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Ⅱ 騎士団の陰謀

第11話 魔法使いのお店はしばらく休業します

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アリア・エインズワース:帝都郊外で店を営んでいる魔女。21歳。
アーロン・ストライフ:魔法使いの助手兼用心棒をしている青年。21歳。
ソフィー:元ハルモニア帝国の第2皇女。18歳。
フィリップ・ベルナルド:ヴァンという怪鳥を相棒にしている弓使いのおっさん。32歳。
ルーナ:ハルモニア帝国第4皇子アルトリウスの側近をしている女性。20歳。

レオンハルト・ハイデルバッハ:帝国騎士団で小隊長を務める青年。19歳。
シルヴィア:魔法使いの店の常連でアーロンに恋をしている少女。17歳。


アーロン(M) 第2皇子アレキサンダーが起こした世界樹事変から1週間が経った。アレキサンダーとパーシーは牢獄に入れられたらしい。皇族と大臣の失墜により、皇帝選挙は騎士派と俺たちアルトリウス派の一騎打ちとなった。だが、騎士派の方は、今まで議会派だった貴族たちを取り込み、皇帝へと王手をかけた。

アーロン(M) そんな危機的状況におかれた俺たちは、なぜかいつもどおりの日常(よりは少し騒がしいが)を送っていた。

 魔法使いの店。

アーロン 「飯、できたぞ」

ソフィー 「はーい」

ルーナ 「あら、ずいぶん遅かったわね」

フィリップ 「まあまあ。今日は、シチューか。美味しそうだねー」

アリア 「アーロンのシチューは格別だよ。この私が保証しよう」

アーロン 「……なんで2人がいるんだよ」

フィリップ 「いやー、ようやく青年が目を覚ました、って聞いたからお見舞いにね」

ルーナ 「私は、殿下からアンタたちと行動をともにするように、って言われてるから、アンタが眠っている間もここにいたわよ」

フィリップ 「あ、俺もここに住みたい」

アリア 「屋根裏でいいなら」

フィリップ 「じゃあ住む!」

アーロン 「おい、置き去りにするなよ。というか、ようやく意識を取り戻したっていうのに、なんで俺が家事をしなくちゃいけないんだよ」

ソフィー 「やはは……」

アリア 「なにを今更。キミが勝手にやり始めたんだろう?」

ルーナ 「そうね。急に部屋から出てきたかと思えば、もう昼か、なんて呟いて料理を始めたんじゃない」

アーロン 「……それは、そうだけど」

フィリップ 「しみついた習慣ってのは、なかなか抜けないんだよね」

アリア 「まあ、いいじゃないか。それより、せっかくの料理が冷めてしまうよ」

フィリップ 「あ、シチュー2つ追加で」

アーロン 「……はいはい」



アーロン 「……へえ、俺が眠ってる間にそんなことがあったんだな」

ソフィー 「はい、これで皇帝選は私たちと騎士派の一騎打ちになりました」

ルーナ 「まあ、議会派だった貴族が騎士派に流れたから、不利だけどね」

アリア 「かといって、私たちにできることは今のところない」

アーロン 「なるほど。で、アルトリウスはなんか動いてるのか?」

ルーナ 「さあ? 正直、殿下ってなにを考えてるのかわからないのよね」

ソフィー 「確かに。アーサーって、なにをやるにしても、意欲的に行動しているわけじゃないのに、いつも美味しいところを持っていくんですよね」

フィリップ 「お、そういうことを知ってるの、兄妹っぽいね」

ソフィー 「ぽい、じゃなくて本当に兄妹ですからね。腹違いではありますけど」

アリア 「こほん、そういうことだ、アーロン。今は、休息をとらせてもらおうじゃないか」

アーロン 「……まあ、そうだな」

ルーナ 「…………」

アーロン 「……ルーナ? なんだよ、じっと俺のことを見て」

ルーナ 「アンタに、聞きたいことがあるの」

アーロン 「ルーナが俺に?」

ルーナ 「……アンタの、あの力はなに?」

アーロン 「……あの力?」

ソフィー 「ああ、お兄様を討ち取ったあの黒いオーラ、ですよね?」

ルーナ 「ええ、あの力、魔法なのかしら?」

アーロン 「黒いオーラ? ああ、アレキサンダーを倒したときのことか? 俺は魔法なんて使えないぞ?」

アリア 「……うん、魔法ではないと思う。ただ魔力を放出して技を使ったというわけでもない。だが、異能であることには変わりないだろう」

アーロン 「なんだよ、それ」

アリア 「アーロン、あのときのこと、もう少し詳しく聞かせてもらえるか?」

アーロン 「お、おう……。なんていうか、あー、アリアが危ないって思ったら、身体から力が湧いてきた、っていうか……」

アリア 「あ、アーロン……!」

ルーナ 「はいはい、ごちそうさま」

ソフィー 「え、愛の力、ってことですか!?」

フィリップ 「愛の力っていうには、ちょいと禍々しかったような気がするけど……」

アリア 「……禍々しい、か。」

ルーナ 「アーロン、アンタ、その力は今でも使えるの?」

アーロン 「……試してみるか」

アリア 「ふむ……、やめておいた方がいいだろう」

ルーナ 「どういうことよ。騎士派、特にあの騎士団長、どうもきな臭い。あれほど強い力なんですもの、使いこなせていた方がいいに決まってるわ」

アリア 「だからだ。強すぎる力は、身を滅ぼす。せめてあの力がどういうものなのか、調べてからでも遅くはない」

ルーナ 「いいえ、身を守るのは、いつだって力よ。力がなかったら、私たちはいつか死ぬわよ」

アリア 「じゃあ、キミの妹は弱かったから死んだのかい?」

ルーナ 「ステラは関係ないでしょ!!」

フィリップ 「ストップ!!」(SE 手を叩く音)

