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Ⅱ 騎士団の陰謀
第12.5話 とある騎士の喪失
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アーロン・ストライフ:平民から騎士になった少々素行の悪い少年。17歳~21歳。
レオンハルト・ハイデルバッハ:平民から騎士になった真面目な少年。15歳~19歳。
クラリス:アーロンと同期の少女。明るく快活な性格。17歳。
ローレンス・リード:平民騎士の小隊をまとめる隊長。44歳。
ハミルトン・レイ:平民騎士の小隊で参謀を務める男。28歳。
シンシア:アーロンの先輩騎士である女性。21歳。
アレン:通りすがりの剣士(自称)。26歳。
ズン:貴族出身の騎士。男性。23歳。
ドコ:貴族出身の騎士。男性。24歳。
アリア・エインズワース:帝都郊外で店を営んでいる魔女。21歳。
ソフィー:元ハルモニア帝国第2皇女。元気で明るい少女。18歳。
フィリップ・ベルナルド:ヴァンという怪鳥を相棒にしている鳥使いのおっさん。胡散臭い32歳。
ルーナ:ハルモニア帝国第4皇子の側近をしている女性。20歳。
リラ:考古学者の女性。少しおっちょこちょい。24歳。
~モブ~
おじさん
おばさん
男
帝国騎士団。団員のほとんどが貴族で構成されている騎士団。守るべき民を虐げ、税を巻き上げる騎士がのさばっている。
これは、平民出身の騎士を集めた小隊が辺境の田舎で活躍していた頃の物語。
ハルモニア帝国、辺境の町アルトは、ブドウ畑と歴史の町として名が知られていた。
ドコ 「おい、そこの。酒が少々足りないようだが?」
ズン 「税を上げられたいのか!?」
男 「ひい、今年は不作でして……」
ドコ 「言い訳か? さては我々を騙しているのではあるまいな?」
男 「滅相もございません……!」
ズン 「だったら代わりになるようなものを納めるんだな!」
ドコ 「おお、その首から下げている指輪、なかなか良いものを使っておるではないか」
男 「こ、これは、亡き妻の形見でして……」
ズン 「うるさい! とっととその指輪を……!」
(SE ぶつかる音)
アーロン 「おっと、悪いぶつかっちまった」
ドコ 「む、貴様、ここの者か。無礼であろう」
アーロン 「あ? ああ、誰かと思えば、帝都勤務の貴族騎士様じゃねえか。こんな辺境までなんの用だ?」
ズン 「貴様らの管理が甘いから、我々がわざわざこのような辺鄙なところまで足を運んでいるのだろう!」
アーロン 「そりゃご苦労なこった。そんな高貴な身分であらせられる貴族騎士様が、わざわざこんなところにまで来てやることが平民をいびることか。さすがは貴族、俺たち平民騎士とは器が違うな」
ドコ 「なっ! 貴様!」
アーロン 「で? その酒の代わりになるもの、だっけ?」
ズン 「そうだ! この男が充分な量の酒を用意できなかったんだ。代わりを求めるのは当然だろう!」
アーロン 「なんだよ、そんなことか」
(SE ポケットから宝石を取り出す音)
アーロン 「悪いな、今持ち合わせがこれしかないんだけど……」
ドコ 「ほう、なかなか良いものを持っているではないか。仕方ない、今回はこれで勘弁してやろう」
ズン 「ふん!」
(SE 騎士たちが去っていく音)
男 「ありがとうございました! ……しかし、よかったのですか? 高価な宝石を……」
アーロン 「大丈夫。あれは俺の持ち物じゃねえから」
男 「は、というと……?」
アーロン 「あいつら、熱心に宝石をコレクションしてるくせに、その宝石については無頓着なんだな。自分で落としたものを渡しただけなのに、喜んで帰りやがった」
男 「……! ありがとうございました!」
アーロン 「礼はいいよ。俺はただここを巡回してただけだ」
(SE アーロンが立ち去る音)
クラリス 「ちょっと、アーロン!」
アーロン 「おう、クラリス。どうしたんだ?」
クラリス 「どうしたんだ、じゃないよ! 人助けもいいけど、見てるこっちはひやひやしたんだから!」
アーロン 「悪い悪い、ついな」
クラリス 「つい、じゃない! あんたが変なことすると、こっちにも貴族の嫌がらせが来るんだから」
アーロン 「だけど、あいつら気に食わねえんだよ」
クラリス 「それには同感だけど……。角が立たないようにしてよ」
アーロン 「はいはい、わーってるよ」
クラリス 「もう、わかってないでしょ」
シンシア 「あら、2人とも、見回りご苦労様」
クラリス 「あ、シンシアさん。ただいま帰りました」
アーロン 「あー腹減った。今日の食事当番は誰だっけ?」
シンシア 「ハミルトンさんですよ」
アーロン 「なるほど、それは楽しみだ。どっかの誰かだったらどうしようかと思ったぜ」
クラリス 「どっかの誰か?」
シンシア 「ははは……」
クラリス 「え、誰なんですか?」
アーロン 「無自覚だからタチ悪いよな」
シンシア 「ノーコメント……ということで」
クラリス 「ええ~! なんなんですか?! 2人して!」
シンシア 「っと、そろそろ行かなくちゃ……」
クラリス 「? どこに行くんですか?」
シンシア 「あら? 言ってなかった? 今日新しく来る子を迎えに行くのよ」
アーロン 「新入り?」
シンシア 「そう。私もまだ会ったことはないけどね」
クラリス 「新入りかあ。ということは、私たちの初の後輩ってことになるね、アーロン」
アーロン 「そうだな。生意気じゃなけりゃいいけど」
クラリス 「どの口が言ってるの?」
アーロン 「この口」
クラリス 「もう、先が思いやられるよ……」
シンシア 「相変わらず仲が良いわね。その調子で新人の教育お願いね」
