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Ⅱ 騎士団の陰謀
第14話 暗影
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アリア・エインズワース:帝都のはずれにある森で店を営んでいる魔女。21歳。
アーロン・ストライフ:魔法使いの助手兼用心棒をやっている青年。21歳。
ソフィー:元ハルモニア帝国第2皇女だった少女。18歳。
フィリップ・ベルナルド:元帝国騎士団所属だった鳥使いの男性。32歳。
ルーナ:ハルモニア帝国第4皇子の側近をしている女性。20歳。
レオンハルト・ハイデルバッハ:帝国騎士団小隊長を務める青年。19歳。
リラ:考古学者の女性。24歳。
~モブ~
少女:遺跡に囚われていた少女。14歳。
女性:少女の姉。20歳。
水の都・アクエリス。襲撃があった翌朝。宿の前。
ルーナ 「…………」
ソフィー 「昨晩の襲撃……、なんだったんでしょうね」
ルーナ 「レオ、アーロンとフィリップはどこにいるの?」
レオンハルト 「アーロンさんは調べたいことがあるってどこかに行ってしまって、フィリップさんは昨夜どこかに行ったっきり戻ってこないそうで」
ルーナ 「そう。フィリップが……」
アリア 「どうしたんだい、ルーナ?」
ルーナ 「…………」
アーロン 「悪い、待たせたな。って、まだおっさん戻ってねえのか」
ルーナ 「アンタ、なにしてたのよ」
アーロン 「昨夜の件を調べてたんだ。あからさまな痕跡は残されてなかった。だけど、木に矢を抜いた痕は残ってた」
ルーナ 「そう。やっぱり……」
フィリップ 「おっと、ごめんごめん! 女の子と遊んでたらこんな時間になっちゃったよ!」
ルーナ 「フィリップ! アンタ、なにやってたの?」
ソフィー 「ちょっと、ルーナさん?」
ルーナ 「昨夜の襲撃は、アンタがやったんじゃないの?」
フィリップ 「え、なになに、怖いよ、ルーナちゃん」
ルーナ 「とぼけないで! 敵は弓矢を使ってた。実際にアーロンが矢が刺さってた痕を確認してるわ」
ソフィー 「え!? そんな、そんなわけないですよね?」
ルーナ 「それに、アンタは昔騎士団にたらしいじゃない。それも、騎士団長バーナードの副官として、ね。辞めた今でも繋がってるんじゃないの?」
フィリップ 「…………」
アーロン 「待てよ、おっさんが犯人だったとして、同室だった俺たちを襲わなかった理由はないじゃねえか」
ルーナ 「殺しが目的じゃないとしたら? ソフィーはオリジナルの皇女、アリアはホムンクルスの技術を開発した錬金術師なのよ。優先度は高いはずでしょ」
アーロン 「だけど、おっさんはやってねえ」
フィリップ 「青年……」
ルーナ 「はっ、どうだか」
フィリップ 「勘弁してよ。俺はやってないよ?」
ルーナ 「それなら、私にフィリップを見張らせてちょうだい」
フィリップ 「俺、ほんとにやってないんだけどな」
ルーナ 「怪しい動きひとつでもしてみなさい。その首、落としてあげるから」
フィリップ 「ふぅん、じゃあ──────」
(SE フィリップがルーナの背後に素早くまわる音)
(SE フィリップがルーナに短刀を突きつける音)
フィリップ 「──────こんなことをやったら、おじさんの首、飛んじゃうのかな?」
ルーナ 「フィリップ……!」
フィリップ 「……はあ、ルーナちゃん、もし俺が犯人だったら、こうやってすぐに背後をとれるんだから、襲撃のチャンスはいくらでもあるよね?」
アーロン 「……は、速い。見えなかった」
フィリップ 「あはは、これでもだいぶ衰えてるんだけどね」
ルーナ 「わ、わかった。わかったから、離して」
フィリップ 「おっと、ごめんごめん。ルーナちゃん、あまりにも良い匂いだったからさ」
ルーナ 「…………」
アーロン 「おっさん、そういうことばっかしてるから疑われるんじゃねえのか?」
フィリップ 「そりゃそうだ。でも、こうでもしなきゃ、ルーナちゃん、信じてくれないでしょ?」
ルーナ 「言っとくけど、疑いが晴れたわけじゃないから」
フィリップ 「それでいいよ」
(SE 指笛)
(SE 大きな鳥が降り立つ音)
フィリップ 「ヴァン、上空から周囲を警戒してくれ。頼めるか?」
ヴァン 「くぁああっ!」
フィリップ 「良い子だ」
(SE 大きな鳥が飛び立つ音)
ソフィー 「……それで、レオくん、今日はどうするんですか?」
レオンハルト 「はい、今日は、ここから北にある山に行きます」
ソフィー 「え、また山ですか……」
レオンハルト 「と言っても、目的は洞窟の中、らしいですが」
アーロン 「よし、それじゃ、とっとと行こうぜ」
◇
道中。
アリア 「ところで、今回の目的はなんなんだい?」
レオンハルト 「それが、また旧時代の魔法関係らしいですよ」
アーロン 「おいおい、大丈夫なのか? またあんなのと戦うハメになるんじゃ……」
レオンハルト 「否定はできません」
フィリップ 「なら、危なそうだったらすぐに引上げよう」
ソフィー 「そうしましょうそうしましょう」
レオンハルト 「そうですね」
ルーナ 「……アーロン、あの力、やっぱり使いこなせないの?」
アリア 「…………」
アーロン 「どうだろうな。感覚は掴めそうだけど、なかなか難しい。実戦で覚えるしかねえかもな」
アリア 「アーロン……」
アーロン 「わかってる。無茶はしねえって」
アリア 「それならいいが……」
レオンハルト 「……あ、水の音がしますね」
ルーナ 「この音、滝が近くにあるのかしら」
ソフィー 「そこで少し休みませんか~?」
アーロン 「そうだな。レオ、洞窟はもう近いんだろ?」
レオンハルト 「はい、資料によるとこの辺ですね」
アーロン 「なら、洞窟に入る前に休憩はとっておこう」
ソフィー 「やった!」
────────────
滝つぼ。
ソフィー 「水着持ってくればよかったなー」
ルーナ 「ソフィー、遊びに来たんじゃないのよ」
ソフィー 「うぇー、でも、こういうところで遊びたいじゃないですかー」
フィリップ 「確かに、おじさんもみんなの水着姿を眺めたかったなあ……」
アーロン 「おっさん、きもいぞー」
フィリップ 「て言っても青年だって、アリアちゃんの水着、見たいよね?」