フィリップ 「2人とも、それ以上はダメだ。本題は、青年の力がなんなのか、でしょ?」

アーロン 「アリア、さすがに言い過ぎだ。……それに、お前らが喧嘩するから、ソフィーが怯えてんだろ?」

ソフィー 「へ?」

アーロン 「……(おい)」

ソフィー 「は、ふ、2人とも、こ、怖いですぅ~……」

アリア 「……」

ルーナ 「……」

アリア 「すまなかった」

ルーナ 「わ、悪かったわよ」

フィリップ 「うんうん、2人とも、怖い顔してたらせっかくの美人が台無しだ。どれ、おじさんが2人を笑顔にしてあげよう」

アリア 「遠慮しておくよ」

ルーナ 「寄るな、変態」

フィリップ 「くう、手厳しい!」

アリア 「……と、アーロンの力について、だったね」

ソフィー 「とてもじゃないですけど、怖かった、です」

アリア 「ふむ、アーロンは、あの力を制御できると思っているのかい?」

アーロン 「まあ、できないことはないんだろうけど、今のままじゃ無理だろうな」

ルーナ 「…………」

アーロン 「発現させる方法もわからねえし」

アリア 「やはり、愛の力……?」

アーロン 「かもな」

アリア 「は、はあ!? そ、そこは、否定するところだろう!」

アーロン 「はあ、そっちからしかけてきたくせに照れるなよ」

アリア 「ば、ばか……」

ルーナ 「……はあ、甘ったる……」

ソフィー 「……なんだか、もう勝てない気が……」

フィリップ 「すーぐ2人の世界に入るんだから……」

ルーナ 「……ねえ、アーロン、私とやらない?」

アーロン 「あ? 急になんだよ」

ルーナ 「アンタ、あの力を使いこなそうとする気はあるんでしょ? だったら、私と1戦やらない? 初めて会ったときの決着、着けようじゃない」

アーロン 「まあ、なんだかんだ俺たち4人に対してルーナ1人だったしな。サシでやりたい気持ちはわかる」

ルーナ 「じゃあ、決まりね」

アリア 「……アーロン、引き受けるのはいいけど、あの力が発現しないとも限らない。くれぐれも気を付けてくれよ」

アーロン 「わかってるよ」



 魔法使いの店の外。水浴び場前。

フィリップ 「じゃあルールは、殺しなし、大ケガさせないならなんでもいい。どちらかが負けを認めたら終了ってことで」

ルーナ 「大ケガさせない? 保証はできないわね」

アーロン 「いいぜ、こっちも全力で行くからよ」

ソフィー 「アーロンさん、怪我したら、私が治しますからね!」

アリア 「ルーナ、怪我に効く薬草がそこに生えているから、適当に使ってくれて構わないよ」

ルーナ 「私だけ扱いひどくない!?」

アリア 「つい最近まで私の命を狙っていただろう? どの口が言えるんだい?」

ルーナ 「そ、それは、悪かったわね……」

