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第1話
しおりを挟む「セーラ、お前との婚約を破棄する!」
そうわめき散らしているのは、レヴィ=ゲイン公爵。
貴族という立場がありながら、いやだからこそか、何人もの女性と同時に婚約を結んでは、バレたり飽きたりした途端こうして破棄する、という悪行を繰り返している男です。
私がこの事実を知った時、もう彼との婚約は済んでしまっていました。でも、だからといってただの花売りである私から先に破棄したのでは角が立ってしまいます。
だから一刻も早く破棄して欲しいな、と思い、裏で色々と工作していたのが実り、ようやくこの台詞が聞けたわけです。
そういうわけで、私にとっては待ち望んだ婚約破棄。
その感情が顔に出ていたのでしょうか、レヴィは訝しむような眼でこちらを見ました。
「......そなた、もしや婚約破棄されて喜んでいるのか?」
「いえいえ、そんなことは」
「いや、その眼は喜んでおるな。ええい、許せん!こうなったら、慰謝料として貴様の一番大切なものをいただこう!」
そう言うと、レヴィは高笑いしながら自分の部屋に戻って行きました。
後に残された私は、混乱した頭をぶんぶんと振ります。
は?慰謝料?そちらから婚約破棄を申し入れたのでは?
それならば、慰謝料をもらうのは当然私のはずなのですが......。
とにかく、あの方に理屈は通じません。
困ったことになりました。「私が一番大切にしているもの」、それはおそらく、あのお花です。
「やっぱり......」
家に戻ってみると、室内の花壇で育てていた薄紫の花が、全て根元から抜き取られていました。レヴィの手の者がやったのでしょう。
あの花は、お父様の形見なのです。冒険家だったお父様が、異国の地で摘んで、持ってきてくれた珍しい花。その次の冒険で、父は命を落としました。もう十年も前の話です。
気候が違うにも関わらず、毎年種を遺してくれるので、今でも私の花瓶には、いくつもの鮮やかな花弁が色づいていました。
その花が、全て無くなっています。
あの方は、何てことをしてくれたのでしょう。
私の中で、めらめらと怒りが燃え盛りました。
何とかして、あの花を取り返さないと。
私には一つ心当たりがありました。
今度、貴族が集まるパーティーがあるのです。そこには、弱冠十五歳のお姫様も出席するとか。
あそこに行けば、レヴィに会えるかもしれません。
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