アリア 「…………」
アーロン 「はあ、レオ、どうなんだ?」
レオンハルト 「え、僕ですか!?」
ルーナ 「逃げたわね」
ソフィー 「逃げましたね」
リラ 「あ! 皆さんもここにいらしてたんですねー!」
フィリップ 「……」
アーロン 「リラ? どうしたんだよ、こんなところで」
リラ 「ご存じないんですか? ここに旧ハルモニア文明の遺跡があるんですよ」
ソフィー 「うぇ、そうなんですか?」
レオンハルト 「よかった、僕たちも遺跡を探してたんですよ」
リラ 「わー、奇遇ですね! じゃあ、今回もご一緒しますか?」
ルーナ 「……遠慮しておくわ。私たち、宿を襲われてるの。そんな状況で同行者を増やすなんて……」
リラ 「そうなんですか? 不躾なことを言ってしまってすみません」
フィリップ 「いや、別に同行するくらいいいでしょう? 疑ってるわけじゃないけど、リラちゃんを警戒するなら一緒に行動する方がいいんじゃない?」
リラ 「え、そんな、私はただの考古学者ですよー?」
フィリップ 「ほら、本人もこう言ってることだし」
ルーナ 「……ふん、好きにすれば? 何かあれば、私がすぐにやるわ」
(SE 刀に触れる音)
リラ 「ひゃー、信用ゼロですねー」
ソフィー 「……ルーナさん、なんだか以前のルーナさんに戻っちゃったみたいです……」
アーロン 「まあ、仕方ない」
レオンハルト 「それでリラさん、遺跡はどこにあるんでしょうか?」
リラ 「むむ、ここにあるらしい、ということはわかってます!」
レオンハルト 「つまり?」
リラ 「詳しい場所はわかりません!」
ソフィー 「わかんないんですか!?」
リラ 「ですが、こういう滝がある場所には秘密が隠されているのが定石です」
ルーナ 「ふうん……」
リラ 「そう! 例えば、滝の裏側、とかね!」
(SE 滝が流れる音)
ルーナ 「どうやって確かめるのよ」
リラ 「飛び込むんですよ!」
ルーナ 「…………」
(SE 滝が激しく流れる音)
ルーナ 「死ぬわ!」
リラ 「……そういえば、氷属性の魔法を使える人がいましたよね?」
ソフィー 「あ、アリアさんですね!」
リラ 「ではアリアさん! この滝を凍らせてください!」
アリア 「仕方ない──────」
アリア 「────────凍てつく風よ、彼の者の動きを止めよ、氷華絶風」
(SE 滝が凍りつく音)
リラ 「ビンゴ!」
アリア 「まさか、本当にあるなんてね」
リラ 「ね、言った通りでしょう!」
ソフィー 「わあ! 凄いです!」
フィリップ 「わー、じめじめしてそうだねえ」
アーロン 「まあ、行ってみようぜ」
ルーナ 「そうね、あの胡散臭い騎士団長が何をやろうとしてるのかわからないし」
◇
遺跡、内部。
アリア 「立地が立地だからか、中はそこまで広いわけじゃないみたいだね」
リラ 「そのようですね……。祭壇には違いないんでしょうけど」
アリア 「ふむ、地霊石に光が宿っていないね……」
リラ 「遺跡としては死んでますね」
フィリップ 「そろそろ最深部なんじゃない?」
アーロン 「扉が見えるな」
ソフィー 「開けていいんですかね?」
ルーナ 「開けないことには始まらないでしょ」
ソフィー 「でも、錆びてたりしませんかね?」
ルーナ 「そんなの、ぶち破ればいいでしょ」
リラ 「そんなダメですよ! 大事な史料なんですから!」
レオンハルト 「そうこうしてるうちに、扉の前まで来ましたけど……」
アーロン 「……なんか、最近開いた痕はあるな」
アリア 「破る必要はなかったみたいだね」
リラ 「よかったですよー。あの人、やりかねませんからね」
ルーナ 「どういう意味よ」
レオンハルト 「……前みたいなことには、なりませんよね?」
リラ 「地霊石の反応がない、ということは、主を失ってから長いこと経っている、ということになります」
アリア 「主というと、神の力を宿した人間のことかい?」
アーロン 「…………」
リラ 「だと思います」
フィリップ 「それだったら、前みたいに戦うことになる可能性はないってことだね」
ソフィー 「じゃあ開けてみましょう。……ふんにゅうぅぅぅ」
(SE 重い扉を開ける音)
ソフィー 「ふう、って、何もなさそうですけど……っ!」
レオンハルト 「……誰かいます」
少女 「…………?」
アリア 「……!!」
レオンハルト 「大丈夫ですか?!」
ソフィー 「わ、凄くボロボロじゃないですか。それに、鎖でつながれて……」
ルーナ 「ソフィー、治癒術を……」
アリア 「よすんだ」
ルーナ 「どういうこと? アンタ、この子を見殺しにする気?」
アリア 「そうは言っていないだろう。この子には生命を維持する魔法がかかっている。そこに違う魔法で干渉すると、生命維持の魔法が暴走してしまう」
ソフィー 「じゃあ、アリアさんの薬なら……」
アリア 「錬金術も魔法だ。それで作った薬では……」
アーロン 「じゃあ、連れ出すしかないな」
アリア 「アーロン、キミは念のため離れていてくれ」
アーロン 「あ、ああ」
レオンハルト 「では、僕がやります」
アーロン 「頼む」
少女 「…………」
レオンハルト 「大丈夫、怖くないよ。僕たちは、君に危害を加えるつもりはない」
少女 「……だめなの」
レオンハルト 「え?」
少女 「ここから離れたらだめなの……」
フィリップ 「どういうことかな?」
少女 「ここから離れたら、お姉ちゃんが死んじゃう……」
ルーナ 「人質ってこと? アンタ、それ誰から言われたの?」
少女 「……ひっ」
フィリップ 「ちょっとルーナちゃん、怖がらせるんじゃないよ」
ルーナ 「……ごめんなさい」
リラ 「…………」
少女 「……あ、ああああああああああっ!!」
(SE 魔力の光が出る音)
リラ 「なんですか!?」
アリア 「なにかまずい! ソフィー! レオ! 離れるんだ!」
レオンハルト 「ですが!」
ソフィー 「アリアさん、この子のこと見捨てるんですか!?」
ルーナ 「馬鹿! 離れなさいって言ってんでしょ!!」
(SE ルーナがソフィーとレオンハルトを突き飛ばす音)
レオンハルト 「うわっ!」
ソフィー 「きゃっ!」
少女 「あ、ああ■■あああっ!!」
ルーナ 「………………!! ごめんなさい!」
(SE 刀を振る音)
少女 「ああああああっ!?」