フィリップ 「はい、それじゃお互い準備はいい?」

(SE 剣を構える音)(SE 刀を構える音)

ルーナ 「……!!」

(SE 剣と刀がぶつかる音)

アーロン 「……っ! やっぱ速いな……!」

ルーナ 「アンタも、私の速度についてきてるじゃない」

(SE アーロンがルーナを突き放す音)

アーロン 「じゃあ、次は俺から行くぜ!」

(SE アーロンが地面を踏み出す音)

アーロン 「ほら、よそ見してんなって」

ルーナ 「……え? はや……」

(SE 剣と刀がぶつかる音)

(SE ルーナが吹き飛ぶ音)

ルーナ 「くっ! どうして……」

(SE 剣と刀がぶつかる音)×何度か

ソフィー 「……アーロンさんって、あんなに速く動けましたっけ?」

フィリップ 「あれは……」

アリア 「こういうことをさせると、アーロンの右に出るものはいないだろうね」

ソフィー 「なんなんですか?」

フィリップ 「あれは、アレキサンダー殿下も使ってた移動術だよ。魔力を効率よく使って、高速移動を可能にするんだ」

ソフィー 「魔力を? 魔力って魔法以外の使い道もあったんですね」

フィリップ 「うん、身体強化なら、魔力を使えばできるんだよ。ソフィーちゃんだって、無意識に使ってると思うよ」

ソフィー 「でも、ただ速いだけなら、ルーナさんだったら見切れるんじゃないんですか?」

フィリップ 「アーロン、移動するときにルーナちゃんの盲点を突いてるんだと思う。ルーナちゃんの視界に入ってるのに、その脳はアーロンを認識しないんだ。ルーナちゃんから見たら、青年は文字通り瞬間移動をしているように見えているはずだよ」

ソフィー 「そんなことが……」

フィリップ 「あの青年、前から思っていたけど、こと戦闘に関しては天性の感覚をもっているみたいだね。あの人の若い頃を思い出すよ……」

ソフィー 「おじさん?」

ルーナ 「調子に乗るな!」

(SE 剣を振る音)

アーロン 「……! 剣がすり抜けて……!」

(SE 幻影が消える音)

ルーナ 「───────幻月……!」

アリア 「魔法で蜃気楼のようなものを再現したのか。やはり、ルーナは水魔法の使い手か」

(SE 剣と刀がぶつかる音)

(SE アーロンが吹き飛ぶ音)

アーロン 「……くっ! 重いな」

ルーナ 「ふん、レディーに重いなんて、失礼ね」

アーロン 「そういう意味じゃねーって」

ルーナ 「まだまだ行くわよ! ───────叢雲」

(SE 霧が立ち込める音)

アーロン 「ちっ、魔法か……」

アーロン 「……!」

(SE 剣を振る音)

(SE 幻影が消える音)

アーロン 「またか……!」

ルーナ 「甘いわね……!」

(SE 剣を振る音)