クラリス 「な、仲良いって……。そんなんじゃないですよー」
アーロン 「そうそう」
シンシア 「ふふ、そう。それじゃ、今度こそ私は行くわ」
クラリス 「あ、はい、すみません、引き止めちゃって」
シンシア 「いいのよ」
(SE シンシアが去る音)
◇
騎士の駐在所、食堂。
(SE 木製の扉が開かれる音)
ローレンス 「うーい、新人が来たぞ」
レオンハルト 「…………」
ハミルトン 「ふむ、ちょうど夕餉の支度ができたところだ」
アーロン 「おお、そいつが噂の新入りか」
クラリス 「男の子かあ」
シンシア 「まあまあ、まずは彼の自己紹介を聞きましょう」
ローレンス 「おうし、じゃあ頼むな」
レオンハルト 「はい、レオンハルト・ハイデルバッハです。本日よりアルト勤務となりました。どうぞよろしくお願いいたします」
クラリス 「おお、どこかの誰かさんとは違って、真面目そうね」
アーロン 「おい、誰のことだ?」
クラリス 「自分の胸に聞いてみれば?」
ローレンス 「ああ、そこの仲良く言い合いをしている2人がお前にここでのやり方を教えてくれるだろう」
レオンハルト 「よろしくお願いします」
アーロン 「おうよろしく、えと……」
レオンハルト 「あ、レオンハルト・ハイデルバッハです」
アーロン 「レオンハルト……ちょっと長いな、レオって呼んでもいいか?」
レオンハルト 「はい、大丈夫です」
アーロン 「おっと、俺はアーロン・ストライフ。アーロンでいい。で、こっちのがクラリスだ」
クラリス 「ちょっとアーロン、私の紹介雑じゃなかった? ……よろしくね、レオくん」
レオンハルト 「……! はい、よろしくお願いします!」
ハミルトン 「私は、ハミルトン・レイだ。ここで参謀を務めている」
レオンハルト 「よろしくお願いします」
ハミルトン 「では、夕餉にしよう。アーロン、料理を運ぶから、手伝ってくれ」
アーロン 「うーい」
クラリス 「そうだ、ここの食事は当番制だから、ちゃんとした料理作ってね」
レオンハルト 「はい、頑張ります」
(SE 食器を置く音)
ハミルトン 「詳しくは言わないが、君にそのセリフは言ってほしくなかったな」
クラリス 「はい?」
レオンハルト 「……どういうことですか?」
(SE 食器を置く音)
アーロン 「じきにわかる」
ローレンス 「おお、ハミルトン、今日はずいぶん気合が入ってんな」
ハミルトン 「新人の歓迎の意を込めて、な。それに下ごしらえは、シンシアにも手伝って貰ったんだ」
シンシア 「ハミルトンさんの料理の腕にはかないませんけど」
ローレンス 「そいつは楽しみだ」
ハミルトン 「今日はレオンハルトの歓迎するという主旨の料理なんだ、ひとりでたいらげないでくれよ」
アーロン 「だってよ、隊長」
ローレンス 「うぐ」
ハミルトン 「アーロン、君もだ」
アーロン 「ちっ」
クラリス 「こら、舌打ちしない」
アーロン 「へいへい」
レオンハルト 「……ふふ、ははは」
アーロン 「あ?」
クラリス 「レオくん? どうしたの?」
レオンハルト 「あ、すみません。……温かい場所でよかったです」
クラリス 「? ちょっと暑かったかな? 窓開けるね」
アーロン 「いや、そういう意味じゃねーだろ」
レオンハルト 「ははは、すみません。良い人たちばかりで良かった、と思いまして」
シンシア 「ふふふ、よかったわ。さ、そろそろ食べましょう」
一同 「いただきまーす!」
◇
翌日。アルトの町。
クラリス 「よーし、それじゃ今日は、アルトの町を案内するよ!」
レオンハルト 「はい! よろしくお願いします!」
アーロン 「なんで俺まで付き合わなきゃいけないんだよ」
クラリス 「私とアーロンが教育係なんだから、あんたが付き合うのは当然でしょ」
アーロン 「へいへい。……あ、あれが雑貨屋で、あそこが診療所、おお、あそこの料理屋は美味しいから覚えとけー」
レオンハルト 「あ、はい!」
クラリス 「……なんだかんだちゃんとやるんじゃない。というか、あそこ美味しいんだ」
アーロン 「そうだ、あそこの店のおっさんが最近腰をやったらしくてな。あの薬草、届けておいてくれ」
クラリス 「ああ、あれ? でも、あれってアーロンもストックなかった? 渡しておきなさいよ」
アーロン 「あのおっさん、俺からだと受け取らねえんだよ。だから、クラリスの方から渡してくれねえか?」
クラリス 「えーやだよー、あのおじさんいやらしい目で見てくるんだもん」
アーロン 「困ってる人がいたら助けるのが?」
クラリス 「騎士の仕事、です~。はいはい行くわよ。行けばいいんでしょ」
レオンハルト 「はは、仲がいいんですね」
アーロン・クラリス 「よくない!」
レオンハルト 「ははは」
おじさん 「おお、アンタ、新入りかい?」
レオンハルト 「え、はい! 昨日配属されました」
おじさん 「おお、ぴかぴかの新入りじゃねえか。なら教えてやる。あの2人はな、幼馴染ってやつで、俺らがつけ入る隙はねえよ」
レオンハルト 「あはは……」
アーロン 「あ? って誰かと思えば、おっさんじゃねえか。腰はいいのか?」
おじさん 「え? あーいたたたた……! こりゃクラリスちゃんの手厚い看病がないと治らねえな!」
クラリス 「ほらー! こうなる!」
おじさん 「痛い! あー死んじゃう!」
アーロン 「だってよ、クラリス、頼んだ」
クラリス 「はいはい、しょうがないなー。ほらおじさん、お店戻ろう」
おじさん 「はーい」
(SE 2人が去っていく音)
アーロン 「よし、うるさいのがいなくなったな」
レオンハルト 「……あの、アーロンさん?」
アーロン 「お?」