(SE 少女が倒れる音)
少女 「……お、姉、ちゃん……」
ルーナ 「……っ!」
(SE 少女が塵となって消える音)
アリア 「……間に合わなかった、か」
ソフィー 「……塵になった。ということは……」
レオンハルト 「以前と同じく、魂が消滅したのでしょう」
フィリップ 「……リラ、なにをした?」
レオンハルト 「え?」
リラ 「なんのことですか?」
フィリップ 「とぼけるな。あの子は、キミを見た瞬間に暴走した」
リラ 「偶然ですよ。あの子は、きっと暴走寸前だったんです」
フィリップ 「じゃあ、足首を見せろ」
リラ 「え、こんなときにセクハラですか?」
ソフィー 「ちょっとおじさん、時と場所を……」
フィリップ 「ソフィーちゃん、静かにしててくれ」
ソフィー 「……」
フィリップ 「リラ、誤魔化しているようだけど、歩き方が昨日と違うな。怪我でもしたのか?」
リラ 「……わかりました、見せればいいんでしょ」
(SE 裾をまくる音)
フィリップ 「症状がひどいな。矢に塗ってあった毒がちゃんと効いたようだな」
ルーナ 「まさか……」
リラ 「やっぱり、そういうことですか。さすがは、私の前任者だけありますね」
フィリップ 「そう。キミが今の幻影か」
リラ 「…………!!」
(SE リラが高速で移動する音)
(SE 短刀同士がぶつかる音)
フィリップ 「感情に素直だね。俺の首を取りに来るなんて」
レオンハルト 「フィリップさん!!」
フィリップ 「リラ、キミは終わりだ──────」
フィリップ 「──────一刃・落陽」
(SE 短刀を振る音)
リラ 「……ッ! 腕が、動かない……?」
フィリップ 「あまり使いたくなかったんだけど、キミの腕の感覚を奪わせてもらった」
リラ 「まだまだ!」
(SE リラが大地を蹴る音)
フィリップ 「それは悪手だよ──────」
フィリップ 「──────二刃・宵闇」
(SE 闇属性の魔法が発動する音)
(SE 短刀を振る音)
アリア 「闇属性の魔法!?」
リラ 「……!? 何も、見えない……!?」
フィリップ 「悪いけど、視覚を奪わせてもらった」
リラ 「視覚を……。まだそんな力を残していたなんて」
(SE 短刀を突きつける音)
フィリップ 「では、質問に答えてもらおうか」
リラ 「答えなかったらどうするんですか?」
フィリップ 「そんなこと、決まってるだろ」
ソフィー 「リラさん、本当に、さっきの女の子を暴走させたんですか?」
リラ 「暴走? 違いますよ、すべてが計画だったのです!」
ソフィー 「け、計画……?」
リラ 「はい、そうですよ、ソフィア皇女殿下」
ソフィー 「……」
リラ 「今回は残念ながら、役にも立たずに壊れてしまいましたけどね。騎士団長の崇高な目的のためには、この神化計画は必要なことなのです!」
レオンハルト 「騎士団長の崇高な目的? いったいなんだと言うんですか!?」
リラ 「騎士団長は、人類を救済しようとなさっているのです!」
アーロン 「救済? はっ、そりゃ崇高だな」
フィリップ 「…………」
ソフィー 「そのためだったら、子どもでも利用するんですか?」
リラ 「殿下、お言葉ですが、理想だけではこの世を生きていけません。崇高な目的には、尊い犠牲が必要なものです」
ルーナ 「話にならないわね……!」
(SE 刀を振る音)
(SE リラが倒れる音)
フィリップ 「あいかわらず、手が早いね」
ルーナ 「別に。この女の話が不快だっただけよ」
アーロン 「……おっさんは、リラの正体、知ってたのか?」
フィリップ 「なんとなく、だけどね」
ルーナ 「だったら、なんで今朝反論してこなかったのよ。襲ってきたの、結局アンタじゃなくて、リラだったじゃない」
フィリップ 「ま、怪しい行動してたのは事実だからね。ルーナちゃんが疑うのも無理ないよ」
ルーナ 「それでも! ……悪かったわね、仲間を疑って」
フィリップ 「……仲間、か。ごめんね」
ルーナ 「え?」
ソフィー 「あ、ルーナさんが自らの非を認めて謝ってます!!」
ルーナ 「なっ!? なんでそんな強調するような言い方なのよ!!」
レオンハルト 「でも、以前のルーナさんと比べると、本当に角が取れましたよね」
ルーナ 「レオまで……。アンタらの中の私はなんなのよ」
アリア 「自分の胸に聞いてみたらどうだい」
ソフィー 「やはは、その小さいお胸に聞いてみたらどうですか~?」
ルーナ 「ソフィ~? 殴られるならどこがいい?」
ソフィー 「殴られるのは確定してるんですね……」
◇
アクエリス、高台。
ソフィー 「ふぅ、戻ってきましたねー。明日も遺跡調査なの? レオくん」
レオンハルト 「明日は、アクエリス郊外の森にある祭壇跡に向かいます」
アリア 「やはり、旧時代の魔法が関わっているのだろうか」
ソフィー 「だとしたら、今日みたいなことが……」
ルーナ 「…………」
フィリップ 「ま、可能性はゼロじゃないよね。バーナードの計画を止めるのがこの遠征の目的なら、さ」
アリア 「旧時代の魔法、神降ろしを使った計画、いったいなんのために……」
ソフィー 「リラさんは、人類の救済のため、とは言ってましたけど」
アリア 「どんな脅威から救済するのか、それがわからない」
フィリップ 「……アリアちゃん、知らないんだ?」
アーロン 「なんだよ、おっさん、その言い方。いかにも訳知りって感じだな」
フィリップ 「え、だって、アリアちゃんって、由緒正しい騎士の家のメイザース家、それも現当主であり帝国騎士団団長のバーナード・メイザースの娘だよ? なにか知ってるかもって思うのは、普通じゃない?」
アーロン 「え、そうだったのか!?」
ルーナ 「知らなかったの? まあ、アーロンらしいっちゃらしいけど。アンタも知ってたわよね、ソフィー?」
ソフィー 「え、そうだったんですか!?」
ルーナ 「アンタ、一応皇族でしょ? なんで知らないのよ」
ソフィー 「やはは、レオくんも知らなかったよね?」
レオンハルト 「知らなかったです……」
ソフィー 「ほら」
ルーナ 「はあ、新参者のレオと比べてどうすんのよ」
ソフィー 「やはは……」
アーロン 「それでおっさん、色々聞きたいんだけどいいか?」
フィリップ 「答えられることなら」