(SE 幻影が消える音)

アーロン 「キリがねえな……!」

ルーナ 「まだまだ行くわよ……!」

ルーナ 「──────幻月乱舞・鏡花水月……!」

(SE 剣と刀がぶつかる音)×何度か

アーロン 「ちっ、幻が実体化してるのか……!」

ルーナ 「ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」

(SE 剣と刀がぶつかる音)×何度か

アーロン 「……っ! 洒落くせえっ!!」

(SE 大きく剣を振る音)

(SE 霧と幻が掻き消える音)

アーロン 「よっしゃ、霧が消えたぜ!」

(SE アーロンが地面を踏み出す音)

(SE 剣を振る音)

ルーナ 「それは、見切ったわ!」

アーロン 「……それを、待ってた!」

ルーナ 「えっ……!?」

アーロン 「偽・燕返しリバーサルエース……!」

フィリップ 「……あの技は……!」

(SE 風を切る音)

ルーナ 「……!」

フィリップ 「そこまで!」

アーロン 「ふう……」

(SE 剣を納める音)

ルーナ 「…………負けた」

ソフィー 「あれが、アーロンさんの全力、なんですね」

アリア 「ふふふ、どうだい? うちのアーロンの実力は」

ルーナ 「まさか、私が妹以外に剣で負けるなんてね」

アリア 「というと、キミの妹の方が剣の腕は高いのか。なるほど、それでキミは魔法を組み合わせたわけか」

ルーナ 「それより、アーロンもあんな技を使えたのね」

アーロン 「まあ、騎士団時代に教えてもらった唯一の技だからな」

ルーナ 「そういえば、騎士団に入ってたって言ってたわね」

フィリップ 「…………」

シルヴィア 「(遠くから)あれ、アリアさーん?」

フィリップ 「ほら、お客さんが来たみたいよ?」

アリア 「シルヴィアか。そういえば、今日は薬の日だったな」

アーロン 「……」



 魔法使いの店。

アリア 「すまないね。少し、席を外してた」

シルヴィア 「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、なんであなたがここにいるんですか?」

ルーナ 「アンタ、確かバーの……。私がここにいたら、何か不都合でもあるのかしら」

ソフィー 「ちょっとルーナさん」

シルヴィア 「い、いえ、別にありませんけど……」

アリア 「まあ、ルーナは少しやり過ぎるところがあるからね。シルヴィアの反応も無理はないだろう」

アーロン 「悪いな、シルヴィア。ちょっと前から、アルトリウスの命令で俺たちと行動することになったんだ」

シルヴィア 「そうなんですか。殿下の推薦人、なんですもんね」

アリア 「っと、薬だ。そういえば、あの事変のとき、キミの母親は大丈夫だったのかい?」

シルヴィア 「はい、騎士の方が……」

アーロン 「騎士が? 帝都勤務の騎士がよく動いたな」

(SE ドアがノックされる音)

アーロン 「と、俺が出る」

(SE ドアを開ける音)

アーロン 「どちらさ……」

レオンハルト 「アリア・エインズワースさんはいらっしゃいますか? って、アーロンさん?」

アーロン 「レオ!! 久しぶりだな!!」

アリア 「どうしたんだい?」

アーロン 「こいつ、俺が騎士団にいた頃の後輩」

レオンハルト 「魔法使い一行にアーロンさんがいたなんて、知りませんでしたよ」

アーロン 「おいおい、俺も城で紹介されてただろう」

レオンハルト 「すみません、あのときは街の警備にあたっていたので」

アーロン 「というか、あれから帝都勤務になったのな」

レオンハルト 「あの事件を解決した功績で、ローレンス小隊は小隊からローレンス隊に改められたので……。でもあの事件はアーロンさんのおかげで……」

アーロン 「あーなしなし。あれは俺が勝手に出ていっただけだっての。それより、アリアに用があってここに来たんだろ? 中に入れよ」

レオンハルト 「そうでした。失礼します」

(SE ドアを閉める音)

