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第三章
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しおりを挟む私と葵くんは駅で別れた。
予定より帰りが遅くなってしまい、駐輪場に止めた自転車に乗って自宅への道のりを急いで走る。
今日の出来事を私は一生忘れないだろう。たとえ、どんなことが起きても。離れ離れになる日が来ても。
自転車に乗りながら、私はそう思っていた。
「ただいま。」
玄関を開けた瞬間に、何かいつもと違う雰囲気を感じた。義理の母の靴がある。
私は嫌な予感を抱えながら、リビングへの歩みを進める。
リビングのドアを開ける。
リビングのソファーに、夫と義理の母が座っていた。
さくらはどうやら、もう眠ってしまったようだった。
「た、ただいま。」
夫と義理の母が私を見る。その目には、怒りと軽蔑が浮かんでいた。
「よく平気な顔して帰って来れるわね。」
義理の母の言葉に私は心臓が止まりそうになった。
「今日、さくらのお菓子を買いにお前のパート先へ行ったんだ。」
夫からの言葉を聞いた瞬間に、私は全てを悟った。
「今日、お前は出勤してないって言われた。お前、一日中どこに行ってたんだ?」
夫が立ち上がり、私へと詰め寄って来る。
「お前、自分がやってること、バレてないとでも思ってるのか?」
私は何も言うことが出来なかった。
「隣の九条さんの息子と、会ってたんだろ。今日だけじゃない、ずっと夜に会ってただろ。」
「前に家に連れて来た時から怪しいと思ってたのよ。」
反論することも、開き直ることも出来ない。
「あの男のこと、本気じゃないだろうな?」
夫のその言葉に、私は初めて口を開く。
「………本気です。」
私の言葉に夫も義理の母も呆気に取られた様子だった。
「お前、相手は高校生だぞ?分かってるのか?」
「たとえあなたが本気でも、相手は遊びに決まってるでしょう。」
夫と義理の母の反応は正しい。私が言ってることの方が異常だ。
「分かってます。でも、私は本気です。」
夫も義理の母も呆れている。
「言っておくけど、お前が離婚しようと思ってても、俺は離婚するつもりはないからな。」
「そうよ、まださくらも小さいんだから、簡単に離婚なんかさせないわよ。」
正直、もう私はこの家にいる意思はなくなっていた。
「それに、俺と離婚してあの男とやっていけるわけないだろう。あの男はまだ高校生なんだぞ。明日、あの男と別れて来い。そうすれば、今回のことは忘れてやる。」
「いい?あなたは真一の妻で、さくらの母親なのよ。これからも、ずっとよ。」
そうして、夫は寝室へと入り、義理の母は自分の家へと帰って行った。
私はソファーに倒れ込む。
いつか、こんな日が来ることは分かっていた。葵くんとの幸せな日々には必ず終わりが来ると。ずっと今の関係を続けることは出来ないと。
夫と義理の母が言うように、葵くんはまだ高校生で、二人で暮らしていくことはそう簡単なことではない。
全てちゃんと分かっているのに、どうして私は今でもこんなに葵くんに会いたくて仕方ないのだろう。涙が溢れる程に。
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