アーロン 「単刀直入に聞く。おっさん、あんたの目的はなんだ?」
フィリップ 「……」
ルーナ 「アンタ、この期に及んで黙るつもり?」
アーロン 「ルーナ」
ルーナ 「……」
フィリップ 「──────復讐、かな」
アーロン 「騎士団長に、か?」
フィリップ 「ああ」
ソフィー 「……どうして、ですか?」
フィリップ 「それは……」
アーロン 「おっさん、それは言いたくなったらでいい。ソフィー」
ソフィー 「……ごめんなさい、ちょっと踏み込み過ぎました」
フィリップ 「いや、こっちこそごめんね、ソフィーちゃん」
ルーナ 「そういえばおっさん、リラに妙なこと言ってたわね」
アーロン 「ああ、幻影がどうのって」
フィリップ 「幻影は、バーナードの影として諜報、裏工作、暗殺を担当する者に与えられるコードネームだよ」
レオンハルト 「そんなの、聞いたことがなかった……」
フィリップ 「当然だよ。なんせ、騎士団内部の粛清、場合によっては貴族をも手にかけるんだ。バーナード直属の騎士でさえ知る者は限られる」
ルーナ 「で、おっさんはその幻影だったってこと?」
フィリップ 「ま、そういうこと」
アーロン 「その幻影を使って俺たちを邪魔してきたってことは、騎士団、というよりバーナード個人の目的があっての行動ってことになるのか……」
アリア 「……フィリップ、闇属性の魔法が使えるのなら、言ってくれてもよかったじゃないか」
フィリップ 「うぇ? 言わなきゃまずかった?」
アリア 「現代の魔法は、地水火風に加えて雷と氷の6属性を扱うのに対し、旧時代の魔法の属性は、光と闇の2属性を扱うんだ」
フィリップ 「ってことは、俺も旧時代の魔法を使えるってこと?」
アリア 「そういうことだ」
ルーナ 「ん? 旧時代の魔法がその2属性なら、大地の神殿にいた女神は、なんで地属性の攻撃をしてきたの?」
アリア 「旧時代の魔法、いや魂は、地水火風、雷と氷を隷属させることができる」
ルーナ 「魂に? そうか、旧時代の魔法は魂をそのまま魔力に変えるから……」
アリア 「そういうことだ。現代の魔法では、魂を自然の力に干渉するために使っているからね。魂にはもともと、そういう力があるということだろう」
ルーナ 「なるほどね」
アーロン 「……全然わからん」
アリア 「なに?」
ソフィー 「やはは、アーロンさん、魔法が苦手ですからね」
アリア 「使える属性は人それぞれではあるが、勉強すれば誰でも魔法が使えるというのに……」
アーロン 「勉強とか、やる気でないんだよな」
レオンハルト 「アーロンさん、よくそれで騎士団に入れましたね……」
アーロン 「感覚でなんとかなる」
フィリップ 「ま、実際なんとかなってるしね」
アリア 「むむむ、今さら魔法を習得するのは無理なようだね」
アーロン 「そういうことだ」
ルーナ 「なんでアンタがどや顔してんのよ」
(SE 風が吹く音)
女性 「…………」
ソフィー 「……なんでしょう、凄くうなだれてる人がいますね」
レオンハルト 「……放ってはおけません」
ルーナ 「よくやるわね……」
ソフィー 「って言いながら聞き耳立ててますよね」
ルーナ 「うっさい。黙ってなさい」
ソフィー 「はーい」
レオンハルト 「どうされたんですか? もうじき、日が落ちますよ?」
女性 「あなたは……?」
レオンハルト 「自分は、帝国騎士団で小隊長を任されているレオンハルト・ハイデルバッハです。自分でよければ、お話を伺いますよ」
女性 「騎士様?! どうか、お助けください!」
レオンハルト 「落ち着いてください。なにが、あったんですか?」
女性 「私、妹と2人で暮らしていたのですが、2週間ほど前から妹が行方不明でして……」
ルーナ 「……」
レオンハルト 「なるほど。妹さんを最後に見たのはどちらで?」
女性 「はい、ここから北に行ったところにある山に行くところを見たと、知り合いが……」
ルーナ 「北にある山……」
レオンハルト 「……まさか」
女性 「なにか、ご存知なのですか?」
ルーナ 「…………妹さんは──────」
女性 「え……?」
ルーナ 「──────私が手をかけました」
ソフィー 「悪い魔法使いが妹さん操って、襲い掛かってきたんです。ルーナさんは、それから私を守ろうとして……」
女性 「……そうですか。妹の安否がわかっただけでもよかったです……」
ルーナ 「ごめんなさい、私は……」
女性 「……すみません、どこかに行ってもらえませんか」
ルーナ 「……」
──────────────────
アーロン 「……ルーナ、辛い役割を押し付けて、悪かった」
ルーナ 「なによ、慰めてるつもり?」
アーロン 「わりぃかよ……」
ルーナ 「ふん、アンタが近づいたら、また暴走するかもしれなかったでしょ。この業は、私が背負っていくわ」
アーロン 「……」
ルーナ 「なにかおかしい?」
アーロン 「いや、アリアも前にそんなこと言ってたな、と思って。なんだかんだルーナとアリア、似てきたんじゃねえの?」
ルーナ 「……なっ、あんなのと一緒にしないでよ……」
アーロン 「なんだよ、照れてんのか? ……まあ、そういう風に心配してくれるところは、素直にうれしいけどな」
ルーナ 「……! うっさい。ほら、さっさと戻るわよ。明日も遺跡に行くんだから……」
アーロン 「はいはい」
(SE 早足になる音)
ソフィー 「ルーナさん、アーロンさんとなにを話していたんですか?」
ルーナ 「べ、別に、なんでもないわ」
ソフィー 「ほほぉーう、アーロンさんの天然たらしにあてられちゃったんですねぇ」
ルーナ 「だから、なんでもないって言ってんでしょ!」
アリア 「ふふ、まったく、騒がしいな」
アーロン 「そうだな」
アリア 「アーロン……、ありがとう、ルーナを元気づけてくれて」
アーロン 「なんだよ、アリアでもそんなこと言うんだな」
アリア 「ふふ、たまにはね。それに、ルーナの妹が死ぬ原因になった私では励ますことはできないから」
アーロン 「できるさ。今なら」
アリア 「……キミは、ずるいね。私が求めている言葉を、そうやって鼻唄でも唄うようにささやいてくれる」
フィリップ 「あの、人の目の前でいちゃつくのやめてもらっていい?」
アリア 「いちゃっ……!?」
レオンハルト 「あはは、胸やけしそうですよ……」