(SE クラリスがダッシュで戻ってくる音)
クラリス 「うるさいのが、なんだって?」
アーロン 「げっ、ずいぶん早いお戻りで」
クラリス 「げっ、てなによ。あんなの、薬草渡して、リップサービスでもしとけば軽くあしらえるの」
アーロン 「へーへー、そうですか」
クラリス 「さ、レオくん、この町は田舎だけど、案内しなくちゃいけないところはたくさんあるんだよ」
レオンハルト 「はい!」
◇
アルトの町、広場。
レオンハルト 「ここが、広場、ですか」
クラリス 「そう、大体ここに来ると街の噂は聞こえてくるから、見回りのときに覚えておいてね」
レオンハルト 「はい!」
クラリス 「……て、アーロンは?」
レオンハルト 「そういえば、いませんね」
クラリス 「あいつ、サボりかー?」
(SE 扉が開く音)
アーロン 「いやおばちゃん、こんなに貰えねえって」
おばさん 「いいのいいの! これはお礼なんだから! それに、新人が入ったって聞いたよ。ここのパン、宣伝しといてよ」
アーロン 「ったく、ありがとよ」
おばさん 「そうそう、ローレンスさんによろしくね」
アーロン 「わかったよ」
(SE 扉が閉まる音)
クラリス 「はあ、あいつ……」
アーロン 「いや、悪い、おばちゃんの手伝いしてたわ」
クラリス 「まったく、急にいなくならないでよ」
アーロン 「悪かったって。……あむ、ほら、お前らもパン食えよ。あのパン屋、ほんとに美味いから」
クラリス 「うあふ、ひょっほ、つっくぉまないへよ!」
アーロン 「はは、悪い悪い、ほら、レオも」
レオンハルト 「ありがとうございます。あむ……。美味しいですね」
アーロン 「だろ? こうやって、人に触れながら見回りするのも騎士の務めってやつじゃないか、って俺は思う」
レオンハルト 「そうですね、覚えておきます」
アーロン 「おう」
クラリス 「……ごくん。ちょっと、なに勝手にまとめちゃってるのよ」
アーロン 「別にいいだろ」
クラリス 「そうだけど、まだ時間あるし、遺跡の方とか行こうよ」
アーロン 「遺跡? なんでそんなとこまで行かなくちゃ……」
クラリス 「騎士の務めでしょー」
アーロン 「へいへい」
◇
アルトの町、旧ハルモニア遺跡。
クラリス 「はい、ここが旧ハルモニア遺跡でーす」
レオンハルト 「旧ハルモニア遺跡?」
アーロン 「なんでも、昔の帝国があった場所なんだってさ」
クラリス 「そう、旧時代の遺跡なんだけど、魔法が暴走して滅んじゃったんだって」
レオンハルト 「魔法、ですか」
クラリス 「帝国自体、魔法で発展してきたからねー」
レオンハルト 「なるほど……」
アーロン 「ま、この遺跡にはもう何も残ってないけどな」
レオンハルト 「え、そうなんですか?」
アーロン 「ああ、俺も聞いた話だからよくわかんねえけど、先代の皇帝のときに色々運び出されたんだってさ」
クラリス 「そうそう、旧ハルモニアで使われていた皇帝の証とか持ってったんだって」
レオンハルト 「皇帝の、証?」
クラリス 「凄い剣なんだって」
レオンハルト 「剣、ですか」
(SE 足音が近づく音)
ハミルトン 「む、ここまで来てたのか……」
クラリス 「あ、ハミルトンさん、お疲れ様です」
アーロン 「どうしたんすか?」
ハミルトン 「いや、見回りをしていただけだ」
アーロン 「魔物関係っすか?」
ハミルトン 「ああ。レオ、ここは魔物除けがない。たまに魔物が街に来ることがある。見回りをするときは気を引き締めるようにな」
レオンハルト 「はい!」
クラリス 「そういえば、先代の皇帝のときまでは魔物が出なかったんですよね?」
ハミルトン 「ああ、俺もローレンス隊には数年前に異動してきたから詳しくは知らないが、皇帝の証が持ち出されてから、魔物が町に入ってくるようになったらしい」
クラリス 「そうだったんだ……」
ハミルトン 「それも、この遺跡の方面から魔物が入ってくることが多いらしい」
アーロン 「門はあるけど、少し機動力のある魔物は乗り越えてくるからな」
(SE 強い風が吹く音)
クラリス 「きゃっ」
レオンハルト 「……強い風でしたね」
アーロン 「遺跡からだったな」
ハミルトン 「……すぐに戻ろう。門を閉める」
◇
翌日。
ローレンス(回想) 「ハミルトンの申し出で遺跡につながる門を閉めることになった。それと、周辺の魔物の動きがどうもおかしい。各自、警戒を怠らないよう頼むぞ」
クラリス 「────────って小隊長は言ってたけど、いったいなにが起こってるんだろうね」
アーロン 「さあな、昨日のあの遺跡から吹いた風、あれが関係してたりしてな」
レオンハルト 「だとしたら、あの遺跡にはいったい……」
(SE 門が崩れる音)
クラリス 「な、なに!?」
アーロン 「遺跡の方からだ。行くぞ!」
(SE 走り出す音)
────────────
遺跡。
アーロン 「どうした、なにが起きた?」
おばさん 「突然門が崩れたのさ。けが人はいないみたいだけどね」
アーロン 「そうか、よかった」
シンシア 「何があったの!?」
ハミルトン 「……門が、崩れたのか」
ローレンス 「おいおい、修理費もバカになんねえってのに」
クラリス 「小隊長!」
ローレンス 「……ハミルトン、やっぱり遺跡になにかあるのか?」
ハミルトン 「その可能性は高い」
レオンハルト 「…………あ、あれ、なんです……?」
クラリス 「……あれ、魔物、なんですか?」
シンシア 「それにしては、雰囲気が違うような……」
ローレンス 「……! おいおい、ありゃまるで」
ハミルトン 「旧時代の魔法、か……」
アーロン 「知ってんすか?」
ハミルトン 「……シンシア! レオ! 住民に避難を促すんだ!」
