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兄のために嫌々婚約したのに、妹が邪魔してきて婚約破棄されました。絶対に許しません!
しおりを挟む「......えっ?」
思わず、息が止まりました。
目の前の男性が、私の婚約者が一体何を言っているのか、少しもわかりませんでした。
「だから、お前との婚約を破棄したいって、そういう話だよ」
面倒臭そうな顔でそう言うのは、ローワン。腕のいいシェフを集めてきて、レストラン経営で成り上がった典型的成金男であり、私の婚約者でもあります。
どうしてそんな男と私、カラ=ブライトが婚約したのかというと、料理人の私の兄が勤めていたお店が半年前に潰れてしまったからです。
私がローワンと結婚する代わりに、ローワンの店で兄を雇う。そういう約束でした。
「......ど、どういうことです?だって、私は」
「うるせぇな。とにかく辞めたくなったんだから、辞めるんだよ」
こちらに話す時間を与えてくれないローワン。
そんな。結婚式の準備も進んで、こんな土壇場になって。
「兄の話は!?兄を雇ってくれるという話は、どうなるんです!?」
「......知るかよ、そんなの」
ローワンの視線は冷たかった。顔には、邪悪な笑みが張り付いていた。
こんなことって。信じた私が馬鹿だった、と思う反面、「もう着ることはないだろうから」と、愛用していた割烹着を捨てようとまでした兄のためだと思って、屈辱に耐えてきたこの半年間は何だったのか、という怒りが湧いてきました。
驚きが怒りに変わると、同時にこれまで気づかなかった違和感にも気付き始めました。
ここはローワンの店です。なのに、なぜ関係のない妹、ミーシャがいるのでしょう。
「......あんたは、何でここにいるのよ」
聞いてみると、ローワンが彼女を庇うようにこちらを睨みつけました。
「俺は、こいつと結婚するんだ。だから、お前はもう要らないんだよ」
絶句しました。妹だって、私とローワンの婚約の意味を知っていたはずなのです。
知っていながら、ローワンの誘いに乗った。どうして?
私は、ミーシャがにやりと笑っているのを見逃しませんでした。
彼女は、兄に嫌がらせをしているのです。兄は私にもミーシャにもとても優しかったけれど、妹は私より可愛いから、半分の愛なんかでは満足できませんでした。それで、以前から兄に対して憎しみのようなものを抱いているようなのです。
彼女の目的は私とローワンの婚約をご破算にすることで、最初彼と結婚する気なんてないのでしょう。トラブルになっても、容姿端麗で可憐なミーシャと醜悪な成金のローワンでは、前者に分があるに決まっています。
それに気づかないローワンも、とんでもない馬鹿だと言えるでしょう。
そんな身勝手な理由で、私の決意を、兄の人生を踏みにじられたらたまったものではありません。
私は怒りにわなわな震えながら、その場は帰るしかありませんでした。
一週間後、私が彼の店の前を通りかかると、そこには既に閉店の張り紙がありました。
理由は分かっています。シェフが全員、彼の店を去ったのです。
私が果たして本当にローワンに好かれていたかは分かりませんが、少なくともローワンの店のシェフたちには気に入られていました。それは私が暇があれば仕込みを手伝うからなのか、普段ローワンには決してかけてもらえないだろう労いの言葉を口にするからなのか、理由はわかりませんが、とにかくそうでした。
私とローワンとの婚約破棄が伝えられると、シェフたちは私の元へと駆けつけ、本当は何があったのか、事情を聞いてくれました。
そして真実を知ると、あんな店からは前から出ていきたいと思っていた、いい機会だ、と、我先にと辞表を叩きつけたのです。
可哀想......ではありませんが、全てを失ってしまったローワンは、ミーシャに異常なまでに固執し、彼女は半ば軟禁状態に置かれていると聞きます。
まぁずる賢い彼女ならそのうち隙を見て逃げ出すでしょうが、いいお灸にはなるでしょう。もしどうにも出られないようなら、その時は姉妹のよしみで助けてあげましょうかね。
そして辞めたシェフたちは、私に新しいレストランのオーナーをやってくれないかと持ちかけてきました。
資金は皆で出し合って、ローワンの店よりはずっと小さいですが、レストランをオープンさせることができました。もちろん、兄もその一員として頑張っています。
もともと有名店のシェフたちだったこともあり評判は上々で、毎日たくさんのお客さんが入るようになりました。
何より、兄がいきいきと働いている姿を見られるのが、本当に嬉しいです。
fin.
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