アリア 「レオまで……」
ソフィー 「皆さん、早く行かないと、ルーナさんに置いてかれちゃいますよー!」
つづく
アーロン・ストライフ:魔法使いの助手兼用心棒をやっている青年。21歳。
ソフィー:元ハルモニア帝国第2皇女だった少女。18歳。
フィリップ・ベルナルド:元帝国騎士団所属だった鳥使いの男性。32歳。
ルーナ:ハルモニア帝国第4皇子の側近をしている女性。20歳。
レオンハルト・ハイデルバッハ:帝国騎士団小隊長を務める青年。19歳。
リラ:考古学者の女性。24歳。
~モブ~
少女:遺跡に囚われていた少女。14歳。
女性:少女の姉。20歳。
水の都・アクエリス。襲撃があった翌朝。宿の前。
ルーナ 「…………」
ソフィー 「昨晩の襲撃……、なんだったんでしょうね」
ルーナ 「レオ、アーロンとフィリップはどこにいるの?」
レオンハルト 「アーロンさんは調べたいことがあるってどこかに行ってしまって、フィリップさんは昨夜どこかに行ったっきり戻ってこないそうで」
ルーナ 「そう。フィリップが……」
アリア 「どうしたんだい、ルーナ?」
ルーナ 「…………」
アーロン 「悪い、待たせたな。って、まだおっさん戻ってねえのか」
ルーナ 「アンタ、なにしてたのよ」
アーロン 「昨夜の件を調べてたんだ。あからさまな痕跡は残されてなかった。だけど、木に矢を抜いた痕は残ってた」
ルーナ 「そう。やっぱり……」
フィリップ 「おっと、ごめんごめん! 女の子と遊んでたらこんな時間になっちゃったよ!」
ルーナ 「フィリップ! アンタ、なにやってたの?」
ソフィー 「ちょっと、ルーナさん?」
ルーナ 「昨夜の襲撃は、アンタがやったんじゃないの?」
フィリップ 「え、なになに、怖いよ、ルーナちゃん」
ルーナ 「とぼけないで! 敵は弓矢を使ってた。実際にアーロンが矢が刺さってた痕を確認してるわ」
ソフィー 「え!? そんな、そんなわけないですよね?」
ルーナ 「それに、アンタは昔騎士団にたらしいじゃない。それも、騎士団長バーナードの副官として、ね。辞めた今でも繋がってるんじゃないの?」
フィリップ 「…………」
アーロン 「待てよ、おっさんが犯人だったとして、同室だった俺たちを襲わなかった理由はないじゃねえか」
ルーナ 「殺しが目的じゃないとしたら? ソフィーはオリジナルの皇女、アリアはホムンクルスの技術を開発した錬金術師なのよ。優先度は高いはずでしょ」
アーロン 「だけど、おっさんはやってねえ」
フィリップ 「青年……」
ルーナ 「はっ、どうだか」
フィリップ 「勘弁してよ。俺はやってないよ?」
ルーナ 「それなら、私にフィリップを見張らせてちょうだい」
フィリップ 「俺、ほんとにやってないんだけどな」
ルーナ 「怪しい動きひとつでもしてみなさい。その首、落としてあげるから」
フィリップ 「ふぅん、じゃあ──────」
(SE フィリップがルーナの背後に素早くまわる音)
(SE フィリップがルーナに短刀を突きつける音)
フィリップ 「──────こんなことをやったら、おじさんの首、飛んじゃうのかな?」
ルーナ 「フィリップ……!」
フィリップ 「……はあ、ルーナちゃん、もし俺が犯人だったら、こうやってすぐに背後をとれるんだから、襲撃のチャンスはいくらでもあるよね?」
アーロン 「……は、速い。見えなかった」
フィリップ 「あはは、これでもだいぶ衰えてるんだけどね」
ルーナ 「わ、わかった。わかったから、離して」
フィリップ 「おっと、ごめんごめん。ルーナちゃん、あまりにも良い匂いだったからさ」
ルーナ 「…………」
アーロン 「おっさん、そういうことばっかしてるから疑われるんじゃねえのか?」
フィリップ 「そりゃそうだ。でも、こうでもしなきゃ、ルーナちゃん、信じてくれないでしょ?」
ルーナ 「言っとくけど、疑いが晴れたわけじゃないから」
フィリップ 「それでいいよ」
(SE 指笛)
(SE 大きな鳥が降り立つ音)
フィリップ 「ヴァン、上空から周囲を警戒してくれ。頼めるか?」
ヴァン 「くぁああっ!」
フィリップ 「良い子だ」
(SE 大きな鳥が飛び立つ音)
ソフィー 「……それで、レオくん、今日はどうするんですか?」
レオンハルト 「はい、今日は、ここから北にある山に行きます」
ソフィー 「え、また山ですか……」
レオンハルト 「と言っても、目的は洞窟の中、らしいですが」
アーロン 「よし、それじゃ、とっとと行こうぜ」
◇
道中。
アリア 「ところで、今回の目的はなんなんだい?」
レオンハルト 「それが、また旧時代の魔法関係らしいですよ」
アーロン 「おいおい、大丈夫なのか? またあんなのと戦うハメになるんじゃ……」
レオンハルト 「否定はできません」
フィリップ 「なら、危なそうだったらすぐに引上げよう」
ソフィー 「そうしましょうそうしましょう」
レオンハルト 「そうですね」
ルーナ 「……アーロン、あの力、やっぱり使いこなせないの?」
アリア 「…………」
アーロン 「どうだろうな。感覚は掴めそうだけど、なかなか難しい。実戦で覚えるしかねえかもな」
アリア 「アーロン……」
アーロン 「わかってる。無茶はしねえって」
アリア 「それならいいが……」
レオンハルト 「……あ、水の音がしますね」
ルーナ 「この音、滝が近くにあるのかしら」
ソフィー 「そこで少し休みませんか~?」
アーロン 「そうだな。レオ、洞窟はもう近いんだろ?」
レオンハルト 「はい、資料によるとこの辺ですね」
アーロン 「なら、洞窟に入る前に休憩はとっておこう」
ソフィー 「やった!」
────────────
滝つぼ。
ソフィー 「水着持ってくればよかったなー」
ルーナ 「ソフィー、遊びに来たんじゃないのよ」
ソフィー 「うぇー、でも、こういうところで遊びたいじゃないですかー」
フィリップ 「確かに、おじさんもみんなの水着姿を眺めたかったなあ……」
アーロン 「おっさん、きもいぞー」
フィリップ 「て言っても青年だって、アリアちゃんの水着、見たいよね?」
アリア 「…………」
アーロン 「はあ、レオ、どうなんだ?」
レオンハルト 「え、僕ですか!?」
ルーナ 「逃げたわね」
ソフィー 「逃げましたね」
リラ 「あ! 皆さんもここにいらしてたんですねー!」
