインズワース:アルトリウスの側近をしている魔女。30歳。
アレン・ウィル・ハルモニア:元ハルモニア帝国の皇子。アルトリウスの側近をしている剣士。30歳。
ソフィア:ハルモニア帝国第二皇女のコピーとして生み出されたホムンクルス。感情の起伏が感じられない少女。
アレキサンダー・ザ・ハルモニア:元ハルモニア帝国第1皇子。地下牢に収容されている。27歳。
~モブ~
大臣:皇位継承の儀を執り行う大臣。50代。
民衆①②③
魔法使いの店。昼。
(SE 料理皿を置く音)
アーロン 「はいよ、今日はシチューにしたぞ」
アリア 「あ、ありがとう……」
アーロン 「なんだよ、まだ慣れてないのか?」
アリア 「い、いや、そんなことは、ない」
(SE 料理皿を置く音)
(SE 席に着く音)
アーロン 「……さて、食べるか」
アリア 「ああ、いただきます」
アーロン 「おう。あむ……」
アリア 「……やはり、少し量が多くないか? いや、キミのシチューならいくらでも食べられるが……」
アーロン 「なんか、一気に食い手が減ったから、つい作り過ぎちまうんだよ」
アリア 「ふふ、本当に久しぶりだよね、この家に2人きり、なんて……」
アーロン 「おい、自分で言って照れるな」
アリア 「……あれから、もう一週間も経つんだね」
アーロン 「……ああ、そうだな」
アリア 「この一週間で、ソフィーが皇女として城に戻ったり、フィリップが姿を見せなくなったり、色々あったものだ」
アーロン 「ああ、そういや、レオが今回の功績を認められて、隊長に昇格したらしいぞ」
アリア 「へぇ、彼にとって、あの遠征は、成長のきっかけになったんだろうね」
アーロン 「だな」
アリア 「そういえば、アルトリウスが騎士団をまとめ上げたこともあって、皇位継承が確実なものになったみたいだよ」
アーロン 「あー、街に出たとき、その噂で持ちきりだったな」
アリア 「近々、皇帝選の結果が発表されるらしいね」
アーロン 「…………待て、それ明日じゃなかったか?」
アリア 「…………そうだったな」
(SE 扉がノックされる音)
レオンハルト 「(外から)アーロンさん、アリアさーん、いますかー?」
アーロン 「噂をすれば……」
アリア 「まったく、昼食中だというのに……」
アーロン 「俺が出てくる」
(SE 席から立つ音)
ルーナ 「(外から)来てやったわよー」
アーロン 「今出るっての」
(SE 扉を開ける音)
ルーナ 「やっと出た」
レオンハルト 「良い匂い……。あ、お食事中でしたか? すみません」
ルーナ 「昼食にしては遅いわね。昨夜は忙しかったのかしら~?」
アリア 「な、なななな、なわけないだろう!?」
ルーナ 「あら、聞こえてた?」
アーロン 「で? どうしたんだよ」
ルーナ 「迎えに来たのよ。ほら、とっとと準備しなさい。城に行くわよ」
アリア 「まだ食べている最中だろう」
ルーナ 「アンタねぇ~」
レオンハルト 「あはは、まあ、時間はまだ大丈夫ですし……」
アーロン 「はぁ、まあ入れよ」
ルーナ 「そうさせてもらうわ」
レオンハルト 「お邪魔します」
(SE 扉を閉める音)
アリア 「今日はシチューだよ。食べていくがいい」
ルーナ 「作ったのアーロンでしょ? なんでアンタが偉そうなのよ」
アリア 「家主は私だからな」
ルーナ 「大変ね、アーロン。同情するわ」
アーロン 「同情するなら、シチュー食ってけよ。作り過ぎちまったんだ」