シンシア・レオンハルト 「はい!」
ローレンス 「残りはあれをなんとかするぞ!」
◇
死神 『■■■■■■■■■■■』
クラリス 「な、なに、空気がやけに重く感じるよ……!」
ハミルトン 「やはり、か」
ローレンス 「はあああっ!」
(SE 剣を振る音)
死神 『■■■■■』
ローレンス 「おいおい、なんの冗談だ?」
アーロン 「嘘だろ、剣が……」
ハミルトン 「攻撃が通っていない……? ならば────」
ハミルトン 「──────土蜘蛛……」
(SE 土煙が立つ音)
死神 『■■■■■』
(SE 魔法が解除される音)
ハミルトン 「魔法もだめか……」
クラリス 「でも、足止めするしかないよ!」
死神 『■■■■■■■■』
(SE 黒いオーラが薙ぐ音)
アーロン 「クラリス!」
クラリス 「へ……? かふ……っ」
(SE 血が地面に落ちる音)
クラリス 「あ、アーロン……」
(SE アーロンがクラリスを抱きとめる音)
アーロン 「クラリス!」
クラリス 「……あ、あはは、わ、私、死んじゃうの?」
アーロン 「いや、死なない」
クラリス 「……はあ、はあ、アーロン、わ、私、ね……」
アーロン 「クラリス、喋るな」
クラリス 「私……、私ね、アーロンのこと……、すき……」
(SE クラリスが意識をなくし、アーロンに身体をゆだねる音)
アーロン 「…………!!」
死神 『■■■■■■■』
ローレンス 「……! 次が来るぞ!」
ハミルトン 「アーロン!」
アーロン 「……俺も────」
ハミルトン 「アーロン! 気持ちはわかるが構えろ!」
死神 『■■■■■■■■■■』
アーロン 「──────好きだった」
(SE 魔力を放出する音)
(SE 剣を振る音)
死神 『■■■■■■■■■ッ』
ハミルトン 「攻撃が通った?」
アーロン 「うぐっ!」
ローレンス 「魔力を放出して攻撃をしたのか」
ハミルトン 「いや、ただの魔力じゃない。その源泉は、魂だ」
ローレンス 「魂? それって、旧時代の……」
死神 『■■■■■■■■■』
アーロン 「ぐ……」
(SE 時が止まる音)
アーロン 「……なんだ?」
アレン 「ちょうどいい時間だったみたいだな」
アーロン 「……あんたは?」
アレン 「俺は、通りすがりの魔法使いの助手だ」
アーロン 「なんだよ、そりゃ」
アレン 「まあ、どうでもいいじゃねえか。それよりあれ、倒すんだろ?」
アーロン 「ああ、あいつは、クラリスを……!」
アレン 「それならこの剣を使え」
アーロン 「これは?」
アレン 「調律の剣、皇帝の証ってやつだ。旧時代の魔法にはよく効くんだ」
アーロン 「皇帝の、証……?」
アレン 「それじゃあ、時を動かすぞ」
(SE 時が動き出す音)
アーロン 「……! あの男は……?」
ハミルトン 「アーロン、どうした?」
死神 『■■■■■■■■■■■』
ローレンス 「アーロン、それ……」
アーロン 「……! 皇帝の証……」
(SE 魔力が宿る音)
アーロン 「これなら……」
(SE 剣を振る音)
死神 『■■■■■■■■■ッ!』
アーロン 「うおおおおっ!!」
(SE 剣を振る音)
アーロン 「偽・燕返し!」
死神 『■■■■■■■■■!!!』
(SE 死神が霧散する音)
アーロン 「……うぐぁっ!!」
(SE 剣が消える音)
(SE 魔力がアーロンの身体に吸収される音)
アーロン 「うぐああああああッ!」
ハミルトン 「アーロン! 大丈夫か」
アーロン 「……うぅ」
(SE アーロンが倒れる音)
◇
騎士の駐在所。
アーロン 「う、うう……」
シンシア 「起きた?」
アーロン 「……あ、ああ」
レオンハルト 「アーロンさん! よかった! 僕、アーロンさんまで、と思ったら……!」
シンシア 「レオ……」
レオンハルト 「あ……」
アーロン 「…………!! クラリスは!?」
シンシア 「クラリスは……」
アーロン 「………………そう、か」
レオンハルト 「…………」
アーロン 「そうか。俺は、守れなかったのか」
────────────
現在。
ルーナ 「アンタも色々あったのね。というか、そんな大事なこと知ってたんだったら先に言いなさいよ!」
アリア 「まったくだ。過去に想い合っていた人がいるなんて、一言も聞いてなかったよ」
ルーナ 「いやそっちじゃないでしょ」
ソフィー 「……それで、結局その皇帝の証も時を止めた男の人の行方もわかっていないんですよね?」
アーロン 「ああ、騎士団を辞めたあと、酒場で色々情報を聞いたけど、なにも得られなかった」
フィリップ 「その情報を集めている過程で、女遊びも覚えちゃったわけだ」
ソフィー 「そうなんですか!?」
アーロン 「ノーコメントだ」
ルーナ 「否定はしないのね」
アーロン 「それより、あの時を止めた男、何者だったんだ? あのときは、ただの魔法使いだと思ってたんだけど、今思い返してみれば、あれは皇族が使う特殊な魔法だった」
ルーナ 「時を止める魔法……。ソフィー、アンタなにか知らないの?」
ソフィー 「すみません。他の兄弟たちは、あまり皇族の魔法を見せる人ではないので……」
アリア 「……ふむ、ソフィー、キミの魔法は治癒とまだ覚醒していないもうひとつ。アレキサンダーは未来視と竜化……どれも時を止める魔法とは違うね」
ルーナ 「アルトリウス殿下の魔法は?」
ソフィー 「……すみません。わからないです」
アーロン 「ルーナもソフィーも知らないのか」
フィリップ 「確かに、俺たちあの皇子と協力関係にあるのに、手の内はあまり見せてくれないよね」
アーロン 「まあ、アルトリウスの年齢を考えると、俺が見た時を止める魔法の男ではないだろうな」