フィリップ 「……」
アーロン 「リラ? どうしたんだよ、こんなところで」
リラ 「ご存じないんですか? ここに旧ハルモニア文明の遺跡があるんですよ」
ソフィー 「うぇ、そうなんですか?」
レオンハルト 「よかった、僕たちも遺跡を探してたんですよ」
リラ 「わー、奇遇ですね! じゃあ、今回もご一緒しますか?」
ルーナ 「……遠慮しておくわ。私たち、宿を襲われてるの。そんな状況で同行者を増やすなんて……」
リラ 「そうなんですか? 不躾なことを言ってしまってすみません」
フィリップ 「いや、別に同行するくらいいいでしょう? 疑ってるわけじゃないけど、リラちゃんを警戒するなら一緒に行動する方がいいんじゃない?」
リラ 「え、そんな、私はただの考古学者ですよー?」
フィリップ 「ほら、本人もこう言ってることだし」
ルーナ 「……ふん、好きにすれば? 何かあれば、私がすぐにやるわ」
(SE 刀に触れる音)
リラ 「ひゃー、信用ゼロですねー」
ソフィー 「……ルーナさん、なんだか以前のルーナさんに戻っちゃったみたいです……」
アーロン 「まあ、仕方ない」
レオンハルト 「それでリラさん、遺跡はどこにあるんでしょうか?」
リラ 「むむ、ここにあるらしい、ということはわかってます!」
レオンハルト 「つまり?」
リラ 「詳しい場所はわかりません!」
ソフィー 「わかんないんですか!?」
リラ 「ですが、こういう滝がある場所には秘密が隠されているのが定石です」
ルーナ 「ふうん……」
リラ 「そう! 例えば、滝の裏側、とかね!」
(SE 滝が流れる音)
ルーナ 「どうやって確かめるのよ」
リラ 「飛び込むんですよ!」
ルーナ 「…………」
(SE 滝が激しく流れる音)
ルーナ 「死ぬわ!」
リラ 「……そういえば、氷属性の魔法を使える人がいましたよね?」
ソフィー 「あ、アリアさんですね!」
リラ 「ではアリアさん! この滝を凍らせてください!」
アリア 「仕方ない──────」
アリア 「────────凍てつく風よ、彼の者の動きを止めよ、氷華絶風」
(SE 滝が凍りつく音)
リラ 「ビンゴ!」
アリア 「まさか、本当にあるなんてね」
リラ 「ね、言った通りでしょう!」
ソフィー 「わあ! 凄いです!」
フィリップ 「わー、じめじめしてそうだねえ」
アーロン 「まあ、行ってみようぜ」
ルーナ 「そうね、あの胡散臭い騎士団長が何をやろうとしてるのかわからないし」
◇
遺跡、内部。
アリア 「立地が立地だからか、中はそこまで広いわけじゃないみたいだね」
リラ 「そのようですね……。祭壇には違いないんでしょうけど」
アリア 「ふむ、地霊石に光が宿っていないね……」
リラ 「遺跡としては死んでますね」
フィリップ 「そろそろ最深部なんじゃない?」
アーロン 「扉が見えるな」
ソフィー 「開けていいんですかね?」
ルーナ 「開けないことには始まらないでしょ」
ソフィー 「でも、錆びてたりしませんかね?」
ルーナ 「そんなの、ぶち破ればいいでしょ」
リラ 「そんなダメですよ! 大事な史料なんですから!」
レオンハルト 「そうこうしてるうちに、扉の前まで来ましたけど……」
アーロン 「……なんか、最近開いた痕はあるな」
アリア 「破る必要はなかったみたいだね」
リラ 「よかったですよー。あの人、やりかねませんからね」
ルーナ 「どういう意味よ」
レオンハルト 「……前みたいなことには、なりませんよね?」
リラ 「地霊石の反応がない、ということは、主を失ってから長いこと経っている、ということになります」
アリア 「主というと、神の力を宿した人間のことかい?」
アーロン 「…………」
リラ 「だと思います」
フィリップ 「それだったら、前みたいに戦うことになる可能性はないってことだね」
ソフィー 「じゃあ開けてみましょう。……ふんにゅうぅぅぅ」
(SE 重い扉を開ける音)
ソフィー 「ふう、って、何もなさそうですけど……っ!」
レオンハルト 「……誰かいます」
少女 「…………?」
アリア 「……!!」
レオンハルト 「大丈夫ですか?!」
ソフィー 「わ、凄くボロボロじゃないですか。それに、鎖でつながれて……」
ルーナ 「ソフィー、治癒術を……」
アリア 「よすんだ」
ルーナ 「どういうこと? アンタ、この子を見殺しにする気?」
アリア 「そうは言っていないだろう。この子には生命を維持する魔法がかかっている。そこに違う魔法で干渉すると、生命維持の魔法が暴走してしまう」
ソフィー 「じゃあ、アリアさんの薬なら……」
アリア 「錬金術も魔法だ。それで作った薬では……」
アーロン 「じゃあ、連れ出すしかないな」
アリア 「アーロン、キミは念のため離れていてくれ」
アーロン 「あ、ああ」
レオンハルト 「では、僕がやります」
アーロン 「頼む」
少女 「…………」
レオンハルト 「大丈夫、怖くないよ。僕たちは、君に危害を加えるつもりはない」
少女 「……だめなの」
レオンハルト 「え?」
少女 「ここから離れたらだめなの……」
フィリップ 「どういうことかな?」
少女 「ここから離れたら、お姉ちゃんが死んじゃう……」
ルーナ 「人質ってこと? アンタ、それ誰から言われたの?」
少女 「……ひっ」
フィリップ 「ちょっとルーナちゃん、怖がらせるんじゃないよ」
ルーナ 「……ごめんなさい」
リラ 「…………」
少女 「……あ、ああああああああああっ!!」
(SE 魔力の光が出る音)
リラ 「なんですか!?」
アリア 「なにかまずい! ソフィー! レオ! 離れるんだ!」
レオンハルト 「ですが!」
ソフィー 「アリアさん、この子のこと見捨てるんですか!?」
ルーナ 「馬鹿! 離れなさいって言ってんでしょ!!」
(SE ルーナがソフィーとレオンハルトを突き飛ばす音)
レオンハルト 「うわっ!」
ソフィー 「きゃっ!」
少女 「あ、ああ■■あああっ!!」
ルーナ 「………………!! ごめんなさい!」
(SE 刀を振る音)
少女 「ああああああっ!?」
(SE 少女が倒れる音)
少女 「……お、姉、ちゃん……」
ルーナ 「……っ!」
(SE 少女が塵となって消える音)
アリア 「……間に合わなかった、か」
ソフィー 「……塵になった。ということは……」
