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第三話

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ある日、私の前に、ランスロット卿が姿を現しました。
疲弊しきったその表情は、私に婚約破棄を宣言したときの余裕のある姿からはかけ離れたものでした。

彼の身に起きたこと。
それにはやはり、妹のメリアが、深く深く関わっていました。



結論から言うと、メリアが抱えていた子供は、ランスロット卿の子ではなかったのです。
それがわかったのは、生まれてきた子の髪が、ランスロット卿のシルバーとも、メリアの茶髪とも全く違う、燃え盛るように紅い髪を持っていたことがきっかけでした。

それだけなら隔世遺伝やらなんやらでごまかせそうな話ですが、所詮馬鹿な妹の浅知恵、彼女はひどく取り乱した様子を見せてしまい、それでランスロット卿やその家族も、何かおかしいと気づいたそうです。
調べてみると、妹には産まれた子とうり二つの紅い髪を持つ遊び友達がおり、その男がすべて話してしまいました。

つまり、経歴も柄も悪い友人とつるんでいたら、うっかり子供ができてしまった。
このままではまずいと焦った妹は、私が跡継ぎを求める本家の長男と婚約したという話を思い出した。そして、自分の失敗を帳消しにするばかりか、姉の幸せをそっくりそのまま奪ってしまえる計画を思いつき、自ら、さりげなく、ランスロット卿に近づき、おなかの子を彼との間にできた子だと信じ込ませた。
真実は、そういうことでした。

「頼む、クリスティア。戻ってきて、また俺の子を産むために頑張ってくれ」

まあ、なんと虫がいいお願いでしょう。
それでも、本来なら、この「頼み」は強制力を持ち、私は彼の元へ戻らなければならないはずでした。本家と分家の間の上下関係は、それほどまでに強く根深いものなのです。

ですが、

「......お断りします。私はもう、レイブン家の女ではないので」

そう、私はもう、彼の頼みを断ることができるのです。
なぜなら、私は......バロック様とすでに結婚し、フリージア家に入ったからです。

彼と会ってみることにした理由は、打算や投げやりな気持ちが多分に含まれたものでした。
ですが、彼と何度も話をして、互いに愛を深めていくうちに、気づいたのです。
ランスロット卿は、跡取りを作ることに必死で、自分のことなどこれっぽっちも見ていなかった。私の一年半の苦しみの最たる原因は、本当はそこにあったと。
そう思ったら、妹のことなんてどうでもよくなっていました。私は、私のことを愛してくれる方と生涯を共にしたい。そして、私にはその権利があるのだ、と、そう思ったのです。


もう、彼は私に何の影響力も持ちません。
おそらく最後の希望だったであろう私を懐柔できず、ランスロット卿は絶望した面持ちで帰っていきました。

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