(SE 重い扉が開く音)
リラ 「あ、皆さん、お待たせしました。調査が済んだので、この神殿を出ましょう」
つづく
レオンハルト・ハイデルバッハ:平民から騎士になった真面目な少年。15歳~19歳。
クラリス:アーロンと同期の少女。明るく快活な性格。17歳。
ローレンス・リード:平民騎士の小隊をまとめる隊長。44歳。
ハミルトン・レイ:平民騎士の小隊で参謀を務める男。28歳。
シンシア:アーロンの先輩騎士である女性。21歳。
アレン:通りすがりの剣士(自称)。26歳。
ズン:貴族出身の騎士。男性。23歳。
ドコ:貴族出身の騎士。男性。24歳。
アリア・エインズワース:帝都郊外で店を営んでいる魔女。21歳。
ソフィー:元ハルモニア帝国第2皇女。元気で明るい少女。18歳。
フィリップ・ベルナルド:ヴァンという怪鳥を相棒にしている鳥使いのおっさん。胡散臭い32歳。
ルーナ:ハルモニア帝国第4皇子の側近をしている女性。20歳。
リラ:考古学者の女性。少しおっちょこちょい。24歳。
~モブ~
おじさん
おばさん
男
帝国騎士団。団員のほとんどが貴族で構成されている騎士団。守るべき民を虐げ、税を巻き上げる騎士がのさばっている。
これは、平民出身の騎士を集めた小隊が辺境の田舎で活躍していた頃の物語。
ハルモニア帝国、辺境の町アルトは、ブドウ畑と歴史の町として名が知られていた。
ドコ 「おい、そこの。酒が少々足りないようだが?」
ズン 「税を上げられたいのか!?」
男 「ひい、今年は不作でして……」
ドコ 「言い訳か? さては我々を騙しているのではあるまいな?」
男 「滅相もございません……!」
ズン 「だったら代わりになるようなものを納めるんだな!」
ドコ 「おお、その首から下げている指輪、なかなか良いものを使っておるではないか」
男 「こ、これは、亡き妻の形見でして……」
ズン 「うるさい! とっととその指輪を……!」
(SE ぶつかる音)
アーロン 「おっと、悪いぶつかっちまった」
ドコ 「む、貴様、ここの者か。無礼であろう」
アーロン 「あ? ああ、誰かと思えば、帝都勤務の貴族騎士様じゃねえか。こんな辺境までなんの用だ?」
ズン 「貴様らの管理が甘いから、我々がわざわざこのような辺鄙なところまで足を運んでいるのだろう!」
アーロン 「そりゃご苦労なこった。そんな高貴な身分であらせられる貴族騎士様が、わざわざこんなところにまで来てやることが平民をいびることか。さすがは貴族、俺たち平民騎士とは器が違うな」
ドコ 「なっ! 貴様!」
アーロン 「で? その酒の代わりになるもの、だっけ?」
ズン 「そうだ! この男が充分な量の酒を用意できなかったんだ。代わりを求めるのは当然だろう!」
アーロン 「なんだよ、そんなことか」
(SE ポケットから宝石を取り出す音)
アーロン 「悪いな、今持ち合わせがこれしかないんだけど……」
ドコ 「ほう、なかなか良いものを持っているではないか。仕方ない、今回はこれで勘弁してやろう」
ズン 「ふん!」
(SE 騎士たちが去っていく音)
男 「ありがとうございました! ……しかし、よかったのですか? 高価な宝石を……」
アーロン 「大丈夫。あれは俺の持ち物じゃねえから」
男 「は、というと……?」
アーロン 「あいつら、熱心に宝石をコレクションしてるくせに、その宝石については無頓着なんだな。自分で落としたものを渡しただけなのに、喜んで帰りやがった」
男 「……! ありがとうございました!」
アーロン 「礼はいいよ。俺はただここを巡回してただけだ」
(SE アーロンが立ち去る音)
クラリス 「ちょっと、アーロン!」
アーロン 「おう、クラリス。どうしたんだ?」
クラリス 「どうしたんだ、じゃないよ! 人助けもいいけど、見てるこっちはひやひやしたんだから!」
アーロン 「悪い悪い、ついな」
クラリス 「つい、じゃない! あんたが変なことすると、こっちにも貴族の嫌がらせが来るんだから」
アーロン 「だけど、あいつら気に食わねえんだよ」
クラリス 「それには同感だけど……。角が立たないようにしてよ」
アーロン 「はいはい、わーってるよ」
クラリス 「もう、わかってないでしょ」
シンシア 「あら、2人とも、見回りご苦労様」
クラリス 「あ、シンシアさん。ただいま帰りました」
アーロン 「あー腹減った。今日の食事当番は誰だっけ?」
シンシア 「ハミルトンさんですよ」
アーロン 「なるほど、それは楽しみだ。どっかの誰かだったらどうしようかと思ったぜ」
クラリス 「どっかの誰か?」
シンシア 「ははは……」
クラリス 「え、誰なんですか?」
アーロン 「無自覚だからタチ悪いよな」
シンシア 「ノーコメント……ということで」
クラリス 「ええ~! なんなんですか?! 2人して!」
シンシア 「っと、そろそろ行かなくちゃ……」
クラリス 「? どこに行くんですか?」
シンシア 「あら? 言ってなかった? 今日新しく来る子を迎えに行くのよ」
アーロン 「新入り?」
シンシア 「そう。私もまだ会ったことはないけどね」
クラリス 「新入りかあ。ということは、私たちの初の後輩ってことになるね、アーロン」
アーロン 「そうだな。生意気じゃなけりゃいいけど」
クラリス 「どの口が言ってるの?」
アーロン 「この口」
クラリス 「もう、先が思いやられるよ……」
シンシア 「相変わらず仲が良いわね。その調子で新人の教育お願いね」
クラリス 「な、仲良いって……。そんなんじゃないですよー」
アーロン 「そうそう」
シンシア 「ふふ、そう。それじゃ、今度こそ私は行くわ」
クラリス 「あ、はい、すみません、引き止めちゃって」