レオンハルト 「あ、ルーナさんもいたんですか?」

ルーナ 「いちゃ悪い?」

レオンハルト 「いえ、そんなことは……。というか、口調が……」

ルーナ 「これが素なの。お淑やかな女性に惚れてたアンタには、悪いと思ってるけど」

レオンハルト 「え、あ、いや、そんなことは……!」

シルヴィア 「あ、あのときの騎士さん! あのときは母をありがとうございました!」

レオンハルト 「事変のときの……、いえ、騎士として当然のことをしたまでです」

アーロン 「へえ、シルヴィアが言ってた騎士って、レオだったのか」

アリア 「こほん」

レオンハルト 「は、すみません。思わぬ知り合いが2人もいたもので」

アリア 「それで、私に何か用があるのかい?」

レオンハルト 「はい、まずはこれを……」

アリア 「書状? ああ、ハミルトンからか。新しい薬の催促かな?」

フィリップ 「…………」

レオンハルト 「ある種の依頼書です」

アリア 「依頼書? 街の名前と魔物の種類が書かれているね」

レオンハルト 「はい。こちらに書かれている街の近くに出現する魔物を討伐していただきたい、とのことです」

アーロン 「なるほど。で、なんでハミさんがそんなことを依頼するんだ?」

フィリップ 「ま、そこは気になるよね。ハミルトン・レイって言ったら、騎士団の参謀様でしょ?」

レオンハルト 「それは、騎士団長の計画を阻止するためだそうです。ローレンス隊長亡き今、騎士団長を止められる者はいない、とも」

アーロン 「…………」

アリア 「それで私たちに協力を……」

ルーナ 「まあ、受けてもいいんじゃない? 殿下にも伝えておくわ」

(SE 席から立つ音)

フィリップ 「あ、今から行くんだ。行動力の化身だわね」

ルーナ 「じゃ、行ってくるわ」

(SE 扉の開閉音)

ソフィー 「……それじゃ、遠出できるってことですか?」

アリア 「そうだね。私としても、帝都から離れるのは久しぶりだ」

シルヴィア 「あ、お店はどうなるんですか?」

アリア 「しばらく休みにせざるを得ないね。なに、大丈夫だ。今回はこちらの都合で店を空けるのだから、その分の薬は無料で提供しよう」

シルヴィア 「え、いいんですか?」

アリア 「もちろん。その代わり、容量用法をしっかり守ってくれよ」

シルヴィア 「はい!」

アリア 「……それで、いつ出ればいい?」

レオンハルト 「明日には、お願いします」

アーロン 「明日? ずいぶん急だな」

レオンハルト 「すみません。ハミルトンさんも情報を掴むのに手間取ったみたいで」

アリア 「ふむ、シルヴィア。明日の朝、また来てくれるか?」

シルヴィア 「わかりました。それでは、私はこれで……」

(SE 扉の開閉音)

レオンハルト 「遠征には、ボクも同行させていただきます」

アーロン 「レオも?」

アリア 「帝国騎士団の小隊長がお供なんて、この一行はどこまで奇怪なものになるんだろうね」

ソフィー 「そうですよねー。おっとっと!」

(SE ソフィーがつまずく音)

(SE フードが外れる音)