ルーナ 「……アンタがそう言うなら、そうさせてもらうわ」
レオンハルト 「僕もいいんですか?」
アーロン 「当然」
レオンハルト 「ありがとうございますー」
────────────
アーロン 「そういや、レオの隊長姿、似合ってんじゃねえか」
レオンハルト 「ありがとうございます」
ルーナ 「馬子にも衣装よね」
レオンハルト 「ルーナさん……」
アリア 「衣装と言えば、ルーナもその白い衣装、久しぶりに見たね」
ルーナ 「ああ、親衛隊の制服? 一応仕事中だからね」
アリア 「へえ、ただの御側付きだと思ってたけど、親衛隊だったとはね」
アーロン 「親衛隊?」
レオンハルト 「親衛隊というのは、主に皇位継承権を持った皇族が、自分の身を守るために任命する騎士のことですね。通常は帝国騎士団所属の騎士を任命するそうですが、アルトリウス殿下は皇族の中でも特殊なお方ですので……」
ルーナ 「そういうこと。って言っても、私はほとんど御側付きって感じだけどね」
アーロン 「“私”は? ルーナ以外にもいるってことか」
ルーナ 「そりゃあね。ほら、ホロロコリスで会ったアリアの師匠とアレンっていう剣士も親衛隊なのよ」
アリア 「そういえば、アルトリウスの命令で助けに来た、と言っていたな」
レオンハルト 「……そういえば、フィリップさんはどうしてるんですか? かつての天才騎士に改めてお話を伺えれば、なんて思ってたんですけど」
アーロン 「それが、どっか行っちまって、俺たちもどこにいるかわからないんだ」
ルーナ 「ふーん、まあ、おっさんとしても、目的は果たしたわけだし、ここにいる理由もないんじゃない?」
アリア 「そうかもしれないね」
(SE 木製のスプーンを置く音)
アリア 「……ごちそうさま」
ルーナ 「……アンタ、私とレオよりも先に食べてたわよね?」
アリア 「それがどうした?」
ルーナ 「なのに、どうしてアンタが一番最後に食べ終わるのよ」
アリア 「む?」
ルーナ 「なによ、その『む?』は! ちょっと食べ過ぎなんじゃない? 太るわよ」
アリア 「なっ!? ……もし私が太ったら、アーロンは私のこと嫌いになるか?」
アーロン 「あ? ならねえよ、アリアはアリアだろうが」
アリア 「ふふ、キミという人は……」
ルーナ 「はぁ、幸せそうでなにより……」
アーロン 「だけど、食い過ぎは健康に悪いぞ」
アリア 「うん、わかっているよ。ただ、アーロンのシチューが美味しいんだよ」
アーロン 「食い過ぎて、錬金術にも支障が出るかもな」
アリア 「む、それは困るな……。ルーナ、私たち、破局の危機かもしれない……」
ルーナ 「危機なわけないでしょ! このバカップルが!! 食べたんならとっとと城に行くわよ!」
レオンハルト 「あはは……」
◇
帝都、城、アルトリウスの私室。
ルーナ 「殿下、お連れしました」
アルトリウス 「ありがとうございます、ルーナさん、レオンハルト隊長」
アーロン 「久しぶりだな……っと、あんたらもいたのか」
セシル 「ホロロコリスぶりだね、2人とも」
アレン 「あの騎士団長を本当に倒してくるなんてな」
アリア 「ギリギリでしたけど、なんとか……」
アーロン 「……それで、なんで俺たちをここに呼んだんだ? 明日だろ、開票は」
アルトリウス 「それはですね、改めて、貴方たちにお礼がしたかったんですよ……」
アーロン 「礼? そんなもん、いらねえよ」
アルトリウス 「そうですか……」
(SE 指を鳴らす音)
アーロン (……香水の匂い?)
