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49.真実

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「間一髪だったね」
「……ありがとうございます。助かりました」

 とりあえず心底ほっとして笑顔を向けると、フレッドさんも笑顔を返してきた。
 
「カーリィはやっぱり可愛いね」
「……へ?」
「アランより先に俺が見つけたかったよ。そしたら君を俺のモンにしてたのに」
「っ、じょ、冗談ですよね?」
「さあ、どうだろ。でも、半分本気。カーリィの事、初めて見た時からいいなって思ってたから」

 そう言いながら一瞬だけ真顔になるフレッドさんに、私は反応に困って愛想笑いを浮かべた。

「そう言われましても……あははは」
「ふふ、さすがに横恋慕なんて無粋な真似しないよ。今回ばかりはアランに譲ってあげるってだけ。ただ、皇位継承権はもらうけど」
「それって……」
「このまま目覚めなかったら、アランは皇太子じゃなくなる。自動的に俺が皇太子に引き上げって父上、いや陛下が言ってたんだ。好きな彼女を譲ってあげる代わりに帝位の座をもらう。それくらいの取引きがあってもいいでしょ。ねぇ、アラン?」
「……え」

 フレッドさんの視線が眠っているアラン様の方へ向けられていた。



「そうだな」

 返事をしていきなりぱっと目を開けたアラン様は何食わぬ顔で起き上がった。私は仰天して口をあんぐり開けた。

「あ、アラ、あらrrアラン様!?お、おき、起きてたんですかっ!ていうか目覚めないんじゃっ」
「ノア」
「へ」
「ノアと呼べと言っただろ、カーリィ」

 こういう時でさえ訂正を要求するノア君に苦笑する。

「ど、どうして……」
「目覚めないなんて始めから嘘だった。俺はこうして三か月前から起きてたんだ」
「なっ、なっ、なんですとぉ!?」

 嘘だったのかよ!と、私は口をパクパクさせている。

「カーリィ。お前を連れ戻すための一芝居と、俺が頭を打って目覚めないという状況を周りや世間に知れ渡らせて、陛下に俺の皇位継承権を放棄させる算段だったんだ。その作戦を三人で考えて実行していたのさ」

 思わぬ真実が語られて、私はますます唖然として固まる。口をあんぐり開けちまっているよ。

「階段から落ちたのは本当に俺の不注意だった。でも、その怪我は全然大した事なくて翌日には起きあがっていたよ。ただ、あの女が毎日毎日来るものだから鬱陶しくてたまらなかった事か。あの女がいちゃ作戦を実行しにくかったし、前からあの女の行動にはうんざりしていたから、この際表舞台から消えてもらおうと令嬢の迷惑行為を大げさに報告していた。カーリィに何かしようものなら何振り構ってられずに起き上がろうと思っていたけど、フレッドが運よく現れてくれて事なきを得たと言ったところだ」
「そ、そういう事……だったの……っ」

 つまり、私はこの三人の作戦のために何も知らないままここへ来ちゃったという事だ。

「あの女はこれで皇宮には来れなくなっただろう。まわりを騙すにはまずは味方からって言うだろ?カーリィに本当の事を言えなかったのは苦しかった」
「もぉ……心配して損した」

 私は力が抜けてその場に脱力して座り込む。ノア君が無事でホッとしたのと、シスターとして変装させられて騙されてここへ連れてこられた事に対する小さな怒りとが綯い交ぜになっている。

「カーリィ……ごめんな。俺が眠ったまま危篤状態にでもしなければお前は俺の元に来てはくれないと思ったから。だから、ジャレッドとフレッドと相談して一芝居を打つことにした。これからもお前のそばにいるため、合理的に皇族という立場から逃れるために。俺の存在を消すために」
「存在を消す……?」

 どういう事だろうと訊ねる前に、ジャレッドさんが口を開く。

「みんなはまだアランが目覚めていないと思っている。それにカーリィ。アランが望んだあんたもいる。最初からこの状況を作りたかった。あの令嬢も消えた。てことで、すぐに周りの者に見つからないよう外に出るぞ」
「あ、あのどういう」
「誰か来る前に急ぐぞ」

 時間がないと言う理由で詳しくは話してはくれなかったが、これは城の者に一人も見つかってはならない事だと説明を受けて、とりあえず三人に付いていく事にする。向かった先は、今はもう誰も使う事のない古い厨房の勝手口前。ここを出て庭に出た先は城下町の水路に繋がるのだという。

 かなり前の先代の陛下が有事の際や個人的事情の際に抜け出すために作られた秘密の出入口らしく、知っている者は陛下とノア君とフレッドさんしかいないのだとか。でもどうしてここに連れてきたんだろう。

「いいか?これから先は殿という事とする」
「えっ!?」

 ジャレッドさんが堂々と言い放つ発言にわけもわからず驚く私。死んだという事にするって……

「そりゃあ事情も知らないと驚くよね。つまり、アラン皇太子殿下は目覚める事なくそのまま死んだという事にして、本物は自由にこれから幸せに暮らしてねーって事。ちょっと無理があるけど、まあ国葬の時には遺体の代わりに本物っぽい人形でも入れておくから安心してネ」
「そ、ソウデスカ。ソレハアリガタイ……じゃなくて。いろいろと突っ込み所が満載なんですが」
「ただ、お前と一緒にいたいからその道を選んだだけだ」

 ノア君が私をじっと優しげに見つめた。

「身分も、権力も、アランという名前も、もう全ていらない。全てを捨ててでもお前とずっとずっと一緒にいたいから。次期皇帝陛下の座なんかより、お前を選んだ」
「ノア君……っ」
「俺は先代の血を継いでいるだけの元は娼婦から生まれた平民。元々、フレッドが皇太子になるつもりだったから、ただ元通りに戻るだけだよ」

 私は泣きそうになった。そっか。そうしたら、私はずっとノア君と一緒にいられるんだね。身分を気にせずに、ノア君って呼べるんだね。初恋は実らないとはよく聞いたが、それは嘘だったようだ。

「よかったね、カーリィ。初恋の人とやっと結ばれるじゃん」
「アン!」

 まさかの彼女もここにやって来ていた。いつの間に。

「ジャレッド様がね、親友のために手伝ってくれって。だから、カーリィや好きな人の力になろうと陰からちょっと動いてたんだよね。同僚の目を欺く事くらいしかできなかったけど」

 アンがジャレッドさんと見つめて微笑みあっている。

「もしかして、アンの好きな人って……」

 なんとなく察した私の想像を肯定するように微笑むアン。あれだけ私と一緒に身分差で思い悩んでいた彼女も、今は満足できる関係になれたのか嬉しそうだった。

「大好きな人と一緒になれるなんてこれ以上の幸せはないっしょ。ね?カーリィ」
「っ……うん!そうだね、アン」
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