シンシア 「いいのよ」
(SE シンシアが去る音)
◇
騎士の駐在所、食堂。
(SE 木製の扉が開かれる音)
ローレンス 「うーい、新人が来たぞ」
レオンハルト 「…………」
ハミルトン 「ふむ、ちょうど夕餉の支度ができたところだ」
アーロン 「おお、そいつが噂の新入りか」
クラリス 「男の子かあ」
シンシア 「まあまあ、まずは彼の自己紹介を聞きましょう」
ローレンス 「おうし、じゃあ頼むな」
レオンハルト 「はい、レオンハルト・ハイデルバッハです。本日よりアルト勤務となりました。どうぞよろしくお願いいたします」
クラリス 「おお、どこかの誰かさんとは違って、真面目そうね」
アーロン 「おい、誰のことだ?」
クラリス 「自分の胸に聞いてみれば?」
ローレンス 「ああ、そこの仲良く言い合いをしている2人がお前にここでのやり方を教えてくれるだろう」
レオンハルト 「よろしくお願いします」
アーロン 「おうよろしく、えと……」
レオンハルト 「あ、レオンハルト・ハイデルバッハです」
アーロン 「レオンハルト……ちょっと長いな、レオって呼んでもいいか?」
レオンハルト 「はい、大丈夫です」
アーロン 「おっと、俺はアーロン・ストライフ。アーロンでいい。で、こっちのがクラリスだ」
クラリス 「ちょっとアーロン、私の紹介雑じゃなかった? ……よろしくね、レオくん」
レオンハルト 「……! はい、よろしくお願いします!」
ハミルトン 「私は、ハミルトン・レイだ。ここで参謀を務めている」
レオンハルト 「よろしくお願いします」
ハミルトン 「では、夕餉にしよう。アーロン、料理を運ぶから、手伝ってくれ」
アーロン 「うーい」
クラリス 「そうだ、ここの食事は当番制だから、ちゃんとした料理作ってね」
レオンハルト 「はい、頑張ります」
(SE 食器を置く音)
ハミルトン 「詳しくは言わないが、君にそのセリフは言ってほしくなかったな」
クラリス 「はい?」
レオンハルト 「……どういうことですか?」
(SE 食器を置く音)
アーロン 「じきにわかる」
ローレンス 「おお、ハミルトン、今日はずいぶん気合が入ってんな」
ハミルトン 「新人の歓迎の意を込めて、な。それに下ごしらえは、シンシアにも手伝って貰ったんだ」
シンシア 「ハミルトンさんの料理の腕にはかないませんけど」
ローレンス 「そいつは楽しみだ」
ハミルトン 「今日はレオンハルトの歓迎するという主旨の料理なんだ、ひとりでたいらげないでくれよ」
アーロン 「だってよ、隊長」
ローレンス 「うぐ」
ハミルトン 「アーロン、君もだ」
アーロン 「ちっ」
クラリス 「こら、舌打ちしない」
アーロン 「へいへい」
レオンハルト 「……ふふ、ははは」
アーロン 「あ?」
クラリス 「レオくん? どうしたの?」
レオンハルト 「あ、すみません。……温かい場所でよかったです」
クラリス 「? ちょっと暑かったかな? 窓開けるね」
アーロン 「いや、そういう意味じゃねーだろ」
レオンハルト 「ははは、すみません。良い人たちばかりで良かった、と思いまして」
シンシア 「ふふふ、よかったわ。さ、そろそろ食べましょう」
一同 「いただきまーす!」
◇
翌日。アルトの町。
クラリス 「よーし、それじゃ今日は、アルトの町を案内するよ!」
レオンハルト 「はい! よろしくお願いします!」
アーロン 「なんで俺まで付き合わなきゃいけないんだよ」
クラリス 「私とアーロンが教育係なんだから、あんたが付き合うのは当然でしょ」
アーロン 「へいへい。……あ、あれが雑貨屋で、あそこが診療所、おお、あそこの料理屋は美味しいから覚えとけー」
レオンハルト 「あ、はい!」
クラリス 「……なんだかんだちゃんとやるんじゃない。というか、あそこ美味しいんだ」
アーロン 「そうだ、あそこの店のおっさんが最近腰をやったらしくてな。あの薬草、届けておいてくれ」
クラリス 「ああ、あれ? でも、あれってアーロンもストックなかった? 渡しておきなさいよ」
アーロン 「あのおっさん、俺からだと受け取らねえんだよ。だから、クラリスの方から渡してくれねえか?」
クラリス 「えーやだよー、あのおじさんいやらしい目で見てくるんだもん」
アーロン 「困ってる人がいたら助けるのが?」
クラリス 「騎士の仕事、です~。はいはい行くわよ。行けばいいんでしょ」
レオンハルト 「はは、仲がいいんですね」
アーロン・クラリス 「よくない!」
レオンハルト 「ははは」
おじさん 「おお、アンタ、新入りかい?」
レオンハルト 「え、はい! 昨日配属されました」
おじさん 「おお、ぴかぴかの新入りじゃねえか。なら教えてやる。あの2人はな、幼馴染ってやつで、俺らがつけ入る隙はねえよ」
レオンハルト 「あはは……」
アーロン 「あ? って誰かと思えば、おっさんじゃねえか。腰はいいのか?」
おじさん 「え? あーいたたたた……! こりゃクラリスちゃんの手厚い看病がないと治らねえな!」
クラリス 「ほらー! こうなる!」
おじさん 「痛い! あー死んじゃう!」
アーロン 「だってよ、クラリス、頼んだ」
クラリス 「はいはい、しょうがないなー。ほらおじさん、お店戻ろう」
おじさん 「はーい」
(SE 2人が去っていく音)
アーロン 「よし、うるさいのがいなくなったな」
レオンハルト 「……あの、アーロンさん?」
アーロン 「お?」
(SE クラリスがダッシュで戻ってくる音)
クラリス 「うるさいのが、なんだって?」
アーロン 「げっ、ずいぶん早いお戻りで」
クラリス 「げっ、てなによ。あんなの、薬草渡して、リップサービスでもしとけば軽くあしらえるの」
アーロン 「へーへー、そうですか」