フィリップ 「──────一刃・落陽」
(SE 短刀を振る音)
フィリップ 「二刃・宵闇」
(SE 闇魔法が発動する音)(SE 短刀を振る音)
ルーナ 「え、うそ! なに!? 動けない!?」
レオンハルト 「急に、なにも見えなく……!」
アリア 「これは……!」
フィリップ 「三刃・朝霧」
(SE 闇魔法が発動する音)(SE 短刀を振る音)
(SE アリア・ルーナ・レオンハルトが倒れる音)
アーロン 「みんな!!」
フィリップ 「ごめんね、青年……」
アーロン 「フィリップ!!」
(SE 剣を抜き放つ音)
セシル 「──────雷よ、茨となりてからみつけ、薔薇の雷……!」
(SE 雷魔法が発動する音)
アーロン 「ぐあああっ!!」
(SE 剣を落とす音)
アルトリウス 「フィリップさん、アーロンさんを取り残すなんて、今さら情が湧いたんですか?」
フィリップ 「青年は、死神の力を持ってる、慎重にもなるさ」
アーロン 「……フィリップ、その制服、やっぱり裏切ってたのか!?」
フィリップ 「ああ」
アーロン 「あの晩、書状を送ってたのは、アルトリウスにか」
フィリップ 「やっぱり、青年だったのね」
アレン 「ウルフィリア・レインフォルスともあろう者が、とんだ失態だな」
(SE 扉が開け放たれる音)
ソフィー 「みなさん! 大丈夫ですか!? …………!!」
フィリップ 「遅かったね」
ソフィー 「おじさん!? まさか……!」
(SE 銃を構える音)
アーロン 「やめろ! ソフィー! 逃げろ!!」
フィリップ 「──────三刃・朝霧」
(SE 闇魔法が発動する音)(SE 短刀を振る音)
(SE ソフィーが倒れる音)
アーロン 「ソフィー!!」
セシル 「これは、とんだ無礼を働いたものだね、フィリップ」
フィリップ 「そういう命令だろう?」
アーロン 「死神化!!」
(SE 黒いオーラを纏う音)
アルトリウス 「兄上、剣を」
アレン 「ほらよ」
(SE 剣を受け取る音)
アルトリウス 「その死神の力、貰いますよ……」
(SE アーロンが刺される音)
アーロン 「がはっ……!」
(SE 血が落ちる音)
アーロン 「くそ……」
(SE 魔力を吸収する音)
(SE 炎が出現する音)
アルトリウス 「!? なんです!?」
アレン 「ソフィアから炎が……!」
セシル 「フィリップ、術は効いてるんだよね?」
フィリップ 「当然だ」
ソフィー 「……! これは……?」
フィリップ 「まさか、ソフィーちゃんのもう一つの魔法……?」
アルトリウス 「ここで覚醒ですか……。どうりで、未来視が働かなかったわけだ。バーナードを倒したあとの道は少ないですから、こういうこともあるということか……」
ソフィー 「アーサー!」
(SE 銃声)
アルトリウス 「くっ!」
(SE 剣が落ちる音)(SE 魔力の吸収が終わる音)
アルトリウス 「しまった……!」
アレン 「やむを得ないか」
(SE 当て身する音)
ソフィー 「……っ」
アルトリウス 「……みなさんを、地下牢に入れておいてください。ああ、セシルさん、アーロンさんの傷はちゃんと治してあげてくださいね」
セシル 「わかったよ」
アルトリウス 「それと、アーロンさんだけ、隔離しておいてください」
セシル 「あの、皇族とごく一部の者しか入れない場所かい?」
アルトリウス 「はい」
セシル 「了解した」
────────────
アレン 「……結局、ソフィアの力は、なんだったんだ?」
アルトリウス 「あれは、浄化の炎、旧時代の魔法に対抗し得る力です」
アレン 「だから剣で魔力を吸収しようとしなかったのか」
アルトリウス 「はい、この調律の剣も旧時代の魔法の産物ですからね」
(SE 扉の開閉音)
フィリップ 「…………」
アルトリウス 「ご苦労様です」