アーロン・アリア・フィリップ 「あ」

レオンハルト 「え」

ソフィー 「? どうしたんですか? …………………………あ」

レオンハルト 「な、な、ななななななんで、ソフィア皇女殿下がここに!?」

ソフィー 「え、エーチガウデスヨ。ワタシコウジョチガウ」

レオンハルト 「いや絶対そうじゃないですか」

アリア 「あ、あー、これには訳があってだね」

アーロン 「まあ、こうなった以上説明するしかないんじゃねえか?」

ソフィー 「うぐ、すみません」



ルーナ 「それで、全部話したの。ドジよねー、ソフィー」

ソフィー 「はいはいドジですよー」

レオンハルト 「まさか、騎士団長がそんな……。今でこそ良い噂は聞かないですけど、かつては騎士の鑑と呼ばれて、帝国のことを誰よりも思う人だったのに……」

ルーナ 「そんなのウソに決まってるじゃない。案外、元からそういうヤツだったんじゃないの?」

フィリップ 「それが実は本当だったりして」

アーロン 「何か知ってるのかよ、おっさん」

フィリップ 「いいや。まあ、色々あったのかもね、って話」

アーロン 「そうか。……あ、レオ、ソフィーが皇女だってのは、俺らだけの秘密ってことで頼むな」

レオンハルト 「はい。もちろんです」

フィリップ 「まあ、なんにせよ、これで魔法使いと愉快な仲間たちの肩書が増えたわけだ。……俺は旅する鳥使い!」

ソフィー 「元皇女!」

アリア 「魔法使い」

アーロン 「の用心棒」

レオンハルト 「帝国騎士団小隊長」

ルーナ 「皇子のお付き。ねえ、これやる意味ある?」

アーロン 「そう言いつつ、付き合うのな」

ルーナ 「う、うっさい」



 翌朝。

アリア 「シルヴィア、薬だ」

シルヴィア 「ありがとうございます。……なんか、ずいぶん仰々しい袋ですね」

アリア 「ああ、ちょっとした魔法をかけてあってね。中の小分けされている袋を開けるまでは、鮮度が保たれるようになっている。無暗に開けるんじゃないよ」

シルヴィア 「わかりました、ありがとうございます」

アーロン 「そんな便利な魔法があったのかよ」

アリア 「当然だ。私は天才だからね」

アーロン 「じゃあ食材にその魔法を使ってくれよ」

アリア 「その手があったか」

ルーナ 「いや、真っ先にそれが思いつくでしょ」

フィリップ 「アリアちゃん、意外と家事はテキトーだからね」

アリア 「う、うるさい……」

(SE 足音)