クラリス 「さ、レオくん、この町は田舎だけど、案内しなくちゃいけないところはたくさんあるんだよ」
レオンハルト 「はい!」
◇
アルトの町、広場。
レオンハルト 「ここが、広場、ですか」
クラリス 「そう、大体ここに来ると街の噂は聞こえてくるから、見回りのときに覚えておいてね」
レオンハルト 「はい!」
クラリス 「……て、アーロンは?」
レオンハルト 「そういえば、いませんね」
クラリス 「あいつ、サボりかー?」
(SE 扉が開く音)
アーロン 「いやおばちゃん、こんなに貰えねえって」
おばさん 「いいのいいの! これはお礼なんだから! それに、新人が入ったって聞いたよ。ここのパン、宣伝しといてよ」
アーロン 「ったく、ありがとよ」
おばさん 「そうそう、ローレンスさんによろしくね」
アーロン 「わかったよ」
(SE 扉が閉まる音)
クラリス 「はあ、あいつ……」
アーロン 「いや、悪い、おばちゃんの手伝いしてたわ」
クラリス 「まったく、急にいなくならないでよ」
アーロン 「悪かったって。……あむ、ほら、お前らもパン食えよ。あのパン屋、ほんとに美味いから」
クラリス 「うあふ、ひょっほ、つっくぉまないへよ!」
アーロン 「はは、悪い悪い、ほら、レオも」
レオンハルト 「ありがとうございます。あむ……。美味しいですね」
アーロン 「だろ? こうやって、人に触れながら見回りするのも騎士の務めってやつじゃないか、って俺は思う」
レオンハルト 「そうですね、覚えておきます」
アーロン 「おう」
クラリス 「……ごくん。ちょっと、なに勝手にまとめちゃってるのよ」
アーロン 「別にいいだろ」
クラリス 「そうだけど、まだ時間あるし、遺跡の方とか行こうよ」
アーロン 「遺跡? なんでそんなとこまで行かなくちゃ……」
クラリス 「騎士の務めでしょー」
アーロン 「へいへい」
◇
アルトの町、旧ハルモニア遺跡。
クラリス 「はい、ここが旧ハルモニア遺跡でーす」
レオンハルト 「旧ハルモニア遺跡?」
アーロン 「なんでも、昔の帝国があった場所なんだってさ」
クラリス 「そう、旧時代の遺跡なんだけど、魔法が暴走して滅んじゃったんだって」
レオンハルト 「魔法、ですか」
クラリス 「帝国自体、魔法で発展してきたからねー」
レオンハルト 「なるほど……」
アーロン 「ま、この遺跡にはもう何も残ってないけどな」
レオンハルト 「え、そうなんですか?」
アーロン 「ああ、俺も聞いた話だからよくわかんねえけど、先代の皇帝のときに色々運び出されたんだってさ」
クラリス 「そうそう、旧ハルモニアで使われていた皇帝の証とか持ってったんだって」
レオンハルト 「皇帝の、証?」
クラリス 「凄い剣なんだって」
レオンハルト 「剣、ですか」
(SE 足音が近づく音)
ハミルトン 「む、ここまで来てたのか……」
クラリス 「あ、ハミルトンさん、お疲れ様です」
アーロン 「どうしたんすか?」
ハミルトン 「いや、見回りをしていただけだ」
アーロン 「魔物関係っすか?」
ハミルトン 「ああ。レオ、ここは魔物除けがない。たまに魔物が街に来ることがある。見回りをするときは気を引き締めるようにな」
レオンハルト 「はい!」
クラリス 「そういえば、先代の皇帝のときまでは魔物が出なかったんですよね?」
ハミルトン 「ああ、俺もローレンス隊には数年前に異動してきたから詳しくは知らないが、皇帝の証が持ち出されてから、魔物が町に入ってくるようになったらしい」
クラリス 「そうだったんだ……」
ハミルトン 「それも、この遺跡の方面から魔物が入ってくることが多いらしい」
アーロン 「門はあるけど、少し機動力のある魔物は乗り越えてくるからな」
(SE 強い風が吹く音)
クラリス 「きゃっ」
レオンハルト 「……強い風でしたね」
アーロン 「遺跡からだったな」
ハミルトン 「……すぐに戻ろう。門を閉める」
◇
翌日。
ローレンス(回想) 「ハミルトンの申し出で遺跡につながる門を閉めることになった。それと、周辺の魔物の動きがどうもおかしい。各自、警戒を怠らないよう頼むぞ」
クラリス 「────────って小隊長は言ってたけど、いったいなにが起こってるんだろうね」
アーロン 「さあな、昨日のあの遺跡から吹いた風、あれが関係してたりしてな」
レオンハルト 「だとしたら、あの遺跡にはいったい……」
(SE 門が崩れる音)
クラリス 「な、なに!?」
アーロン 「遺跡の方からだ。行くぞ!」
(SE 走り出す音)
────────────
遺跡。
アーロン 「どうした、なにが起きた?」
おばさん 「突然門が崩れたのさ。けが人はいないみたいだけどね」
アーロン 「そうか、よかった」
シンシア 「何があったの!?」
ハミルトン 「……門が、崩れたのか」
ローレンス 「おいおい、修理費もバカになんねえってのに」
クラリス 「小隊長!」
ローレンス 「……ハミルトン、やっぱり遺跡になにかあるのか?」
ハミルトン 「その可能性は高い」
レオンハルト 「…………あ、あれ、なんです……?」
クラリス 「……あれ、魔物、なんですか?」
シンシア 「それにしては、雰囲気が違うような……」
ローレンス 「……! おいおい、ありゃまるで」
ハミルトン 「旧時代の魔法、か……」
アーロン 「知ってんすか?」
ハミルトン 「……シンシア! レオ! 住民に避難を促すんだ!」
シンシア・レオンハルト 「はい!」
ローレンス 「残りはあれをなんとかするぞ!」
◇
死神 『■■■■■■■■■■■』
クラリス 「な、なに、空気がやけに重く感じるよ……!」
ハミルトン 「やはり、か」
ローレンス 「はあああっ!」