レオンハルト 「以前と同じく、魂が消滅したのでしょう」
フィリップ 「……リラ、なにをした?」
レオンハルト 「え?」
リラ 「なんのことですか?」
フィリップ 「とぼけるな。あの子は、キミを見た瞬間に暴走した」
リラ 「偶然ですよ。あの子は、きっと暴走寸前だったんです」
フィリップ 「じゃあ、足首を見せろ」
リラ 「え、こんなときにセクハラですか?」
ソフィー 「ちょっとおじさん、時と場所を……」
フィリップ 「ソフィーちゃん、静かにしててくれ」
ソフィー 「……」
フィリップ 「リラ、誤魔化しているようだけど、歩き方が昨日と違うな。怪我でもしたのか?」
リラ 「……わかりました、見せればいいんでしょ」
(SE 裾をまくる音)
フィリップ 「症状がひどいな。矢に塗ってあった毒がちゃんと効いたようだな」
ルーナ 「まさか……」
リラ 「やっぱり、そういうことですか。さすがは、私の前任者だけありますね」
フィリップ 「そう。キミが今の幻影か」
リラ 「…………!!」
(SE リラが高速で移動する音)
(SE 短刀同士がぶつかる音)
フィリップ 「感情に素直だね。俺の首を取りに来るなんて」
レオンハルト 「フィリップさん!!」
フィリップ 「リラ、キミは終わりだ──────」
フィリップ 「──────一刃・落陽」
(SE 短刀を振る音)
リラ 「……ッ! 腕が、動かない……?」
フィリップ 「あまり使いたくなかったんだけど、キミの腕の感覚を奪わせてもらった」
リラ 「まだまだ!」
(SE リラが大地を蹴る音)
フィリップ 「それは悪手だよ──────」
フィリップ 「──────二刃・宵闇」
(SE 闇属性の魔法が発動する音)
(SE 短刀を振る音)
アリア 「闇属性の魔法!?」
リラ 「……!? 何も、見えない……!?」
フィリップ 「悪いけど、視覚を奪わせてもらった」
リラ 「視覚を……。まだそんな力を残していたなんて」
(SE 短刀を突きつける音)
フィリップ 「では、質問に答えてもらおうか」
リラ 「答えなかったらどうするんですか?」
フィリップ 「そんなこと、決まってるだろ」
ソフィー 「リラさん、本当に、さっきの女の子を暴走させたんですか?」
リラ 「暴走? 違いますよ、すべてが計画だったのです!」
ソフィー 「け、計画……?」
リラ 「はい、そうですよ、ソフィア皇女殿下」
ソフィー 「……」
リラ 「今回は残念ながら、役にも立たずに壊れてしまいましたけどね。騎士団長の崇高な目的のためには、この神化計画は必要なことなのです!」
レオンハルト 「騎士団長の崇高な目的? いったいなんだと言うんですか!?」
リラ 「騎士団長は、人類を救済しようとなさっているのです!」
アーロン 「救済? はっ、そりゃ崇高だな」
フィリップ 「…………」
ソフィー 「そのためだったら、子どもでも利用するんですか?」
リラ 「殿下、お言葉ですが、理想だけではこの世を生きていけません。崇高な目的には、尊い犠牲が必要なものです」
ルーナ 「話にならないわね……!」
(SE 刀を振る音)
(SE リラが倒れる音)
フィリップ 「あいかわらず、手が早いね」
ルーナ 「別に。この女の話が不快だっただけよ」
アーロン 「……おっさんは、リラの正体、知ってたのか?」
フィリップ 「なんとなく、だけどね」
ルーナ 「だったら、なんで今朝反論してこなかったのよ。襲ってきたの、結局アンタじゃなくて、リラだったじゃない」
フィリップ 「ま、怪しい行動してたのは事実だからね。ルーナちゃんが疑うのも無理ないよ」
ルーナ 「それでも! ……悪かったわね、仲間を疑って」
フィリップ 「……仲間、か。ごめんね」
ルーナ 「え?」
ソフィー 「あ、ルーナさんが自らの非を認めて謝ってます!!」
ルーナ 「なっ!? なんでそんな強調するような言い方なのよ!!」
レオンハルト 「でも、以前のルーナさんと比べると、本当に角が取れましたよね」
ルーナ 「レオまで……。アンタらの中の私はなんなのよ」
アリア 「自分の胸に聞いてみたらどうだい」
ソフィー 「やはは、その小さいお胸に聞いてみたらどうですか~?」
ルーナ 「ソフィ~? 殴られるならどこがいい?」
ソフィー 「殴られるのは確定してるんですね……」
◇
アクエリス、高台。
ソフィー 「ふぅ、戻ってきましたねー。明日も遺跡調査なの? レオくん」
レオンハルト 「明日は、アクエリス郊外の森にある祭壇跡に向かいます」
アリア 「やはり、旧時代の魔法が関わっているのだろうか」
ソフィー 「だとしたら、今日みたいなことが……」
ルーナ 「…………」
フィリップ 「ま、可能性はゼロじゃないよね。バーナードの計画を止めるのがこの遠征の目的なら、さ」
アリア 「旧時代の魔法、神降ろしを使った計画、いったいなんのために……」
ソフィー 「リラさんは、人類の救済のため、とは言ってましたけど」
アリア 「どんな脅威から救済するのか、それがわからない」
フィリップ 「……アリアちゃん、知らないんだ?」
アーロン 「なんだよ、おっさん、その言い方。いかにも訳知りって感じだな」
フィリップ 「え、だって、アリアちゃんって、由緒正しい騎士の家のメイザース家、それも現当主であり帝国騎士団団長のバーナード・メイザースの娘だよ? なにか知ってるかもって思うのは、普通じゃない?」
アーロン 「え、そうだったのか!?」
ルーナ 「知らなかったの? まあ、アーロンらしいっちゃらしいけど。アンタも知ってたわよね、ソフィー?」
ソフィー 「え、そうだったんですか!?」
ルーナ 「アンタ、一応皇族でしょ? なんで知らないのよ」
ソフィー 「やはは、レオくんも知らなかったよね?」
レオンハルト 「知らなかったです……」
ソフィー 「ほら」
ルーナ 「はあ、新参者のレオと比べてどうすんのよ」
ソフィー 「やはは……」
アーロン 「それでおっさん、色々聞きたいんだけどいいか?」
フィリップ 「答えられることなら」
アーロン 「単刀直入に聞く。おっさん、あんたの目的はなんだ?」
フィリップ 「……」
ルーナ 「アンタ、この期に及んで黙るつもり?」
アーロン 「ルーナ」
ルーナ 「……」
フィリップ 「──────復讐、かな」
アーロン 「騎士団長に、か?」