セシル 「ふぅ、注文通り、アーロンは隔離してきたよ」
フィリップ 「…………」
アルトリウス 「くくく……」
アレン 「アーサー?」
アルトリウス 「駄目ですね。皇帝の威光をまだ手に入れていないというのに、つい笑ってしまいます」
セシル 「その封印は明日解けるんだ。目標は達成したも同じだよ」
アルトリウス 「何事にもイレギュラーはつきものです」
アレン 「ま、俺らにはわかんねえけど、お前は途方もない時間を頑張ってきたんだろ? いいじゃねえの、それくらい」
アルトリウス 「兄上……、ありがとうございます」
セシル 「……そうだアルトリウス、先の一件で、魂を使ってるはずだろう。明日のためにも、魂を休めておくんだ」
アルトリウス 「そうですね。そうさせてもらいます」
◇
城、地下牢。
アーロン 「…………」
アーロン 「……ん、んん」
アーロン 「……っ、ここは……?」
アーロン 「……牢屋? こんなもん……っ!」
アーロン 「……はあああ、死神化!」
(SE 微弱な黒いオーラが出る音)
アーロン 「はあっ!!」
(SE 鉄格子を殴る音)
アーロン 「……っ! 痛って……」
アーロン 「ちっ、やっぱだめか……」
アーロン 「死神の力が弱まってるのか……?」
アーロン 「……はぁ、アリアたちは大丈夫か……?」
────────────
(SE 階段を降りてくる足音)
アーロン 「…………」
(SE 足音)
アーロン 「……! ソフィー!?」
ソフィア 「……すみません、私はオリジナルのソフィア・リ・ハルモニアではありません」
アーロン 「あ? ってことは、ホムンクルス……?」
ソフィア 「はい。オリジナルより、アーロン・ストライフを牢から出すよう命令を受けています」
アーロン 「ソフィーに? ってことは、あの後、ソフィーは助かったのか?」
ソフィア 「不明です」
アーロン 「……どういうことだよ」
ソフィア 「オリジナルより受けた命令は、オリジナルが戻ってこなかった場合、アーロン・ストライフをこの牢から出すように、という内容です」
アーロン 「……じゃあ、ソフィーも捕まったのか……」
ソフィア 「恐らく……」
アーロン 「くそ!」
(SE 鉄格子を殴る音)
ソフィア 「……では、鍵を外します」
(SE 解錠する音)
ソフィア 「開きました」
(SE 牢の扉が開く音)
アーロン 「……サンキュ」
ソフィア 「行きましょう」
アーロン 「行くってどこに?」
ソフィア 「オリジナルの私室に向かいます」
アーロン 「おい、ソフィーたちはどうすんだよ?」
ソフィア 「助け出すのは不可能です。ここにはいません。他の場所に収容されているものと推測されます」
アーロン 「あんたがそこの鍵も持ってんじゃないのか?」
ソフィア 「私の権限では手に入れることができません」
アーロン 「じゃあなんでここのは持ってたんだよ」
ソフィア 「この地下牢は、皇族と限られた者にのみ存在が知られている場所ですので」
アーロン 「なるほど。ソフィーも考えなしにつっこんできたってわけじゃないのか」
(SE 物音)
アレキサンダー 「……うるせえな。せっかく良い夢見てたのによ」
アーロン 「あんたは……!!」
アレキサンダー 「久しぶりだな。アーロン・ストライフとかいったか」
アーロン 「アレキサンダー……。あんた、ここに入れられてたのか」
アレキサンダー 「あんときは世話になったな」
アーロン 「世話した覚えはないけどな」
アレキサンダー 「はっ、お前もアルトリウスにぶち込まれたんだろう?」
アーロン 「…………」
アレキサンダー 「だから言ったじゃねえか、アルトリウスは皇帝になっちゃいけない人間だってよ」
アーロン 「そりゃあんたもだろ?」
アレキサンダー 「いいのか? そんなこと言って」