レオンハルト 「皆さん、お集まりのようですね」

アーロン 「レオ」

ソフィー 「出発の時間ですね」

シルヴィア 「あ、とうとう行っちゃうんですね」

アーロン 「おいおい、今生の別れってわけじゃねえんだから」

シルヴィア 「それでも、寂しいですよ……」

ルーナ 「(小声で)なに、アーロンってあの娘も誑かしてるの?」

ソフィー 「(小声で)そうなんですよ。ライバルが多くて大変なんです」


アリア 「旅が終わったら、まずシルヴィアの家に出向くよ」

シルヴィア 「……ありがとうございます」

レオンハルト 「それじゃあ、出発しましょうか」

アーロン 「おう」

ソフィー 「……もしかして、歩きですか?」

レオンハルト 「申し訳ありません、ソフィア皇女殿下。この任務は、極秘に進める必要があり、馬は出せなかったんです」

ソフィー 「そ、そうだったんですか。なら、仕方ないですね」

アーロン 「おい、レオ」

レオンハルト 「はい、なんですか?」

シルヴィア 「ソフィア皇女殿下……?」

ソフィー・レオンハルト 「あ」

レオンハルト 「すみません! つい、うっかりしてました!」

アーロン 「もうその反応で聞き間違いっていう言い訳もできなくなったな」

レオンハルト 「あ」

シルヴィア 「ソフィーさんが、皇女殿下?」

ソフィー 「やはは、実はそうだったの。今まで黙っててごめんね?」

シルヴィア 「え、いえいえ、そんなことはないです! こちらこそ、知らなかったこととはいえ、とんだご無礼を……」

ソフィー 「そんな、気にしないで! いつも通り、接してくれたらいいから。それに”元”皇女だから」

シルヴィア 「それじゃあ、お言葉に甘えて……」

ルーナ 「それで、行くの? 行かないの?」

レオンハルト 「おっと、失礼しました。行きましょう」

アーロン 「それじゃ、行ってくるわ」

シルヴィア 「はい、頑張って、行ってきてくださいね」

アーロン 「おう、シルヴィアも元気でな」



 道中。

アーロン 「それで、最初はどこに行くんだ?」

レオンハルト 「まずは、東の方に進みます。山の上にある大地の神殿を通って、しばらく水の都アクエリスを拠点に魔物を倒していきます」

ソフィー 「水の都といえば、温泉も有名ですよね!」

フィリップ 「およ、ソフィーちゃんは行ったことあるの?」

ソフィー 「これでも、お姫様ですからね。何度か行ったことありますよ。温泉以外にも、魚料理もありますしね」

ルーナ 「さすがね、皇女殿下」

フィリップ 「よっ、皇女様!」

ソフィー 「やはは、やめてくださいよ~!」

アリア 「それよりも、大地の神殿を通るのか」

レオンハルト 「はい、危険は承知の上です。しかし、ここを通らなければ帝国に勘づかれてしまう恐れがありますので」

アーロン 「何か、あるのか?」

アリア 「ああ、大地の神殿は、旧ハルモニア文明の遺跡のひとつで、なんでも旧時代の魔法の産物があるんだそうだ」

アーロン 「旧ハルモニア文明……。おい、レオ、知ってたのか?」

レオンハルト 「すみません、アーロンさん。ここを通るしか、ないんです」

アーロン 「いや、いいけどよ。レオも覚えてるだろ」

ルーナ 「なにが、あると言うの?」

アリア 「アーロン、まさか、旧時代の魔法を知っているのか?」

アーロン 「俺も、詳しいことを知っているわけじゃないし、それっぽいのを見たことがあるだけだ。けど、それで仲間を亡くした。守れなかった」

フィリップ 「…………」

レオンハルト 「あ、あれは、アーロンさんが悪かったわけじゃ……」

アーロン 「……そこを通らないで済む道はないのか?」

フィリップ 「水の都に続く道はどこも騎士の駐屯所が近い。この任務を遂行するには、やっぱり大地の神殿を通るしかないんじゃないかな?」

アーロン 「…………わかった。悪かった、わがまま言って」

レオンハルト 「いえ、僕も失念していました」

ルーナ 「それで、レオ、しばらく水の都を拠点にって言ってたけど、そこからまた移動するの?」

レオンハルト 「あ、はい、その周辺の魔物を倒したら、ホロロコリス跡地に向かいます」

ルーナ 「ホロロコリス……!?」

フィリップ 「あれ、それって……」

アリア 「ルーナの故郷だ……」

レオンハルト 「……そうだったんですか」

アリア 「よりにもよってあそこか」

ソフィー 「確か、ホムンクルスに滅ぼされたっていう……」

アーロン 「ソフィー」

ソフィー 「あ、すみません」

アリア 「……いい。事実だ。原因は、私にある」

ルーナ 「でもアンタはそれを鎮めた。でしょ? 気に病むことはない。悪いのは、それを引き起こした黒幕よ」

レオンハルト 「え、ええと……、ホムンクルス……?」

アリア 「ああ、そうだったね、キミは知らないか。実は────」

────────

レオンハルト 「そんなことが……」

アーロン 「そういえば、なんでルーナは、その事件を引き起こしたのがアリアだって思ったんだ?」

ルーナ 「あの日、誰かに教えてもらったの。アリア・メイザースが事件を引き起こしたって」

フィリップ 「じゃあ、そいつが黒幕なのかもね」

アーロン 「だな。それにしても、騎士団は何を考えてるんだ?」

レオンハルト 「それは、わかりません。とにかく、魔物を討伐してみないことには……」

アーロン 「それもそうか」

アリア 「旧時代の魔法と騎士団長の陰謀か……。ようやく……」

つづく
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