フィリップ 「ああ」
ソフィー 「……どうして、ですか?」
フィリップ 「それは……」
アーロン 「おっさん、それは言いたくなったらでいい。ソフィー」
ソフィー 「……ごめんなさい、ちょっと踏み込み過ぎました」
フィリップ 「いや、こっちこそごめんね、ソフィーちゃん」
ルーナ 「そういえばおっさん、リラに妙なこと言ってたわね」
アーロン 「ああ、幻影がどうのって」
フィリップ 「幻影は、バーナードの影として諜報、裏工作、暗殺を担当する者に与えられるコードネームだよ」
レオンハルト 「そんなの、聞いたことがなかった……」
フィリップ 「当然だよ。なんせ、騎士団内部の粛清、場合によっては貴族をも手にかけるんだ。バーナード直属の騎士でさえ知る者は限られる」
ルーナ 「で、おっさんはその幻影だったってこと?」
フィリップ 「ま、そういうこと」
アーロン 「その幻影を使って俺たちを邪魔してきたってことは、騎士団、というよりバーナード個人の目的があっての行動ってことになるのか……」
アリア 「……フィリップ、闇属性の魔法が使えるのなら、言ってくれてもよかったじゃないか」
フィリップ 「うぇ? 言わなきゃまずかった?」
アリア 「現代の魔法は、地水火風に加えて雷と氷の6属性を扱うのに対し、旧時代の魔法の属性は、光と闇の2属性を扱うんだ」
フィリップ 「ってことは、俺も旧時代の魔法を使えるってこと?」
アリア 「そういうことだ」
ルーナ 「ん? 旧時代の魔法がその2属性なら、大地の神殿にいた女神は、なんで地属性の攻撃をしてきたの?」
アリア 「旧時代の魔法、いや魂は、地水火風、雷と氷を隷属させることができる」
ルーナ 「魂に? そうか、旧時代の魔法は魂をそのまま魔力に変えるから……」
アリア 「そういうことだ。現代の魔法では、魂を自然の力に干渉するために使っているからね。魂にはもともと、そういう力があるということだろう」
ルーナ 「なるほどね」
アーロン 「……全然わからん」
アリア 「なに?」
ソフィー 「やはは、アーロンさん、魔法が苦手ですからね」
アリア 「使える属性は人それぞれではあるが、勉強すれば誰でも魔法が使えるというのに……」
アーロン 「勉強とか、やる気でないんだよな」
レオンハルト 「アーロンさん、よくそれで騎士団に入れましたね……」
アーロン 「感覚でなんとかなる」
フィリップ 「ま、実際なんとかなってるしね」
アリア 「むむむ、今さら魔法を習得するのは無理なようだね」
アーロン 「そういうことだ」
ルーナ 「なんでアンタがどや顔してんのよ」
(SE 風が吹く音)
女性 「…………」
ソフィー 「……なんでしょう、凄くうなだれてる人がいますね」
レオンハルト 「……放ってはおけません」
ルーナ 「よくやるわね……」
ソフィー 「って言いながら聞き耳立ててますよね」
ルーナ 「うっさい。黙ってなさい」
ソフィー 「はーい」
レオンハルト 「どうされたんですか? もうじき、日が落ちますよ?」
女性 「あなたは……?」
レオンハルト 「自分は、帝国騎士団で小隊長を任されているレオンハルト・ハイデルバッハです。自分でよければ、お話を伺いますよ」
女性 「騎士様?! どうか、お助けください!」
レオンハルト 「落ち着いてください。なにが、あったんですか?」
女性 「私、妹と2人で暮らしていたのですが、2週間ほど前から妹が行方不明でして……」
ルーナ 「……」
レオンハルト 「なるほど。妹さんを最後に見たのはどちらで?」
女性 「はい、ここから北に行ったところにある山に行くところを見たと、知り合いが……」
ルーナ 「北にある山……」
レオンハルト 「……まさか」
女性 「なにか、ご存知なのですか?」
ルーナ 「…………妹さんは──────」
女性 「え……?」
ルーナ 「──────私が手をかけました」
ソフィー 「悪い魔法使いが妹さん操って、襲い掛かってきたんです。ルーナさんは、それから私を守ろうとして……」
女性 「……そうですか。妹の安否がわかっただけでもよかったです……」
ルーナ 「ごめんなさい、私は……」
女性 「……すみません、どこかに行ってもらえませんか」
ルーナ 「……」
──────────────────
アーロン 「……ルーナ、辛い役割を押し付けて、悪かった」
ルーナ 「なによ、慰めてるつもり?」
アーロン 「わりぃかよ……」
ルーナ 「ふん、アンタが近づいたら、また暴走するかもしれなかったでしょ。この業は、私が背負っていくわ」
アーロン 「……」
ルーナ 「なにかおかしい?」
アーロン 「いや、アリアも前にそんなこと言ってたな、と思って。なんだかんだルーナとアリア、似てきたんじゃねえの?」
ルーナ 「……なっ、あんなのと一緒にしないでよ……」
アーロン 「なんだよ、照れてんのか? ……まあ、そういう風に心配してくれるところは、素直にうれしいけどな」
ルーナ 「……! うっさい。ほら、さっさと戻るわよ。明日も遺跡に行くんだから……」
アーロン 「はいはい」
(SE 早足になる音)
ソフィー 「ルーナさん、アーロンさんとなにを話していたんですか?」
ルーナ 「べ、別に、なんでもないわ」
ソフィー 「ほほぉーう、アーロンさんの天然たらしにあてられちゃったんですねぇ」
ルーナ 「だから、なんでもないって言ってんでしょ!」
アリア 「ふふ、まったく、騒がしいな」
アーロン 「そうだな」
アリア 「アーロン……、ありがとう、ルーナを元気づけてくれて」
アーロン 「なんだよ、アリアでもそんなこと言うんだな」
アリア 「ふふ、たまにはね。それに、ルーナの妹が死ぬ原因になった私では励ますことはできないから」
アーロン 「できるさ。今なら」
アリア 「……キミは、ずるいね。私が求めている言葉を、そうやって鼻唄でも唄うようにささやいてくれる」
フィリップ 「あの、人の目の前でいちゃつくのやめてもらっていい?」
アリア 「いちゃっ……!?」
レオンハルト 「あはは、胸やけしそうですよ……」
アリア 「レオまで……」
ソフィー 「皆さん、早く行かないと、ルーナさんに置いてかれちゃいますよー!」
つづく
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