アーロン 「あ? どういうことだよ」
アレキサンダー 「オリジナルのソフィアに、お前らが危ないって伝えたのは、俺なんだぜ?」
アーロン 「……そうだったのか?」
ソフィア 「いえ、私は何も」
アレキサンダー 「ま、俺としてもあいつに好き勝手されるのは気に食わねえからな」
アーロン 「そういや、あんたは未来を見ることができるんだったな」
アレキサンダー 「ああ、それで今日お前らがアルトリウスにやられるってことを見た」
アーロン 「なるほど。で、その未来視とやらで、今後どうなるのかってのは見えてんのか?」
アレキサンダー 「残念だが、俺にはもうそんな力はない」
アーロン 「……どういうことだ?」
アレキサンダー 「お前もあの調律の剣を見たんだろう?」
アーロン 「ああ」
アレキサンダー 「あれには、魂を隷属させる能力がある」
アーロン 「魂を?」
アレキサンダー 「そう。俺たち皇族の魔法はあれに敵わない。それどころか、力を奪われるんだ」
アーロン 「じゃあ、あんたの未来視は……」
アレキサンダー 「竜化ともどもアルトリウスに奪われた」
アーロン 「ってことは、俺の死神の力も奪われてるのか」
アレキサンダー 「死神の力? ああ、あの気味の悪い黒いオーラか」
アーロン 「あんた、魔法を完全に使えなくなったのか?」
アレキサンダー 「そうだな。今じゃ、魔力で身体を強化するのもままならない」
アーロン 「……そうか」
アレキサンダー 「伝えるべきことは伝えたからな。あとは、頼んだぞ。やつの目的はわからねえが、ロクなことにならないのは明確だ」
アーロン 「言われなくてもやるさ。仲間の命がかかってんだ!」
アレキサンダー 「それじゃ、俺寝るわ」
アーロン 「あっそ。……じゃあ行くぞ、ソフィア」
ソフィア 「はい」
◇
城、中庭。
(SE 石像が重々しく動く音)
アーロン 「……こんなところに出るのか」
ソフィア 「誰かに見られないうちに、移動しましょう」
(SE 足音)
フィリップ 「ごめんね、ここ、通すなって言われてるんだわ」
アーロン 「フィリップ……!」
(SE 剣を抜く音)
フィリップ 「アリアちゃんたちを助けたかったら、俺を倒していくことだね」
アーロン 「…………」
(SE 短刀を抜く音)
フィリップ 「こうやって、青年と剣を交えるのは初めてだね」
アーロン 「こんな状況じゃなかったら、素直に楽しめたのにな」
フィリップ 「およ、青年ってば俺様のこと、意外と好きなのね」
アーロン 「……悪りいけど、本気で行くぞ」
フィリップ 「青年ってば怖いな~」
(SE 短刀と剣がぶつかる音)
フィリップ 「ありゃ、防がれたか」
アーロン 「あんたのやり口はわかってんだよ」
フィリップ 「頭上に注意するんだな」
アーロン 「あ?」
(SE 矢が降ってくる音)
アーロン 「なっ!?」
(SE フィリップが距離をとる音)
アーロン 「ちっ、死神化!」
(SE 微弱な黒いオーラを纏う音)
(SE 矢を打ち払う音)
フィリップ 「さすがに、死神の力を完全には奪えなかったか」
(SE 高速で移動する音)
(SE 短刀と剣がぶつかる音)
フィリップ 「そんな微弱なオーラでも、やはり強力だな」
アーロン 「……っ」
フィリップ 「なんだ、もう音を上げるのか? そんなんじゃ、俺はおろか殿下には敵わないぞ」
アーロン 「くそ……っ」
(SE 矢を放つ音)
アーロン 「くっ!」
フィリップ 「そんなんで、アリアちゃん守れんの?」
アーロン 「……!」
フィリップ 「ほうら、次は右!」
(SE 短刀と剣がぶつかる音)
アーロン (なんだこれ、乱されてるってのか……!?)
フィリップ 「乱されてるんじゃない。乱れてるんだよ」
アーロン (心を、読まれてるってのか?)
