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48.眠る皇太子

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「あなたは医療の資格がない素人でしょう。点滴の交換や身の回りの世話はプロにお願いするべきです。仮に素人が知ったかぶりで医療行為を行ったとして、もし何かあったとなれば責任問題にもなります」
「まあ、そうなんですの。医療というのは話には聞いていましたが簡単とはいかないのですわね。……わかりました。あなたはアラン様のご学友であらせられますものね。の看病をお願いしますわ」

 そう言ってファンティーヌ嬢は名残惜しそうに出て行った。あまり深刻に考えていない所を見ると、またやらかしそうな雰囲気である。アラン様を心配するのは本心だろうけど、彼女の悪意のない無知さや変にやる気がある所が周りを振り回していそうで苦労を感じる。

「カーr…メアリィは医療行為はできるんだな?」
「はい。村に住んでいた時に近所に医者が住んでいたので、簡単な医療行為ならできます」

 医者のハゲ二号機先生の助手を務めた事もあるので、点滴交換や血圧脈拍の計り方は朝飯前だ。採血採取までした事があるのでもう慣れた方である。

「じゃあ、アランの世話を頼んだ。時々、高官が来ると思うがシスターらしく振舞ってくれればいい。俺は仕事をしながら令嬢がまたおかしな真似をしないよう見張っておく。フレッドにも言っておくよ」
「フレッドさんも事情は知っているんですね」
「あいつはアランの事よりお前の事を心配していたからな」
「え……?」
「こっちの話だ。まあ、とにかくだ。くれぐれも正体がバレないよう気を付けろよ。あと、妊婦なんだから無茶はしないように適度に休憩はとれ」




 その日から数日はアラン様の血圧と体温を計ったり、体を拭いて清拭を行ったりと看護師らしい行為を行った。数日経っても目覚めない彼にもどかしく思うが、焦ったらだめだと健気に身の回りを世話し続ける。時々アラン様の容態を見にやってくるファンティーヌ嬢に慌てるが、冷静に彼女をやり過ごしてシスター・メアリィとしての役割を果たす。

「かー……りぃ……かーりぃ……」

 時々、私の名前を呟く彼に胸がぎゅっと苦しくなる。

「私はここにいるよ……。だから、そんな苦しまないで……」

 気が付いたら、眠るアラン様と私しかいない空間で一人でに呟いていた。

「私……あなたの子供を妊娠しちゃったんだよ……赤ちゃん。父親がそんなんじゃだめだから、だから……はやく目を覚まして。じゃないと、私もこの子も寂しいよ。泣いちゃうよ」

 ぎゅっと彼の手に念を送るように強く握りしめた。すると、その念が届いたのか苦しそうな表情が徐々に和らいでいく。

「ノアく「あなた、一体何なんですの」

 背後に気づけなくて背筋がゾクりとした。ゆっくり振り返ると、目がすわっている彼女と視線があった。

「私のアラン様になんなんですの?赤ちゃんができたとか虚言まで発言して……怪しい人ですわね」

 聞かれていたのかと思わず頬が熱くなるが、それどころではない。

「衛兵!この者を摘まみ出しなさい!そして、正体を暴きなさい!正体次第では国外追放……いえ、処刑に「あんたになんの権限があってそんな事を言うわけ?」

 衛兵に拘束されそうになった所で、第三者の声に遮られた。入り口付近には見た事がある長身の男が立っている。

「ふ、フレッドさん」
「久しぶり~!えーと……メアリィちゃんだったね」
「フレッド様。邪魔しないでくださいませ。この女は怪しいんですの。私のアラン様を付け狙うストーカー痴女です。赤ちゃんが出来たと虚言まで発言して……っ」
「怪しいってなんで?この子がアランに何か危害を加えたわけ?虚言なんて貴女もよくおっしゃっているではありませんか。過去にはアランとデートしたとか、婚約も秒読みだとか、しまいにはアランと婚約者になったとか新聞社に圧力をかけて嘘を書かせたくせに」
「そ、それはっ」
 
 ファンティーヌ嬢の顔が恥ずかしさに赤くなる。たしかにそんな事もあったなと思い出した。

「そもそも、なぜ貴女はそこまでアランのまわりを嗅ぎまわるの。婚約の儀を交わした婚約者でもないのに。貴女にそんな権限も資格もないはず」
「そ、それは彼を愛していて……彼のためを思ってっ」
「アランのためを思うなら貴女には大人しくしてもらいたい。貴女こそここには不必要な人間なのだから。しかも彼女やジャレッドの医療行為を邪魔したり、時々見よう見まねででしゃばった行動をして困らせているとの報告もあがってる。素人が医療行為の真似事をしてアランに何かあったらどう責任を取ってくれるの?植物人間になったら?最悪死亡事故に発展したら?ねえ、どうするつもり?」

 さすがのファンティーヌ嬢もここまで言われて、自分の愚かさや無知さを思い知ったようだ。いくら彼女がそれなりに立場の高い伯爵家でも、陛下の子息であるフレッドさんには強く言えないようだ。

「も、申し訳ありませんっ!で、出過ぎた真似をっ!」
「申し訳ありませんじゃ済まないよ。貴女のでしゃばった言動が、言い方を変えればアランを殺そうとしたも同じ。それだけ医療行為は生き死に関わるってバカでもわかる事を知らなかったの?本当に無知で箱入り娘だね。苦労知らずで両親に甘やかされて育った環境がある意味気の毒に思うよ」
「っ……わ、わたくしは甘やかされて育ったんでしょうか……」
「そうだね。貴女の行動には前から目に余るものがあるよ。貴女の両親にも強く抗議して態度を改めてもらうよう促してもらう。下手をすれば修道院行きか平民落ちにされるんじゃないかな。ま、その方が貴女のためになるかもね。世の中の厳しさがよーくわかると思うよ」

 皇族からの強い抗議とくれば、彼女の両親は真っ青になって対処にあたるだろう。そんな彼女も両親の面目を考えると真っ青になり「ごめんなさいゴメンナサイ」と、衛兵に連れて行かれながら謝罪を繰り返していた。
 
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