(SE 剣を振る音)
死神 『■■■■■』
ローレンス 「おいおい、なんの冗談だ?」
アーロン 「嘘だろ、剣が……」
ハミルトン 「攻撃が通っていない……? ならば────」
ハミルトン 「──────土蜘蛛……」
(SE 土煙が立つ音)
死神 『■■■■■』
(SE 魔法が解除される音)
ハミルトン 「魔法もだめか……」
クラリス 「でも、足止めするしかないよ!」
死神 『■■■■■■■■』
(SE 黒いオーラが薙ぐ音)
アーロン 「クラリス!」
クラリス 「へ……? かふ……っ」
(SE 血が地面に落ちる音)
クラリス 「あ、アーロン……」
(SE アーロンがクラリスを抱きとめる音)
アーロン 「クラリス!」
クラリス 「……あ、あはは、わ、私、死んじゃうの?」
アーロン 「いや、死なない」
クラリス 「……はあ、はあ、アーロン、わ、私、ね……」
アーロン 「クラリス、喋るな」
クラリス 「私……、私ね、アーロンのこと……、すき……」
(SE クラリスが意識をなくし、アーロンに身体をゆだねる音)
アーロン 「…………!!」
死神 『■■■■■■■』
ローレンス 「……! 次が来るぞ!」
ハミルトン 「アーロン!」
アーロン 「……俺も────」
ハミルトン 「アーロン! 気持ちはわかるが構えろ!」
死神 『■■■■■■■■■■』
アーロン 「──────好きだった」
(SE 魔力を放出する音)
(SE 剣を振る音)
死神 『■■■■■■■■■ッ』
ハミルトン 「攻撃が通った?」
アーロン 「うぐっ!」
ローレンス 「魔力を放出して攻撃をしたのか」
ハミルトン 「いや、ただの魔力じゃない。その源泉は、魂だ」
ローレンス 「魂? それって、旧時代の……」
死神 『■■■■■■■■■』
アーロン 「ぐ……」
(SE 時が止まる音)
アーロン 「……なんだ?」
アレン 「ちょうどいい時間だったみたいだな」
アーロン 「……あんたは?」
アレン 「俺は、通りすがりの魔法使いの助手だ」
アーロン 「なんだよ、そりゃ」
アレン 「まあ、どうでもいいじゃねえか。それよりあれ、倒すんだろ?」
アーロン 「ああ、あいつは、クラリスを……!」
アレン 「それならこの剣を使え」
アーロン 「これは?」
アレン 「調律の剣、皇帝の証ってやつだ。旧時代の魔法にはよく効くんだ」
アーロン 「皇帝の、証……?」
アレン 「それじゃあ、時を動かすぞ」
(SE 時が動き出す音)
アーロン 「……! あの男は……?」
ハミルトン 「アーロン、どうした?」
死神 『■■■■■■■■■■■』
ローレンス 「アーロン、それ……」
アーロン 「……! 皇帝の証……」
(SE 魔力が宿る音)
アーロン 「これなら……」
(SE 剣を振る音)
死神 『■■■■■■■■■ッ!』
アーロン 「うおおおおっ!!」
(SE 剣を振る音)
アーロン 「偽・燕返し!」
死神 『■■■■■■■■■!!!』
(SE 死神が霧散する音)
アーロン 「……うぐぁっ!!」
(SE 剣が消える音)
(SE 魔力がアーロンの身体に吸収される音)
アーロン 「うぐああああああッ!」
ハミルトン 「アーロン! 大丈夫か」
アーロン 「……うぅ」
(SE アーロンが倒れる音)
◇
騎士の駐在所。
アーロン 「う、うう……」
シンシア 「起きた?」
アーロン 「……あ、ああ」
レオンハルト 「アーロンさん! よかった! 僕、アーロンさんまで、と思ったら……!」
シンシア 「レオ……」
レオンハルト 「あ……」
アーロン 「…………!! クラリスは!?」
シンシア 「クラリスは……」
アーロン 「………………そう、か」
レオンハルト 「…………」
アーロン 「そうか。俺は、守れなかったのか」
────────────
現在。
ルーナ 「アンタも色々あったのね。というか、そんな大事なこと知ってたんだったら先に言いなさいよ!」
アリア 「まったくだ。過去に想い合っていた人がいるなんて、一言も聞いてなかったよ」
ルーナ 「いやそっちじゃないでしょ」
ソフィー 「……それで、結局その皇帝の証も時を止めた男の人の行方もわかっていないんですよね?」
アーロン 「ああ、騎士団を辞めたあと、酒場で色々情報を聞いたけど、なにも得られなかった」
フィリップ 「その情報を集めている過程で、女遊びも覚えちゃったわけだ」
ソフィー 「そうなんですか!?」
アーロン 「ノーコメントだ」
ルーナ 「否定はしないのね」
アーロン 「それより、あの時を止めた男、何者だったんだ? あのときは、ただの魔法使いだと思ってたんだけど、今思い返してみれば、あれは皇族が使う特殊な魔法だった」
ルーナ 「時を止める魔法……。ソフィー、アンタなにか知らないの?」
ソフィー 「すみません。他の兄弟たちは、あまり皇族の魔法を見せる人ではないので……」
アリア 「……ふむ、ソフィー、キミの魔法は治癒とまだ覚醒していないもうひとつ。アレキサンダーは未来視と竜化……どれも時を止める魔法とは違うね」
ルーナ 「アルトリウス殿下の魔法は?」
ソフィー 「……すみません。わからないです」
アーロン 「ルーナもソフィーも知らないのか」
フィリップ 「確かに、俺たちあの皇子と協力関係にあるのに、手の内はあまり見せてくれないよね」
アーロン 「まあ、アルトリウスの年齢を考えると、俺が見た時を止める魔法の男ではないだろうな」
(SE 重い扉が開く音)
リラ 「あ、皆さん、お待たせしました。調査が済んだので、この神殿を出ましょう」
つづく
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