フィリップ 「普段の青年だったら、こんな簡単に考えてること読ませてくれないけどね」
アーロン 「ちっ」
フィリップ 「冷静になれ、青年。いつものアーロンは、熱くなっても冷静さは欠かなかったはずだ。見失うんじゃない」
アーロン 「……!」
フィリップ 「さて、そろそろ終わりにしよう」
(SE 無数の矢を放つ音)
アーロン 「……!!」
フィリップ 「──────耐えてくれよ? 魂の鳴動!!」
(SE 闇の魔力を解き放つ音)
アーロン 「……っ! 洒落くせえ!!」
(SE 闇の魔力がぶつかり相殺する音)
フィリップ 「…………ふ」
アーロン 「──────冥王一閃・飛燕!!」
(SE 黒いオーラをまとった一閃)×2回
フィリップ 「がはっ!」
(SE 血を吐く音)
アーロン 「……! おっさん……、今わざと受けたのか……?」
フィリップ 「へ、へへっ……、なんのことかな……?」
(SE フィリップが倒れる音)
アーロン 「おっさん!」
フィリップ 「は、敵に情けかけんなって……」
アーロン 「…………」
フィリップ 「……おっと、大事な鍵、落としちまった……」
(SE 鍵を落とす音)
ソフィア 「それは……」
フィリップ 「ありゃりゃ……、アリアちゃんたちの牢の鍵が……」
アーロン 「おっさん……」
フィリップ 「……やっと、か。エスカ……」
アーロン 「…………」
(SE フィリップが塵のように消滅する音)
アーロン 「……っ!!」
ソフィア 「敵対者の死亡を確認」
アーロン 「魂を使い果たしたってことかよ……。くそ」
ソフィア 「行きましょう……」
アーロン 「……ああ」
ソフィア 「アーロンさん、体力の消耗を確認、速やかな休息を提案します」
アーロン 「…………」
ソフィア 「アーロンさん……」
アーロン 「わかってる!!」
ソフィア 「では……」
アーロン 「行くぞ……」
◇
城、ソフィーの私室。
アーロン 「ソフィア、アリアたちはどこにいるんだ?」
ソフィア 「先ほどの中庭を抜けた先にある、階段を下りていったところにある牢だと推測されます」
アーロン 「じゃあ、仕掛けるのは明日だ。アルトリウスが何をするのかわからねえけど、明日の皇位継承の儀に合わせてアリアたちを解放する」
ソフィア 「はい。それが良案だと思います」
アーロン 「…………」
ソフィア 「フィリップさんのことを考えているのですか……?」
アーロン 「そりゃ、あんな死に方したんだからな」
ソフィア 「彼は、敵対していたのではないのですか?」
アーロン 「……わかんねえ。けど、あいつはわざと死を選んだ」
ソフィア 「…………」
アーロン 「おっさんは、どこか死に場所を求めてるみたいだった。だけど、形はどうあれ最期は俺たちを助けてくれた。だから、それを無駄になんかするもんか……! 絶対に、アリアたちを助ける!」
◇
翌日。帝都、貴族街広場。
民衆① 「とうとう、皇帝が決まるんだな」
民衆② 「当然、アルトリウス殿下が皇帝なんだろ?」
民衆③ 「そりゃそうだろ。帝都を守ってくださったんだぞ?」
大臣 「静粛に! これより、皇位継承の儀を執り行う!」
(SE 風が吹く音)
大臣 「まず、第99代皇帝選抜投票の結果を発表する!」
大臣 「──────まず、アレキサンダー・ザ・ハルモニア第1皇子殿下は、先の世界樹事変の首謀者であることから、候補から外れていることを了承いただきたい」
(SE ざわざわ)
大臣 「では、改めて、第99代皇帝選抜投票の結果──────」
(SE ざわざわが大きくなる)
大臣 「──────第99代皇帝に即位されるのは、アルトリウス・フォン・ハルモニア第3皇子殿下です!」
(SE 歓声)
大臣 「では、皇位継承の儀を執り行います! 皇帝の威光をここへ!」
アルトリウス 「ふふ……」
つづく
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